イゾウの悩み事 3 〝呪文〟
いつもより短いです
たらたらと考えていたら気持ち良く酔いが回ってきた。
安酒と言っても飲めば酔う。
むしろ安いから酔う。
悪酔いしそうだ。
手に入る酒が葡萄酒、それも水で薄めた所謂ワインの粗悪品だから、という事もあるが。
前世でワインは余り飲まなかったので、微妙に効くようだ。
最も前世でも安い酒しか飲まなかったのは変わらないが。
さて色々考えては消えて、また同じ事を考えては忘れてを繰り返しているが、何を考えているかと言うとスキルツリーの事だ。
その魔法欄に問題がある。
魔法スキルの名前がダブルクリック出来た。
出来ちゃった。
出来てしまったの・・・・・・
いきさつはこうだ。以下回想。
「坊やは一度、魔法の基本に立ち返りましょう」
そう黒の大魔道に言われた。
とは言っても本当に初歩の初歩からやり直す訳では無い。
「魔法とは何か?」
そんな哲学的な話になり、俺の答えは全部駄目出しされた。
黒の大魔道いわく
「魔法とは呪文よ」
らしい。
そして語りが始まる。
耳通りの酔い女性特有の美しい声。
実年齢を感じさせない若さを持つ、豊満な肉体の女性が、舞台役者のように手を広げて語る。
観客は俺1人。
俺の為だけに壮大な物語が
「太古の昔、魔法とは特別だった。」
今も特別だけどね。
だが口には出さず大人しく聞いた。
俺は空気の読める良い子。
「使える者だけが使えた、それが魔法。大いなる力。
いーい坊や?
持って生まれた者。そんな選ばれた者・だ・け・が使えた、それこそが魔法の始まりだった。
今も決して多くはないでしょうけど、いにしえの昔、魔法の使い手はもっともっと少なかったの。
何故か? 昔の魔法使いは自分の意思で自由にに魔法が使えたから。
きっとどっかの誰かさんみたいに、集中するだけで魔法が発動したんでしょう、ね」
始まらなかった。
演技掛かっていたのは最初だけ、すぐいつもの調子で、少しだけ不機嫌そうにそう言われる。
まるで目の前にどっかの誰かさんがいるみたいな物言いだ。
だが俺は好き勝手に魔法は使えない、だからきっと違うと思う。
もしかして俺かも、なんて思ったのはちょっと自意識過剰だったと我ながら恥ずかしくなる。
そんなところも反省しようと思った。
何しろ好き勝手に使えないから困ってた訳だしな、うん。
気を取り直して続きに耳を傾ける。
「そんな特別な存在が都合良くいつも生まれてくる訳が無く、だからこそ人類はそんな存在に憧れを抱く。
自然と魔法を研究する者が現れるようになる。
それが私や白ちゃんを大魔道に任命した組織よ」
おっと意外な所から組織があることが判明した。
てっきり勇者みたいな承認制なのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「ちなみになんて組織なんですか?」
「それは内緒。坊やがいずれ資格を得たら教えてあげる。
それより魔法の本題に戻るわよ?
選ばれた者だけが使える魔法。
それを選ばれなかった者でも使えるようにしたのが〝呪文〟なの。わかる?」
なるほど、分かる。
魔法を使える存在と、使えない存在には大きな隔たりがあった。
大きな大きな、高い高い壁だ。
その壁を越える為の段差
それが〝呪文〟
例えば鉄棒初心者が大車輪をやりたいと思うとする。
いきなりそれが出来る奴はそれでいい。
だが普通は出来ない。
そこに至るためにもっと簡単なものから練習することになる。
泳げない奴はまず顔を水につけるところからだ。
潜る、浮く、バタ足と練習していき、いずれ泳げるようになっていく。
どんな競技も先駆者がいればそうやってハードルを立てて先に進めるようにシステムを作っていく。
例えるなら魔法はまだ指導技術体系が完成していない競技のようなものだ。
先駆者が手探りで自分なりの指導を作っている最中。
出来る者と出来ない者の差が圧倒的に大きい。
努力しても誰も、本当に天に選ばれた者にしか出来ないという差。
これは壁だ。
だがそれでも何か1つでも可能性、少しの段差が出来れば乗り越える者が現れる。
段差が増えれば登れる者が増える。
いずれそれは階段に変わる。
登れば至れるようになっていけばそれはもう壁では無い。
難しくとも飛び越えられる可能性のあるハードルだ。
絶対に越えられない壁では無い。
魔法に置いてその1つ目、偉大なる段差が〝呪文〟だ。
選ばれた者しか扱えなかった魔法を、呪文を唱えることで使える者が現れた。
大いなる段差だ。
たった1つの取っ掛かりで、不可能ではなくなった。
だから黒の大魔道は魔法とは何か?の答えに、〝呪文〟が答えだと言う。
「ふむ・・・・・・つまり俺に呪文を唱えることからやり直せ、ということですか
基本からやり直して自分を見つめ直す訳ですね」
これはしょうが無い。
壁にぶち合ったたら、初心からやり直すなんてよくある話だ。
真っ直ぐ進んでぶつかった、その時は壁だと思った。
でも少し戻ってみたら飛び越えられる 段差 だったと気づく。
よくある話だ。
だが嫌いじゃない。
たまにはそんな事が有ってもいい。だが
「違うわよ」
俺のセンチな気分はあっさり否定された。
「無詠唱で魔法を使える坊やが〝呪文〟からやり直しても意味ないでしょ。
違う。そうじゃないの。
あー、もう説明が難しいわね。
普通は何十年と魔法を使い続けて辿り着くのに。
持って生まれるとこうも違うのね・・・・・・はぁ
いーい、坊や。他の子には絶対に言わない、けど坊やには言うわ。
〝呪文〟を採り入れなさい。でも、逆なのよ」
「逆ですか?」
「そう、呪文を唱えて集中するの。普通は、ね。
魔法を発動させる為に。
坊やは〝魔法が発動する集中〟するために、呪文を唱えるの。
その言葉を探すのよ。
分かる?」
「・・・・・・・分かる」
頷いて答える。
あー、そうか分かってしまった。
要は口に出したら勝手に魔法が発動するようにしろ、という無茶な話なのだ。
そのためのワードを決めておけ、と。
それも〝呪文〟という扱いになるのか。
文の中身で単語の位置を入れ替えるだけでエラく意味が変わるものだ。
回想終わり。
この時つい右目の精霊眼(劣化)でつい魔法のスキルツリーを見て確認してしまったのがマズかった。
何となく出来そうな気がしたんだよね、魔法スキル名の〝ダブルクリック〟
ウィンドウが開いて、文字入力画面が出て来ちゃったよ。
そこに打ち込んだ文字を言葉にすれば魔法が発動するみたい・・・・・・
ついでに魔法の名称も変更出来るみたい。
あいたたたたたたたたたたたたっ
まさか異世界に来て詠唱呪文を考える日が来るとは
もしかしたらここは書き直したいので手を入れるかも知れません。
ステータス画面の表示に四苦八苦してまして
上手く書けないので、結局無しで投稿しました。
他の所でもそうなんですが、こう書くという基準が難しい。
色々試してみて、ですがちゃんと揃えようとは思っていますm(_ _)m