決闘 6
敵の敵が味方なら、同期の同期は同期だろうか?
それともひっくり返って敵になるか?
ライアスは同期であり、友達だと思っている。
そんな彼と同じパーティの仲間になるんだから、新加入の2人とも敵対したいとは思っていない。
だがそれはあくまでもこちらの感情で、向こうはそうでも無いようだ。
会って早々態度が悪いのはライアスにも同じだったらしく、勇者アーネストのパーティ内でもその態度はどうなのかと、多少問題になっているらしい。ライアスはキチンと、かどうかは知らないが問題にならない程度に挨拶をしたそうだ、が初対面から一悶着あったらしい。
ライアスがまともに挨拶をしたとは思えないので何とも言えないところだ。敢えて言うならば、
うーん、青春だね。きっと後に恋に発展する
訳ねーな。
ライアスは前回の彼女で色々あったので、恋愛はしばらく要らないと言っていた。次代の勇者になるべく修行に打ち込み、しばらく色恋から離れるらしい。
おそらくパーティ内で主導権争いは確実に起きる。それも激しだ。乗り越えた者だけが、あれ?
やっぱり恋に発展しそうな展開もありそう。あるかな?
多分無いと思うが別に惚れた腫れたは好きにすれば良い。
それでも上手くやれないだろうとは思っているが。
この2人の新人は同い年。二度目の18歳を送っている俺よりも、さらに3つ若い15歳の少年少女なのだ。
絶賛反抗期真っ只中だろう。
おそらくその若さが問題を起こす。いや、解決を拗れさせると見た。
どちらも貴族の推薦らしく、下級だが貴族の出身であるようで、その出身にさらに若さ、という2つの要素でしばらくはゴタゴタするだろう。
俺なんかは態度が悪くても正直、(あの年頃じゃまぁそうだよな)くらいにしか思わないが。他の大人がみんなそう思ってくれるとは限らない。
貴族の出であり、貴族から推薦されていることもあって、アーネストパーティの首脳陣は扱いに頭を抱えるだろう。
あの年頃は下手すると。世の中全てが敵に見えているお年頃でもある。
誰が推薦したのかまでは知らないが、王都で生活していた貴族が田舎勇者のパーティに放り込まれているんだから尚更だ。言う事を素直に聞くとは思えない。
二度目の18歳にして、意味も無く反抗する(ことをする)俺が言うんだから間違い無い。
15歳くらいの娘なんて「クソ親父の洗濯物と一緒に洗わないで!」とか言いそうじゃないか。思いっきり偏見かも知れないけど。
だから彼らの態度は当分良くはならないだろう。
庶民の俺達なんて見下すような態度を取っていても(そんなもんだよな)としか思えない。
別にそれは仕方が無いし、構わないと思う。だって俺のパーティメンバーじゃないし。
自分のパーティメンバーだったら大問題だ。
別のパーティの俺には関係ないし。
アーネストのパーティメンバーさんたちはお子様の教育、頑張って下さいね。でこの問題は終わりで良いだろう。様子を見て考えれば良い。
ちなみに2人いる新人のうち男の方はかなりびみょ、いや、普通の顔立ちなので貴族だからみんなが美形という訳でもなさそうだ。
どちらもこの国では正統派扱いの剣術を使う、片手剣と盾だ。キチンと指導者がいたのだろう、若いが腕は悪くない。が、物凄く良いかというと、そうとも表しがたい。
女の方が対戦相手の剣を叩きおっていたが、どちらかというとあれは剣の性能の力だ。つまり金と権力の成せる技。個人の力量ではないだろう。
15歳にしては確かに強いし、才能も感じる。けれど、
「戦う相手が大した事無いからそこまで際立って強く見えないんだよな」
ぼそっとライアスが言う。
脚しか見てない理由である。
勿論言い訳なのだが、今回の試験では新人さん2人の力量は測り切れそうになさそうだ。
だってぶつかったら折れるような剣を試験に持ってくるような奴が相手だし。
ある程度強い奴が相手じゃ無いと、本当の強さは分からない。
そんな事を考えていると、続けてライアスが言った。
「あの色男も戻って来てるぞ」
そう言って指指した先の観客席にはユリウスがいた。
魔物から取れる魔石を利用した照明が試合場のみを照らしている為、その向こうの観客席は暗くなっていて見えにくい。
その見えにくい観客席のさらに見えずらい奥によく知った金髪の色男が座っている。
周りは相変わらず元兵士組の連中が囲んでいるようだ。そちらの連中の顔は判別出来ないが、変わらずそこにいるだけで輝いているユリウスだけはハッキリと分かった。オーラが違う。
どうやら勇者と同じく戻って来たらしい。
時期が同じなのは偶然か、それとも・・・・・・
「ユリウス、何か言ってたか?」
「さぁな。話してねぇよ。
ライアスとイゾウは友達で、イゾウとユリウスも友達なんだろうが、ライアスとユリウスは友達じゃねぇからよ」
フンと鼻を鳴らして吐き捨てるようにライアスが言う。
ここにも1つ面倒くさい人間関係がある。だがライアスらしいなと思う。
共に訓練し、酒を酌み交わした間柄ではあるのだが、ライアスはユリウスをあまりよく思っていない。
ユリウスは嫌悪感こそ現していないが、良くは思っていないだろう。
同じ席におり、皆で話すような話題でならどちらも喋る。だが個人間では全く会話をしない。勿論どちらも積極的に話しかけたりしない。そんな人間関係である。
嫌いというか相容れない。見るにそんな感じか。いや嫌ってはいそうだけど。
「新人の2人がお前を敵視している理由分かってるか?」
「さぁ? むしろ敵視されてるのも今知ったくらいだぞ?」
てっきり俺がやるはずだった〝決闘〟を押しつける形になったから怒ってる。
それでもムカついているくらいだと思っていた。敵視かよ。
初対面の相手が敵視と言っても、ねぇ? 知らん。
「あいつらは俺と同じ勇者パーティの一員になった。
で、今世間で期待されている勇者候補って言えば誰だか分かるよな?」
「なるほど、それでユリウスの話か。王都でも有名だったらしいな」
あの色男は王都でも有名だったという話だ。勇者を目指して冒険者になった、なんて話くらいは聞こえるか。そうなると、俺との関係性が?
「・・・・・・元勇者の弟子が入ってねーぞ」
「・・・・・・俺が勇者を目指していないのはお前も他の人も知ってるよな?」
「はっ、そんな事だれが信じるんだよ?
俺は友達の言うことだ。別に疑っちゃいねーし、俺らと関係ある奴はそこんとこ分かっているだろう。
だがあいつらがお前そう言っているなんて聞いたところで信じると思うか?
今回の事だって本当は、元勇者の弟子のイゾウの代用品なんて冗談じゃねぇって。あいつらお前と先に戦わせろって宿で大騒ぎしてたんだぜ?
分かるかぁ?立場が違ってたらあいつら、観客席に座ってた可能性があるんだ」
ライアスはそう言って観客席を指す。主に今試験を受けている連中の身内では無く、その奥に待機している俺との対戦を待っている連中を。
そんな事言われてももなぁと思う反面、納得する部分はある。
各々それぞれに思惑があるだろう。勇者のパーティに推薦で入ってくるくらいだ、何かしらの狙いがあるのだろう。
真っ先に思いつくものと言えば次代の勇者が挙がる。むしろ他に思いつかない。
元勇者の弟子になっている俺
王都の貴族の思惑で勇者になるよう指示を受けているユリウス
勇者のパーティに入ったライアス、そして貴族出身の2人
傍から見れば次代の勇者の座を争うライバルであることは間違い無い。
俺にその気は無い。
なんて言っても信じてはくれないだろうねぇ。
無いんだけど。
だが、この〝決闘〟イベントには俺を勇者にさせるためのレールを引く思惑も隠れている訳だし。
俺もそこまで鈍くないからとっくに察している。
こんな派手な事やって、注目度が上がらない訳が無いです、ハイ。
拒否出来ないのを良いことに外堀から埋めるつもりだろう。これは恐らく冒険者ギルドと教官長の狙いだ。
残念ながらそんな事に素直に従うほど素直な男じゃないのだがね。
現在二度目の18歳。反抗期真っ盛りですよっと。
どうやらニヤニヤが顔に出ていたようで、ライアスに「なんか企んでるなら俺も混ぜろ」と追求されてしまった。
当然企んでますよ。悪い弟子ですから。
勇者なんぞに成るくらいなら、悪名高くて構いません。