裏町再建へ 6 錬金術師 2
「あー、あれ錬金術の道具なん?てっきり魔法の研究用の道具なのかと思ってた」
どっちも現時点では何も教わっていない。未知の代物で理解不能の世界だとしか思ってない。
つまり何も考えていなかった。
「多分だけど、共通するところがあるんじゃないかな?
大魔道ともなれば広く色んな分野を学んでいるものだって師匠が言ってた。
師匠は魔力に恵まれなかったから研究資金が集められなくていつもぼやいてたけどね。
お前は色んな世界を覗いて見ろって言って送り出されたワケだし」
そうノリックが少し遠い目をして言う。
師匠のことは多少聞いてるがそこまで饒舌に語るわけでも無い。
内心色々複雑なのだろう。
「とはいえ折角買ってくれたものだしな。勝手に外に持ち出すのはマズいだろう」
ノリックに押しつけようとか思ったのは同じ家の中だからセーフという謎理論だ。
「話によると白の大魔道さまと色々有るみたいだし、とりあえず聞いてみたら?」
そうノリックが提案する。
勿論俺もそれは考えた。考えたんだがなぁ・・・・・・
正直聞くのが怖い。
内容が、では無く、〝ネクロスの指輪〟なんて逸品を手に入れた途端それまで専属で自分の武具を作ってくれた存在をすっかり忘れるような白の大魔道の性格、それを知って俺の見る目が変わるのが怖い。
絶対尊敬出来なくなる・・・・・・・・
「とりあえずさ、話すだけ話してみようよ。どちらにせよいつかはお互いの存在に気づく事になるだろうし」
「う~ん」と唸る俺にそうノリックが提案した。
そうなんだよな。どっちにも関われば絶対誰かから伝わるだろうし、先に俺が話しておくべきだろうか。
★☆ ★☆
「ジャレッドがこの街にいるじゃと!!!」
その夜、まだ誰も合流してこないギルドハウスでの夕食時、覚悟を決めて話をしてみた。
話を聞いたロリババアは立ち上がって誰かの名前を叫ぶ。
「誰だよジャレッドって・・・・・・」
「いや昼間名前聞いたよな? ジャレッド・レマイケル
あの錬金術師の名前だよな?」
ノリックが横で呆れたように言う。
そんなことで呆れるか?とは思うけどもそれよりも正面にいた白の大魔道の口から叫んだ拍子に食べかけのパスタとかの切れ端が飛んできたんですけど?
どっかの業界じゃご褒美かも知れないが、俺は嬉しくない。
まぁいい、それよりも名前なんて聞いたっけか?
爺さんとか、狐エルフとか心の中で呼んでたからよく覚えていないぞ。
とにかく話を進めよう。
ちなみにギルドハウスで出る食事はかなり上等だ。冒険者ギルドの経費で食う食事、最高ですよ。
「てっきり忘れてる存在なのかと思っちゃったんですけど?」
「そんな訳無いのじゃ! ジャレッドが廃業したと聞いてからずっと探してたのじゃ!
街から街へと移動する度に、気にかけていたのじゃ!」
「本当よ、白ちゃんは自分の犯した過ちのせいで私達にも借金を背負わせた上に、贔屓にしてたジャレッドまで廃業に追い込んでしまい、それはそれは気に病んでたの。
ええ、私達にさせた借金なんかよりもずっとね・・・・・・
今もそのジャレッド・レマイケルの作った魔法媒介を大事にしてるでしょ?
会ったなら聞いたわよね、イゾウの坊や、アナタに貸したそれも彼が作った物だって」
俺の問いに白の大魔道が答え、それにさらに黒の大魔道が引き継いだ。
大分毒が混じってるが、それくらいは許されるだろう。
それだけ仲が良いという事でも有る。
「うん、ソレを見て向こうも声を掛けてきたし聞いてるけど、それなら何で廃業するまでほっといたのさ?」
「・・・・・・全部ワシのせいなのじゃ」
「それはそうなnだろうと俺も思ってるけど」
悔しそうに言う大魔道の言葉に同意すると、物凄くショックを受けた顔になった。
いやだって、全部あんたのせいやないかい、と言いたくなるが止めておいた。
「・・・・・ふっー、イゾウの坊や、それにノリックの坊や。考えてごらんなさいな。
〝ネクロスの指輪〟 それを手に入れるのに必要な物、何か分かる?」
「えーっと、魔法の能力とか、選ばれた才能とか、そんな感じですか?」
黒の大魔道の問いにノリックが答える。
うーん、真面目つーーっかこれだとただの世間知らずだな。
お前そのうち騙されるぞ?
どんなに能力が高くてもそれだけで道具は付いてこないだろうに。
「金、コネ、あと何だろ、情報か。どれも相当な、がつく。
そんな所かな?」
「そうね、イゾウの坊やが正解。世の中綺麗事だけで手に入らないものが沢山ある。
ノリックの坊やはイゾウの坊やといるうちにそういう事もしっかり学んでおきなさい。
この若さでこれだけ悪い意味で、良い見本はなかなかいないわよ?」
うむ、全く褒められた気がしない。
ノリックも反応に困った顔をしているが、全く理解出来ない訳では無いようだ。はいはい、次々。
「有名になったらなったで苦労するという訳ですね、その時はその時で色々な駆け引きが必要になる、と?」
俺がそう答えるとノリックも黒の大魔道も揃って頷いた。
その横で慌てたような顔で白い服を着た幼女が右往左往している。
今慌てても何も起きないよ。
「イゾウの坊や、ジャレッド・レマイケルはアナタからみてどうだった?」
そう艶のある顔で黒の大魔道に問いかけられた。
「どうって言われてもな。苦労したみたいで随分くたびれた感じでしたけど」
「そう、あれから随分経つものね、年相応の姿になってるのかしら?
昔はね、凄く良い男だったのよ、面影くらいは残っていたかしら?」
「あぁそういう意味か。それなら老けてますけど、顔は良かったですね。
確かに昔はさぞや・・・・・・・あぁなるほど」
「そうよ、白ちゃん好みの色男だったの。
・・・・・・・・・・・・・・・片思いだったみたいだけど」
そう小さい声で白の大魔道に聞こえないように俺たちに言った。
なるほどね、そうなると見捨てた訳じゃないのは納得出来なくも無い。
じゃー何でだ?
ノリックと二人で首を傾げる。
そんな俺たちを尻目に黒の大魔道は白の大魔道を捕まえて椅子に座らせていた。
少しは落ち着けよ、80歳・・・・・・
「あの時は指輪を手に入れた代償を支払うために、それまで拠点にしていたジャレッド・レマイケルが住んでいた街を離れて仕事をしたのよ。
代償が結構な金額だったから、良い条件の依頼だったら多少遠くても引き受けてたらどんどん移動しちゃってね・・・・・・・
なのに支払いが終わった途端に・・・・・・」
「・・・・・・・」
黒の大魔道の言葉を聞いた白の大魔道が背筋を伸ばして口ごもった。
つまりやっと借金を返し終わった時点でどっかの街を切れて焼いちゃった訳か。馬鹿だ・・・・・・よね?それ以外に表現する言葉が出てこない。
馬鹿としか言いようが無い。
言い切ってしまった。
ため息が漏れる。
「はぁ・・・・今度はそっちの借金に追われてるうちにあの爺さんの行方を見失ったと?」
「そういう事になるわね」
「そうなのじゃ、決して見捨てるつもりなんかなかったのじゃ」
「じゃー問題無いか、白の大魔道さまが買ってくれた研究用の道具、裏町に運んでそいつに使わせるけどいいね?」
「イ、イゾウがそれを許してくれるならぜひ使って欲しいのじゃ。
あと出来れば会って謝りたいのじゃ」
「それは駄目」
「なっ・・・・・・・」
ロリババアの目が見開かれてわなわなし出したが知った事では無い。
まだ相手にはここに白の大魔道がいる事話して無いんだから少し待ってろよ。
と言うことをオブラートに一切包まず、無駄に丁寧な言葉を選んで説明した。
根気よく頑張った。
このギルドハウスで暴れ出されたらたまったもんじゃ無いからな~
流石に弁償できない。
大体あっちがもう二度と会いたくないとか思ってたどうすんだよ。
ちらりと黒の大魔道を見ると、コクリと頷いて返された。
(大丈夫、いざという時は私が押さえるわ。)
という心の声が聞こえた気がする。
本当頼むよ、多分再会してすぐ失恋するだろうし、ちゃんと押さえて欲しい。
老いらくの恋が燃え上がるのも、拗れるのも堪忍して欲しいんだよ、本当・・・・・・
燃え上がりはしないだろうと思うけどさ。