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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
5章 イゾウのお気楽冒険者生活
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 決闘 1


 それは冒険者ギルドの呼び出しから始まる。

 ドライアドとの協力関係が始まってから3週間ほどのある日事だ。ご丁寧に、正式なルートで、ギルドハウスへと連絡を入れられてしまったので、聞こえなかった振りは出来なかった。

 このタイミングでわざわざ正式に呼び出して来たのは、協力関係にあるサブマスターたちではなく、師弟関係にある教官長たちからだ。

 呼びだされた場所は、依頼を受注するカウンターでは無く、教官棟。 嫌な予感しかしない。



 この呼び出しは正直嬉しくない。

 次の講習の準備で忙しいと言って、講習終了後は全然稽古をつけてもらっていない。なのに勝手なもんだな、というのが本音だ。

 最近は魔法の訓練ばかりしていることもあって、少しばかり不満も溜まっている。別に魔法の腕が上がるのは良い、望むところだ。良いは良い。

 だが、だからとはいえ武術の腕を疎かにしたい訳ではない。

 俺はどちらかが得意ではなくて両方得意になりたいのだよ。もっと言えば穴の無い万能な戦力保持者(オールラウンダー)が目標だ。

 だからこそ訓練に都合が良いと考えてギルドハウスに入った側面もある。なのにまるでそちらの成果は無いのだから。


 そして今は時期が悪い。

 ドライアドと知り合ってから10日ほどの期間は、ドライアドと【神の寝床(使徒)】である俺が協力すれば何が出来るか。それをずっと探っていた。

 色々と試した結果、素晴らしい発見がいくつもあった。だがその10日間冒険者としてこそ活動はしていたが、裏街には全く顔を出せずにいた。

少しくらい大丈夫だろうと、放置したのが不味かった。


 顔を出さない間に、〝三ツ目〟から離脱者が続出していた。

〝身体強化魔法〟を教えた子分に周囲の縄張りを攻撃させたのも悪かったらしい。10日ほど留守にしただけで、離脱者が続出し、周辺の他組織からは集中砲火を食らっていた。

 10日ぶりに顔を出した時、まさに他所の組織が殴り込みを掛けて来ている最中だった。

後ろから【氷魔法:吹雪】で一蹴したのは言う間も無い。俺は纏めて雑魚を倒すのが得意だ。


 それから再度10日程かけて抜けた連中と周辺の攻め込んできた連中の対応を取っていた。

離脱した子分の中に、攻め込んで来る手引きをした奴もいるので、同時進行で逆に攻め込んでやった。

 離脱した子分は俺の事を知っているが、敢えて仮面を被り、「三ツ目のリーダー〝スコール〟」と名乗って最前線で暴れてやった。冒険者イゾウと、裏街の悪党〝三ツ目〟のリーダーは別だというアピールだが、抜けた人間で居所が分からない奴をあぶり出す目的もある。

 〝三ツ目〟として、組織のリーダーは別の人間だと宣言し、もしそれを否定する話がでたならば、当然そこには正体を知っている奴がいるという事になる。後は話の出所を追いかけていけば居場所が分からない裏切り者がそこにいる可能性が高いわけだ。

 最もここまであまり正体を隠さずに動いてきたから、どこまで効果があるか分からないが。それでも味方なら余計な事は言わないだろうし、味方でも口が軽くて頭が悪い奴も炙り出せる。味方じゃ無くて口が軽い奴は直ぐに引っかかるだろう。


 そんな事をやっていたので当然それに対するお説教なのだろうと身構えていた。






 久しぶりに、そして恐る恐る指定の時間に教官たちのところに顔を出すと、忙しそうにはしていたが歓迎された。

顔は怖いけど気は良い人たちだ。そこは初心者講習の時と変わっていらず安心する。

 教官たちに挨拶した後に、指示された個室へと移る。

個室で待っていたのは俺の師匠筋の3人、他にエクルンド教官と武術課の教官が2人いた。

 恐れていたお説教は全く振れられる事は無く、少しだけ世間話をして直ぐに、あちらから本題を切り出してきた。


「実はな、教官長()が弟子を取ったという話が思ったより広がっておる。自分も弟子にして欲しいと申し出てくる者が後を絶たずに困っている」


「なるほど、大人気ですね。流石勇者、いや元勇者か」


 どうやら俺の行動が原因の呼び出しでは無かったので安心して軽口をたたく。


「人ごとでは無いぞイゾウ。お前の問題でもある筈だ」


「いや人ごとですよ、確かに弟子にはなったけど講習終わってから何も教えてくれないじゃないですか。魔法の訓練ばっかりしてますよ、最近の俺」


 不満が自然に口をついて出てくる。弟子になるのは何かを学ぶためであって、放置される為ではないのだ。


「それはすまぬと思うが仕方があるまい。どっかの馬鹿弟子が講習生の身でオークの上級種なんぞと戦いおるから、今期は前回よりも遥かに多い数の申し込みがあってな。

前回、イゾウらの時ので過去最大数だったのだぞ? それを上回るとなると今の講習施設の規模では足りぬ。早急に対応が必要だったのだ。

 それに当面は魔法の訓練で時間が取れぬと聞いていたからな。

・・・・・・そちらでも色々やらかしているという話も届いておるが、そちらの話もしたほうが良いか?」


「・・・・・・いや、今日はそっちの話はいいんじゃないですかね。

大変じゃないですか、弟子の申し込み。兄弟弟子が増えるかも知れないのか、いやー、嬉しいな。いや困ったな、かな」


 どうやら俺のせいだと言いたいらしい。それは違う。認めてはいけない。

そういえば講習が大人気で申し込みが殺到してる。なんて話は聞いていたし、大魔道のお二人も指導方針に関してはこっちの師匠とも連絡を取っていると言っていた気がする。色々あって忘れていたが。

 余計なことは言わないで、軽口を叩かず、ハイハイ言ってた方が良さげのようだ。


「ガハハハッ、そちらは落ち着いたらゆっくり聞かせてもらうがな。イゾウよ、外で弟子が何をしようとそれは弟子の行いだ。それはお前の問題、師である儂らが出ることは無い。

 だが新しい弟子の話に、お前は人ごとでは無い。自覚しろ。

今のところ兄者も、儂らも、お前以外を弟子を取る気はないのだ。忙しくてその弟子に教える時間も無いほどだからな」


「あー、ですよね」


 ガハハ髭の言うことは最もだ。弟子を取っても教官の仕事が優先だ。仕事を疎かにして教えて欲しいとまでは俺は思わない。その仕事の合間に教えてもらえる、それで良いのだ。

 通常なら多少の時間は作れるという事でそれは納得していた。

その多少の時間も作れないほど忙しいから困っている訳で。


「だが忙しいから無理だと言っても聞かぬ奴らでな。なら何故弟子を取ったのか、と言う輩もおる。

挙げ句に一人しか弟子を取らないならそいつと比べて欲しいと言ってきた」


「はっ、はははっなるほど。察しました。

それって実際比べたら何時までも納得しない奴ですよね?俺の方が才能が上だと師匠らが答えたら、さらに逆上する面倒臭いタイプの奴ですね?」


「うむ、それが複数だ。ちなみに兄者の弟子のみ希望で儂らの指導はいらんという傲慢な奴でもある」


 傷顔の教官が面白く無さそうに言う。すげー傲慢、でもそれをこのヤクザ顔に言えるんだから大した度胸だ。それだけ腕に自信があるのか、それともただの馬鹿か。


「で、君と戦いたいと言っている訳だ」


「なるほど、そこでわざと負ければ良い訳ですね?」


 エクルンド教官の言葉にノリで返したらその場にいた全員にゲンコツを落とされた。軽くボケただけなのに酷い。

 いや空気読まなかった俺が悪いけどさ。


「うーん、何で呼ばれたかは分かりましたが、でもおかしくないですか?

強い弱いで弟子って決めるものなんですか?そいつに教えたい、自分の技を受け継いでほしい、とか。こいつにならば教えても良いって思える人を普通は弟子にする訳ですよね? 教える側に選ぶ権利があるわけで、断られた方がそんなアホな理屈を言っても聞く必要なくないですか?」


「普通ならそうだ。だがそこで折れぬから面倒でな。断られてもしつこい。それが何人にもなって、毎日押しかけてくるからこちらとしても迷惑しておる。

おかげで次の初心者講習が始められない」


 その言葉に絶句する。次の講習が始められないくらい迷惑を掛けるってそれどんな馬鹿だよ。そんな奴が弟子になれる訳ないじゃないか。才能の前に人間性だ。

自信は無いが、多分人間性が一番重要。きっと、多分、メイビー 


 そういえば初心者講習は講習に3ヶ月の期間を取っている。終わるスピードは人それぞれだが、3ヶ月の期間で必ず区切り、約一月の準備と休養の期間をおいてまた始まる。4ヶ月周期で年に三回行っていると聞いている。そろそろ次の講習が始まる話を聞いてもおかしくないのに、そっちの話題は確かに全く聞こえない。冒険者として(つる)んでいるのは元講習生が多い、普通なら誰かしら話題にするもんだ。


「・・・・・・二度と此処には来たくないと思わせれば良いのでは?」


 過激な言い分だが確実だろう。弟子入り希望者が師匠より強いということはまず、無い。

自分より弱い奴の弟子になろうなんて思わないからだ。普通に教官が一喝して拳で撫でて追い返せば済むと思う。

 だがそこにいる教官たちは俺の言葉を聞いてニヤリと笑った。


「それをイゾウ、お前に任せようと思ってな。弟子として」


 出たよ、丸投げ。俺忙しいんですけど?

そして必殺「まさか断らぬよな?」と続く。



誤字脱字、そして追いつかない分の変更ありがとうございます

即対応出来ないこともありますが、大変助かっております

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