スキルっす
傷顔の教官に見送られて部屋に戻る。
帰り道で消灯の鐘が鳴った。
鐘が鳴り15分ほど経つと部屋にも建物にも、外から鍵が掛かる。
帰り道で白金の髪が闇夜に消えていくのが見えた気がする。
もしかしたら待っててくれたのかも知れない。教官と一緒だったから遠慮したのだろう。
少しでも話せれば嬉しかったが、残念だ。間が悪い。
見間違いだとしたら俺は単なる自惚れ屋さん。
意識高過ぎる系の見た目ヤクザの弟子。
「ごちそうさまでした。これから宜しくお願いします。」
俺が寝床に指定されている部屋のある建物の前で、傷顔の教官の礼を言って頭を下げた。
「小僧、いやイゾウか、お前はよく飲むな。
酒が飲める弟子が出来て嬉しいぞ。
教官長も言ったが、よく励め。儂らが望むのはそれだけだ。
人の成長にはムラがある。
そして必ず伸びなくなる時期が来るのだ。それでも腐らずに励め。
上手く行かない時期も儂らは共にあろう、それが漢の盃だ」
そういって傷顔の教官は戻っていった。その顔は相変わらず怖い。
怖いが良い笑顔に見えた。
部屋に戻ると俺以外の5人はもうベッドに潜り込んで眠っていた。
彼らを起こさないように静かに、二段ベッドの下段に潜り込む。
みんな慣れない生活に疲れているのだろう。
静かに横になった。
今日も良く飲んだ。よく食べた。
あんまり動けなかったが明日からは厳しくなるだろう。早めに眠りにつかなければ。
なんて考えると眠れなくなるのが人のサガだ。
寝られない・・・・・・
この数日で色々あった。
まさかヤクザに自分から弟子入りするとは。
きっと自分が思っているよりも疲れていたのだろう。
だが後悔するほどでも無い。
少しワクワクしている自分が、確かに自分の中にいる。
気になることもある。
講習前々日の事前検査を受けさせられたあの時から、右目が白く霞む事が多くなった。
最初は〝白内障〟って奴かと考えた。
前世でもなったことは無い病気だ。
だが主に年上の知り合いには、かかる者がいたので多少の知識があった。
たしか目の中でレンズとしての役割を持つ水晶体が白く濁る、それで見えにくくなる病気だ。
運送業のバイトをしていたときにじじいの運転手がよくこぼしていたのを覚えてる。目が白く濁ったら運転する仕事をしている人は、仕事にならなくなるから大変だったろう。
手術を受けないと治らない病気だったはずだ。
・・・・・・もしかしてこっちの世界だ、と魔法で治ったりするのだろうか?
白内障の原因は主に加齢なはず。
いつか大多数の人が通る病気なのだと知って、戦々恐々としたものだ。
当時空手を習い格闘技に熱が入っていた時期で、視力悪くなるのが本当に怖い時期だった。
早い奴は早いうちからなる可能性がある、そんな病気だ。
左目は霞まない。霞むのは右目だけだ。
前世ではそんな経験は無いが、死んだ当時に40歳だったことも手伝って、そんな想像が浮かんでくる。
生まれ変わってすぐに、眼が見えなくなるなんて冗談では無い。
それから何度となく、自分でどうにかならないか、見え方が変わらないか、試していた。
何度か試していると、少しだけ白い霞みにも視点が合うようになった。
白の中に潰れた文字のような物が浮いているように見えなくもない。
意識して視点を調整していくと、それは少しずつ文字に近づいていく。
そこまで来れば後は繰り返すだけ。
道具も相手も必要がない。
時間を見つけては繰り返し、今では視界の中にハッキリ見えている。
白い靄は晴れて、日本語で書かれた文字が読める。
おそらくこれはステータス画面という奴だ。
だが残念な事にステータスは見えない。
所謂スキルという奴が映っている。
スキルツリーという奴だろう。
これもまた、極道コンビに訓練をお願いしようとした理由の一つでもある。
俺に見えているスキルの内容と、教官に聞いている鑑定の内容に若干のズレがあった。
分からないことを放置するのは危険だ。放っておくと後で問題になる可能性が高い。
直ぐに理解が出来なくても、聞ける範囲で人に聞いて探っておくべきだと思う。
頭のおかしい奴だと、思われない程度に注意しながら。
並行して自分でも試行錯誤もするつもりだが。
冒険者ギルドの検査は原始的な検査だった。
最初脳筋ゴリラヤクザ顔教官たちが、「試験だ、1人づつかかってこい!」とか言い出さないか心配だった。
何しろ冒険者ギルドと言えば、教官と立ち会うパターンの冒険者ギルド試験もまたお約束だ。
だが心配は要らなかった。
やったことは石を持ち上げたり、訓練所を走らされたり。
頑張ってこなしてみたら手伝いではぶっちぎりでトップ。
さらに翌日にも「総合でもイゾウが1位だ」と言われて驚いた。
どんだけ強く生まれ変わっているんだっての。
だが、これはまぁいい。
とても有り難い。
どうせ手抜きなんて出来なかったし、俺がそこそこ動けるのは教官には知られていることだ。
問題は次に測られた魔力。
これが想像以上だった。
魔力は10段階。
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ Ⅷ Ⅸ Ⅹ で表されていた。
ドラクエとか えふえふでおなじみのあれだ。
Ⅲまでは良い。
Ⅳでは左にⅠがあるのに、5でⅤだけになる。
そして6からⅠは右に来て6,でまた右が増えてⅦ、Ⅷと増えていく。
なのに9では左にⅠとⅩでⅨになって、10ではまたⅩだけになるという。
文字面は格好いいのに分かりにくい表記だ。
魔力は10が最大なので、 Ⅹ が1番高く強く Ⅰが 低い弱い。
10段階なのに平均は3から4なんだそうだ。つまりⅢーⅣね。
この数字の魔力でもそれなりには魔法が使える数値らしい。
多分隠れて0があるはず。
Ⅰ 未満 は全部 Ⅰ だ。おそらく切り上げでの Ⅰ 。
俺はそんな訳の分からない魔法力の検査で Ⅶ を叩き出した。
検査場は衝立で囲ってあり、講習生はそこに入って行う。
なのに測定器は丸見えという杜撰な検査方法だった為に、誰が受けてどんな結果が出るかは丸わかりだった。
これは魔力の測定器が無駄にでかいせいだろう。
もっと小型化へと努力をしろと言いたい。
俺は17人いた手伝いの中で、17番目だった。
俺以外の講習生はゆっくりメーターが振れていくのをそれまで見ていたのだ。
それが俺がハンドルを握った瞬間に、メーターが一気に振れてた。
振れていったのだ。
ビビって焦って手を離した。
なのに、結果は Ⅶ だった。
検査機の故障だと思った程だ。
あの時の極道コンビの顔は忘れられないだろう。
強面のおっさんが口を開けて固まっていたのだ、可愛いわけがない。
それを見て俺はどん引いた。
なにかヤバいことをした実感があったので俺はそれ以上、その話には振れなかったし、極道コンビも 魔力Ⅶの部分だけを強調してその場を静めて終わらせた。
手伝い組には魔力Ⅷがいたからか、そこまで大騒ぎにもならなかった。
あやうく俺は身体能力、魔力どちらの検査でも1位となるところだった。
それでも身体能力1位の魔力2位だけどな。
あくまでも暫定だ。手伝い講習生の中での検査結果。
翌日には100人以上が詰めかけてくる。
当然更新されてしまうだろうなと、そのときは軽く考えていた。
そして〝スキル〟の検査に移る。
これは事前にちゃんと説明をしてくれた。翌日の時にもちゃんと時間を取って説明を行っていた。
それくらい大事な検査らしい。
スキル検査はこの時の一回に限り無料なこと。
教官曰く、これはかなりの大盤振舞な事らしい。
二回目以降は、知りたければ本部にて申請し有料で、当然自費になるという事。
今回のこれが優遇されているのは選択肢がある事で、これ以降のスキル講習では必ず最後に受けなければならないらしい。
これ以降のスキル講習は有料なので、その検査費用も込み、だとか。
選択できるのは1つだけ。
教官が立ち会うか立ち会わないか。
秘匿するか報告するかだ。
報告すればそれに沿う形で講習を調節してくれる。だがギルドに記録として残る。
秘匿するのならば、通常のカリキュラム通りにやる。
どんなスキルを持っていようと、詮索はされない代わりに、考慮も一切され無い。
師匠から後でで聞いた話だが、秘匿したがる奴は多いが、自分で思っているほど伸びてこないらしい。独学には限界があるという事だろう。
この世界、スキルを確認する為の道具は珍しい。
だが全く無いわけでは無いので、自分を知ってる者ほど隠さないとも言っていた。
自分に過剰な期待をしている無知の若者ほどその傾向が強いらしい。
自分は特別な何か、なんて期待をして、隠蔽した為に育つ機会を自分で失ってしまう者が多いとか。
世の中には特別な何か、とまではいかなくとも有用な 〝スキル〟は多数有るらしい。
それすら隠してしまうと、それを上手く育てられず、〝スキル〟を生かせない奴が多いのが現状らしい。
「〝スキル〟は持っているだけでは意味はない。使いこなしてこその 〝スキル〟だ。」と師匠の1人に言われた。
例外が多数いるかららしい。
スキル鑑定をする検査機は、ひと言で言えば黒い石版だ。
定礎と書いてビルに埋め込んであるような石版。
黒で無ければそう見えてもおかしく無い色つや形をしていた。
サイズもあれよりかはかなり大きかったが。
どちらかというと学校とかで校歌とか校訓とかを書いて、校内のどこかに飾ってありそうな外見をしていた。
昔の偉人の有難いお言葉とか。
俺が見たのは何も文字も書かれていない真っ黒い腰までの石版だったが。
この世界の文字がまだ読めないので、立ち会いは頼む事にしたのが、その時にどっちが立ち会うかで極道コンビが喧嘩を始めたのは参った。
別にどっちもいても構わないから先に進めてもらう事にした。
問題はその後に起きた。
「その黒い石版に振れて集中すれば文字が浮かび上がる」
説明を聞いて、俺が石版に振れたその瞬間に、全身に雷が走ったような衝撃を受けた。
「「 イゾウ!!!! 」」
左右から極道コンビの焦ったような声は聞こえた。
2人が取り乱すのは珍しいなんて思いながら意識が遠くなっていった。
俺の感覚では身体が縦に揺れ、その後に力が抜けていって真下に崩れたように感じた。
横で見ていた教官たちには、石版に振れた途端に突然、俺の右目から血が吹き出して、そのまま崩れ落ちたらしい。
横にいた傷顔の教官が支えてくれたので、気を失っただけで命に別状は無かったが、あのまま倒れたら装置に頭を打ってたかも知れない。
意識を突然失った場合、その事も勿論だが、倒れ他時に頭を打ったりするから危ない。
俺の右目の周りは血だらけだったらしいが、他に異常は無かったらしい。
その後は覚えていない。
極道コンビが俺の息があることを確認し、石版を確認した後に、治療院に担ぎ込んでくれた。
しばらくしてから目を覚ました時には治療院だった訳だ。
その時にはもう、右目に異常は無かった。
身体にも時に問題は無く、違和感も全く無かった。
今にして思えば、それから時々右目が霞むようになったが。
眼から血が出たと聞いていたので、血がまだ眼に残っているのか? 程度にしか考えていなかった。
目が覚めた後、思ったより元気だったので治療院からは追い出された。
治療院のおねぇさんたちとコミュニケーションを取りたくて一生懸命話しかけたのがいけなかったかもしれない。
外の冒険者が大勢治療を受けに来る時間だったようで、露骨に邪魔者扱いされた、残念。
鑑定の結果は、極道コンビに教えってもらった。
名前とか誕生日は出ない、年齢のみが表示されるらしい。
俺の年齢は 18歳 だった。
これが少し衝撃的で、そのあとはあまり頭に入ってこなかった。
若返っているとは予想していたが、まさか半分切っているとはね・・・・・・
結構ショックだった。
嬉しいと思う反面、なんとも言えないような不安があった。
続いて取得しているスキルを教えられて、この時に 『剣術』と 『槍術』 を所持していたことを褒められた。
このタイミングでの取得を狙って教えてくれたようで、それを聞いてとても嬉しかった。
なんでも講習を少し早く進められる特典があるらしい。
長いようで短い講習期間だ。
短縮できるところは短縮して効率良く学びたい。
俺が極道コンビに聞いた取得スキルの内訳は
『 計算 Ⅲ 』
『 指揮 Ⅰ 』
『 料理 Ⅰ 』
『 演奏 Ⅰ 』
『 格闘 Ⅲ 』
の五つ。
それに 『剣術』と 『槍術』を足して7個。
剣術と槍術のレベルは言われなかったので Ⅰ だと勝手に思っていた。
それが今、二段ベッドの下段に寝転び、上段の床板の裏側に映して見るスキルの内訳とは少し異なっている。
まず
『 計算 Ⅲ 』
『 指揮 Ⅰ 』
『 料理 Ⅰ 』
『 演奏 Ⅰ 』
『 格闘 Ⅲ 』
この五つは変わらない。
詳細は謎だ。視点をあわせても何も出てこない。
計算と格闘に関してはそれなりに学んできていたから納得は出来る。だが、そのレベルは謎が多い。
前世で株取引を始めたとき、俺は先達の本を参考に読み深け勉強した。
特に影響を受けたのは「ウォーレン・バフェット」
オマハの賢人と呼ばれた投資家だ。
有名な彼にエピソードは沢山あるがその一つに、知人の娘から大学で何を専攻するべきか相談されたという話がある。
彼はそれに「会計だよ、会計はビジネスの言語だから」と答えている。
世の中で会社の現況を説明する方法はいくらでもあるが、最終的には会計という言語を使った説明に帰着するという話だ。
どんな飾った言葉で聞かされるよりも、、株式会社の経営状況は数字が解りやすい。
俺はこの言葉に感銘を受け、簿記を始めとした会計学を働きながら必死で学んできた。
おそらくそれが『 計算Ⅲ 』になったと思う。
『会計学』というスキルは無いのだろう。
学校で習うような数学や算数は好きではなかった。
俺が好きな計算はお金の計算だ。
札束を数える仕事がしたい。出来れば枚数でなく帯のついた束で数えたい。
アタッシュケースに入れる仕事でもいい。
お金に埋もれて過ごしたかった。
正直、 Ⅲ は中途半端で納得いかない。不満だ。
『 格闘 Ⅲ 』に関してはさっぱりだ。空手と柔道の経験がある。
あるにはるがどっちも段位は初段だ。
大した段位ではない。
柔道初段なんて英検~級と同レベルと言われるくらい緩い。
柔道でちゃんと強い人は二段から上だろう。
柔道初段なんて誰でも取れると格闘技をやる人間内ではよく馬鹿にしている。
これは競技人口が多い故の弊害でもある。
競技人口が多くオリンピック種目の柔道は、他の格闘技をやるものから悪く言われやすい。
どこかの体育教師は6日間の指導者講習を受けただけで取れた、なんて話もあるくらいだ。
正直柔道初段くらいなら、人に言わない方が良い。
それでも柔道は団体が1つだから全然マシだ。
認可する団体が複数ある競技は基準がバラバラ。
空手に関しては、流派道場ごとに基準が違い、一概に言えないのだから。
帯の色だって黒帯より下は団体事に扱いが違ったりする。
緩いとこは本当に緩い。
町道場じゃ長く通ってるという理由で昇級昇段する人間なんて珍しくない。
健康のためだけにやってる人でも、長く続けていれば初段を取れたりする。
基本的に昇級昇段システムは金と時間が掛かる。勿論実力ありきだけど。
高段者は強いけど、実力順では無い。
正直そのシステムが嫌で辞めた面もある。
何段以上じゃ無いと指導はしてはいけない、とか。ソレを取るには何年やっていくらかかるとか。
ちなみに自分の道場を開くには資金があれば出来たりもする。
勝手に何とか流と名乗り、何段を自称すれば良いだけだ。
世の中は銭と金、それを廻すシステムだ。
『 料理 Ⅰ 』に関しては自炊生活が長いからだろう。
結婚してからもしていたのでもう少し上でも良かったと思う。
ただし筋トレ好きなので、どうしても高タンパク料理に偏っている。
レパートリーは少ないからこんなもんかもしれない。
ちなみに煮ると焼く、蒸すくらいは出来るが揚げ物は出来ない。
揚げ物は基本筋トレイニーには良くなかったんだ。
異世界あるあるの唐揚げは俺にはかなり難易度が高い。
『 指揮 Ⅰ 』 に関しては完全に謎だ。
責任者とか、リーダーとか、仕事でそんなことは散々やってきたからその辺の経験からだとは思う。
生徒会長とか部活の部長とかそんなキラキラした青春は俺には無かったが。
通っていた学校もそんな職はお飾りの底辺校だったし・・・・・・
『 演奏 Ⅰ 』 も同じく謎だ。
楽器はギターとベースが出来る。親切な楽譜が、あればだけど。
耳コピとか曲作成とかは無理。
あとは縦笛とピアニカ、ハーモニカーくらいならなんとか覚えている。やり方は。
出来るとは言ってないし、言わない。
子供がやってたのを見てたから少しなら覚えている。
若い頃は、(モテたくて)バンドをやってたことがあるが、コピーバンドで遊んでいたくらいだ。
ちなみにモテ無かった。
ライブにも出たことがある。
やっぱり全くモテなかったけど。
ファンが出来るくらい腕があるか、顔が抜群で無いと(モテるのは)難しい世界だったな。
そんなバンド経験の中で、遊びでドラムも少し習った事がある。
何がスキルに現れているのかよく分からない。
この五つのスキルに関して思い当たるのはとりあえずこのくらい。
何にどう補正が付く、なんて説明も何も無い。
だから詳細は分からない。
教官にはスキルは使う物だと教わった。
今はそれを信じて努力するしか無い。
違うのは『剣術』と 『槍術』 。
教官たちは何も言わなかったが、俺は見えるスキル表示では
『剣術 Ⅱ 』
『槍術 Ⅱ 』
どちらもⅡになっているのだ。
教官が見た後に上がったか、俺が倒れたせいでしっかり見られなかったのか。
極道コンビはスキルを得ていたとしか言わなかった。
さらに二人に言われていない項目が俺の視界にはいくつか映っている。
特に気になるのはコレ
『氷の眼 (劣化)』




