不幸話なんて珍しくない世界で
直しの都合で前話の後半を分けました。
いつも通りの夜が来る。
夕食を取り、教官たちと訓練をする。
昨日自分の動きを見直したおかげか、教官たちからは褒められることが多かった。
極道コンビも大喜びで、悪人面を歪めて笑いながら相手をしてくれた。
世の中には笑うと怖い相手がいると知ったよ、恐ろしや。
そして今日はギャラリーがいた。
昨日も訓練所に来ていた美女4人組だ。
俺が叩きのめされる様を引きつった顔で見てたよ。
ちょっと良いとこ見せたいとか思って張り切った俺を過去に戻って殴ってやりたい。
張り切った俺を見て、さらに教官が張り切ってしまった。
いつも通り、教官にノックアウトされて治療院に担ぎ込まれて訓練は終わった。
そして二日ぶりの酒と飯に舌鼓を打つ。
そして寝床にしている部屋に1人で戻る。
教官たちとは一度お別れした。
ギルドの敷地に入ると忙しいのか勝手に帰らされた。
どーせ消灯時に施錠しにくるのだが。
1人気分良く歩いていると闇夜に白金色の動くモノが見えた。
あれだね、黒髪って夜の闇に潜む場合凄く適した色だったんだ。
そこにいたのはセレナだった。
「こんばんわ」
「よっ」
俺から軽く挨拶をして声を掛けると彼女は軽い感じで返事をして近づいてきた。
「お酒飲んできたの?」
「うん、教官が奢ってくれてね。出されたモノは残さず全部食べる主義なんだ」
「フフッ変なの、何それー。
お酒って美味しい?私、飲んだことないんだ」
昼間より距離が近い。
女の子はどうしてこう、独特の良い匂いがするんだろうね。
おじさんクラクラくるよ。
「うーん、味はいろいろだよ。セレナの好きな味もあるだろうし、嫌いな味もあるだろうね。
その辺は自分で試してみないとわからないかな」
「そっか・・・私もいつか飲むのかな、どんな味なんだろう。
なんか部屋に居づらくてさ、すぐ部屋に戻らないなら少し話せないかな?」
「良いけど、なんかあったの?」
「ん~~~~、なんていうかね。
毎晩女子は誰かの部屋に集まるんだけどさ、男子はどうしてるの?」
意外な事実が発覚した。
なんか女子だけ修学旅行のノリだ。
「男子?さぁ? みんな寝てるんじゃ無いかな?
俺は教官に稽古をつけてもらってるからわかんないなぁ
みんな部屋で寝てるもんだと・・・・・・」
コレで俺抜きで集まってたらそれはそれで、結構ショックだ。
ないよな?大丈夫だよな?信じるぞ?
「君はそうだね、随分やられてたけど大丈夫だった?
私ね、なんていうの・・・恋の話、恋バナだよね。
それが苦手っていうかよくわからなくてさ。
今もみんな誰々がかっこいいとか、誰と結婚したら間違いないとか、そんな話をしてるの。
それが凄い苦手でね、つい・・・・・・逃げてきちゃった。
消灯まででいいんだ、少しだけ話せないかな?」
あー、ガールズトークって奴ですね。
女子はみんな好きそうだけどたまにいるよね、苦手だっていう女。
自称サバサバ系ってやつ。
意外とそんな奴に限って裏でねちっこかったりするんだよね。
だがまぁ逃げ出すくらいだから苦手なのだろう。
女だけだと結構重い話をしているのかもしれない。怖い怖い。
興味もあるが、怖くて関わりたくないとも思う。
なんにせよセレナとふたりで話す機会だ、逃す馬鹿は俺の中にはいない。
是非お話したい。
こっちからお願いしたいくらいだ。
「なるほど、いいよ。その辺で少し話そう」
さすがに俺の部屋にご招待はまずいだろうけど、どっかその辺で、うん。
帰宅に使っていた道から少し外れて、建物の裏手にちょうど良い場所が有ったのでそこで話すことにした。
「はぁ。村にいるときもそうなんだけどね、恋ってしたことなくてさ。
だからああやってみんなで集まるのは良いんだけど、恋バナが始まるとどうしていいかわかんなくなちゃって・・・・・・」
「そっか・・・大変だったな。
俺はおかげでセレナと話せたからラッキーだな」
「もう、あんまりそうゆうこと言うと本気にされちゃうよ?
恋愛未経験女子をからかわないでよ」
「いやいやどんだけ教官に扱かれてるか見たよね?
いたのが教官じゃ無くて心の底からほっとしたんだよ?
本気で一瞬天使に見えたくらいだ」
別れたばっかりの教官が先回りして待ち構えてたら、声を出して驚くと思う。
その先は絶対ろくな話じゃないだろうし
「あははは。随分激しくやってたもんね。あれ毎日やってるの?」
「毎日だね~、最近教官の数が増えたし、正直生きてる気がしないよ」
「そっか・・・走るのも速いし凄いよね。頑張ってるもんね・・・・・・」
そう言った彼女の顔はすこし暗く見えた。
「なんかあったの?俺で良ければ聞くよ?」
「んーん、何でも無い。
って言いたいところだけどちょっとだけ聞いてくれる?
愚痴になっちゃうんだけど・・・・・・」
「いいよ。俺も教官の愚痴聞いてもらったし、お互い様ってことで」
「あれ愚痴だったんだ?
じゃーお相子ってことで、今度は君が聞かせてね。私が聞くからさ。
あのね、私さ、村じゃ・・・・・・
要らない子だったんだ・・・・・・背が大きいでしょ?
実家は商人の家系でお店をやってるんだけど、大きいのは私だけ。
私以外は、そうでもなくてさ。
本当はね、親が嫁ぎ先を探してくれたんだけど・・・・・・・
背の高さを問題にされちゃってね。
全部、断られちゃったんだ・・・・・・
姉と、妹が2人いるんだけどね。
私の結婚の話だったのに、私より妹が良いって・・・・・・」
言葉が無い。
思ったよりも重かった。
「で、折角身体も大きいんだし冒険者になって自立しようと思ったの。
マナっているでしょ?
あの子も私とは違うんだけど親がむりやり結婚話を持ってきてね。内緒だよ?
隣の街の資産家の家、50歳くらいのガマガエルみたいなおじさん、その側室・・・だって。
もう勝手に話が進んじゃってさ。
マナの両親も怖いくらい・・・・・・人が変わっちゃって
それで・・・・・・2人で逃げてきたの。
ここの噂を聞いてさ。私くらい体型が有れば冒険者としてもやっていけるって、マナも守れるって、そう思ってたんだけど・・・・
走るのも駄目だし、君の訓練みてたらなんか、自信なくしちゃって・・・・」
そこまで言って彼女は黙った。次の言葉を探しているのか空を見上げてなにも喋らない。
横顔には涙が浮かんでいるようにも見える。
改めて思うが悲惨な世界だよな。
死んで飛ばされた俺がかわいく見える。
いやそれは嘘だ。多分俺の方が悲惨だとは思う。
思うけれどそれでも俺はやり直せてる。
多分だが強くてニューゲーム状態で。
対して彼女たちの不幸はまだ途中だ。
冒険者で大成出来なければあとは下に落ちていくだけ。
デカ巨乳美女も、ロリ美少女も売られてしまう。
多分高く売れる。ロリ美少女は特に需要ありそうだ。
それは堕とす方に手を出す奴はいても、大成するほうに手を貸すやつはいないって事になる。
しかしデカいってだけで嫁にとらないとは不思議な話だな。
セレナは180センチ前後。顔は美人、胸も尻もでかい。俺の感覚だと特に問題ない。喜んで結婚するわ。
なのに何故嫁ぎ先が拒むのだろうか。
多分セレナの父親が大した商人じゃないんだろうな。だからマイナスの面のあるセレナを娶る価値がない。
例えば背の低い男が、自分より背の高い女を連れているする。
コンプレックスを刺激されるのかもしれない。
それが一生続く、だから嫌がった、とか。
思いつくのはこんなところか。
事情を知らない俺が解るわけがないな。
解るのは勿体ないお化けがでるくらい勿体ない話だってことだ。
あとはセレナを側室とか後添えに据えられるほどの権力のある商人じゃなかったんだろう、父親。
その辺は親の力関係が大きく関わってくる。
そこまで親に価値が無いから嫁ぎ先候補も少なかった、とか。
対してロリ美少女のほうは父親がそれなりとみた。
所詮それなりだけどな。
どっかのエロ権力者に娘を売ったのだろう。そっちもそれなりの。
多分それが一番高い値段だったのだ。
どっちも勿体ないなー。
どっかのおっさんに持っていかれるくらいなら俺がいただきますしたい。
ここは一つ距離を詰めるよう頑張っておくか。
「セレナはさ・・・どんな冒険者になりたいの?」
「わたし? 私はマナを守れて、それでちゃんと、自立できてやっていける。
そんな・・・冒険者に、かな」
「じゃー彼女を守れる冒険者になればいいよ。走る事は別に関係無いでしょ。
あれは俺が走ることに慣れているから走りきれてるだけで、教官たちも諦めない根性をつけさせるために走らせてるんだと思う。
早く走りきる事が大事なんじゃなくて、ちゃんと走り続ける事が大事。
きっと冒険者の生活も同じだと思うよ?」
ちなみに全部俺の想像ですが。
セレナはきょとんとした顔でこちらを見ている。
「走るのが速い冒険者が、マナさんを守れる冒険者じゃ無い。そうだよね?
きっとそれが成功する冒険者の条件でも無いよ」
「んー、まぁそうかもしれないけど」
セレナは考えるような顔をしたが、一応納得はしたらしい。
単なる詭弁だが、それらしく言えば最もらしく聞こえる筈だ。
「大丈夫セレナは強くなれるよ、これから一緒に頑張ろうぜ」
「あはは、言い切ったね。どうしてそう思うの?嬉しいけど根拠の無い励ましだとちょっと悲しいよ?」
「誰かの為に戦おう、強くなろうとしてる奴が強くならないわけないじゃんか。
大丈夫、セレナは強くなる。俺は少なくともそう信じてる」
100パー自分の為だけに戦おうとする俺が言った。
言ってしまった。
言い切ってしまった。
恥ずかしいな、コレ。
まぁ恋愛も方便だ、最低だな俺。
「もうっ、君はどこまで本気なんだかっ。
・・・・・・ねぇそういえば名前、まだ決まらないの?」
「名前ね、そーだね、決まってないなぁ。
そろそろ考えないとだね」
「決めたら教えてよ?意地悪しちゃやだよ?」
そんな意地悪、する訳がないじゃないか。
どうやら好感度はちゃんと上がったらしい。
手応えを感じる。
「決まったら教えるよ。それよりなんか良い名前ないかな?」
その後は2人で名前を考えて過ごした。
セレナが勇ましい勇者みたいな名前を挙げるのでちょっと困ったが。
あとで知ったのだが、みたいな、ではなく過去に実在した勇者の名前を挙げていたらしい。
了承しないで良かったと思う。