イケメンマッチョドライアド
「ちっ、じゃーしょうがない。
こっちも生活が掛かっている。ドライアド相手とはいえ、引けない」
戦って勝ち取るしか選択は無いようだ。
残念だよまだ見ぬ女性型のドライアドさんたち。この件が尾を引かなければ良いが。
俺が戦闘態勢に入ると、周囲も察したようで同じように戦闘態勢に入る。
それを見てドライアドがニカッと笑った。
『まぁ待て、今度は貴様が落ち着け。
もう少し話をしないか?』
どうやら彼は俺に興味を持ったらしい。先ほどとは随分雰囲気が違う。
その提案を受諾すると、ドライアドは周囲を囲っていた木々の結界を解いてくれた。
俺を残して帰って良いと言う。
俺だけ残る事には仲間に反対されたが、切った木は持って帰って良いと言うし、残っても精霊が見えないと意味が無いだろう。むしろ1人の方が何とでもなる。
精霊の見えない誰かが残った方が対処に困る。守りながら対処しなければならない。それは面倒だ。
という訳で説得して帰宅してもらった。
「で、帰したけど聞かれたら困る話なのか?
どうせ俺以外に精霊が見える奴はいないと思うけど」
だからいたところで話しても問題は無かっただろう。どうせ聞こえない。
一緒にいた連中の中に実はこっそり見える奴がいたならば、何かしらの反応があった筈だ。
誰かが気づくだろう。
精霊案件の場合、ギュソン、アベニル兄妹は宗教的な問題で手出しが出来ないらしい。
何か見ているかも知れないので、戻ったら聞いて見よう。
『そこは気にしていない。無駄な魔力消費をしたくないだけだ』
何でもこの木は別に本体でも何でも無いそうだ。ちょっと他の木よりも相性が良いだけだとか。
ドライアドの本体は別の場所にあって、親和性の高い木にのみ憑依できるとかなんとか、精神を飛ばしているとか難しいことを言ってた。不思議生物らしい。
遠隔なので逃げられないように周囲を囲むのも、実体化するのも実は結構魔力を使うらしい。
「そこまで話すってことは敵対する気はないのか」
『精霊の見える貴様と敵対する意味がない。私は人と話したのは初めてだ』
どうやら人間とは初体験だったらしい。
女のドライアドに言わせたかったな。むーん。
『人間になど興味は無かったが・・・・・・貴様の話は聞くべき所があった。
聞いて1つ思ったことがある。
貴様よ、我が問いに答えよ』
「あぁ、答えよう。だがその前に1ついいか?」
『なんだ?』
「その人間って呼び方とか、貴様呼びはやめてくれないか。
俺はイゾウと名乗っている。イゾウと呼んでくれ。お前は?ドライアドってのは種族名だろ?
自分だけの名前は無いのか?」
『無い。ドライアドはみな、ドライアドだ。
だが了承した。イゾウ、我が問いに答えよ。
イゾウよ、人と、樹木、森、いや・・・・・・我らドライアド、そしてその管理する全ては貴様ら人間と共に生きることが出来ると思うか?』
思ったより結構重い質問だった。
世界平和とかだったら適当に流してそれっぽいことを返したのに。
初対面なんだからさ、もっと個人的な関係を強化するような質問をしろよ。
少しだけ考えて真面目に向き直る。
「人とドライアド、その共存は無理だ。
森が育ちすぎると地面に光が届かなくなり、ゆっくり死んでいく。木と木がぶつかり合い、日の当たらないところから朽ちていく。さっき俺はそう言ったな。
人間はもっと愚かだ。愚かで自分の事しか考えない、自分の都合しか考えない。
人間は魔物を殺す、なのに同じ人間をも殺す、殺して奪う。奪い合い、殺し合う。
それでもいなくならず、増えていくのが人間だ。
殺して殺して、最後には自然を殺すだろう」
『・・・・・・そうか』
ドライアドの顔が一気に曇る。
思っていた、望んでいた返事とは違ったらしい。がっかりした顔に見える。分かりやすい。
いや、俺だって空気を読んで綺麗事並べて誤魔化そうかと思ったよ?
耳障りの良い言葉を並べればそりゃー楽だ。
悪いが俺にはそんな事は出来ない。
前世でいっぱい見て来ちゃったからな。
人類が生物の頂点にたった地球は、問題はいっぱい有ったけど住みやすい世界だったと思う。
人間には。
絶滅した種族はいくつあるのか分からないくらい沢山だ。
ひとつやふたつじゃ無い。
そんな地球に、もしドライアドを連れて行ったならば、激怒して人類の敵に廻るんじゃないかな。
厨二病が抜けて大人になったあとの俺ですら、この世界は滅ぶべきだ、なんて考えたことが何度かあるんだ。
俺はそんな世界からこの世界に来た。
「俺以外の人間だったら、だけどな。
俺はお前が見える、話せる。だから戦う前に話し合うことも出来る。
ドライアドの為に生きることは出来ないが、互いに協力しあう事なら出来ると思うんだ。
俺がドライアドの為に人類を敵に廻す事は出来ない。
だが、共通の敵となら一緒に戦える。
そんな答えはどうだろうか?」
これは俺の素直な気持ちだ。
共存共栄なら出来ると思うんだよ。お互いが譲り合えるなら、だけど。
『・・・・・・・そうか。
そうだろうな。私も貴様の、イゾウのためにドライアドを敵に廻そうとは思えない。
だが話して解決策を探す事なら出来そうだと思った。
では提案がある。
好き勝手に木を切ることは許さない。
だが、こちらが指定した木ならば切ってくれて構わない。
その上で森を死なさないために貴様の、イゾウの知恵と能力、そして魔力を貸してくれないか?』
勿論否と言うはずが無い。
俺はドライアドの友を得た。
これで女性型だったら、いや贅沢はいうまい。
友達なら女の姿よりも男の姿の方が余計な感情を抱かなくて済む。
もう少し話をしたかったが、既に結構な時間が経っていた。
日が暮れてきたので一度帰る事にする。
ドライアドの方も準備があるとかで、後日の再会を約束して別れた。
森から離れ、急いで街に戻った、すっかり日が沈み、街の南門は閉まっていた。
この世界夜は自由に街の外に出られないのだ。
だから狩りもなるべく、日が沈む前に終わらせていた。
やはり門は閉まっており、門兵に追いやられ街から離れる。
ムカつくが奴らも仕事だから仕方有るまい。個人的感情で当たられたように感じなくも無かったが気のせいだろう。
今日は野宿決定だ。困った事に夜風を凌ぐアテが無い。
なので、さっきまでいた森に戻る事にした。
少なくとも自分たちの手が入っている場所がある。全く知らない所で夜を明かすよりは過ごしやすい。
『どうした?人間の住む街とやらに戻ったのでは無いのか?』
戻った森を進むとまだドライアドがいた。
無駄にしなたくなかったはずの魔力を使って、木々を操り、ドライアドが宿る大木まで誘導された。
「準備があるっていうからてっきり元の自分とやらがいるところに戻ったのかと」
本体は別だって言ってたからそっちで準備するのかと思ってた。
『戻っていたが、イゾウの気配がした』
どうやら遠隔でも気配で察せるらしい。
事情を話すと、具現化に使っていた大木のに大きなウロのように穴を空けてくれた。
突然ドライアドが生えている木に穴が空いたので物凄く驚いた。
ドライアドってすげえ、そんな事も出来るのか。
そこで寝ろと言って入れてくれた。中に入ると少しの隙間を残して穴が小さくなる。
ウロの中に移動すると、ドライアドも中に移動してくる。
今度は木からでは無く、地面から生えている。上半身だけ。ちょっと怖い。
胴体だけ生えている人型と話すと何とも言えない気分になるので、俺と同じ背丈くらいで、足まで具現化出来ないか聞くと、即座にやってくれた。
今後はなるべくそうしてくれるそうだ。理解が早い。
ちなみに生えてなかった。ドライアドは無性のようだ。
少なくとも寝込みに掘られる心配は無さそうである。
それだけ済ますとまた戻るという。明日、日が昇る頃にまた来るらしい。
わざわざ俺が戻ってきたから様子見に来てくれたようだ。
帰る前にドライアドがウロの中にまたウロを作る。手と同じサイズのウロのような穴。
そこに彼が手を突っ込むと、木の実をいくつか取り出した。
ドラえ〇んのポケットみたいだ。
これは食べて良いらしい。
魔物が近づくと木が騒いで教えてくれるから安心して寝ろと言って帰っていった。
その颯爽とした姿は仕事の出来るビジネスマンみたいだった。
無駄が無く、それでいて気が利いている。
横になると固かった木の床がそこだけ柔らかくなって沈み、俺の身体を包むように温めてくれた。
まるでベッドマットみたいだ。
何となくこの大木も俺を歓迎してくれているように感じた。
なんか人間より、ドライアドの方が優しいんだけど・・・・・・
ちょっとだけドライアドの味方して人間を滅ぼしたくなってしまった。