裏町再建へ 2
「旦那は本気で工場を動かすつもりなのかい?」
「本気もなにも、現金が少しでも入ってくるようにしないと、そのうち立ちゆかなくなるだろう?
冒険者として活動するからそのついでに魔物を取って分けてはやるつもりだけど、おまえらは原始人みたいに、獲った肉とその辺に生えてる草花を食って生きていきたいのか?」
「・・・・・そりゃー俺たちだって普通の生活がしたいとは思ってるけどよ。
こう言っちゃなんだけど商売は大変だぜ?」
あー、そっちか。俺に商売なんか出来そうもなさそうとか思われてそうだ。
そんなこと言われなくても分かってる。
大事なのは少しでも働く環境を整えることだ。
最悪赤字でも肉と草を食わせて放置でいい。
「大変なのは分かってる。
けどな、やれば少しでも回る、金がな。回ればやりようはあるだろう?
だが普通の生活は諦めろ。
今までやってきた悪さからは逃げられない、今後も必要ならやってもらう。
小悪党から悪党になる覚悟を決めろ。」
問いかけてきたザーノアにそう答えた。
覚悟をしてもらわなければ俺が困る。
何よりこいつらがいまさら一般人になどなれるわけが無いのだ。
一般人になる、なりたい。ではなくて別のベクトルで考えてもらいたい。
悪い事をして一般人よりも良い生活をする、という世間一般から見たら最低の考え方。
だがのし上がるにはそういう気持ちが必要だと思う。
そこを力説して語っているとノリックが何とも言えない顔でこちらを見ていた。
言いたいことは分かる。
だがやるんだよ。
恩赦として発行された冒険者証を渡し、紡績用の設備を修理出来るという奴らとも顔あわせをした。
冒険者証については幹部を優先して作ってもらっている。
主に俺が信用出来るかどうかという基準だ。出なければ恩赦などさすがに頼めない。
旧縄張りの面子に今回は限定されている。
受け取った幹部の彼らはとても満足げだ。
必然的に買い物とか行かなきゃいけない立場になるんだけどね。
そのくらいは割り切ってもらおう。
対話した職人たちは「材料があれば直せる。」という何ともナメた事を言ってきたので、「甘えんなボケ」と返しておいた。
2こ1でも、3こ1でも良いから兎に角動くようにしろと厳命した。
サボるようなら放り出して他の奴を探してこいと幹部にはキツメに怒って見せておいた。
ちなみに2こ1とは2個の壊れた車からまともなパーツを取り出し、組み合わせて1つの見た目は問題無いように見える車を作ることだ。
あまり好まれる技法ではない。
だが修理するための材料などないからな。今有る壊れた設備から使えそうなとこ抜き出してまず1つ動くモノを作るように命じておいた。
我ながら無茶言ってると思う。
だが、頑張ってやってくれ。
「あとは水の問題か。」
「あぁ旦那に言われてる通り飲み水を含む生活用と、掃除用の水は分けて使わせてる。
火魔法を使える奴を集めてお湯も作ってる。
旦那が汚ぇ格好でうろつくな、というから身体も洗わせているし、服も洗わせた。
だがその分水は消費が特に激しいから、少し補充をしてもらえると有り難い。」
前回の任務後、裏町には大量に水を作り、もう少し小綺麗にさせるために飲み水とは別に水を用意した。
一応これでも言った事には素直に従っているらしい。
まだまだ汚いし臭うけどな。
掃除用の水は今のところ繰り返し再利用だ。どっか水路を引けるといいんだが、それは望みすぎだろうか。
下手に河から引っ張ってきて水害が起きても困る。
ちなみに普段の生活用水は街にあるが、裏町の住人は使えない。
どうしているかといえば雨水を溜めてそれで乾きを潤しているとかなんとか。
潤うわけが無い。
「ふーん、水を作るのは夕方頃、ギルドハウスに戻る直前に限定な。
理由だが前回大量に作れたのは、〝氷の棺〟で大量に氷漬けにした奴らがいたから出来た。
あれが無い今は、俺の魔力を使うからな。帰って寝るだけの時で無いと他の事が出来なくなる。」
「う~ん、夕方ってのは了解したけど、よくわかんねーよ旦那。」
物わかりが良いようで悪い。魔法に関しての知識が無いからか?
「〝氷の棺〟って魔法を使ってただろ?氷に閉じ込める奴。
あれは閉じ込めた奴の体力魔力を強制で吸い出して俺の魔力に変換する魔法だ。
いいか、良く覚えておけ。
最初の1つ、氷の柱を作ってしまえばそれ以降の魔法は俺の魔力を使わないで使えるようになる。
〝氷の棺〟に関しては二個目の棺からは完全に俺の魔力は使わなくなる。
代わりに氷の柱の中にいるやつがどんどん衰弱するけどな。
言ってしまえば作れば作るほど俺の魔法のストックになる。
中の奴らが死ぬまでだけどな。」
〝氷の棺〟が溶けて、中の死体が出てくるまでの日数をカウントしておけと命令しておいたのはその為である。
裏町を覆うほどの数を閉じ込めて魔力が尽きなかった理由であり、大半の奴らが1週間持たなかった理由でもある。
任務3日目に、北の裏町に乗り込んだ後に戻ってきたら櫛の歯が欠けたようにボロボロ死んでいた。
理解出来なければそれでもいい。
閉じ込める奴が特にいなければ、日中は半分くらいまでの魔力消費で押さえたいだけだ。
夜は大魔道に魔法の指導を受ける事になっているし、いざという時の為に温存しておきたい。
しばらくはいざ、が多そうだと予想している。
「そんな訳で今日は任務をこのあと受けてみようと思っている。
で、夕方また顔を出すから水を作るのはその時だな。
他になければこれで解散しよう、また後でな。」
「あー、一応耳に入れておきたい事がある。
鍛冶師と・・・・・・・・錬金術師、になるのか、だった奴がいてよ。
一度旦那に挨拶したいって言ってるんだが・・・・・・」
打ち切って戻ろうと立ち上がった俺に弟の方のハーフドワーフ、ノリアが少し迷いながら伝えてきた。
判断に困ってると言う事か。
「女か?」
「・・・・・・髭が生えてたな。」
どうやらドワーフらしい。お決まりっちゃお決まりだ。
ここで女が出てくるのも物語としてはハーレムものとしては王道なんだけどな。外れたらしい。正道のルートらしい。
「ちっ、要件は? それ次第だな、会っても良いけど急がないなら夕方にしてくれ。」
「あー・・・・・・多分どっちも工房が欲しいんだと思う。」
工房か、確かに有れば便利だ。こっちの要望通りの物を作ってくれるなら、だけど。
「ふーん、言うこと聞かなそうな奴らなのか?」
「いや、そこは問題ないよ。
問題つーっか、それようの建物を与えちまっていいか、ってとこだな。
今は寝床を優先させてるし、そいつらもそっちを手伝わせてるんだが鍛冶師だって言ってる方は設備があれば道具も整備できるし、材料があれば色々作れるって言ってる。」
「なるほど・・・・・確かにそれならやらせる価値はあるか・・・・・・・」
「旦那は知らないと思うけど、【 羊小屋 】から少し離れたところにソレっぽい施設が集まってた所があるんだ。
鍛冶の工房は音がうるさいから、街の外れに作るのが鉄板さ。
ここらの工場の部品を作ったりとかの需要もあったから、探せばそれなりに使えるところは有ると思う。ボロボロだったが鍛冶の道具もいくつか拾ってるしな。
そいつらは勝手にだけど、まぁ文句いうほどのことでもねーし。それも直せばまだちゃんと使えるって言ってな。」
「なるほど、鍛冶師の方はやらせてみても良さげだな・・・・・
錬金術の方は・・・・・う~ん、判断に困るな。」
「そいつも役に立つとは言ってるんだ。なんでも旦那にどうしても話したいことがあるって・・・・・・
あぁ前に旦那が任務で来た時に近寄ろうとしてジョンに追いやられてた奴だよ。
覚えてねぇか?」
「覚えてねぇな・・・・・・
任務の時はさすがにそこまで 余裕が無かった。
でもそいつ、なんか怪しいな・・・・・・」
頭を掻きながら困ったようにノリアが説明してくれた。
自前で工房が持てるならそれに越したことは無い。
買ったばかりだから今は問題無いが、子分どもに与えた武器にも、俺の装備にも手入れは必要だ。
勿論最低限は自分でするつもりだが、本格的な整備に関してはそれを生業にしている者に頼みたいと思っている。
どちらにしろ現在は、落ちてるものを集めて勝手に使うってだけの話だ、やらせても損は無い。
鍛冶師の方はそれで良いとして、問題は錬金術師の方か。
こちらは判断出来る材料が無い。
そんなことを思案していると、横から袖を引かれた、ノリックだ。
なんだい相棒さん(暫定) 俺は今忙しいから突っ込みなら後に・・・・・と思ったところ
「イゾウ、錬金術師の方もやらせてみたほうが良いんじゃ無いかな?」
ふむ、裏町の事にこいつが口だしするのは珍しいな。
さて、その心は?
「イゾウも僕も錬金術師の講習を受けるんだから、出来る奴を近くに置いといた方がいい。そりゃ大魔道様も出来るんだろうが、お前の言う事を絶対聞いてくれる訳じゃないだろ?
多分、今後回復薬とか、魔法薬の必要な時も来る。
どれくらい出来る奴かわからないし、手元に置いておいたほうが良いんじゃ無いかな?
錬金術師はスキルの問題もあるし・・・・・」
ふむふむ、なるほどなるほど。俺にもお前にもその方が都合が良い、か。
確かにそいつも手元に置いておくだけならば、大して手間は変わらない。
上手くやれば、オートで勝手に調合してくれる便利な妖精さんになるかもしれない。
確かにスキルの問題もある。
錬金術師のスキルに関しては手に入りにくいレアスキルだと言う話だ。
単純に追加で講習を受けるだけではスキルを得られないらしい。
なので講習自体もハードルが低い。簡単な調合をいくつか教えてくれて、それで講習を終えたという形骸化した様式の講習なのだとか。
それでも自前で回復薬を作れるほうが便利なのは間違いが無い。
その先のハードルが異様に高いのだ。
と言うのも、この錬金術師は冒険者のような胡散臭い職業と違って、国公認の歴としたポジションを確保している。
俺がこっちに来るずっと昔の話だということでよく分からないのだが、何代か前の王様が保護した職業なのだとかで、王都に錬金術師の学校が有るのだと。
職業として錬金術師を名乗るにはそこを卒業していないといけないらしい。(但し、この国に限る。)
という話を講習で習っている。
貴族の子弟や金持ちの息子が多く在籍しているようで「お前らみたいな生まれながらの貧民には縁の無い世界なんだよ。」と魔法課の教官が煽りながら言ってくれてた。
勿論お前だって貴族じゃねーじゃんと思い、「お前が言うな」と心の中で突っ込んでおいた。
だからこそ、自称錬金術師が、俺に取っては胡散臭いわけなのだが、ノリックさんはそれでも乗れと言いたいらしい。
「ん~、じゃノリア、そいつら連れてこい。
ザーノア、暇な奴で何人か、建物の方の理解出来る奴も連れてこい。
これから見に行こう。で、決めちまおう。」
やるならば、やれるときにやっちまったほうがいい。
指示だけ出せば、後は丸投げだしな。
当然、言い出しっぺのノリックくんも当然付き合ってくれるんだよね?
少しは嫌がるかと思ってノリックを見たが、むしろ嬉しそうに見えた。
あー、おまえこうゆうのワクワクするタイプか。つまらん。