講習生たち ① とある酒の席
・短話① ギルド直営酒場の壁際にて
「今回は参加者が多いらしいな」
「兵士あがりだと世情にも疎いのかい?5年前に王様が変わって発令された復興税の影響に決まってんだろ」
1人の男と1人の女が卓を挟む。
2人は親密な間柄ではない。
共に20代後半。10年以上空いて、講習に来て再会した。
特に親しくもないが互いに情報を探るために今回席を設けている。
「・・・・・・・・復興税は必要な税だ、それが影響するとは思えない。」
「相変わらず頭が硬いね、あんたは。ここ五年上乗せされた復興税でみんなヒーヒー言ってるのに、去年の干ばつが止めになったのさ。農民は勿論、収穫を当てにしてた商人たちも大打撃さ。あっちこっちで金の貸し借りで揉めてるよ。
今まで何とか堪えてたところも今回は堪えきれなかった。
年頃の子供が逃げ出して、もしくは放り出されてこの講習を受けに来たんだよ。これから潰れる商家も農家も数え切れないって話だ」
この国では5年前まで王の座を争う内紛が続いていた。
それを現王が即位する形で終わらせたという経緯を経て今の国の体制がある。
その新王が国のために新たに実施した政策が、戦争の傷跡を癒やすための復興税だった。
通常の税収はそのままに、さらに復興税が上乗せされたために民の生活は楽では無い。
王都は戦禍の被害はほとんどない。
場所を選ばない侵略と違い、内紛は裕福な王都のような地域は避けられて、貧しい地域を選んで争っていた。貴族の側にとっての分別は、貧しい階級を直撃する。
バームクーデルの街の第三区域のような貧民が多く暮らす地域を選び、王子の軍勢が後継者争いを繰り広げた。
故に内紛に参加しなかった王都の兵士は戦災の爪痕がどれほどのものか知らない者が殆どだ。
講習を受けるためにこの町に来る過程にてそのさまを散々目の辺りにしてきた男には何も答えられない。
兵士であった誇りがあるがために、それを言葉にすることが出来ない。
「で、イゾウってのを見たんだろ?」
女が男に話を変えるように男に問う。
男はユリウスと共にこの街に講習を受けに来た元兵士の男。
女とは出身の村が同じだ。
とはいえ親しいわけでは無い。顔見知りより少し話せる程度の関係であるだけ。
方や兵士になり、訳あって先日退職してここに新人冒険者として参加している。
方や冒険者として辛酸辛苦を舐め、やり直しを選びこの場にいる。
女は新人冒険者としてでは無く他の冒険者ギルドで登録した冒険者としての立場で今回講習を受けている。
他所の街で登録した冒険者でも、この街の冒険者ギルドは一度だけ講習を受けることを許可している、初心者と同じく砦での防衛任務を課す事を条件に。
彼ら彼女らは〝再講習組〟と呼ばれている。
彼女はコンビの冒険者として活動していたが伸び悩んでいる、女冒険者というのは楽では無い事を身に染みている。今回再講習を受ける事を決めた。
そこで偶然古い知り合いのこの男と再会した。随分久しぶりの再会だったがどちらも相手にすぐ気づいた。
ギルド内にあるギルド経営の安い食堂の隅の一席で情報交換を行っている。
講習生はギルドの外、町への出入りに制限はあるが、ギルド内ならば問題は無い。
彼らのように手持ちに余裕のある者はギルド直営の施設でなら買い物も飲食も可能だ。
人の少ないテーブルを選び、人目を避けて2人は語る。
「ああ会った、話も少しした。気になるのか?」
「そりゃーね。何人か元勇者さまに袖にされた奴らを知っているよ。どいつも元勇者に弟子入りしようって奴らだ、私らみたいな凡庸な冒険者と違って、一筋縄じゃいかない奴らが揃ってた。
そんな奴らを袖にした元勇者に弟子入りしたイゾウが気にならないわけが無いじゃ無いか。しかも同期だ。
下手したら講習終わった後に一荒れ来るんじゃ無いかと睨んでるさ」
「下手に関わるのはやめておけ。これは古い知り合いとしての忠告だ。
ユリウスと言い、ああゆう奴等は頭一つ抜けているのは間違いない、しかもあの若さだ、末恐ろしい。
違う次元で生きてるんだ、同じ事をしようとするやつはついて行けなくて死ぬだけだ」
「へー随分弱気じゃないか・・・・・・ユリウスって子の話も聞きたいもんだ」
「ああ、噂くらいは聞いているだろう?
あれは今18歳か。 15で兵士になり、1年で中級兵士に受かり、3年目で上級兵士に内定していた。
生きてるスピードが違う。俺は5年掛かって中級兵士だ。
結局上級にはなれなかった」
「イゾウってーのもそのくらいの化け物だって言うのかい?」
「いや・・・そこまでとはは言わん。 ユリウスは特別だ。魔法もすでに中級に達してる。兵士として3年訓練を積んでいる、これは大きい。
だがな・・・今回の講習に参加してる奴に何人か、入ってきた頃のユリウス並に才能を感じる奴らがいるんだ。新人兵士の指導員をやっていた俺の勘、だ」
「それがイゾウって子?」
「他にも何人かいる。2メーター超えた大男とか、ドワーフの男とか・・・あの辺りは才能の塊だ。規格外だろう。 イゾウはその中で特に悪い。〝氷魔法〟のスキル持ちだそうだ、そんな話は聞いたことがない」
「ふーん兵士の中にもいないような才能、ね。
とは言え魔法は使えないそうじゃないか。使えないならそんなにたいした話じゃないんじゃないか?」
「それは違う。兵士として鍛えていた俺に言わせれば魔法ってのは時間を掛けて覚えるものだ。今すぐに、簡単に結論を出すものじゃ無い。
スキルを使えないのに持っているという事はだ、そのうちアレは化ける。そこは決定している、必ずいつか使えるようになる事が才能という形で約束されているんだ。
どれだけ努力しても出来るかどうか分からない俺たちとは違う」
「ふーん、そんなもんかねぇ・・・・・・」
「そんなもんだ。冒険者にはいなかったか? 今は使えない、なのに持っているスキルを先天性才能と言う。
先天性才能持ちならばたまに現れるから兵士にもいた。最も【氷魔法】なんて貴重なスキルじゃなかったが・・・・・・
持っている奴は多少時間が掛かってもそのうちみんな必ず使えるようになった。イゾウは希少なスキル過ぎて教えられる奴がいないから手間取っているだけだ。使えるのは決まっている、教えられる奴がいれば直ぐだろう」
「まるで教える方が悪いって言い方じゃ無いか。」
「ああ・・・・・・兵士でもなんでも組織になるとどこも武術系と魔法系は仲があまり良くないもんだ。兵士の間でも別れて仲が悪くてな。最も表立っては争わないんだが水面下じゃ色々問題がある。
それで困るのはどっちも優れてる奴だろう」
「そりゃーね、どっちにも属せるし、属せないしってか」
「・・・・・・イゾウは武術よりなんだろう。武術課の教官に弟子いりしている。元勇者でどちらも使えるとはいえ、教官長殿は武術課よりだ、魔法課の教官としちゃ面白くない」
「なるほどね。だから、魔法の講習じゃ落ちこぼれ扱いされるわけか」
「・・・・・・・俺はそれは知らない」
「ふーん、教官や講師と一緒になって講習生に広めている奴がいるみたいだけど?
・・・・・・まっ、それは置いておこうか。あんたが何処まで知ってるか知らないが、ここで教官になるには条件があるのを知ってるかい?」
「冒険者のランクか?そこまでは知らない」
「ここの冒険者ギルドの武術課は最低Bランクだ。他所はもっと低くてもなれるよ。
魔法課の方は魔法が使えてとか色々条件が必要なはずさ、変わりにランクは求められない。」
「・・・・・・で?」
「イゾウの師匠はその武術課の中でもトップの2人だよ。悪名くらい聞いてるだろ?確か弟子を取るのは初めてだったと思う。きっと凄い才能が有るんだろうなとわたしは思うんだけど?
それこそ今期の講習生の中でトップを取るような」
「・・・・・・ユリウスの方が上だろう。現時点でも、才能でも、だ」
そう元兵士の男が呟き、自分の分の勘定を置いて席を立つ。女冒険者から彼の表情は見えない。
そんな女冒険者は唇の端を歪めて笑う。
情報は売れる。
問題は何処に売るか、だ。
彼女は頭の中で算段をつけながら、残った酒を飲み干すと自分も席を立つ。




