盃
結論から言えば逃げられなかった。
俺は弟子になった。
3人の・・・・・・
「ガハハハ、いいなぁ弟子か。儂は賛成だ。
イゾウならば文句はないなぁ」
ガハハ髭が笑いながら最初に口を開く。
「儂も賛成だ。イゾウの面倒は今後もみたいと思っていた。
教官として以外でも個人的にと、な。
だが問題があるぞ兄弟。
儂らは3人での義兄弟だ。 儂らだけが弟子取る訳にもいくまい。
兄者は元勇者。
下手に儂らが弟子を取る。それは兄者の廻り弟子とも言えるのだ」
次いで傷顔の教官が困ったような顔で答えた。
よく分からんが、問題あるなら止めた方がいいですね、はい。
「いや、おぬしらが弟子にしたいと思う者、ならば儂も同じく思うだろう。
儂も面倒をみよう。
問題は・・・・・・自分で何とかしてもらおうか。それもまた試練」
最後に答えたのは教官長だった。
それもまた、じゃねーよ。
いらねーよ試練。
さすがに元勇者の弟子になるつもりは無い。
だったらこの話はお断りし・・・・・・
「おお、流石兄者だ、懐が深い。
ならばイゾウとも盃をかわしてしまいましょう。
儂らが師匠、イゾウが弟子の親子盃を。
余計な者に口を挟まれる前に済ましてしまいましょう!」
傷顔の教官の目がマジだった。
とてもそんなことを言える雰囲気では無い。超怖い・・・・・・
なんだよサカズキって、赤犬?
まんまヤクザの思考じゃねーか。
つーか余計な口を挟む奴いるの?
それは堪忍して欲しい。
そんなヤクザみたいな関係は望んでいないのだ。俺は普通の師匠が欲しかっただけで。
普通、師弟関係ってーのはな・・・・・
弟子になったこと無いからよくわからなかった。
何が普通なんだろう?
だとするとこれも有りなのか・・・・・?
こっちの世界の常識もないから、これが普通だと言われたならば、反論出来そうにない。
「ガハハハそれがいい。
イゾウよ、言っておらんかったが儂らは義兄弟の盃をかわしておる。
もう分かっていると思うが、ここにいる3人のことだ。
兄者が6:4で上で兄貴分だ。
儂ら2人は2分下がる、つまり弟分となる。
共に弟分、儂ら2人は五分の関係だ、飲み分けの兄弟となる。意味はわかるか?」
・・・・・・頭ではわかりますけどね。
心が解りたくないって感じ。凄く拒否してる。
そっちこそわかりますか?この感じ?
俺の心が面倒くさいって叫んでるよ。
それまんまヤクザの盃の話じゃねーか。
どっかで聞いたことあるー。 多分漫画で読んだことある。
関わっちゃいけない奴な気がする。
上が白って言ったら黒になる奴だ。
完全な縦社会の封建制度だぞ。
口答えするとガラスの灰皿で殴って教育されるやつじゃねーか。
「えーっと・・・・・・」
「では早速」
「そうだな、それがいい」
「うむ、そうするか」
「・・・・・・」
『元勇者の弟子になるのは嫌なのでやっぱりやめときますね』などと言い出せるわけがなく、その後は特に問題無く、教官たちが勝手に話を進めていった。
ヤクザは普通親が1人だ。
子が沢山いる。
なのに俺は親が3人もいる。
たった1人の子分になったのだ。
解せぬ。
その後は場所を変えて親子固めの儀式である。
飲み屋に行って個室に入った。
一つの盃(という名目のお椀)に酒を注ぎ、4人で順番に飲んでいく。
それを消灯近くまで繰り返し、延々飲まされた。
あれ?一回じゃねーの?
そう思ったが言わない。俺は流れに乗れる子。
俺の記憶だと、親側が気持ち分残して、子がそれを全部飲み干す、で懐にしまうのだ。
確かそんな感じだった筈なんだけどな。
こちらでは違うみたいで、結構飲まされた。講習中なのに。
飲んだ盃も別に懐に入れて持って帰って大事にするとかではなく、店に普通に返却していた。
だがこれにて俺は、3人の義兄弟の子供となった。
初日の夜はそうやって深けていった。
3人と話しながら酒を飲んで終わる。
おかしいな、俺はただ身体を動かしたいとか思ってただけだったはずが・・・・・
3人とも正式な弟子を取るのは初めてらしく、嬉しそうだったのが少し怖い。
張り切っているのが伝わってきた。本当、頼むよ?
色々擦り合わせながら約束事を相談していた。
勿論俺に意見など聞くはずもなく、勝手にだ。
助かったのは、俺は3人を兄貴とか親父とか呼ばなくていい事か。
講習中は普通に教官と、教官長と呼べと言われた。
流石に俺だけ教官を、「親父!」とか呼びたくない。
拘らない人たちで良かった。
そこは教官としてはプロなのだろう。
大事、それ凄く大事。
講習が終わったらまた話し合うと言っていたので、また飲まされるのだろう。
何が楽しいのか、俺が飲みほすと喜んでいた。
タダ酒は大歓迎だが。
当然今夜も払ってないし。
そして今後も多分払わないだろう。
親と子だから仕方無いのだよ、親の面子を子が潰すわけにはいかないしな。
極道は面子が命だ。
そして当面は講習に集中するように強く言われた。
他の教官たちには弟子になったことを報告するらしいが、お前の方は言いたければ言え、くらいの話で終わった。
別に口外しても良いらしい。隠すことの事でもないのだとか。
秘密で良かったのに。
あとは空いた時間に面倒をみてくれるらしい。
つまりそこに訓練が入るわけだ。
個人的に訓練をしてもらうだけで面倒な事になったもんだ。
極道コンビに頼んでちょっと厳しくしごいてもらうつもりが、勇者の指導が受けられることになった。
いやー嬉しいな。
嬉しすぎて泣けてくる。
今後の人生に〝元勇者の弟子〟という荷物を背負うことになるのだ・・・・・・堪忍してくれ。
お断りする方法を考えておこう。
勿論、穏便に。顔を潰さない方向で。
俺の顔が潰れるのは仕方が無いだろう。
俺は強くなるために弟子入りしたのであって、勇者になるためではないのだから。
勇者なんて呼ばれても、俺は恥ずかしいだけだ。
そんな呼び名1つで知らない誰かに良いように使われたくない。
弱ければ奪われて、強ければ利用されるだろう。
ならば俺は、奪われず、利用されない、そんな人生を求めたい。




