裏町再建へ 3 工房探し
案内だけでいいと言ったのだが、話合いに参加した奴らは全員着いてくると言う。
暇なのか?とも考えたがそうではないらしい。
ハーフドワーフ兄弟の案内で裏町を歩くと、道行く住人にギョッとした顔をされた。
最初は俺が誰だか分からない。
だが先日暴れたことで記憶にはあるのだろう。
二度見して、三度見して、畏まるくらいならまだいい。
真っ青になって震え出す奴までいたほどだ。
想像以上に怯えられているらしい。
周囲を幹部が囲んで、人が壁を作って歩いたよ。
会ってみると鍛冶師の方が圧倒的に人数が多かった。
顔を出したのは5人ほど。
それでも多いと思ったがこれはそれなりに物を作れる奴、つまり親方の数でその下に見習いだったり、従業員だった奴もいるらしい。
「鍛冶屋って言うと武器防具のイメージが強いかも知れないが、実際は日用品を手がけてる奴のが圧倒的に多いんだよ旦那。
生活用品もそうだし、何かの部品とか、道具や釘なんかを作ってる奴もいるしさ。」
とはザーノアの言葉。
建物の修理を優先させているからこそ出る、コイツの言葉だろう。
そちらを充実させたいからこそ鍛冶師の方はが欲しいのか。
どうやら職業ごとの線引きがハッキリしていないように感じる。
そこいらは全部鍛冶師か、随分曖昧だ。
「ちなみにお前らもお尋ね者なのか?」
1つ気になったので聞いてみた。
この国の貴族は手に職を持ってる奴まで戦争に駆り出すほど馬鹿なのだろうか?
「とんでもねぇ。戦争が始まってから俺たち鍛冶の仕事を営んでたモンはぁお偉いさんに武器の手入れをさせられてたんで賞金が掛かってたりはしてねーです。」
ふむふむ。まぁそれが真っ当な使い道だ。工作兵という手もあるが、兵站の一端に組み込んだ方が賢い。
俺もその方向で考えてるし。
当面はオークの肉をくれてやるだけで養えるお抱え鍛冶師だ。
後々は扱いを改めてやる必要はあるだろうけどな。今は仕方が無い。
「じゃーなんで裏町なんかに住んでるんだ?
表にも出られるんだろ?」
「それが戦争が終わった後に締め出されたんでさぁ。
お貴族様がたが撤収したあとに、裏町は隠れてた奴らが出て来て・・・・・・」
と言った所で代表して答えていた鍛冶師が口を紡ぐ。
なるほどね。裏町を荒らしたという戦争では被害が無かったが、それが終わった後に裏町に残った奴らに荒らされたのか。
違うな。元々裏町ではなく、職人の作業所が集まる地域だったわけだ。それが戦争をキッカケに無法地帯になり、裏町になったと。
「言っとくけど俺たちじゃねーぜ?
そんな暴れかたしてた奴らは、真っ先にやり返されるからとっくに殺されてるだろうよ。
少なくとも今の配下にはいない。いても数人だろうさ。どうする?見つけて〆ておくか?」
俺が冷ややかな視線で幹部を見ているとザーノアがそう答えた。
他の幹部も頷いている。
そんな正義の不良みたいな理屈をこねられてもな。俺その時の状況知らないし。
そもそも不良は正義じゃないし。
俺たちも悪の集団を目指すわけだしさ。
「んな昔のことを責めても仕方ねーし、別にいい。
但し今後そんなことをさせないようには徹底しろ。あとどっか他所の縄張りが攻めてきたときの対処も考えとけよな。」
そう返すと、「えっ?俺たちが考えるの?」という顔をされたが知らん知らん。
俺は問題が起きたらやり返す役割。
問題に対処するのは自分たちでやってくれ。その為に事前に何が出来るかよく考えてくれ。
基本、丸投げだ。
ちなみに錬金術師の方は一人だったけど濃かったのでまたの機会に。
五人と一人を伴って、昔どこぞの作業場が並んでいたという辺りを歩く。
適当に俺の氷魔法とノリックの風魔法で閉じられた扉や積み重なられた瓦礫を排除して形のある建物を確認しながら進む。
どこもかしも荒れて酷いザマだったが、手を入れれば使えなくもないらしい。
その辺の判断は素人には分からないので玄人が良いと言うならそれで良いだろう。
所謂職人街とか、職人通りと呼ぶような、狭い範囲に工房が連なって建てられていたようだ。
入口が開いているようなとこは中が酷く荒れていて話にならない状態だ。
だが出入り口が潰れているような場所は意外と中に使えそうな道具が残っていたようだ。
中を調べた鍛冶師が報告して来た。
俺にはよく分からないからお前らがそれで良いなら構わないっての。
ただ建物がどこも微妙に駄目らしく、建物を調べた奴からは合格がもらえなかった。
どこもいつ崩れてもおかしくないらしい。
結局、ここに工房を作る事は諦めることになった。
そりゃー鍛冶に使う道具も一応武器にはなるからねー。
荒らされるのも早いよな。そりゃー連なって建っているからな。1つ壊れると横にも全く影響が無いわけじゃない、壁も屋根も共有だもん。
錆びだらけで放置され、泥まみれになった工具を拾って、何ともいえない表情で見つめている鍛冶師の顔は、俺にも少しくるものがあった。ほんの少しだけどね。
彼らはそんな道具も拾い集めてたからそのうち頑張って磨くんだろう。
気持ちは分かるが後日、人を送り込んで一斉に回収させることにした。うん、気持ちは分かるんだ。
いちいち拾い集めてると話が進まないんだもん。
拾い集めた物は比較的マシな建物に。
まだ中に有りそうなところは、土精霊に頼んで土の壁を作って塞いでおいた。
なるべく土精霊は活用して、早くおさらばしたいとか最近思ってる。
差しあたりどこに工房を作らせるかの方が問題なので拠点に決めたところから、遠からず、かつあまり近くない所で探す事になった。
幸いな事に鍛冶で使う炉とか、窯みたいな奴も簡易的なモノで壊れてはいたが、直せそうな設備があったらしい。
しばらくはそれを共用で使い、少しずつ増設して行く、という方針で話はついた。
当面は雨風を避けられる建屋を、俺の縄張り内で面倒見ている人数分が早急に必要で、さらに今後倉庫や作業場で多数必要なのは彼らも理解しているようで、「のんびりやりまさぁ」と言ってきてくれた。。
「俺は鍛冶しかしない、鍛冶以外をするくらいなら死ぬ。」
なんて抜かすような鍛冶馬鹿はいなかったのが幸いだ。
先ずは建築に使う道具の整備、次いで生活用品の整備、余裕が出来たら釘なんかの小物からコツコツ始めてみるらしい。
理解が早い奴らだと助かる。
しばらく候補地を練り歩いて、少し手直しすれば使えそうな建物を探す。
この辺は管轄外なので着いていくだけの簡単なお仕事だ。
拠点の周辺はチェック済だそうだが、少し離れるとまだまだ確認しきれてない所が多いらしく、初見なので時間が掛かってしまったが、割と良い条件の所を見つけた。
鍛冶師も錬金術師も近くに工房を構えるという事で問題無いらしい。
何でも共通する技術や、手を借りる技術などもあるらしく、なるべく近くとあちらから言って来た。
主に錬金術師の方からだが。
鍛冶師の方も問題無いし、炉の共用も構わないという。
そもそも縄張り内の物は俺の物で、彼らは借りる立場なのだとか訳の分からない事を言っていた。
仲良くとまでは言わないが、喧嘩しない程度にやって欲しい。
ちなみにどちらの作業も水を多用する、もしくはした方が恋率が良いということで水の確保をせがまれた。
近くに水場を作ってやり、ついでに倉庫も用意するように幹部どもに伝えておいた。
作業場に置かせずに、倉庫に運ばせて作った物は管理しろという意味でもある。
変なモノを作られても困るしな。
水自体は問題無いが、あまり大量に作る場合魔力がキツい。
どっかに攻め込んで、そこの連中を生贄にすることも視野に入れる必要がある。
俺の裏町生活は指示するだけして、後は丸投げで進んで行った。
コロナで死んだ後にもっと更新しとけば良かったと後悔したくないのでとにかく更新しようという気分でございます。
急ぎで荒かったらごめんなさい。
ちなみに目が痒いくらいで、私は元気です。