ウッドゴレーム
『どうだ?』
激しく誘惑に負けそうな自分がいた。
そこにあった全部の書を一気に使いたいという欲求に侵食されている自分に気づき、本を隠すようにしまう。そんな俺にドライアドが問いかけてきた。
魔法の感触はどうだ? では無いだろう。今実際に使ってみせた。問題なく使えている。
「礼を伝えておいて欲しい。最上級の感謝を、と。
だが過ぎた力は身を滅ぼすだろう。残りのグリモアは有り難く預かっておき、然るべき時にに使うか考える。場合によっては返却させて欲しいとも伝えておいて欲しい」
『そうか、気にせずに持っていろ。それらは貴様にしか使えない、そう主の魔法が掛かっている。
もし貴様にとって必要無くなった時がきたら、それに対応する本だけが緩むそうだ。
妻子にのみ解除される。だが間違っても試さないことだ』
転売防止装置付きだそうだ。こえー。
信用されてねーなー、仕方が無いけどさ。
出所の分からないモノなんて売れないよ。売って探られるのは困る。
このうえなく痛い。探られたら痛い腹なのだ。おいらぽんぽん痛いの。
しかしそんな魔法が使えるとか主さん何者だろうな。とても気になる。
信用されてないんじゃなくて、意地でも俺に使わせたいという執念の方を感じなくもない。怖い。
「で、手伝いってのは何をすればいい? 説明してくれ、取りかかろう」
さっさと片付けて一度街に戻りたくなった。
1人でちゃんと考えたい。なんか一気に疲れたよ。
『私本体の枝を持ち、イゾウらが切り倒した木の所へと向かってくれ。
本来は相性の良い樹木にしか具現化することが出来ない。 だが私の本体の一部ならば場所を選ばず具現化することが出来る』
「なるほど、俺と一緒に動き回れるようになるってことか」
ということは昨日の時点ではこの木の所から動けなかった、という事になる。
『根付いている樹木ならば森に魔力を送る事が出来る。だが、制御が大雑把になる。魔力の無駄も多い。
切り離した一部に具現化する場合、細かく操作出来る。代わりに魔力が圧倒的に足りぬ。
使用したい魔法がある。だが、此処からでは細かく操作出来ぬ』
「なるほど。で、俺が枝を持って指定した所へ枝を持って移動すれば良いわけだ」
2本の枝のうち短い方を掴む。
何処に向かえば良いかと問うと、怪訝な顔をされた。
ドライアド、思ってたより表情豊かだな。
「どうした?」
『何故そちらを掴む。それは妹の枝だ』
雷が全身を撃ち抜いたようなショックを受けた。
妹さんの匂いとか思って長い方に顔を近づけて嗅いでたよ。変態じゃねーか、俺。
悲しい。
「報酬だって言うから長い方が妹さんなのかと」
『ふむ、人間はそう考えるのか。
イゾウの指ほどの長さがあれば具現化には問題無い。切り離して構わないからなるべく持っていて欲しいのだ。だから私の枝は長めに渡しておいた。
妹が貴様の前に具現化する事は無いだろう。ドライアドはあまり人と接する事を好まない。故に自身の一部を渡すことも好まない。
そこは強く頼んで貰ってきた。
上手く使えばそれは毒にも薬にもなる、妹の特性の方が人間には使い道が多い。そう考えた』
ドライアドにも個体差が有るようだ。 一言にドライアドの一部と言っても、個体差で枝の質が違うらしい。
妹さんの方が人間好みの品質だからとわざわざ頼んでもらってきてくれたのだそうだ。良い奴。いや良い樹木?
で、野郎の一部なんてそんなに長く要らねーよと言う無かれ。
具現化して何をするかと言うと、俺の魔力を使ってナニをするんだとか。
長い方の枝は最低限の長さを手元に残しさえすれば、切って加工しても、売っても構わないそうだ。
好きに使えと言ってくれた。
何とも太っ腹なドライアドである。
心の中で謝って有り難く頂いた。
ドライアドに望まれた事は、俺達が切り倒した木を他の場所に移動させ、再生する事だ。
俺個人にそんな能力は無いが、ドライアドの一部を身に付けた俺の側に具現化することで、奴は俺の魔力に干渉出来るそうだ。
つまり俺にくっついて、俺の魔力でドライアドの精霊植物魔法を行使する。
俺は移動の手伝いだけでなく、魔力も貸す訳だ。ならば立派なお手伝いだと言えよう。
早速具現化したドライアドと共に外に出る。
別に俺の身体から生えてくるという事はなく、某奇妙な冒険をする漫画のスタンドのように側に現れた。
俺を支点にした周囲でなら自由に具現化し、活動出来るらしい。
まんまだな。
俺はドライアドの一部を持っていれば良いだけだ。後は勝手にやるらしい。
大木から離れて歩き、俺たちが切り倒した切り株の有る所へと向かう。
『この辺りで良いだろう。 【 作製:樹木自動兵士人形 】』
緑のイケメン透けマッチョが魔法を唱えると、彼を中心にした円の範囲にある切り株が変形していく。
ゴゴゴゴゴゴと近づいてくるような圧迫感のある音を立てて切り株が人型へと変形していく。
地上に出ている幹が、かなり強引に上半身のような形状と変わり終えると、地中から引っこ抜くように自ら足を引き抜いた。根が足に変化したようだ。
足に付いていた土を器用に払い、こちらへと近づいてくる。
ゴーレムというより小さなトレントだな。
切り株がドラクエに出てくる炎とか氷系のモンスターみたいにむりやり人型を作っている感じ。
そんな自称ウッドゴレームが俺とドライアドを囲むように寄ってくる。
「ぐはぁっ」
そんな中で俺は右目から盛大に血が噴き出して倒れ、意識を失った。
気がついたときに周辺は大惨事になっていた。
どうやら俺が意識を失うとドライアドの具現化も消えるようで、投げ出された切り株に囲まれて倒れていた。どんなシチュエーションだよ、コレ。
そして当然のように、【 作製:自動兵士人形 】を覚えていた。
俺が覚えると樹木が消えたのは何故だろう?
俺がドライアドじゃないからか?
「【 作製:自動兵士人形 】」
試しに使って見ると一気に魔力が吸い取られた。
体感だがドライアドが使ったときの10倍以上の魔力を消費する。やはり樹木じゃないからか?特性とか相性みたいなので必要魔力量も変わるのかもしれない。
他のモノでもゴーレムになるか試してみるべきだろう。
『何があった?・・・・・・コレは?』
1人でうんうん唸って考えているとドライアドが戻ってきた。
突然真横に出現して驚いた。そしてドライアドも驚いていた。
俺の作ったウッドゴーレムは、俺の知っているゴーレムっぽい姿をしていたから。
木の魔物っぽかったドライアドのウッドゴレームと違い、こっちのはどこかロボ感のある人型のゴーレムだ。街の入口とか守ってそうな感じの奴。
「あーー、すまねぇ意識を失ってたらしい」
俺が意識を失うとドライアドの具現化は切れるようだという事を説明した。ちなみに意識を取り戻したのは俺との接続が切れたドライアドが大木に接続し直し、森を伝って回復魔法を掛けてくれたらしい。
で、再度こちらに接続し直したら俺が勝手にゴーレムを作っていたと。
『つまり【 作製:樹木自動兵士人形 】を覚えたのか?』
「うーん、それが何故かウッドが抜けてるんだよ。
【 作製:自動兵士人形 】って魔法なんだよね。何か知ってることある?」
当然のように右目で設定が出来るようだ。名前の変更する意味、ある?
『上位のスキルだな。おそらく色々な素材でゴーレムを作れる。すまぬが詳しくは知らぬ。
何か心当たりは無いのか?』
知らないのは当然と言えば当然か。ドライアドだしなぁ・・・・・・・ウッドだけだよね、そりゃ。
心当たりは、あるっちゃある。
実は新しい魔法の使い方でゴーレムの作り方を習っている。触りだけだけど。
ついでに召喚魔法もだ。
この2つ、俺の思ってた魔法と大分違っており、少し習得には手こずっている。
凄く簡単に言ってしまうと、弱い。どちらも世間では使えない魔法扱いらしい。
特に召喚魔法。
召喚魔法は種類がいくつかある魔法らしい。
まず魔力で無から塵芥を集めて召喚獣を創るというタイプの召喚魔法を教わった。これが基礎らしい。
覚えるには覚えられた。
だがこの魔法、元が塵芥だから弱い。弱すぎた。デコピンで死ぬような雑魚しか生み出せない。
ちなみにデコピンは俺の主観である。だがそのくらい弱い。
次に教えられたのが、ゴーレム作製だ。何故にそこでゴーレムなのか。
これも簡単に言うとDIYで自分でゴーレムを作り、それを召喚する、という訳だ。
魔法素材を使って自分好みのゴーレムを作り、そいつを魔法で酷使、じゃなかった働いてもらうらしい。
物凄くコストと手間が掛かるので、どちらも使えない魔法として衰退しつつある魔法だそうだ。
だから組み合わせて使うのが大魔道流らしい。
俺も練習しているが、進捗はあまり芳しく無かったりする。
ゴーレムなんて材料を集めている途中だが、もう挫折しかかっている。
金と時間が掛かるんだもん。 特に金。これが痛い。最大の原因だろう。
ドライアドには時間を見つけて色々試して見ると伝えてその場は手伝いを優先することにした。
とりあえず街に戻りたいし。
俺達が切りたおした木をゴーレムに変え、自力歩行させて森の外に連れ出す。俺の魔力でドライアドが魔法を掛けたからか、ちゃんと俺の言うことも聞いた。
それが面白くて色々させてみたらドライアドに怒られた。残念、別の機会に試してみよう。
森の外まで歩かせ自分で地面に埋めさせる。
ウッドゴーレムが自分で穴を掘りそこに胴体まで埋まる。
何この処刑みたいな光景? と思って見ていたが、そこで元の姿に戻るらしい。
全てのウッドゴレームが地面に埋まると。ドライアドが【樹木再生】という魔法を使った。
何と言うことでしょう。切ったはずの木が綺麗に元通りに!
元の姿なんて覚えてないが、おそらく切る前の姿に戻っていた。こちらの魔法には俺の右目は全く反応せず、覚えられなかった。
ドライアド特有で、人間が応用できるタイプの魔法が無いのかも知れない。
身構えていたのだが、何も起きず、少し損をした気分だ。
あとはそれの繰り返しである。
ドライアドは俺の作ったゴーレムの形が気に入ったらしく、やってみせてくれと何度もせがまれたが魔力が厳しいから駄目だと拒否した。
ドライアドが俺の魔力を使う分には、消費はそれほどでも無いのだが、俺がやると一気に枯渇する。そう何度も出来そうもない。次にやったらドライアドが魔法を使う方法でも厳しいくらいに減ると思う。
これは多分種族の問題だろう。種族の違う俺が樹木を動かすのは魔力の消費量が多いのだと思う。
形も同じだ。奴が使っても俺のようなゴーレムにはならないようだ。人型に近くさせるのは人間の方が得意なのかも知れない。
俺と木の相性も悪くは無いと思えるが、樹木の上級精霊であるドライアドには遠く及ばないのだろう。
俺は魔力を貸して、どの程度の距離を空けるかの相談にのっていただけであっさりと手伝いは終わった。
確定申告の準備も入ってきたので、そちらの目処が立ったら更新します。
なるべく早めに出来るように頑張りますm(_ _)m
確定申告も変更があって面倒臭いです、はぁ