全裸で木から落ちた
【 経験というのは莫大なお金に匹敵する価値がある】
といったのは誰だったか
やりたくないことでもやっているうちに上手くなっていき
上手くなってくると楽しくなってくる。という不思議
みんな最初は嫌だったりするんだよ、だから頑張って働け
っていうのは、情報社会になる前の一種の社蓄教育だろうな
そうやって大人は明るい日本の礎になり、踏みつぶされ、腐った子供を量産していった
そんな腐った子供だった自分も気づけば大人になり必死で生きてきた。
そして無残に殺された。
あの日、酷く無様な死に方をしたはずの俺は不思議な声に呼ばれた。
その後のことは良く覚えていない。
色々不思議な体験をしたはずだ。
はず・・・
・・・
・・
・
気がつけば此所に居た。
そこは少し小高い丘の上のような場所。
「お? 高っ・・へ?・・浮いて」
背中に何かと激突する衝撃が走り、耳にはドドドドドドドドオンッ という音が響き渡る。
「・・・・・・は? ・・はぁ?」
数度の衝撃に耐え、折れた複数の枝をクッションに地べたに転がった。
混乱しながらも頭上を眺めると結構な高さの所から枝がへし折れていた。
おそらく折れている中で1番高い位置、およそ3階くらいの高さの所にある枝から、その下の枝を払い落としながら落ちてきたのだろう。
「何処だよここ・・・・イテテッ」
あたりはまだ明るい。だが太陽はだいぶ傾いている。
これが日の昇っている時間なのか沈みかけた時間なのかの判断もつかない。
北はどちらだ?南は?
見知らぬ風景。街灯もない舗装された道もない、どんな田舎だ。
俺の体重+アルファ重力落下の威力に耐えきれずへし折られた散乱した枝もそのままに胡座を組んで座り込んでしまった。
落ちた衝撃で痛いとは思ったが特に怪我はしていなそうだ。
おかしい、普通ならあの高さから落ちたら運が良くて骨折だ。下手したら死んでいる。
なのにかすり傷すらついていない。
「意味がわからん・・・」
頭が働かない。
もやがかかったように頭の中が白んでいる。
眠いのに寝られない時のような微妙な思考しか出来ない。
徹夜明けで気が緩んでポカをやりそうな時の自分だ。
何でこうなったのかがさっぱり思い出せない。
記憶が抜け落ちたような感覚に陥っている・・・
頭が難しいことを考えられ無いのでとりあえず思いだせるところから整理しよう。
ん~~と、覚えているのはあのとき・・・拉致されて・・・・
・・・
・・監禁されていた・・・
・・・・・
死んだんだよな・・・?
その後・・・何かあったような?
「おいっ! あんたっ 大丈夫かっ!!!」
突然声が響き思考が止まる。
丘の向こうから見たことも無い一団が走ってきた。
驚き止まるとはこういうことをいうのかと思うぐらい目を見開いて止まってしまった。
中世ヨーロッパ風とでも言えばいいのか。皮の防具と穂先が鉄の槍をもった男の集団がそこにいた。
平時ならば武器をもった集団が走ってくれば怖いという感情になるのだろうが、その時の俺には「意味がわからない」としか思えなかった。
「えーーっ、と大丈夫?ですか?なにが?」
声を掛けてきた男に間抜けに聞き返してしまった。
「ああ、なんか凄い音がしたから見に来たんだ。あんたが木から落ちた音か?」
一団の先頭にいる男が周りに散乱する木の枝を見ながら答えた。
「あー、多分俺が落ちたんでその音かと・・・」
「多分? なぁあんたなんで裸なんだ?」
「裸?」
自分の格好を見回すとザ・全裸マンが胡座を組んで座っている滑稽な姿だった。
「うおっ!なんだこりゃ・・・なんで裸?
いやそれが自分でもさっぱり意味がわかんなくて・・・・」
「あんたふざけてんのか。自分で意味がわからないって・・・名前は?何処の者だ?」
声を掛けてきた男はとぼけた俺の返事に納得がいかないのか言葉に怒気が含まれている。
「まぁまぁ、見たところ派手に落っこちたみたいだけど身体は大丈夫か?どこか痛めてないか?」
鉄っぽい胸当てをつけた男が自分の着けていたマントを渡してくれ、枝を見て、元々枝が生えていた辺りを見ながら声を掛けてきた。
「それがあちこちぶつけたみたいでクラクラして・・・」
存外に立てませんよ感をこめてそう言ってみたところ
「ふむ・・・ということは頭でも打ったか? 見たところ大きな怪我はしていないようだがあの高さから落ちてるし、少し様子を見たほうがいいだろう。街に運ぶから落ち着いたら話を聞かせてもらいたい。」
有無を言わさぬその物言いに大人しく従うしかなかった。
貸してもらったマントで身体を覆い、立ち上がろうとすると差し止められた。
二人の男が集団から出てきて持っていた槍と着けていたマントを使い即席の担架を造りそこに乗せられて運ばれることになった。
丘を下って少し行くと同じような格好をした兵士の一団が休憩をとっていた。
先触れが出ていたようで問題無く受け入れてもらえ、馬車のようなものに乗せられることになる。
ようなものというのはどう見ても馬車ではなく馬が引く荷車なのだが馬車だとここの人間かれらが言い張るからだ。この人たちが仕留めたのだろう、荷台に載った血まみれの獲物と同乗だ、生臭い。
馬に乗っているものもいるが大半は徒歩での移動だ。怪我人ということで気を遣ってはくれているのだろうとは思う。
しばらく進んで行くと進行方向の向こうに小さく街っぽい建物の集落が見えてきた。
思ったより人の生活圏の近くにはいたようだ。とはいえ歩いて運良く見つけられたかどうかは怪しい。
人に見つけてもらえたのは運が良かったと今は思おう。
見知らぬ町に入るならば、先に少しでも考えをまとめておいたほうが良さそうだ。
目を瞑って思い出す・・・
あの日俺は拉致された・・・
相手は知り合いだった・・・
なのでまさか殺されはしないと思ったがあっさり死んでしまった。
うん、ここまでは思い出せた。
拉致されて犯人は知ってる奴、何か目的があると思うじゃん?
殺すだけなら誘拐する必要はない、キリっ!とかそう考えていた時期がありました。
強気で対応したらあっさり殺されたんだよね・・・・俺ぇ・・。
あー、そういえばあの後不思議なことが起こったな・・・
椅子に括り付けられ頭にスーパーのビニール袋を被せられて木刀で頭をガンガン殴られて死んだんだ。
頭に袋被せられていて、何故木刀で殴られたことがわかったのか?
それは自分が殴られているその様を横で見ていたんだ。
死ぬ前の姿で・・・・
半透明になって・・・
漫画やアニメでよくある話だが殴られている自分を助けようと殴っている男に飛びかかったんだよ。
見事に触れもしないですり抜けてくれやがった。
おかげで自分が死んだことに気づいて絶望したんだ。自分が殴られている横でな・・・・
その後にたしか声を掛けられた・・・・
「大丈夫ですか?」
声を掛けられて思考が霧散する。目を開けて声の主を確認すると荷馬車の御者をしていた初老の男が覗き込んできた。
「お、ハイ。大丈夫です。すいません声が出てましたか?」
「いえ、歯を食いしばって耐えているような顔をしていたのでどこか痛むのかと」
どうやら顔にでていたようだ。そりゃー自分が死んだ、殺されたところを思い出せば顔も歪む。
思ったよりもトラウマになっているかもしれない。
それにしても頭が今もスッキリしない。まだ夢でも見ているようなフワフワ感がある。
にも関わらず木から落ちた時は確かに痛みが走った。だが傷は無い。
本当に死んでからここに来たということでそれによる意識が混濁しているのだろうか
心配そうにこちらを見ている男の顔がある。
「大丈夫です、ありがとうございます。なんで此所に居たのかを思い出そうとしてたんですけどわからなくて・・・その代わりに嫌なことっていうか、怖いこと、怖かったことが浮かんできてしまってですね
すいません、何を言ってるかわかりませんよね・・」
「何でも木から落ちて頭を打っている可能性もあると聞いています。どこか痛むなら回復ポーションを渡すように言われています。もし必要なら使って下さい。」
男はそう言って小瓶に入った液体を渡してくれて操馬に戻った。
回復ポーションときたか・・・
これは痛み止めとは違うのだろうか?見たことがない形状の粗末な瓶に液体が入っている。
ふればチャポチャポと音がする。
気になって荷台の後ろに積んである獲物に視線を移すと、それは鳥っぽいものと兎っぽいものが有った。
だがどちらも自分の知るものとは大きさが異なり、中型の犬並にでかく形も知るものと少し違う。
奥にも他にも何かありそうだが見える範囲にあるのはその2種類の獲物だ。
その下の方に人の形をしていそうな獲物も見えるが、俺の意識が認識しないように必死で拒否している。
鎧に槍の兵士、禄に整備されてない土の道路に手の入っていなそうな木があちこちにあるその風景。
見たことの無い動物、そして回復ポーション。
考えなくは無かったが俺は死んで別の世界に転生してしまったらしい。