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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
 1章  初心者講習

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習う


 そこにいた男は教官長だという。


 だがその姿は前世の最後に自分を殺したヤクザのそれだ。

3人いた幹部、その最後の1人、ラスボスだ。


 あの時は声を発しなかった男だが、その佇まいからおそらくあの組織の長だと予想していた。

それがこっちではギルドの教官の長か・・・・・・


 全身が強ばる。

無意識に力が入る。

 極道コンビとはこの10日ほどの生活であまり気にならないくらいには落ち着いていたが、ここにまた新たに因縁のある相手が現れるとは・・・・・・




 なーんて、実はそうぞうしていなくもなかった。


 教官との酒の席で教官長の容姿について、話を聞かされていたのでそんな気はしていたのだ。

伊達に前世で40まで生きていない。

情報収集は日常生活を送りながらも、それなりにするようにしている。


 極道コンビが俺を殺したヤクザにそっくりだった時点でもう1人もどこかにいると予想はしていた。

あのとき3人いたヤクザが2人になったら疑って掛かるのが当然だ。


 今このタイミングで会うと思わなかったから、思わずビビったけど。




 教官長


年齢は60手前。

 すでに頭髪は全て白くなり、顔には深い皺が刻まれている。

今なお俺と変わらない体格を持ち、かつ腰が曲がっておらず、背筋も伸びている。

現役でも充分通用しそうな強者のオーラを持っている。

つまりゴツいじじいだ。

おまけに顔も怖い。やっぱり怖い。


 纏っているオーラは半端無い。

先入観のせいもあるだろうが、正直かなり怖い人オーラがある。


 その迫力は前世でヤクザの姿の時を遥かに凌ぐ。

普通に座っているだけで背筋に冷たい汗が流れてくる。


 それもまた当然だ。

こちらの世界のこの男、職業はヤクザの組長では無く、勇者であった。


元、だが。

勇者と呼ばれていたのは20代後半から40過ぎまでの期間だと今日からは聞いている。

つまりこの冒険者ギルド支部の教官のトップは元勇者なのだ。

だから怖い教官が集まってくると。

そりゃ半端じゃやっていけないだろう。


 講習で冒険者ランクの説明されたが、俺はあの話は飲みながら教官に聞いていた。

男はみんなあーゆう話が大好きだからな。酒の肴にはぴったりの話題だった。

教官たちも酔うと熱く語ってくれていた。

俺も食いつくのでさらに会話はヒートアップする。

しまいには飽きた。

だって反応が良かったから何度も話すんだもん。


 ちなみに極道コンビも元は有名な冒険者だったらしい。

2人は別のパーティに所属していて、切磋琢磨するようなライバル関係だったとか。

当時は殺し合いをしかねないほどお互いに意識しあって張り合っていたらしい。

今ではお互いを兄弟と呼びあっているが。


 その姿しか知らない俺には信じられないのだが、個人としても、パーティとしても物凄く張り合っていたらしい。 他の教官が教えてくれた。

極道コンビの最終ランクは共に A 。

 冒険者としては上から3番目だ。


 勇者になる、だとか。偉業を達成する、とか。

貴族の推しがある、とかで無い限り実力のみで上がれるのは A ランクまでだと酔った教官が寂しそうに言っていたのを覚えている。

 個人の力ではその辺が限界らしい。

結局は力を持った者が強く、どこかの下につかない限り横やりが入ってくるのだろう。

どっかの国の政治みたいだ。


 教官長だが、最終ランクは S だ。

勇者は認定されると自動的にこのランクになるらしい。


控えめに言っても恐ろしい存在な訳だ。



それが今、目の前にいる。 



「初めまして、教官長どの、講習生のイゾウと申します。

講習前の手伝いから参加させてもらい、こちらの教官のお二人には大変お世話になりました。

講習にも参加させて頂きますのでよろしくお見知りおき下さい」


 極道コンビに挨拶を、といわれたので挨拶を述べて頭を下げる。

緊張もあり、何と言って良いのかよく分からず、とりあえず丁寧に喋るように心がけた。

 この人が、元の世界のあの人と違うことは頭では理解している。

だが、心も体もすぐに反応してくれない。



「そうか、君がイゾウか、話は聞いている。

殿はいらん。

教官長は教官長だ。そのまま呼べばいい。

2人の言うことをよく聞いて励みなさい」


 教官長が静かに答えた。

どうやら俺のことは伝わっているようだ。

まぁお世話になってる上に講習前検査なんかでは色々騒がせた。

長の役職を持つ教官長だ、耳には入るだろうな。


 その視線は値踏みをするように俺をとらえて離さない。

身じろぎするような視線に、恐怖心が俺の身体を走ったことを覚えている。


「ガハハハ、なんだイゾウ。緊張してるのか?

気持ちは分からなくもないが、何、そこまで怯えなくてもいい。

で、何のようだ?」


 空気を読まないのはいつもの笑う禿。

この男の豪快さには、何度も救われている。

良い意味で空気をぶちこわしてくれるので、無駄に怯えなくて済んだ。


 でなければ自分を殺した男に師事しようとは思わなかっただろう。


 そう、師事だ。


 俺は自分を殺した男たちと姿形がそっくりなこの男たちに教えを乞いに来たのだ。



 短い時間ではあったが、色々考えた結果この選択肢が最短最速だと思った。

思考は至ってシンプルだ。


死にたくない。

絶対に生き残りたい。

だから強く在る必要がある。


    ↓     


強くなりたい。


    ↓


じゃー強い奴に教わればいい。

 

    ↓


強い奴?   俺の知っている中じゃダントツで極道コンビだ。

そんなに知り合いいねーけど。 


    ↓


確かに強いけど信じられるのか?



こうなった。

 前世のことは引っかかるが少なくとも向こうのヤクザとは違う人間だと思える。

だから多分だが、俺に対しても特に悪意は無い。


 何より教官である事が大きい。

人に指導するのが仕事だ。教えるのが上手いかはともかく、慣れている。

ただ強いだけの存在で、手探りで人に初めて何かを教える者よりは断然良い。


 厳しい訓練をさせられてはいるが、あれが鍛えるためであることも理解している。

きついけどな。

それでも人生時には修行パートが必要なのだ。

少年漫画じゃ王道だ。


 俺は今このタイミングがそれなんだと思う。

強くなりながら世界を廻るより、強くなってからあちこち無双して進む方が俺好みでもある。

行った先々で苦労するより、強くなった俺が行って異世界チーレム無双したい。


 そして何より危険な相手ほど、懐にいたほうが安全だ。

前世で自分を殺した存在、それにそっくり人たち。

敵対するよりは友好を望むよ。


怖いとは思うが嫌いになれないのも理由としては大きい。




俺は片膝を突いて頭を下げる。


「教官、自分は強くなりたいと思っています。

この講習の間に出来るだけ。

もし出来たならば手伝いの時のようにまた個人的に稽古をつけてもらえないでしょうか?」


そう地面を眺めながら言った。


「ほう、君は2人の弟子になる。

そう言うのか?」


答えたのは極道コンビでは無く、教官長だった。

いや違いますよ。

そんな堅苦しのではなくてですね


「えっ? 弟子? あんの?

違った、すみません、あるんですか?

認識不足でそういう制度があるなんて全く知りませんでした。

また訓練をつけてもらえないか、と思ってお願いし来ただけで・・・・・」


 思っていた方向とちょっと違ってきてしどろもどろになる。

差し当たって基本をみっちり教えてもらおうと思ってただけなんですけど?

もう少し稽古をつけてもらいながら、もうちょっとだけ親しくなれれば、なんて思ってただけなんですけど?


いやいやいやいやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。


気持ちとしては近所の空手とか柔道の道場に通うくらいの気持ちで師事をお願いに来たのだ。


まさかそれが相撲部屋に弟子入りする話になるとは思わないじゃん?

習いたい、の規模が違うよ?


趣味でやるのと、その道に進むくらい意味が違う。

同じ教わるなのに、何故そんな解釈になるのだ?

待ってくれ、早まったか?



「ほう・・・」

「ふむ・・・」

「・・・・・」


どうやらもう遅そうだ。 

3人は顔を見合わせていたが、いつものように怖い顔で笑った。


だがそれはいつもより、いくらか良い笑顔にも見えた。



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