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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
 1章  初心者講習

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講習


「こんなところにいやがった!」


 ユリウスから教官長の武勇伝を熱い語りで聞かされていると、洗面所の入り口から大男が入ってくる。

2メートルを超える大きな男。

シグベルだ。


「よう、シグベル。おまえも顔を洗いに来たのか?」


「違えよ、朝の事だよ。聞こうと思って探してたんだよ!

何でおまえだけ教官長に稽古つけられてんだよ! 何があった? 教えろよ!」


「ああその話な・・・・・・」


 そういえば昨晩の事は誰にも説明していなかった。

シグベルもまた勇者志望の男だ。

元勇者である教官長の指導なんて、喉から手が出るくらい受けたいものなのかも知れない。

 変わってくれるなら変わって欲しい。

多分そんなに素晴らしいものじゃないと思うよ?

 時間が取れないって言ってたから、多分徹底して直接戦闘訓練(組み手)をするんだろうし。

だが、本当に変わったら俺の身に危険が迫る、そんな予感がするけど。


「そろそろ講習が始まるから行こうぜ。

同じの受けるから歩きながら教えてくれよ」


「ああ、そうするか。じゃーユリウスさ、ユリウスもまた」


シグベルに促されて移動しようとすると、後ろから声が掛かる。


「待った、僕もその辺の話も聞きたい。一緒にいいかな?」


 そう言ってユリウスも手早く廻りを片付けて着いてきた。

髭剃りはいいんだろうか。

ちゃんと綺麗に剃るべきだと思うが。


 ユリウスにシグベルを紹介し、シグベルにもまたユリウスを紹介する。

そして歩きながら経緯を説明した。


「で、何で教官長に稽古をつけられてるんだよ、あの人弟子を取らないって有名なんだぞ」


「ああ、昨日運動不足で退屈してな。サイモン教官とガーファ教官に訓練をつけてもらえないかお願いしにいったんだよ」


「・・・・・・おまえどんだけ鍛えるの好きなんだよ」


 手伝い期間中に一緒に鍛えられていたシグベルが苦い顔になる。

特に今まで愚痴っぽい事は言われていなかったが、多少後悔はしているのかも知れない。


「そのとき教官長もいてな、挨拶した」


「おう。俺も挨拶したかったけど手伝い中こっちには来なかったからな~」


「で、その流れで極道コンビの弟子にさせられた」


「マジかよ、随分思い切ったな。

・・・・・・待った。なったんじゃないのか? させられた?」


「させられた。なんか知らないけどそうなってしまった。流された。

とはいえ、10日ほど面倒見てもらってたから問題無いと思ったんだよ、何だかんだ面倒見もいいし、気に掛けてくれるだrp?」


「まぁ否定はしない。」


シグベルは丸々10日という訳ではないが、それなりの時間同じように過ごしている。

そこはわかってくれた。


「そしたらあの2人の教官って、教官長の弟分なんだってさ。

弟の弟子は兄である自分の弟子でもある、ようなこと言いだされて今朝の有様だ」


「「 !!! 」」


2人の顔が驚き留まる。イケメンが口を開けると殴りたくなるから不思議だ。

シグベルの顔は岩のようなので特に何も思わない。


「ちょっと待ってイゾウくん教官長の弟子になったの?」


「成り行きで・・・・・・」


君付けに戻ってるぞ、と思ったが突っ込む場合でもないだろう。


「おい、イゾウそれってつまりお前勇者の弟子ってことじゃねーか・・・・・・」


「元、だけどな。頭がいてえよ。面倒くせぇ」


「何言ってんだ馬鹿野郎、羨ましいじゃねぇか!おいイゾウお前勇者には興味ないって言ってたじゃねーかよ!

どーゆう事だよ、ずりいぞ!」


「今もねぇよ。見ず知らずの他人の為に戦う勇者になんて俺はなりたくねぇ」


とシグベルに、さらにはユリウスにも絡まれながら講習の会場になる訓練所に向かった。






午前の講習は人数が多いために3分割して行われる。


・弓の講習


・魔法の講習


・武術の講習


の3つの講習を午前のうちに受ける。

特にクラス分けはされておらず朝から早い者順で受けたいクラスに参加するだけだ。定員の49人が集まったら締め切られ、その日はそこからスライドして順に次の講習を受ける事になる。


「で、イゾウはどの講習から受ける予定なんだ?武術か?」


「どうせ全部やるんだから空いてる講習で良いと思うぞ。

魔法講習が人気ですぐ埋まるらしい。空いてて3人受けられるのでいいんじゃないか?」


予想通り魔法は締め切られいて、弓と武術で迷ったがガハハ髭教官に見つかって、即手招きされたので武術の講習から受けることになった。


「シグベルは第2段階、槍の訓練からか。」


「くそっ、すぐ追いつくから待ってろよな。」


「第3段階は斧だしな。木こりだったシグベルにすぐ追い抜かれそうだから待たないよん」


「へー、シグベルくんは木こりだったんだ。なら斧の扱いはお手の物か」


「その前に槍がどうもなぁ。まぁ頑張ってくるわ。次の弓のときにまた合流するからよ。」


そう言ってシグベルは槍の教官の所へと移動して行った。

槍の教官は俺の師匠になった1人でもある傷顔の教官も教官の1人だ。


 ユリウスは元兵士であるために、剣術と槍術、さらに弓術まではスキルを持っているらしい。

ユリウス曰わく王都から来た兵士はこの講習の〝認可〟に値するものを複数持っているらしい。

故に兵士あがりは講習で一目置かれる。


「んじゃ一緒に第3段階の斧の訓練に行きますか」


「斧は兵士の訓練ではやらないから心配だよ、個人で得意にしている者はいるけれど」


 どこの世界でも兵隊は統一規格を使うのが普通だろう。

この国では、剣と槍、そして弓なのだろう。

斧はあまり集団で揃えるのに向いていないのはわかる。

使えないのではなく、向いていないのだと思う。


「冒険者では多いんでしたっけ? 」


「斧を得意としてる有名冒険者は多いね。

ドワーフや一部の獣人が好んで使うし、大型の魔物を専門に狙う冒険者で巨大な戦斧で戦う有名冒険者を王都で見たことがある。自分の身体より大きい斧を持ってた」


「へー、どうやって戦うんでしょうね、興味ある」


「一度見てみたいよね」


 そして出来れば技を真似したい所だ。

そんなこと話しながら斧の指導教官のところへ向かう。

そこにはユリウスと同じ王都の兵士だった講習生が5人揃っていた。

ユリウスに紹介され、こちらも挨拶する。

男が1人、無骨な武人タイプの男。女が4人、なんというか「あー兵士になりそうな女だな」って感じの女が4人だ。

 皆、元が兵士なだけあって第2段階までは無条件で突破しているようだ。つまり兵士としての訓練で冒険者の初心者講習の〝認可〟程度は取得出来るのだろう。

 最低でも全員、〝剣術〟〝槍術〟そしておそらく〝弓術〟まではスキルを持っていることになる。

農民、もしくは平民の村人や町人とは冒険者になるとはスタートラインが違うのだ。





 斧の講習も全員が無難にこなしていた。

おそらくそう時間が掛からず認可を得るだろう。

面白味の無い動きだけど。

何というか基本に忠実なタイプ。それだけなら悪く無いのだが、思ったより突出していない。

言っちゃ悪いが才能を感じなかった。


 ユリウスが一緒にいるからだけど。

ユリウスは聞いていた噂どおり凄い。

同じ基本を習っただけなのに、動きが洗練されていた。

イケメンで強いって狡い。




 武術の講習は危なげなく終わった。

俺も特に問題無いと思う。むしろ斧は向いているほうだ、嫌いじゃない。


 シグベルと落ち合い、次は弓の講習用訓練所に向かう。

ここでユリウスとはお別れだ、後は共に王都から来た同士、出来る者でつるむだろう。

俺とシグベルは弓は初心者だ。

手伝い中も殆どやっていない。同じ土俵には立てない。


 そう思ってたのだがユリウスは意外にも元の兵士仲間と離れ、俺たちに着いてきた。


 多分だが、兵士仲間のところは彼には微妙に居ずらいのだと思う。

理由は簡単で、男の元兵士が20代後半、女の元兵士たちは全員20代前半だ。若いユリウスとは少し距離があるように見えた。

 何より互いの関係に問題がありそうだ。

18歳にして有望視されて噂になるほどのユリウス。

他の兵士は個人単位ではそこまで名前が挙がらない。

 男の元兵士は新人兵士の指導員だったらしく、女の元兵士の中に色々声を掛けていた。

その5人で集団になっているように思えた。


 別にユリウスと一緒に講習を受けるのは構わない。

弓の講習には〝認可〟がない。正確にはあるのだが、認可を受けても弓講習は次に進むことは無い。

なので皆、等しく練習をするだけだ。


 構わないのだが、認可による敷居が無いために物理的に女性講習生の距離が近くなった。

お目当ては当然、超イケメンにして有望株ユリウスだ。

特にユリウスは〝弓のスキル〟持ちなので猫なで声で女性講習生から質問を装った声がかかる。

 ユリウスも無視が出来ない性格のようで声をかけられると答えてしまうため、あまり一緒には練習出来なかった。

一緒にいるのに別行動という変な感じだ。

俺とシグベルは集中して訓練に励んだ。


 女にモテモテなイケメンは羨ましい。

だが別に、不特定多数に四六時中チヤホヤされたい訳ではないのだ。

今の最優先は自力をつけて強くなることだ。

講習を優先するべきだろう。


べ、別に負け惜しみなんかじゃないんだからね!


まぁ本音を言えばは羨ましいけどさ、俺に弓の事を聞かれても答えられることがない。

女関係は別で頑張るさ。




 そんな感じで受けていた弓講習だが、俺とシグベルには問題が起きた。

2人ともなまじ力が強いために、初心者用の弓だと今一つ扱いにくいのだ。

俺は無理矢理引きすぎて2つほど壊した。


 決してユリウスが羨ましくて力が入ったわけではない。

初心者用は安物でもあって、使いやすい量産型ではあるが、あまり丈夫ではなかった。






 そして午前の最後は魔法の講習に移る。


 魔法の講習は座学半分、実技半分といった流れで行われる。

 前半理論っぽいことを、体験談を混ぜながらだらだら話される。

それを参加する講習生皆で聞くわけだ。


 後半でその理論を各々試す。

試すといえば聞こえはいいが、魔法を使えない人間は使えるように練習し、使える者は教官があれこれ声をかける。

 そこには大きな隔たりがある。


 基本的に魔法は使えない者の方が圧倒的に多い。

魔法を使えるようになるには時間が必要だ。


 故に座学が入るらしい。

体験談を混ぜた魔法の対処法を語って、魔法が使えない人間に聞かせる。

時間がかかったとしても、魔法を使えた方が有利に働くので、出来なくとも全員に講習は受けさせ、練習はさせる。


 しかし、魔法講習の教官たちは使えない人間に特に指導はしない。

使えない人間を使えるようにする労力より、使える者をさらに伸ばす方が楽だからだ。


 何よりも、魔法を使えない人間を使えるようにするノウハウが特に発展されていないからだ。



 元兵士のユリウスは魔法が使える。

これは兵士だったからではなく、本人が努力した結果らしい。

兵士でも使えるようになるまでは時間が掛かる。使えない兵士も多々いるらしい。

 だから兵士は毎日継続して訓練を行う。

何年も兵士を続けていれば、魔法を使える兵士も現れる。


 冒険者はそうはいかない。

この講習の中で魔法が発動しなければ後に自力で魔法が使えるようになるものはごく一部だ。

継続して訓練が行える環境というのは得がたい。


 魔法が使えるユリウスと、使えないイゾウ()とシグベルはまた別になった。


 ユリウスは教官に歓迎され、離れた場所へ移動する。あっちで教官直々に指導するらしい。

俺とシグベルはよく分からない基礎練習を、臨時雇いの講師に見られながら、魔法が使えない講習生で集まって淡々と繰り返させられた。



結局その日は俺もシグベルも魔法は発動出来なかった。


「なんじゃい『 魔力 Ⅶ 』と聞いていたが、こりゃーガッカリじゃの。

普通魔力の高い者は魔法が発動しやすいもんじゃ。聞けば先天性才能(ギフト)もあると聞くのにのぅ。

魔法が発動する気配もなしか!

貴様はとんだ〝落ちこぼれ〟じゃな」


 講習の最後に、魔法講習の教官の1人、歳のかなりいった老人の教官が俺の所に来て最後にそう言い放った。

 講習中には何も言われなかったが、そういや時々近くにきてはため息を吐いていたじじいだ。


 その言葉を皮切りに、周りにいた魔法講習の教官や、講師たちも「落ちこぼれー」と言い出し、蔑み始める。

周囲にいた他の講習生たちも馬鹿にするような視線に変わり、口元に笑みが浮かび始める。


 おいおい、お前らも魔法が使える訳ではないのにそうなんのかよ?と思ったが、自分が出来ないからこそ見下す対象が出来た事が嬉しいのだろう。

 『 魔力 Ⅶ (高成績)』の者が自分と同じ程度というのは笑えるらしい。

俺にはよくわからないが。



 異世界に転生して初めて、俺は人の悪意に晒されたようだ。


俺はこのとき心が冷たく冷えるのを感じ、右目が凍えるよう震え、疼いた。

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