表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
5章 イゾウのお気楽冒険者生活
178/196

イゾウの悩み事 4



「ふーむ・・・・・・」


 ちびりと安酒を口に運んでは、雰囲気を出して悩むポーズを取ってみる。

本当に悩んではいるのだが、どこか他人事というか、贅沢な悩みだと思っている。


「決まんねー」


 俺は本来、優柔不断気味な男だ。

勢いで行動しているうちは良い。突き進められる。

だが、一度動きを止めると、途端に鈍くなる。

冷静になればなるほと考え込んでしまう。そんな男だ。


 後回しに出来ることは後にする前世を歩んできた。

夏休みの宿題を7月中に終わらせたことなど一度も無い。

それどころか、夏休みが明けてから始めて手をつけることすらあった。

勿論ガキの頃の話で大人になってからはそれなりにやってはいたが、人間そんなに変わらないもんだ。


「ふーむ・・・・・・」


 格好をつけてはいるが、悩みの主は 魔法スキルの〝呪文〟が思いつかないこと、だったりする。

逆に言えば、決まらないから格好付けて飲んでいるだけだ。

つまみも無ければ、娯楽も無い。

自分とお酒だけの世界だ。




 黒の大魔道と話をした時に〝氷の精霊眼(劣化)〟に映る魔法スキル名がダブルクリック出来るようになった。

ウィンドウが開き、そこに文字入力画面が現れた。かなり焦ったが、その場は誤魔化した。


 後日キチンと確認したところ、文字が打てるのは二カ所だった。


 魔法名称設定欄 そして 詠唱呪文設定欄


 ご丁寧に呪文設定欄には呪文詠唱破棄というチェックボックスがついている。

これにチェックを入れることで呪文を破棄出来るようだ。


 間抜けなことにうっかり【氷魔法:吹雪】のチェックボックスを既にクリックしてしまっている。

どっかで見たような画面なのだが、手元にマウスもキーボードがないから操作をミスした。

クリックした瞬間に詠唱呪文設定欄は暗転し、入力できなくなった。

もちろんチェックボックスも、反応しなくなっている。

 つまり【氷魔法:吹雪】は生涯、無詠唱魔法になった。

変更出来るのは魔法名称のみである。


ここから推測するに、一度変更すると二度と変更出来ない可能性が高い。

もしかしたら条件をみたせばリセット出来る可能性もあるが、期待するだけ無駄だ。

変更出来ない前提で考えなければならず、悩んでいる。


そしてチャックボックスにチェックした瞬間にピンと来ることがあった。


「これ、呪文設定破棄すると呪文名称で発動する奴だ。

面倒くせえ・・・・・・どっちかに統一しろよ・・・・・・

魔法事に個別に設定とか俺には向いてねぇよ」


 おそらく〝氷の精霊眼(劣化)〟の所有者だから、もしくは〝神の寝床〟だからこそ理解出来た。

 だが、それ故に悩みが増える。


「多分詠唱呪文設定のとこ、この先がある・・・・・・」


 もう一つ直感にきたからだ。

嘆くべきは〝氷の精霊眼(劣化)〟の(劣化)部分だろう。

(劣化)だから見えないのだ。


 神の寝床であるこの身だからこそ理解出来る。

見えないところにこそ、何かがある。 身体の中で眠る神の勘が告げてくる。

〝氷の精霊眼(劣化)〟が進化し、(劣化)が取れればその先の設定も出来る可能性に。


「こんなの気づかなきゃ詠唱破棄1択だろうに・・・・・・」


 そう考えるだろうからこそ、俺の中で眠る〝氷の神〟が気づかせてくれたのかもしれない。

〝詠唱呪文〟設定にも何かがあるのだ。

 だからずっと悩んでいる。


 結局それ以降、何一つ設定を決めることなく今に至り、酒に逃げた訳だが。



 勿論、他にも理由がある。

前世で40のおっさんだったが故、今さら詠唱呪文など考えるのが恥ずかしいのだ。

もし厨二全盛のときだったなら気軽に試せた。

 一度失敗して変更出来なくなったからこそ、完全に納得しないと試す気になれないでいる。

そうでなければ、適当な呪文で試していた。


「いや、呪文は難易度が高いよ・・・・・・

一歩も間違えなくても痛い奴じゃねーかよ」


 自分がどう見られるかを考えてしまう。




 そして世の中、自分で出来るようになって始めて気づく。

ここで世に多数有る呪文という存在が難しい言い回しになっている事に気づいた。

おそらく日常で、間違って口に出さないようにするためだ。


 例えばここで【氷魔法:吹雪】の魔法名称を 〝死ね〟 と設定したとしよう。

流石にそんなアホな設定にはしないのだが、仮に考えてみてほしい。


 「死ね」とつい口に出す度に、そこかしこに吹雪が巻き起こるのだ。

もしそんな奴が周囲に存在したとする。


 俺なら間違い無く処分する。

控えめに言っても絶対に死んで欲しい。

日常生活なんて絶対おくらせたくない。


 その発動するワードが判明していようが、いまいが、絶対に人間として付き合えないはずだ。

犠牲を覚悟で殺すしかない。

放っておけば被害がデカくなるのだから。

何しろいつどこで、無意識に発動するか当人にしか分からない。

否、設定ワードを間違えると、本人にも分からなくなっている。


 完全な設定ミスだ。

だが起きてしまえば人災で、言い逃れは出来ない。

後で呪文が変更出来たとしても、ミスって発動した後だと遅い。




 頭が痛い・・・・・・

自分が爆弾かなんかの危険物になった気分だ。

それも取り扱いが分かんない奴。


 なるべく日常では使わない言葉を選択するしかない。

呪文なんて自然と難しい言い回しになる訳だ。納得した。


これは詠唱呪文設定でも同じ。


 うっかり言ったら魔法が発動する。

だから文面には気を使わなければならない。


 爆弾を扱うように。

 崩れかけた建物に入るように。

 ヒステリックな彼女の機嫌を損ねずベッドに誘うように。


 そう考えると、決まらないでいる。




 本来なら専門家で、魔法の師匠筋でもある2人の大魔道に相談して考えれば良いのだが、文面を一緒に考えてもらったら出来るようになるという不自然さが残る。

そこで気づかれるのが怖い。


 隠し事をしたいとは思っていないが、かといって探られたくもないのが本音だ。


 当然他の仲間にも相談出来ず1人毎晩、悶々と考えている。

今夜もどうせ決まらない。


 とはいえ、焦って出来るようにする必要もないのでゆっくり考えよう。

ゆっくり、そのうち、順番に、段階的に、出来るようになる。

ように見せられれば良いのだ。

他のコトに取り組みながらじっくり考えよう。


 差し当たって手に入る酒の種類と、つまみをどうにかしたい。

キンキンに冷えた美味いビールが飲みたいもんだ。

喉を鳴らしてごくごくと。

ハイボールでもいい。

ウイスキーと炭酸水の方が難易度は低そう?

ビールもそうだがコーラやサイダーも作り方が分からない。



 何にしても結局は、金を稼がなければ出来ない訳だが。


 そうなるとやっぱり木を運びこめなかった事が痛い。


 仕方が無いから冒険者として先ずは頑張るべきだろうか。


 ただ思ったより冒険者は稼げなそうだなとは思っている。


 やっぱり他の金策をするべきか。


 魔法があれば・・・・・・



 今夜もまた思考がループすると分かっていながら、酒を飲んでしまうのだ。


 おやすみ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ