決闘 8 大魔道の試験 第一戦
ゴゴゴゴゴと地鳴りのような音が最初に短く響いた。
短い俺の詠唱が終われば、低く響く音と共に俺を中心にした地に魔方陣が出現する。
召還の場合には、俺が指定した視線の先にもう一つ魔方陣が現れる。どちらも陣の紋様こそ同じだが、指定した先に現れる魔方陣は召喚対象によって大きさが変化する。
今回は俺の魔方陣の3分の1くらい。
この魔方陣を用いて魔法を使うようになると、大魔道曰く中級の魔法使いレベルだ。
苦労して覚えた。凄く大変だった。
気がつかないうちに大分ストレスが溜まっていたようで、ある日クィレアの胸を後ろから揉みしだいていた。無意識に。
おかげであちこちに怒られた。ギルドハウスの風紀を乱すなって・・・・・・酷い。そんな事言われてもねー。人間の3大欲求ですし。
そうゆうことはギルドハウスを出てからやれ、と怒られた。
なのに「ギルドハウスから出たい」って言うとみんな「まだ早い」って反対しやがる。俺にどうしろというのか・・・・・・?
まだしばらく我慢らしい。
そんな苦労を乗り越え頑張っているのにだ、パーティメンバーにはあんまり苦労していないように見えるらしい。解せぬ。
だが誰になんと言われようとも、俺は苦労して覚えた。
だから胸を張って言おう、これが俺の魔方陣だ。
そのうち召喚する対象で魔方陣の紋様を変えられないか試してみるつもりだ。
俺の使う魔方陣の紋様は歯車。
自分を中心とした周辺に出来る円を見て、先ず思い浮かんだのが時計だったから。
とはいえ針がチクタク動いてる時計盤を模した魔方陣ではサマにならない。もう少し陣内に紋様が欲しくなったので、歯車に変えた。
時計だとちょっと絵面的に寂しかった。
なので文字盤を外した時計の中をイメージしている。だから針は無くて構わない。
スケルトン腕時計とか言うのを見た気がする。あんな感じだ。
歯車の中心には自分が立つ、という皮肉を篭めている。
一連の流れで魔方陣が起動されれば、後は魔力を流しているだけで良い。最後に魔方陣から一瞬閃光が立ち上がれば完了だ。これが召喚成功のエフェクトみたいなものだろう。
白煙と同時に召喚対象が現れる。
当然成功だ。
かぼちゃに顔を刻んだ大きな頭部を持ち、ゆったりとした黒衣を纏って鎌を持ったハロウィンの定番キャラ。
その模造品。
その長い名前は俺の好みなので、そのままランタンをランターンと伸ばして流用する。
少し変えたから、これでぱくりじゃない。はず。
「キヒヒヒヒヒヒヒッ」とでも高い声で顎をカタカタさせて笑い出せば面白いが、残念ながら声を出す機能は付いていない。
大きさもまだ小さいサイズでしか作れない、だから迫力に欠ける。だがとりあえずは充分だ。
コンセプトはこれで行くと決めた、だから迷わない。後は追々性能を追求するだけだ。
頭の素材は問題なく、実際の所は身体の方の作成で停滞している所。
基本こいつは植物由来の材料のみでしか作れない。動くように作るのは難しいらしい。
現行のこのジャック・オー・ランターンは、体高50センチほど。
殆どが顔でもあるカボチャが占めていて、手足は完全におまけだ。高魔力を含んだかぼちゃを手に入れたからそれを生かして作ってみた、が始まり。
動かない人形なら兎も角、稼働するように手足を作るのが難しいのは理解出来るだろう。現代社会でも一般市民の技術で動くロボットはまだまだ難易度が高かった。
だが自分でこういった物を作れるようになったのは大きい。大きな一歩である。
とは言っても材料費が嵩むわ、技術的に難しいわ、大きなモノは作れないわ、内緒でやっているから知恵も借りられないわで難航しているが、プロトタイプなんてそんなもんで良いだろう。
これから試行錯誤して使える実用品を作っていけばいい。
・・・・・・お披露目した以上、今後の口だしは覚悟しているが。
何とも呆れた目で見ている武術の3師匠の心境は察するに、「お前は魔法の何を修行をしていたのだ?」とでも言う所かな?
「お人形遊びをさせるために弟子にしたのではないぞ」とか言われそうだ。
言わせないけど。だったらちゃんと稽古をつけろとゲフンゲフン。
対し魔法の2師匠、白と黒の大魔道様はジトっとした目つきで睨んでいる。さっきまでの笑顔は何処行った? 目が笑ってねぇ。
コイツを召喚した魔法は大魔道謹製だが、召喚した対象は大魔道にも秘匿して作ってたからねぇ。
後でお叱りは覚悟している。
だって教えたらジャック・オー・ランターンの作成への口だしは勿論、材料の提供まで求められそうだったし。
だって求められたら断れないじゃないですかー、やーだー。
一応師弟関係だし。
お披露目出来るまで作り上げちゃえば無理も言いようがないから黙ってただけで、ここからなら多少口だしされても構わない。
材料の提供?
「もー残ってないよ」で終わりだ。だってコレ作るの使っちゃったし。足りてないのはサイズを見れば一目瞭然。材料があればもっと大きいサイズで作ってるっての。
問題は身体が未熟という事は持てる武器にも制限があるという事。
現在ジャック・オー・ランターンに装備させているのは店売りのショボい草刈り鎌である。だってそれしか持てないし。
それより大きい鎌だとバランスが取れず立てなくなるのだ。
ハロウィンの怪物にしては何とも締まらない姿である。
対戦相手もそこには気づいたようで
「そんなチンケなゴーレムが持ったチンケな鎌で何が出来るっていうんだ!
はっ、はははっ、知らないのか? ゴーレムは単純な命令しか聞けないんだぞ」
なんて強がっていた。そんな事は勿論知っている。知っているからコレを作ったまである。
目の前の男は店売りの安い草刈り鎌を相手が嘲笑ったが、俺はそれを嘲笑いたい。
そもそもゴーレムじゃねーし。
「先っぽが少し刺されば充分だろーが。穴は突っついて濡らしてから広げてくんだよ、バーカ。
さては童貞か。魔法がちょっと使えるってだけか。つまんない男だな、さっさと戦闘を再開しようか。 【氷魔法:氷の矢】」
俺が魔法名を唱えると、浮かしていた2つの水から小さな水球が生まれていく。
1つの水球から5つの水球が分離し、それが形を変えて氷結し、合計で10本の氷の矢となる。
相手が使えるファイアーアローは4本、それ以上同時に扱うことが出来ない。出来るならとっくにやっているだろう。
4本の火の矢 VS 10本の氷の矢
続けるまでもなく俺の勝ちだ。魔法の数でも魔法の質でも俺が圧倒している。
通常ならこの氷魔法、小精霊に扱いを任せる所だが、今回は状況的に自分で操作するべきだろう。
本当に面倒くせぇ。
でも魔法の試験みたいなものだしなー。そこまで小精霊任せなのもどうかとは思っている。
戦いながら魔法操作をする必要が無いので、行使自体には全く問題無いが、問題は俺が操作した方が相手に取ってキツいというところだな。
魔法って使い人間の性格、特に性格の悪さが滲み出る。相手にとって大問題だ。
「もう負けを認めたらどうか?」という俺の優しい忠告を、真っ赤な顔で否定してくれて、さらに暴言まで吐いてくれたので思いっきり泣かしてやる事に決めた。
相手の炎の矢を氷の矢で撃ち落としつつ、残る6本の矢で追い回して翻弄してやった。
右に左にと追い込んで走り回らせると、あっという間に足腰がフラフラになった。どうやら魔法使いとして踏ん反り返っているタイプのようで、身体は禄に平均以下のようだ。すぐにバテて肩で息をするようになった。
それでも諦めたくはないようで動かない身体に鞭を打っては、必死で飛んでくる氷の矢を避けて転がり回っていた。俺が遊んでいるのは観客にもすぐ伝わったようで、醒めた視線が相手に突き刺さる。中には「もう諦めろ」と罵声を浴びせるやつもちらほらいた。
そんな中でも必死に頑張っていたようだが、殆ど動けなくなった所をジャック・オー・ランターンの草刈り鎌がグサリと切り裂く。
殺すと面倒だし、待機しているギルド職員に回復魔法を無駄に使わせるのどうかと思ったので脛の辺りをザックリ切らせただけだが、充分に痛いだろう。
全く戦闘に参加させずにいたのでお飾りだと思っていた筈の、かぼちゃ頭の怪人に脛を切られたのはさぞ驚いただろう。切られたこともだが、突然現れたかぼちゃ頭の怪人の姿に飛び上がって驚いていた。
元気そうだから腹でも背中でも切ってやれば良かったかもしれない。
お前が気がついてなかっただけで少しずつ移動していたけどな。
痛みと驚きで転倒したところを【氷魔法:氷の矢】10本の矢を取り囲ませると、さすが負けを認めたので、お終い。
もう少しごねるかと思ったけど最後は素直だった。泣いてたけど。
多分禄に鍛えてもいないだろうし、ファイヤーアローも4本くらいなら、講習終えたての新人の中でも使える奴がいたから悔しがるようなレベルでは無い。
何はともあれ、これでまず1勝だ。
どうやら身ぐるみを剥ぐのは後で纏めて行うようで、観客席に戻らされてた。
治療? 誰もしてないんじゃないかな。俺もしないし。魔力が勿体ないし。