講習後 林檎へ
ご無沙汰しています。息苦しい生活が続いてますが、なんとか生きてます。
新章ということで宜しくお願いします
「という訳で無事講習も終わり、昨日からギルドハウスに入ってます。
今日から冒険者になるということで改めて挨拶と、そして先日のお礼を言いたくて今日は伺わせてもらいました」
講習修了の翌日、俺は事前に調べておいた冒険者クラン 〝 林檎の帽子 〟のクランハウスに挨拶に来た。
クランハウスと言っても中堅~弱小程度の規模のクランだと、皆が一緒に住んでいるわけでもなく、クランマスターの借りている家の一室をその名目で使っているだけだ。
雑多に物が置かれた室内には生活感があり、あまり裕福には見えない。
別に酷く貧しく見える訳でも無い。基本冒険者なんて安宿暮らしの者が多いと聞いている。
ガレフやシグベルも安宿を借りると言っていた。
それに比べてみれば冒険者ギルド運営の〝ギルドハウス〟に入れたことは幸運だろうな。実際一晩住んだだけだが、かなり恵まれているというのは実感している。
とはいえいずれ俺もギルドハウスは出る事になる。その時を考えておかなければならない。
多分裏町に住むと思うけどさ。
〝 林檎の帽子 〟のクランリーダーとサブの2人にはオークグラジエーターと戦った前後からとても世話になった。
挨拶に来るのは当然だろう、何をおいても最初に行こうと思っていた。
というのも〝 林檎の帽子 〟は冒険者ギルドの講習生の斡旋会に顔を出さなかったので、会ってちゃんと話す機会が無かった。
講習の終わりが決まったので、ギルドハウスの管理人さんにこちらの世界でのアポの取り方を教えてもらい、こうして早速会いに来たワケだ。
ちょうど街に滞在していて、訓練くらいしか予定が無かったらしくすぐに返事が返ってきた。
手土産や他所の拠点を訪ねる作法など知らないのでノリックにも付き合ってもらっている。
1人だと知らないうちに粗相しそうだし。
言っておくが俺が常識知らずなのでは無い。
この世界での一般的なマナーを知らないだけだ。
知らないことは学べばいい、ギルドハウスでも聞いてきたし、ノリックにも教えてもらっている。
特に何を買って訪ねるか、には頭を使った。
菓子折のセットみたいなの売ってないんだもん。
やっぱ手土産といえば菓子折なんだよな、無難に。
そんな訳で頭を悩ませながら手土産を買って、挨拶にやって来た。
リーダーのフレデリック と サブリーダー ファーレン は温かく迎えてくれた。
見た目は相変わらずオークみたいないゴツいんだけどね。
鎧兜を脱いで、普通に話しているときの温和な顔は意外と柔らかく感じる。
今ならもうオークに見えたりしない。何だかんだとあの時は、俺もかなり気を張っていたのだろう。
あの時には落ち着いて挨拶も出来なかったので、主力メンバーを紹介してもらい、こちらもノリックを紹介した。
1人の女を除いて問題無く言葉を交わすことが出来た。
そしておそらく情報収集を兼ねただろう雑談に移っていった。
「林檎の帽子も新人を入れようかという話にはなったんだけどね、イゾウくんたちの二期前に入れたばかりだし、今回は見送ることにしたんだよ。わざわざ挨拶に来させちゃって申し訳ない。
あの時は回復魔法とか掛けてもらってるし、本来ならこちらからもお礼を言いに行くのが筋なんだけどね」
「そんな、気にしないで下さい。こちらの方こそ失くしたと思ってた討伐証明を届けてもらったとか。
本当に助かりました。
お二人に会わなかったら、路地裏で迷ってたか、うっかり東門に向かってましたからね。
そしたらどうなってたか」
下手をしなくともあの白幼女の魔法で焼き殺されていた可能性が高い。
昨日から一緒に暮らしているわけだが、まだあの二人の魔法レベルはまったく察することが出来ない。
色々有ってまだ何も教わっていなかったりする。
それでもあの二人より凄い魔法使いは滅多にいないのだから困ったものだ。
おそらく直撃したら耐えられなかっただろう。
その前に連れ出してくれただけで感謝してもしたりない。
「実は俺たちはダメ元でもイゾウくんには声を掛けたかったんだけどね。
物凄く反対する奴が一人いて・・・・・・」
「ふん、こんな優しさの欠片も無い奴と一緒に行動するなんて冗談じゃないです。
絶対反対ないです」
残念そうに言うサブリーダーのファーレンの言葉に壁に寄りかかっていたリス子が噛みついてくる。
ちなみにリス子は俺が今勝手につけたあだ名だ。こいつも黙ってればリスみたいで可愛いんだけどね。
喋ると残念だ。
最も悪気があってそんな名前をつけたのでは無い。
自己紹介を拒否された。
だから名前も知らんのだよ。
名前も教えたくないというほど嫌われるような事をした覚えはない。可愛いだけにそこが残念だ。
ただ勧誘されても入れなかったのは間違い無い。
俺は自由に生きるつもりだし。
全然自由じゃねーけどさ。心は自由なつもりなのだ。
「ふむ・・・・・・そうなると厳しいか」
「そうだね。全部イゾウのせいだね」
「俺のせいかー?えー?」
ノリックに問うとバッサリ切られた。俺のせい?多分そうなんだろうけどさ。
うーん、そこまで嫌われるようなことした覚えないんだけどね。
「どうかしたのかい?」
リーダーのフレデリックが聞いてくれたので、有り難く訪ねて来たもう一つの用件を伝えた。
ユリウスも俺たちと同じく講習を終えた。あいつはあいつでパーティを組んだのだが、そこから俺の息が掛かった女が2人弾かれてしまったのだ。
すっかり油断していたのだが、講習修了直前で放り出された為にその2人の就職先が決まっていないのだ。
正確には他にも派閥の人間に、先行きがフリーの奴が何人かいる。
流石に駈け出しの俺が全部面倒を見るのは厳しいので、信用出来る大人にお願い出来ないかな~なんて甘く考えてここに来たという黒い部分もあったりする。
「なるほど、そうゆう話か。いいよ、2人くらいならうちで面倒みよう。別に問題無いよな?」
「あぁ、それならイゾウくんとの縁も続くし、良いと思う」
話を聞いたリーダーとサブリーダーは快く受け入れてくれた。
「うーん。そう言ってもらえるのは有り難いんですけど・・・・・・」
「なぁ・・・・・あれだけ敵視されているとちょっとなぁ・・・・・」
俺とノリックは顔を見合わせる。
俺の関係者って事で苛められても困る。
別に縁を切るつもりないし、今後もお人好しのお二人にはあれこれ会いに来ると思う。
だが仲間が彼らのクランメンバーに苛められるような場合はそれも難しい。
下手しなくても敵対するだろう。
「あいつもあんな態度を取ってはいるがイゾウくんの事は認めてるんだよ。
ただちょっと自分の中で消化出来ていないだけで。魔法が使いたかったんだよ、でもどうしても出来なくてね・・・・・・」
「ふん、大きなお世話です。別に魔法が使えなかったから嫌々斥候をやってるわけじゃねーですから!
何を考えてるか想像できますけど、別にそんな性格の悪いことしませんから!」
リーダーのフレデリックがそう言うと、リス子は噛みつくようにそう言い放った。
何だかなぁ。
物凄く居心地が悪くなった。なんか申し訳なくなってくる。
斥候については講習末期にも少し問題になった。
冒険者の役割についてはいくつが種類がある。
その中には花形の 役割 と 人気の 役割 の問題があった。
冒険者にとって1番人気の役割は何か、と問われると 〝斥候〟がそうらしい。
ただしこれはパーティに求められる役割では無く、なりたがる者が多い役割だと言う事だ。
パーティが求める役割、それが花形の 役割 だ。
一概には言えないが、花形の役割を任せられなかった者、そこを務める実力や技能を持たなかった者が逃げる役割が最終的に〝斥候〟へと行き着く。
〝斥候〟の中にも実力があり、引く手許多の一流と呼べる存在もいるらしいが、低ランクの冒険者パーティで〝斥候〟というと外れが多いらしい。
事実俺たちの所にも、他のパーティを組む奴らの所にも売り込みが多かったのが斥候職だ。
なりたがる奴が多い、と言うことはパーティの空きも少ない訳で、かつ必須でも無い。
ポジション争いが激しいという事はそれだけ選ばれるのも難しいので、俺は派閥の人間にはなるべく斥候を避けるように薦めてきた。
最終的に潰しも効かないからな。
逆に他の役割から斥候へは変更出来る。
そういった事情がある以上、派閥の面子をここに所属させるのは厳しいな。
「いえ、有り難いお話ですが、ちょっと厳しいです、すいません。他を当たってみます」
「イゾウくん、そこは信用してくれよ。苛めなんてさせたりしない!」
リーダーのフレデリック と サブリーダーのファーレンはそう言ってくれるが、新規の人材よりも元のメンバーを大事にした方がいい。
「短い付き合いですがお二人の事は信用してますし、そこを疑うつもりは無いのですが、その・・・・・・・紹介しようとした奴は何というか。
俺が魔法を教えてる奴なので・・・・・・」
「だよなぁ・・・・・・パメラの方はもう発動したんだっけ?」
同じ街にいる以上関係は続く。コンプレックスを刺激しまくるだろう。
あれでパメラは風魔法に適性っぽいのがあった。
っぽいってのは他の奴と違ってハッキリ分からなかったが、そう軽く感じたからやるように薦めてみた。
風魔法といえば講習生ではユリウスだ。
しつこく付きまとって見本を見せてもらうように指示を出した。
その結果あの女マジで発動しやがったのだ。ストーカー女恐るべし。
うん、よく考えるとそれが追い出された原因っぽい。
もしかしなくても俺のせいじゃねーか、これは黙っておこう。
「ふん、適当なこと言うんじゃねーです。自分だって魔法覚えたばっかだと聞いてます。
見栄を張らなくてもいいですよ」
リス子が鼻で笑うように突っかかってきた。
覚えたばっかりなのと出来ないのは全然違うんだよなぁ~
これ言ったら怒るだろうなぁ・・・・・・
「オークグラジエーターと戦った話は聞いてる?あれでレベルが上がったみたいで、氷魔法はもう中級ですよ。
こっちのノリックも複数の属性魔法が中級だし、今期の講習生の中にも他に数人いたよ?」
「「「「「 なっ? 」」」」」
おれがそう言うとそこに居た 林檎の帽子 のメンバーは全員大きな口を開けて驚いていた。
思った以上の反応だな。そういや魔法使いは珍しいんだっけか。
「後でバレるだろうからついでに言うと、今俺が契約したギルドハウスには黒と白の大魔道さまが一緒に住んでて、家賃代わりに魔法を教えてもらうことになっている。
俺が教わったことを同期の仲間には伝えていくつもりだし、今後もっと伸びると思うけど。」
ここでそれが失言だと気づいた。
そんな子達ならぜひクランに迎えたいという話になってしまった。
リス子も渋々だが受け入れたいと・・・・・・・
もう堪忍してくれよ、という気分になった。
何故こんなに熱心なのかと言うと魔法の使い手こそ引く手許多で、冒険者でクランに入るような奴だと、先輩に魔法の使い手が多く在籍しているところに行きたがるらしい。
そういえばそんな風な勧誘を初心者講習に勧誘に来たクランもしていた気がする。
ナードもジスナもそんな感じの大手にさっくり所属が決まっている。
勿論二人にも教わったことは伝える予定だ。
早いとこ大手クランで頭角を現して欲しい。
「うーん、気持ちは分かる。けど今回は堪忍して欲しい。
そちらの彼女を責めるつもりは無いですけれど、大事な仲間なんです。
出来れば先入観無しで受け入れてくれるところに入れてやりたい。
それ以上にお世話になった 林檎の帽子 の方々と万が一にも険悪になりたくないです」
そう強く伝えるとなんとか折れてくれた。
とはいえリス子の立場が悪くなっただろうなぁ。
「何なら俺がアナタにも魔法教えようか?」
「えっ!?ほっ、本当ですか?何企んでやがるんですか?」
「勿論タダじゃ教えないけど。まぁ1回教える毎に一晩好きにさせてくれるなら考えてもいいよ?」
「こっ、この最低男~~~!!ついに正体を現したましたね!」
リス子は俺の言葉を聞いて笑顔、からの急転換で顔を真っ赤に染めて怒っている。
横ではノリックが頭を抱えてあちゃー、とでも言いそうな表情を作ってる。
「正体も糞も、俺はずっとこんな奴だけど?」
「いやイゾウ、おまえずっと猫被ってたじゃん。今日はずっとその感じでいくのかと思ってたのに。
何よりおまえ、別に女性に飢えてるわけじゃないだろ?
なんでそんな提案するのか意味が分からないよ」
おいおい何言ってるのおまえ?とでも言いたげな顔でノリックが言う。
元々は猫被ってすごすつもりだったんだけどね。
もう良いかなって。
どうせいつかメッキが剥げるし、この女すげー面倒臭いし。