そしてやっと講習が始まる。
毎日仕事して、毎日訓練をする。
あっという間に9日が過ぎた。
空が白み夜が明けると講習開始前日となった。
今日から教官の手伝いに参加している以外の、通常の講習生をこの第三区画支部で受け入れ始める。
そのために作業は無い。
代わりに受け入れを手伝いに廻される。
朝から冒険者ギルドに訪ねてきた講習生たちを列にして並ばせ、諸々の手続きへとに廻していく。
簡単な身体測定をしたり、冒険者としての素養を調べる検査をする、その手伝いだ。
当然今日は訓練が出来ない。
講習が始まるので今後は講習の中での訓練になるようだ。
身体測定は測定器がないので原始的なやり方で時間が掛かっている。
基本的に目分量だ。いい加減にもほどがある。
測定器を作れば意外と儲けられるかもしれない。
それはそれでありなのだが、余計な敵を増やす恐れもある。
体重計とかな。
数値化してはいけない世界もあるのだよ。
それが権力者だったりするともう・・・・・・ね。
だから保留だ。
どうせ作れないし。
手伝い組は前日に検査は終えている。
おかげでひと悶着あった。
極道コンビが狂喜する方向で。
かなり悪目立ちした。
勿論目立ったのはこの俺、むしろこの件では俺様だ。
この辺は話したくないのでそのうちに。
朝から夕方までの受付期間にギルド支部に来た順番に、講習生としての番号を振っていく。
最後の受付が終わると、そこから手伝い組にも番号を振っていく。
振られたその番号が講習生番号となる。
番号で呼ばれる生活が始まる、まるで囚人みたいだ。
学校も変わらないが。
出席番号みたいなものだ。
今後冒険者として問われたら、何々支部の何々期、何番の何何ランクのなんとかって名乗るのだそうだ。なげーよ。
この辺は〝二つ名〟がつけば省略して良いらしい。
中には自分で勝手に二つ名を名乗る輩もいるらしい。
よく分からない世界だ。
俺は17番目に振られる事が決まっている。
講習生最後の番号になる。
俺の番号の数だけ講習生が存在することになる。
俺の前の番号はシグベル。
昨晩、夕飯後に俺たちが教官に訓練をつけられている間に他の手伝い組にはその説明があったらしく、俺たち2人は忘れられていた。
訓練で一緒だった教官が本当はする予定だったらしい。
だが忘れられていたために、最後にまわされた。という訳だ。酷い。
現在の申し込み総数は手伝いの人間を除いて160を越えているらしい。
毎回直前で逃げる奴が多いようで、2割くらい申し込みより少なくなるらしい。
親が直前で働き手を外に出したく無くなる場合もあるそうだ。
130人を下回るくらいで落ち着くのだろう。
講習生が朝から押し掛けて来た中を俺とシグベルとえーた、他に2人ほどで立ち入り禁止区域の見張りをしつつ、迷子の誘導をし、喧嘩等が起きたときの為には予備人員なる。
何でも毎回、ギルドの中を勝手にうろつく馬鹿が出るらしい。
講習生同士の喧嘩なんて日常茶飯事だそうだ。
喧嘩は基本自己責任だが、初日にされると受付が終わらなくなるので目を光らせておけ、と言われている。
冒険者になるような奴にろくな奴はいなそうだ。
後発組講習生の情報はある程度とっくに出回っているようで、毎晩教官と飲んでいた俺とシグベルより、だらだらしていた他の連中の方が内情に詳しかった。
少し悔しい。
えーたが知らない俺達に向かって調子に乗ってべらべら喋ってくるので、喋らせるだけ喋らせておいた。
「あー、多分あれが王都の兵士上がりだな。6人いるって話だぜ」
「へー、兵士だったのに冒険者になるのか?」
「家庭の事情とか、落ちこぼれとかだろ? よく知らんけど。
大体兵士としての訓練を受けてたから普通の奴より強いらしいぞ。
今回は兵士の中でも将来有望だったって奴が来るって噂になってるんだぜ」
「へー、それは凄い」
(何で将来有望な奴が冒険者になるのか聞いておけっての)
「ああ、名前なんつったかな、忘れたけど。
超がつく色男で、さらにスゲー強いらしい。家柄も良いとかなんとか。
王都でもモテモテだったらしいぞ。なんでそんな奴が冒険者になるのかねー。あーやだやだ。」
「・・・・・・」
(そう思うなら聞いたときに探っておけっての)
とか
「あっちのドワーフは有名な奴だ」
「・・・・・・」
(だから何で有名なのかと・・・・・・)
とか
「なんか有名な魔道師の弟子がいるらしいぞ」
「・・・・・・」
(なんかって何だよ・・・・・)
とか
「どっかの街で暴れん坊だったやつが、子分を引き連れて来るらしい。
そいつを嫌がって講習を受けるのを辞めた奴がいるんだってさ、怖ー」
「・・・・・・」
(そいつの特徴は・・・・・・知らないんだろうなぁ・・・・・・)
とか
具体性の無い話ばっかりだった。
お前そんな程度でマウント取ってくんじゃねーよ、このお馬鹿!という気分だったが何も情報が無いよりは参考にはなったので大人しく喋らせて心の中でだけ突っ込んでおいた。
途中、「あ、あの子可愛くないか?」と始まったり。
(確かに可愛かったが)
シグベルが同じような背丈の大男と目が合い睨みあったりとドタバタしたが、無事に受付は終わった。
受け入れに130、手伝いをいれて147。ほぼ教官の読み通りに近い数字になった。
俺の番号は147番だ。
今回の講習回は88回目。
0088期 0147番が、俺ことイゾウの番号になる。
この0088期は初心者講習の回数ではない。
この街の冒険者ギルドでの講習の回数になる。
例えばこの初心者講習の次に召喚魔法講習を行ったとする。
するとそれが0089期になる。
その次にまた初心者講習が行われたならそれは0090期となる。
初心者講習は三ヶ月に一度なので間に一杯色々な講習をやっているらしい。
この数字には支部のみでなく、本部での講習もカウントされる。
更に受講者が0人でも一講習とカウントするのでかなり水増しされている数だと教官に聞いた。
そんな講習ナンバーだが、もし仮にこの後に俺が召喚魔法講習を受けたとすると、新たにそのナンバーが俺の冒険者としてのナンバーとして増える。
講習を受けるたびにナンバーが増える。
連番なのでおかしいが資格を取る度にその番号が増えるようなものだ。
簿記検定3級を合格したあとの簿記検定2級
中型二輪免許のあとに取った普通自動車免許
全部新たに番号がもらえる。
講習の場合はその都度、同期も増える。
同じ釜の飯を食ったって奴ですね。
そうやって横のつながりを増やしていくものらしい。
この147名だが講習始まって以来最大数の更新らしい。
前代未聞の数だと教官たちが騒いでいた。
そして当たり回らしい。
なんでも強い奴、そして強くなりそうな奴が揃っているらしい。
俺としては普通が良かったんだけど。
130の講習生に部屋が振り分けられ、寮になる部屋に移動する。
少なくて4人部屋。
多い部屋だと8人部屋。
他に6人部屋もある。
偶数なのは全て二段ベッドだからだ。
当然個室待遇なんてものはない。
部屋もくじ引きでランダムに振り分けられる。
これは同じ村や町から来た者を引き離す目的らしい。
固まって講習を受ける連中というのは教官たちには教え甲斐が無いのだそうだ。
「始まりが犬でも豚でも講習を受けさえすれば、等しくそれなりにはしてやる。
それなりより上に行きたければ講習だけでなく自分で考えて工夫をしろ。
人と同じ事をしていては平均より抜け出せぬ」
これは訓練中に言われた傷顔の教官のありがたーいお言葉だ。
一度個人に戻して鍛え直す。
これが初心者講習会。
その上で終わってからなら好きにすればいい、そうだ。
同じ出身というのは結束が強く、良いパーティになるんだと。
俺と同じ出身地の人間はまず間違いなくいない、だからどうでもいい話だな。
それより今よりもっと努力するには、寝る時間を削るしか・・・・・・
うん、止めておく。
ちゃんと寝てちゃんと食べる。これが1番効率的だろう。
夕方には支部に据え付けられた鐘が鳴り響き、今回の受付は締め切られた。
最後に手伝い組が寝泊まりする各部屋に振り分けが決まり、手伝い組は解散になる。
俺が振り分けられたのは6人部屋だった。
完全にくじ引きなので、最後の余った部屋が俺の場所だ。
異世界に転生して怒濤の10日間だったが、かなり濃い10日間だったと思う。
訓練をした。
したが、まだこれは本格的には始まっていない。
明日からが不安な気持ちもあるが、楽しみな気持ちのが強い。
俺も男の子、どこかワクワクしているのが自分で分かる。
出会いもあった。
シグベルとは共に訓練に励む、終われば酒を酌み交わした。
共に切磋琢磨することを誓った仲だ。
言葉にすると恥ずかしいが、前世でそんな関係の仲間はいなかったから、特別だと思っている。
魔物が跋扈するこんな世界じゃなおさらだ。
セレナとも親しくなってきていると思う。
励まし合って頑張っている。
愚痴を言ったり聞いたり、あれから何度か2人で話す機会もあった。
セレナはマナという妹みたいな感じの子と一緒にいるからか、女だけだと気丈に振る会わなければならず、一度弱音を吐き出したら定期的に吐き出しにくるようになった。
向こうから来るのはいい流れだろう。
コツコツ好感度を上げる努力をしている。
そして俺のほうも定期的に愚痴ってはいる。
とはいえ実は現状、特に不満も無いのだが。
教官たちは厳しいが、かなり良くしてくれると思ってる。
完全にセレナと話すことを作るためだけに愚痴っぽいことを言ってるだけだ。
男としてはともかく人として最低だと自覚している。
最低人間イゾウ、ここにあり。
今日ここから、俺は改めて冒険者になる。
そう思いながら歩き、部屋に向かう。
今朝までは6人部屋を1人で使っていた。
今日からは6人で過ごすのだ。
いびきの五月蠅い奴がいないことを祈ろう。
部屋に入る。
俺に振り分けられたベッド以外は埋まっていて、各々自分のベッドで過ごしているようだ。
一瞬だけ視線が集まり、すぐ霧散した。
まだ誰も口を開く者はいないようだ。
本当は自己紹介とかしておいたほうがいいんだろうけど。
1人でやる気見せるのも考え物だ。
空回りして空気を読めない扱いも困る。
顔見知りも特にいない。
ここから同室の人間関係も作らなければならない。
しばらくベッドの上でごろごろする。
俺は多分前世が猫科の動物だったと勝手に思っているので寝床の具合はすげー気になるんだよね。
支給されている薄い枕と、掛け布団の位置を前足で踏み踏みしながらいい具合に調整してた。
喉をごろごろ鳴らしながら、にゃー
・・・・・・にゃー
そんな事をしているうちに夕食の鐘が鳴る。
鳴り響く、手伝い中は鳴らなかったので気にならなかったが、かなりうるさい。
これから続くかと思うとゲンナリする。
この夕飯から正式にギルドが面倒をみるという形になる。
手伝い組はそれ以前からだけど。
先行していた手伝い組には、この食事から質が落ちると宣言されている。
人数が増えるので、ここからはとにかく量を作ることに集中するらしい。
元々美味かった訳ではないのでちょっとショックである。
毎食自分の周りで一緒に食べていた教官たちが、今回からあちこち歩き回る。
俺達がやられていたように、新しい講習生にもお代わりを強制するのだ。
まったくもっていい気味である。
みんなガッツリ食いやがれっての。
教官は今後、別に食事を取るようになるらしい。
人数が増えた講習生全員にお代わりをさせるためだろう。徹底している。
俺やシグベルはもう勝手に食ってろ、という感じで放置になった。
少し寂しい。
勿論嘘だ、大嘘だ。
別に見張られていなくとも俺達はしっかり食べる。
不味くても、しっかり食うのだ。
飯も女も、お残しはしない主義だ。
この後に訓練の予定は無い。
なので5皿しっかり食べきった。
そんな俺への、周囲にいた今日からの講習生の視線が、凄く痛かった。
訂正、手伝い組の視線も相変わらず、だな。
男はいいけど、女の子に痛い目でみられるのはなぁ。
ちょっと残念。
新しい出会いに期待している俺がいます。
もしかしたら夕食後の訓練が出来なくなるかもしれない。
明日以降はわからないが、今日は訓練所への出入りは禁止されている。
それを破って身体を動かしにいくほど頭はおかしくない。
上に駄目と言われたことは素直に従う。
明確に下にいる間だけ、だけどな。
だがどうにも手持ちぶさたで退屈だ。
仕方無く行動が許される範囲でたたずんでいる。
あわよくばセレナとお話出来ないかな~という下心満載の行動だが。
手伝い期間中もよくこの手で偶然遭遇した。
夜風に当たって浸っている俺は、いつものことで済む程度にはもう珍しくない。
すると男女の生活圏ギリギリのところでセレナ含む4人と会った。
「よっ」
俺とセレナのお決まりの挨拶だ。
何故かお互い顔を合わせるとこう声を掛けている。
「よっ」
セレナが返す。
「「よっ」」
セレナいがいの2人も真似して返す。ロリ美少女だけ人の顔を嫌そうな顔でみてた。
挨拶くらい返せっての。
「イゾウお散歩?今日は飲んでないからお酒抜きじゃないよね?」
セレナが問う。
「いや、考え事かな。部屋に人がいて集中出来なくてブラブラしてた」
「ほうほう、それならセレナお姉さんたちが相談にのってあげようか?」
「セレナは同い年じゃなかったっけ?」
今回、講習を受けるに当たり、全員適性検査を受けた。
その検査で俺の年齢が判明した。
イゾウ、18歳。だって。
もうね、脱力したよ。
元、40の俺が神の力で再生したら年齢が半分以下になっていた件。
ま、その辺はうすうす解っていたけどね、ちょっと年上のおっさんくらいにみえてた極道コンビに散々小僧扱いされてたし。
元の世界の俺だって半分以下の年齢の子と接したらそうなるとは思うよ。
あそこまであからさまに言わないけどさ。
ちなみにシグベルとセレナ、マナ、えーたは同い年の18歳。
シグベル210センチ、驚きのギリギリまだ成長期。
まだ伸びる可能性があり。
セレナのお仲間の2人は19歳。
だからお姉さんはこっちの2人を指しているのかも知れない。
多分違うな。
「相談にのってくれるのは有り難いけど、そっちはどうしたの?部屋一緒になったの?」
「ううん、バラバラだったんだけど、なんかみんなお互いに探り合ってる感じでね。
全然喋らないんだ。
で、なんか外に来ちゃった、みたいな感じなんだ」
「あー、男もそんな感じだね。他の部屋もなんか微妙な空気だったよ」
「そうなんだ。で、イゾウは何に悩んでるの?」
「んー、訓練が無くなったらなんか退屈でね。
やることないから、なんとかなんねーかなって」
悩みと言うほどの事では無い。
今までしてたことが無くなったら暇になっただけだ。
俺はセレナと話をしたかっただけなんだと思う。
ロリ美少女マナは不愉快そうに過ごし、セレナと他2人と少し話して部屋に戻った。
他2人もいい子なんだけど。
名前・・・・なんだっけかな・・・・・・
聞いたんだけどセレナの胸とか尻を見てたらつい、抜けちゃったんだよね・・・・・・
失礼にならないタイミングで探ろう。
147名の講習生が集まり、明日から講習が始まる。
俺を除いて146名。
半々に近かったが、少し女の方が多い。
なんとかこなしてきた10日間だったが、少し慣れすぎたのかもしれない。
暇で退屈だと感じるのは余裕が有るからだ。
これはあまり良くない感覚だと思う。
全く余裕が無いのも問題だが、余裕がありすぎるのも油断を生む。
そうすると何かポカをやらかしそうで怖い。
考えることはいくつかある。
とりあえず現状を楽しむ努力をして、気を抜かないようにしようと思う。
俺はイゾウ。
講習前の適性検査で、全講習生中 魔力で3位。
身体能力でトップの1位を叩き出した 今回の講習の問題児だ。




