決闘 3
昼飯を食べて少しした頃、〝決闘〟を受けると弟子入り希望者から返答があったと冒険者ギルドから連絡が届いた。
ギルドからの使者が言うにはやる気満々らしい。
本来自分が収まるべきところである元勇者の弟子のポジション、そこにちゃっかり収まっている俺を、自分の手で叩きのせる、と宣っているらしい。
さすがにそれを聞くと腹が立つ。別に負けてやっても構わなかったのだが、やられてやるのが癪になった。少し本気で取り組んでみるか。
対人戦でもそれ以外でも、試したいことはある。
「1つ変更が、〝決闘〟は冒険者ギルドの訓練所で行う予定でしたが、参加者、そして見学者の人数が増えてしまったので闘技場で行うという事になりました。運良く今日は試合の無い日だったので貸して頂けるという事で」
考えごとをしていると、使者が場所の変更を申し出てきた。相変わらず俺に選ぶ権利は無く、既に変更は確定のようだ。
「見学者の人数が増える、は理解出来るんですけど、何故に参加者の人数が増えるんですか?」
「・・・・・・??
失礼ですが、どういった意味でしょうか? イゾウどのが承諾していると冒険者ギルドでは伺っているのですが?」
使者が困惑した顔になる。あー、もう。これ悪い予感しかしない。
「すいませんがその時点で、何を承諾している、なのかが分かりません」
「・・・・・・大魔道様お二方への弟子入り希望者、勇者アーネスト様のパーティ加入希望者の試験もついでにやるというお話を、纏めて面倒みてやると仰っていると黒の大魔道様から」
「あー・・・・・・・
うー・・・・・・
ふーむ、そう来たか」
頭を抱え込み上を見上げ、言葉が見つからず視線が地面を彷徨い、諦めてため息が出た。
大魔道まではついでにと言われたら、そりゃそっちも弟子だから、となるのは分かる。でもなんで勇者パーティの加入試験まで・・・・・・
とはいえ文句言ってもいまさらだよなー。
「すいません、別の時空の俺が勝手に返事をしていたようで、失念していました。
委細承知しました。何時頃現地に向かえば良いでしょうか?」
「では、移動してもらいたい頃に迎えに参ります」
使者はそう言って冒険者ギルドに戻って行った。
使者が消えると、同席していた者達の可哀想な人を見る視線が突き刺さってくる。
パーティメンバーは勿論、ギルドハウスの従業員の目も同じ、とても可哀想な人を見ている。
そりゃーねー、自覚しているよ。可哀想だよ俺。これ絶対訓練所行くまで黙ってて、そこでなし崩し的にやらせる予定だった奴だ。
「イゾウ・・・・・・」
「何も言うなノリック、むしろ先に聞けて良かったと思うべきだろ。覚悟が決まった」
どうせ逆らっても無駄だ。きっと意地でもやらされただろう。
心配する他のパーティメンバーも声を掛けてくる。
「イゾウ、マナ準備を手伝うよっ」
「ありがとう。でも普段来ている装備で来い、教官長の弟子の話だから大剣で相手しろと言われているし、特に無いんだよね」
マナ以外も何か出来る事をと言ってくれるが、身体1つで来いと言われているようなもんだし。
これから不特定多数と戦うのにいちゃついてる場合でもなし。
ちなみに槍の使用は禁じられている。大剣使いの元勇者の弟子試験だからだ。
俺が使えるのは自称魔剣〝グラム〟だけである。
なんだかんだ長い付き合いになってきた。
★☆
しばらくパーティメンバーと談笑していると先ほどの使者が迎えに来たので移動する。
ちょっとやり方に腹が立つこともあり、本気で戦うことは決めた。
八つ当たり気味だが、弟子入り希望者のせいでもある。多少当たっても仕方が無いだろう。
ただ問題もある。
適当に流すつもりでいたが本気でやった場合には、奴隷が手に入る可能性が高くなる。俺の方には奴隷はいないので取られる心配はないが、奴隷持ちが相手にいれば望まなくても手に入る。入ってしまう。
奴隷など持った事が無いので手に余るだろう。先に仲間には協力要請をしておいた。
奴隷を所有した事のある者はパーティメンバーにはいなかったが、協力はしてくれるという話にはなった。終わったら終わったで、後で色々考えなければならない。
使者の案内で闘技場に向かう。
闘技場は冒険者ギルドからセンターロードを挟んだ向かい側、その少し奥にあった。
賭けを行うところでもあるために流石に大通りには面してはいないようだ。
思っていたよりも広い。と言ってもローマのコロッセオや、野球場という程の広さはないが。奥までは見えないがせいぜい体育館2,3つ分という所だろう。
パーティメンバーとは別れて1人で中へと入る。
パーティメンバーは観客席。俺は選手用入口だ。普通なら控え室に向かうのだが、俺はそのまま闘技場へと案内される。
暗い通路を歩いて行くと、先だけが明るく光っている。そこがステージだ。俺がそこへ顔を出すと割れんばかりの歓声が。
響かない。
そらそうだ。観客はおらず、関係者しかいない。
視線は一斉に集まり、不愉快に思うが、誰も彼もが値踏みしているような視線を向けてくる。
俺の左右に白と黒の大魔道が。
少し先に教官長と、勇者アーネストさんがいた。
勇者のパーティの他のメンバーは観客席におり、教官たちはスタッフとしてあちこちにいる。
「イゾウの坊や、進みなさい。調印をするわ。勇者たちの所へ」
ニマニマした笑いを堪えきれない黒の大魔道に促されステージを進む。
元勇者に現勇者。なるほど勇者たちか。それで一括りなのね。
「随分大がかりですね」
「黒ちゃんを責めないで欲しいのじゃ。悪いのはわしなのじゃ」
せめて嫌みの1つでも、そう思って口を開けば反対側から擁護が入る。
「なるほど。借金絡みか」
「うっ、何でそれだけで分かるのじゃ!?」
白の大魔道の弱みなど1つしかない。その弱みがデカすぎて他の弱みが見えない。むしろ霞んで見える。
「勇者の坊やの所に出入りしている商人が白ちゃんの借金しているところと付き合いがあってね。色々探られていると相談があったのよ」
「なるほど。で、それがこうなるのはどういった関係が?」
「一言で言えば、交換条件」
どうやら俺は借金のカタに売られたらしい。
師匠の不始末分は弟子が働けと。
うーん。不満だけど、納得はしている自分がいる。弟子なんてそんなもんか。
「で、俺が全部と順番に戦えば良いんですか?」
「今、説明してくれるわよ」
勇者たちのところへいくとアーネストさんが握手を求めてきた。そして抱き寄せられる。
きもっ、男が抱きつくんじゃねーよ。なんて思っていると耳元で謝罪を呟かれた。
何でも王都に行っている間に話が勝手に決まっていたようで、彼の意思では無いらしい。
ってことはだ。
アーネストのパーティメンバー、それも一緒に行動してた方の人たちだろう。
彼のパーティも色々ある。
観客席に目をやれば、犯人らしき人たちがニヤニヤしてやがる。
その横に並んで何故か興奮して叫んでるライアス。はぁ。
ドンとドラを叩く音が響き、闘技場内が静かになる。
その中を教官長が歩み出た。
「では〝決闘〟に先立ち、調印を始める。
ルールを説明するが、納得いかない者は立ち去るが良い」
どうやらクレームは聞かないらしい。
そんな勝手な流れで〝決闘〟は始まった。