裏町再建へ 4 錬金術師
さて、問題の錬金術師の方だが呼び出して5分も話さないうちに採用を決めた。
共感、と言うのだろうか・・・・・・
裏町に隠れ住んでいる事情を聞いたら放っておけなくなってしまった。
別に女性じゃ無い、男だし、年齢も聞けばそこそこのお爺ちゃんだった。
だが色々面白い存在だ。
まず種族が変わってる。
変わっているというのは俺の視点でだが、この世界では珍しくない混血児だ。
彼が変わってるのはクォーターであるエルフの血と、何代か前にいたという先祖の狐獣人の血が色濃く出ている事だ。
狐っぽい雰囲気にエルフの特徴がでた爺さんという何とも不思議な相貌をしていた。
親は別の獣人らしく色々他にも混じっているのだそうだが、色濃く出ているのがその二種の特徴である。
これが絶妙に格好いい。
種族の影響らしく70歳近いという年齢の割に40後半~50代頭くらいにしか見えないのだ。
それもここ数年の裏町の生活で苦労して一気に老けたらしい。
若かった頃はさぞかし格好良かっただろう。
そんな彼は自称一流の錬金術師だそうだ。
勿論自称だが。
錬金術の学校とやらは出ていないらしいが、昔は野良錬金術師や野良の薬師が沢山いたようで、国がそれらを職業として認定したのは彼が独り立ちして少し経ってからだと言う。
学校には行ってないが、国から腕前を認められてキチンと資格を持っていると言う事でボロボロになった錬金術師のギルド認定証を見せてもらった。
では何でそんな男が裏町に隠れていたかと言うと、白いロリババアが絡んでくる。
奴だ。
話を聞いてあの女マジで疫病神なんじゃねーの?と真剣に考えたほどだ。
ちなみに白の大魔道が直接悪かったわけでも無いんだが、大魔道という名の影響力がね・・・・・・
この爺さん、あのロリババアの昔のお抱え錬金術師だったのだという。
魔道具の指輪を作ってるから彫金師とでも言おうか。
俺があのロリババアから借りているこの魔法媒介の指輪もこの爺さんの若いときの作品なんだとか。
遠目で見てすぐに分かったらしい。ビビッときたとか何とか。
職人の勘怖い。
この白の大魔道さま、この世界に7×7で存在するというネクロスの指輪の前所持者だった。
俺も借りたが、おどろ恐ろしい魔道兵器で、そこらの物とは魔法の発現率が全然違う。
今の俺でもあの指輪を付けたら魔法の威力が段違いになるという恐ろしいモノだ。
それを手に入れるまで白の大魔道が愛用していたのが彼の作品。
ネクロスの指輪を手に入れた白の大魔道とは少し疎遠になったらしい。
そりゃーまぁとんでもないモノ手に入れたらね、浮かれるのは分かる。
俺も道具製作者の扱いは気をつけようと思う。
話しぶりからして良くは思っていないように感じる。
だが白の大魔道が使っていた魔法媒介の制作者として客は一杯いたらしい。
そこは感謝していたのだという。
白の大魔道がどっかの街を焼くまでは。
それをした時に付けていたのは間違い無くネクロスの指輪なのだそうだが、彼女愛用だった錬金術師ということで彼にも矛先が向いたらしい。
解せぬ。
解せないんだが、大衆心理がそう働くのは分からなくも無い。
それがもうかれこれ10年は前の話。
営んでいた店は潰れ、素性を聞けば雇ってくれる所も無く、沢山いた弟子達は皆逃げて行った。
あちこちを渡り歩き、流れに流れてこの街の裏町でひっそりと暮らしていた、と。
つまりあのババア、10年も借金返済してるのにまだ返し終えてないのだ。
残金いくらなのかがとても気になるところ。
何というかもうね。そんな話を聞いたら俺が少しでも何とかしてやろうという気持ちにもなるじゃないか?俺あの人の弟子的存在予定だしね。
そんな訳で彼も鍛冶師たちと一緒に工房を作れそうな場所を探しに連れて行った訳だ。
無事、鍛冶師たちと連なった所に彼の工房の位置も決まった。
良く分からないがそのほうが都合が良いんだとか。
「その方が都合が良くてな。材料も流用出来るし、作製に鍛冶の知識もいる工程もある。
近い方が便利だ。鍛冶の道具も借りたいしな。
あぁ、勿論回復薬も作るから心配するな、と言っても材料を集めてもらわねば何も出来ぬのが辛いところだが・・・・・・・」
場所が決まっただけでまだ何も無い工房予定の部屋をみながら饒舌に話し出した。ぶっきらぼうな言い方だが狐の尻尾が左右に振れているのを見ると機嫌が良いのだろうと察せる。
嬉しいよな、自分の城。気持ちはわかる。
ちなみに爺さんからすると俺なんざ若造にしか見えないのだろうから、言葉使いは気にするなと言っておいた。幹部連中が少し憤ってたが別にお前らも敬語になってない時有るし、俺はボスだが別に偉くない、仕事さえちゃんとしてくれりゃ構わない。
職人ならその方が話しやすいだろう。そこも理解出来る。
特に鍛冶師の方はビビってるのが凄く伝わってくるので、これぐらいふてぶてしい奴が混じっていると頼もしく感じる。
だが道具、材料に関しちゃとりあえず有る物でやれとしか言いようが無い。何に何を使うのか、すら把握していないのだ。
まだ何の道具も無いのにお前は一体何を作るつもりなのかと心配になった。
とか思ってたら初仕事として俺の持ってた白の大魔道から借りてる指輪の魔道具を早速メンテナンスしてくれやがった。
まだ何も道具が何のにだ。鍛冶師の方のあり合わせの道具を使って、簡単にメンテしてみせた。想像以上に拾いものかも知れない。
ノリックなんて目を見開いて見てたよ。
「まったく、確かに初期に作った安い素材のものとはいえ、もう少し手入れをせんか!」
とか怒りながらだが、綺麗に磨き直してくれた。
磨かれた指輪を着けて魔法を発動してみると、確かに違いが分かる。
詰まってた配管の汚れが取れた感じ、少し魔力の流れが良くなったように感じた。
そういや大魔道と一緒に暮らしてること言ってねーな。
何らかの付き合いがあるのは察してるんだろうけど。
一応何て言うかは大魔道のほうとも話して決めようと思ってる。
出来ればどちらとも問題無く俺の側に置いておきたい存在だ。上手い落としどころを見つけたい。
「しばらくは建物の修復作業を手伝ってくれ。そこで使える物を探してもらうか、ボチボチ余裕が出来たら買い集める。
先ずは安価で汎用性の高い道具を見繕っておいてくれよ。」
「分かった。解体班の方にいれてもらえるように頼んでおいてくれ。」
そんな話をして、しばらくは建物の修復に廻ってもらった。
とはいっても錬金術師の使う道具なんぞ知っている訳が無い。
街中を漁ってもそれらしいのは無かったのでしばらくは他の連中と同じ使いになる。
今有る物と言えば、彼が拾っていた細かい道具くらいだ。これでは大した事が出来ないのは俺たちでも分かる。
彼もちゃんと現状を理解は出来ているようで、物わかりが悪く無い。
しばらくは働かざる者食うべからず何だよ、爺さんでもな。
こればかりはある程度廻るところまで力技で持っていかなければどうにもなるまい。
王都に錬金術師の学校がある事から分かるように、錬金術師は初期費用が嵩む存在だ。
でなければもっとなり手がいるだろう。
ゆっくり待ってもらうしか無い。
工房を作る事を決め、位置まで探してやったので俺の仕事は終わりだ。
後の手配は幹部どもに丸投げする。
俺はこれから任務を試しに受けてみる必要がある。
俺は働かなくても飯は食えるが、それをやるとそのうち追い出される。
そう言って夕方頃また来ると言うと、ハーフドワーフ兄弟の兄、ザーノアが任務を手伝うと言ってきた。
なんでも恩赦の冒険者証を試したいのだと言う。
そして何よりも食料を少しでも持ち帰りたいのだろう。
別に心配しなくても分けてやるつもりなのだが、彼らは彼らで自分でも動きたいのだ。
その気持ちは理解出来る。
最終的に犬獣人のジョンとザーノアの二人が一緒に来ることになった。
もう何日かは更新出来そうです。