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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
5章 イゾウのお気楽冒険者生活
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身体強化魔法 4 天狗


魔剣グラムを横一線に薙ぐと、銀の中に緑が掛かった金属で出来た錫杖がそれを平然と受け止めた。

30センチ定規なみの幅がある魔剣グラムを、さほど太くもない錫杖で軽々と受けられるこの屈辱。


俺よりも遥かに背の高い天狗と鍔迫り合いをしながら睨み合う。


「カカカッ、重くなる剣か面白い、それで命拾いしておるな」


「うっせーよなげー鼻しやがってボケがっ」


悪態を吐いて互いに離れ、すぐに再度武器をぶつけ合う。


そう天狗だ。

誰だよ遭遇率は低いとか言った奴。

あのクソ幼女! 天狗の鼻を切り取って突っ込んでやりたいわ!


それが出来ないから目の前にいりるそれは化け物なのだが。

立ち入り禁止区域と定められている領域に侵入し、早々に出会ってしまった。化け物の如く、強い天狗、という魔物に、だ。話が違う。

まるで長年求めた恋人を見つけたように、その天狗(いつ)は一気呵成に襲い掛かって来やがった。

逃げる隠れる?そんな暇ねーわ。

穏やかな種族、とまでは聞いて無かったが、好戦的な種族では無いと聞いていた。

全然違うんですけど?


違わなかったのは聞いていた通りに強いという一点だけ。

ハッキリ言って身体強化魔法を覚えてなければ、相手にもならず負けていただろう。

立ち入り禁止区域に入って直ぐから正しく身体強化をしていたからこそ、何とか迎え撃てている。

それでも何とかなのだ。

背中を向けた瞬間に死にかねない。だから逃げる余裕なんて無い。


そして現状では何とか戦えているが、俺の実力では無い。相手が遊んでいるから死んでいないだけだ。

殺意が見える俺の精霊眼(劣化)にこの天狗は全く赤く映らない。

つまり目の前のこの魔物、俺とじゃれて遊んでいるだけ、なのだ。


「くそっ何でそんなほっそい棒切れで俺の魔剣が!!」


「カッカッカ、カーカッカッカ」


「うっせーよカカカ野郎!」


必死で打ちあってはいるが、食らったら吐瀉物を撒き散らして悶絶しかねない勢いで突きだしてくるこの天狗の錫杖の一撃ですらも、おそらくこれで本気じゃ無い。

全くもってムカつく話だ。

俺は自分が相手を嬲るのは好きだが、相手に嬲られると死ぬほどムカつくんだ。頭に来る。

その怒りが狂ったように俺を突き動かして奮い立てる。




だがその憤怒の剣戟ですら錫杖で軽やかに弾かれる。

そして着実に錫杖の先端が俺の身体を捉え、痛めつけていく。


「カッカッカ、未熟。

だが筋は悪くないのぅ、カカカッどうしてくれよう?」


肩で息をし始めた俺と少し距離を取りながら言う。


天狗。

目の前のこいつは俺の知っているそれとは少し違った。

伸びた鼻は同じ、だが顔は赤くなくむしろ日に焼けたような浅黒く、髭も無い。

俺の知っている天狗は爺さんの容姿が多かった。だが目の前のコイツは若い。口調が爺臭いだけだ。

20代後半から30いくかいかないくらい。

魔物相手に年齢なんて馬鹿な話だと思うが、姿形は人のそれと変わらない。

真っ白な髪は白髪(しらが)では無く白髪(はくはつ)なのだろう。

目つきは鋭く一見デカい人間にも見えるが、牙が生え、翼の生えた人型の化け物だ。

其の体躯は180センチの俺を軽く上回り、初心者講習で同期で一番でかかったシグベルをも上回る。

目視で推定230センチといったところ。

そんなのが山伏のような衣類を身につけ、背中からは大きな真っ黒な羽を生やし、右手には錫杖、左手には葉団扇を持って飛ぶように襲い掛かってくる。

足元は勿論下駄だ。


「カカカッ面白い、貴様ただのニンゲンでは無いであろう?」


値踏みをするような視線で睨め付けながらも、笑いながら言う天狗。


「うっさい、お前を、殺す、そんな、人間だ、文句あるか」


ほんの15分ほどの戦いだったが、実力差は圧倒的だった。

身体強化魔法は目も当てられないくらいぶれてしまい、数発交わしきれなかったが錫杖の打突が俺の身体を重くしていた。

それでも諦めたら試合終了ですよ。心だけは折らさずに睨み返す。


「カッカッカ 心意気は悪く無い、悪くは無いぞ、だが止めておけ。

この霊峰に棲む種族はみな、仲間が殺されたら種族を挙げての復讐を誓う、そんな種族ばかりだ。

そして貴様はまだ早い。ニンゲン()の形の中に別の力を感じるが、弱く未熟。

此処に足を踏み入れる段階では無い。

此処は霊峰、・・・・・・に選ばれた者だけが生きられる」


わざと小さく呟いた選んだに掛かるであろう者の名前に俺が反応するも、それを再度口にする気はないようだ。

終わりだと言うばかりに大きくカカカッ笑いをした天狗は、真顔になった。

その瞬間に背中に冷たい汗が走る。全身に力を入れて踏ん張るが、天狗は持っている葉団扇を振る方が早かった。

突風が俺を遅い、大剣を構えたまま足裏が滑るように地面の上を後ろへと流されていく。


「出直してこい、もっと強くなってな」


その言葉を最後に天狗は無言で葉団扇を数度扇いだ。

突風が撃風へと変わり、空気の塊が固体となって俺の全身を打ちつけた。


「ごはっ」


強烈な打撃を食らったように内蔵が熱くなり、くの字を描くように身体が折れ曲がると同時に足の裏が浮いた。

覚えているのはそこまでだ。

視界が回転する中、天狗の姿があっという間に小さくなる。


吹っ飛ばされた。

そう認識した直ぐ後には背中から地面に激突し、しばらく起き上がることが出来なかった。






   ★☆



「イゾウ殿、気がついたか?」


目を覚ますとむさ苦しい男の顔が俺の視界を塞いだ。

どうやら心配して側についていてくれたらしい。


「あぁ・・・・・・面倒掛けてすいませんね」


「問題ない、だがもうしばらく休んだほうがいい」


そう言ってギュソンさんは部屋から出て行く。

ここは西の大山脈の近くの村、そこにある教会の客間。

吹っ飛ばされて全身を強く打った俺は必死で回復魔法を発動させ、這うように村へ駆け込んだ。

俺に気づいた村人が、俺の課題が終わるまで村で待っていてくれた二人を呼んでくれ、教会に運び込み、頼み込んで部屋を借りてくれた。ところらへんまでは覚えている。

そこで精神力が尽きて気絶したらしい。


身体の傷は治っている。

自分で掛けた回復魔法は消耗から半端で、治せきれなかったはずだ。気絶した後にアベニルさんが掛けてくれたのだろう。

そのアベニルを連れてギュソンは戻って来た。後ろには一緒に男が2人いた。

村長と教会の主だ。


「何があったの?」


「天狗と遭遇。逃げられなくて戦闘に突入。

手も足も出ず、吹っ飛ばされて追い出された。以上」


俺の顔や身体を確認しながら問うアベニルに応える。悔しさからちょっと素っ気なくも強い口調で応えてしまう。

そんな俺の言葉にそこにいた全員が顔色を変えた。そこでやっと冷静さを取り戻せた気がした。

あー、はいはい、心配なんですね。


「心配しなくても御山からは出てはこなそうだから大丈夫ですよ。

何かよく分かんないこと言ってたけど、どうやら俺が入るにはまだ早いらしい。

だから帰れって吹っ飛ばされた」


俺達が活動する街と西の大山脈の間は狭い。

大山脈と呼ばれる程度には広大な広さに渡っている。

そのふもとから立ち入り禁止区域に指定されているせいで、街の西側にはいくつかの村があるのみだ。

先が続いていないためにあまり集落は発展せずに、のどかな村がいくつか存在するだけだ。

そこの村で生活していれば当然気になるだろう。


「イゾウ殿、天狗、とやらとは喋ったのか?」


「えぇ、滅茶苦茶お喋りでしたよ、マジで・・・・・・

なんかちょいちょい休憩を挟んでは色々言われたし」


「おぉ、それは凄い事ですよ。

私はここでの生活が長いですが、あの山脈に棲む魔物と会話をしたという話は初めて聞きました」


教会の主が興奮気味に言う。普段は殆ど姿を見せないって聞いてるしな。

知性のある魔物。普通、驚く。


「とは言っても殆ど馬鹿にされただけですよ。

弱いとか、未熟とか、鼻が低いとか」


鼻が低いは言われて無いような気もする。


「それでも貴重な経験です。ですが大変だった事は分かります。

今夜はこのままお休みください」


教会の主はそう言うと「準備を」と言って部屋から出て行った。それに村長も続く。

ギュソン、アベニル兄妹もそれが良いと言い少し話して出て行った。


アベニルの胸で泣いて慰めてもらおうか、なんて思ったが彼女が俺を抱きしめてくれることは無く、ギュソンが興奮気味でずっと話していて、最後は引っ張られて部屋から連れ出された。

残念、だが気持ちは分かる。

身体強化を覚えた俺と、まだ覚えていないギュソンでは、戦えばおそらく俺が勝る。

戦うような間柄では無いが、()るならば負けたく無いのが男心。

ギュソンは勿論、ノリックからも時々そんな感情の混じった視線を感じる事は気づいていた。

無理も無い。

見ていないその先が気になるのだ。


出直せ、と言われている。

ただし強くなってから、か。

別に1人で来いとは言われていないな・・・・・・少し考えよう。





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