裏町再建へ
「で、どこまで本気だった?」
クラン 〝 林檎の帽子 〟の拠点からお暇し、第3地区で買い物をしているとノリックがそう問いかけてきた。
「何が?」
「一晩好きにさせてくれたら魔法を教えるって奴さ。
割と本気だったよな?」
今買い集めているのは裏町に運ぶ物資だ。
前回の任務の時にも運んだが、少し買い足してやる必要が出て来たので調達している。
昨日の昼頃、講習を終えた証として冒険者ギルド認定の冒険者証を受け取った。
その時に、一緒に裏町の人間の分の、恩赦の冒険者証も渡されている。
その数都合12人。
名前と素性がおおよそで分かり、俺の配下にいる奴を戦争から逃げ出した者から解放してもらう事が出来た。
これが権力という、冒険者ギルドのお嬢さまことサブマスターの力だ。
手を組まなければ自力では絶対に手に入らなかっただろう。
勿論制限はある。
この者達は、冒険者ギルド定められている冒険者ランクが一切上がらない事になっている、常に最低ランクだ。
そして単独では任務も受けられない。
最後に何か問題を起こした場合には俺が責任と始末を求められる。
街中(第3地区のみ)を歩け、表門から外へと自由に出入りが出来る最低限度のモノだ。
それでも少なくとも捕まる心配がないので、裏町から出て買い物などには動ける。
毎度毎度俺が買い集めてやる必要はなくなった。
金の問題は置いておいて。
その為に最低限必要な、清潔な衣類と自営用の装備を選んでいる。
裏町以外が安全かといえばそうでもない。備えは必要だ。
ノリックはそれらの品を吟味しながらこちらを一切見ること無くそう伝えてきた。
「どうかな。受けるとは思わなかったけど?」
「いや、ソレはないよ、絶対に受けた。それくらいあの人たちは追い込まれて見えた。
イゾウだって魔法を使えない苦しみは知ってるだろ?彼女たちはお前よりずっと長く苦しんでるんだ。
軽々にあーゆうことを言わない方がいい。
それに多分、あの人以外にも何人かが自分にも教えてくれ、同条件で構わない、そう言って来ただろうな。
そうなったら断るのも大変だったし、 林檎の帽子 の人との関係も微妙になってたよ。特に男性陣に恨まれる。
ついでにクィレアやマナには何で止めなかったと僕が怒られる。」
「あー、なるほどね。
それは考えが足りなかったな、すまない。」
憎まれ口につい反抗しただけのつもりだったが、確かに人間関係ヒビを入れかねない言動だった。
ノリックがいて良かったな。
ついでに、のところがやけに力が籠もっていたのは置いておこう。
そんな焼きもち焼きだったっけか_?
「分かれば良いけどさ。何考えてたんだ?」
「ムカつく女だ。恋人には出来ないような恥ずかしいプレイで苛めてやろうとか、そんな感じ。
いやほら、愛が無いから出来る事も世の中有るわけじゃん?」
「いや・・・・・・・・無いだろ。」
ノリックには半目でじろりと睨まれた。
有ると思うんだけどなぁ。セフレだからこそ盛り上がるような、エロス。
純粋な欲望のぶつかり合い。性癖と羞恥のせめぎ合い。
気持ちが無いからこそ、肉欲が盛り上がる。
勿論気持ちがあっても盛り上がる時は盛り上がるんだけどさ。
人生には遊びも必要だ。
真面目なのは良いんだけど、少しは恋愛もした方がいい。どっかの白い大魔道みたく行き遅れると大変な事になる。
「なぁノリック。俺たち明日死ぬかも知れない毎日を送るわけじゃん?
こう・・・・・少しは遊んでおこう、みたいな気持ちは無いのか?」
「無いよ。僕は大魔道に最短でなる。
恋にうつつを抜かしたりしない。」
つまんねー人生だな。
率直にそう思う。脇目も振らず目標に向かい突き進み、気がついたら老いて旬を逃していた。
そんな未来があると思う。
「遊んでおこうという言い方が悪かった。
共に人生を歩くパートナーというか、お前が大魔道になるまでの工程を支えてくれる。
もしくは一緒に歩けるような相手を探さないのか?って話。」
「・・・・・・・いたらいいな、とは思うけど。
難しいのは分かるだろ?
同世代で少なくともそんな風に思える相手はいなかったよ?」
ふむ、別に必要無いとは言わないのか。
ならノリックと相性が良い相手がいれば是非協力したい。
うちの彼女たちと下手に親しくなりすぎても嫌だし、ノリックにはノリックのパートナーがいれば捗るだろう。
何が捗るかは置いておいて誰かと共に進む未来なんてのも決して悪く無い人生だ。
ノリックみたいに真面目な性格なら尚更だろう。何だかんだと一人で抱えがちだからな。
支えてくれて、理解してくれる相手がいれば大分楽になる、筈だ。
「で、さっきの子はどうだったんだよ?
見た目は? どんな女が好みだ? どこ重視だ?
胸か?尻か? やっぱ顔か?」
「うるさい、イゾウ真面目に選べ!!」
そのあとは裏町に運ぶ荷物を、少し照れながらポツポツ語るノリックと二人であーだこーだと話ながら選んで廻った。
ノリックの場合は、どうしても基準として魔法関係に深い理解が必要らしい。
女を選ぶ基準まで真面目か!
とは思ったが、根気よく手伝ってやろうと思う。
裏町に続く通りを進むと何時も通り門番のように数人が境目でたむろしていた。
そこに顔を出すと、酷く青い顔で対応され、一人が凄い勢いで幹部がいるという拠点へと走って声を掛けに行った。
「荷物を運びます」
「幹部を呼びに行きましたから」
そう言われたが、待ってるのもどうかと思い「勝手に行く」と行って裏町に入っていった。
そう行って先へ進むとさらに顔色が悪くなった気もしたが、知った事では無い。
多分幹部にあとで怒られるんだろうけど。
しばらく進んだところに、数人引き連れたハーフドワーフ兄弟が駆けてきたが、荷物くらいはさっきの奴らに運ばせても良かったかもしれない。
次はそうしようと、ハーフドワーフ兄弟に渡しながら思った。
案内されたのは先日手に入れた【 羊小屋 】の一室。
掃除するように言いつけて、水を大量に用意しておいたおかげか、それなりに綺麗にはなっていた。
通るときに眺めただけだが、半分くらいは片づいているようだ。
何もない部屋に空の樽が置かれ、そこが俺たち〝三ツ目〟の会議室だ。
紙が高くて買えないのでテーブルも必要無い。
無い物ばかりでキリが無いから他に必要な物も思いつか無い。
ハーフドワーフ兄弟と犬獣人からはリーダーのベスが参加し、もう一人ディアスが幹部として参加する。
外で他所の縄張りに紛れてるヘンリーはまだ戻ってきていないようだ。
早く戻ってこないと俺もどう扱えばいいか困るかも知れぬ。
他にも吸収して広げた縄張りのリーダーは幹部として扱うが、全員集めて話すのも面倒なので、最低限で揃えさせた。
他の連中は縄張り内で見張りなり何なりしてるだろう。
話すことは多々あるが、先ずしなければならない事は講習が終わった事の報告だ。
これでやっとこちらからも攻め込める。
そう伝えると思ってたよりも喜ばれた。俺がいない間にそれなりに大変だったらしい。
残念ながら攻め込んできた所は無いらしい。
侵入してくる馬鹿な奴もいないという。
「あんな氷の壁を見たら攻め込む気も逆らう気もなくなるさ。」
とは幹部全員の意見だ。
どおりでここに来るまでに顔を合わせた住民の顔色が悪かった訳だ。
想像以上に畏れられているらしい。
「おかげで素直に指示に従ってる。言われたとおりここを中心に屋根と壁が無事な建物は接収している。
建築経験のある奴ぁみんな修復班にぶち込んだ。
見張りは腕に自信のある奴を中心にやる気のある奴で最低限。
それ以外の奴はゴミの片付け、荷物の運搬、まぁ出来る事をさせてるよ。」
「羊小屋で寝泊まりさせてねぇだろうな?」
「旦那にしたら殺す、そう言われてする馬鹿はいねぇさ。
不満は見え見えだが大人しく従ってる。
新しく得たとこでとりあえず雨風から避けれてるんだから文句は言わせねぇさ。」
「後は旦那が戻る前に大量の水を用意してくれたのが大きい。
そのまま飲める水なんて貴重だから助かってるよ。
言われたとおり半分は飲食に、もう半分は掃除と身体を洗うのに使ってる。
飲めるだけで助かるし、煮炊きで食料もいくらか節約出来る。男どもはそれで充分だ。
火魔法を使える奴がいるからお湯も作れてる。身体を洗えるのは女子供に喜ばれてるぜ。」
報告をしてくるのは主にハーフドワーフの兄弟だ。
歳も上だし、度胸もあるし、適任だろう。面倒見もいいし、馬鹿でもない。
当面はこの二人に丸投げすることにしてる。
講習に戻る前に問題になったのは手に入れた【 羊小屋 】の使用方法だ。
子分どもはそこで寝泊まり出来ると思ってたらしい。
正直オークを閉じ込めていて、その糞尿に塗れている所で寝たいなんてよく思えると思うが鍵の掛かる場所というのはそれだけ貴重らしい。
だが駄目だ。
オークの糞尿塗れというのは気に入らないが、工場というのはさらに貴重だ。
そんなところで寝泊まりさせる気はないので、まず周辺で壁、そして天井のまともなところを探して全部占拠するように言っておいた。
その上で直せる建物があればそこも直して使うように指示を出した。
これが上手く廻ったらしい。
策が、というよりはこいつらが上手く廻したのだろう。
思ったよりも頼りになって助かる。
一人で全部抱え込むのは辛いしかったるい。
「縄張り争いをしてた俺らが言うのは何だけどさ、結局小競り合いが続いてると直す気力も沸かないからな。」
「あぁ旦那が無理矢理縄張りを広げてくれたおかげで、〝奪う〟だけじゃなく〝直す〟も視野に入ってくる。ある程度直し終わればば今度は〝守る〟にも集中出来る。だから任せてくれよ。」
見れば他の二人も頷いている。結局そういう事なのだ。
実際の所、俺が号令なんぞかけなくても直すだけなら簡単なのだ。だが、それを出来ない最大の理由が縄張り争いだろう。
荒れている町がさらに荒れるのは、直しても壊されるからだ。
直すより壊す方が容易く、何度も壊されると直すことを諦めてしまう。
諦めた人間は他所へと移るだろう。人が住まなくなった場所はさらに荒れるという悪循環である。
俺がある程度の範囲の縄張りを確保出来た事で、修理すれば壊されること無く使えるようになった。
俺の縄張り内で、俺の指示で直した物を、わざと壊す奴がいたらそいつは只の馬鹿だ。
そんな奴まで部下にしておく必要は無い。始末すればいい。
安全な寝床が確保出来れば、直す側にも活気が出る。
聞く限り大工の経験のあるハーフドワーフ兄弟を中心に幹部が指揮を執って上手くやれているらしい。
「それと言われた通り伝を当たって探しておいたよ旦那。
で、見つけた。工場の設備に関係ある仕事をしていた奴が5人ほど。 羊小屋 の設備を作ったって奴はいなかったけど、修理で何度か出入りした事が有るって言ってる。
旦那の予想通り、戦禍に巻き込まれて逃げ遅れたらしい。それから隠れて生きてきたみたいだな。
先に中を見せておいたけど材料があれば多少は直せるそうだが、やっぱり完全に修復は難しいって言ってるぜ。」
「ほぅ、仕事が早いな。話はついているのか?」
「ついている。荒事が苦手らしくてな、保護してくれるならちゃんと働くって言っている。飯、寝床、とりあえずはそこを保証してやるのと、あとは言った通り身の安全ってところか」
この兄弟は俺の採点以上に優秀かもしれない。
俺がやるより遥かに上手くやれているだろう。俺が同じ事が出来るかといわれると難しい。
多分殴って従える事は出来るだろうが、そこまで上手く回らないだろう。
何をおいても、俺よりも遥かに裏町の住人に信用があるのだ。
今後も活用しつつ、こき使おうと思う。がんば。
羊小屋 は今現在、中の設備を片方に寄せて徹底的に掃除をさせているそうだ。
掃除をしているのは、見張りにも使えない、建物の方でも働けない。
女子供老人を中心に怪我人も容赦なくこき使っているらしい。
「さすがに設備を寄せるのは建築チームにやらせたけどな。
壊されたら困るんだろ?」
そこを理解出来てるなら問題あるまい。
俺がいる間は窓扉全部あけさせて換気をさせている。このタイミングで侵入したなんて話があれば次代の〝緑の大魔道〟(予定)ノリックくんの魔法でメタクソにやってもらうつもりだ。
俺は街作製ゲーム感覚で指示だけ出させてもらおう。