講習の終わり
いよいよ講習が終わる。
その時はあっさりやって来た。
少し前からそろそろ終わるとは言われていたが、午前の講習をいつもどおり受けていると教官に組み手をすると何人かが声を掛けられた。
俺やガレフたち、成績上位のものであろう6人。いつもの面子だ。
ビアンカや元兵士の奴らはおらず、ユリウスやシグベル、ライアスはいる。
あとノリックとガレフに俺だ。
最後の試験は教官との 1 体 1 の真剣勝負。
ご丁寧に魔法課の教官が数人がかりで魔法結界を張り、救護院のお姉様&etcたちがゾロゾロと出て来てくれて準備万端。
くじを引いて相手を決めて戦わされた。
相手は武術課の教官が務める。立候補らしく濃い面子が集まっていた。師匠が全員参加とかマジ勘弁。
どうゆう選考基準なのかも、どれだけ出来たら合格なのかも何も教えられず、講習終了後自身が使うと決めた得物を使い、教官の胸を借りる事になった。
ライアスが教官長にボロクソにやられ
シグベルがガハハ髭教官に子供扱いされ
ユリウスは傷顔の教官に実戦の心構えを叩き込まれながら嬲られていた(多分1番惨めに見えた)
ノリック魔法を使おうとして、剣術を得意とする教官に完封され
俺たちの中で1番強いであろうガレフですら、あまり目立たない地味な教官に手も足も出なかった。
講習の最後に、俺たちの鼻っ柱を折るのが目的だったようで、圧倒的に力の差を見せつけられた。
俺の最後の相手はエクルンド教官だった。
彼は師ではない、どちらかというと兄弟子のような存在だ。
前世の俺と歳が近いこともあり、教官の中で話すことが1番多かったかも知れない。
そんな彼は教官の中で1番若い事もあって、講習生の中で最も食い下がれたのが俺だった。
負けたけどね。
なんとか一矢報いたよ。
「エクルンドは儂らの中では若いが、その分現役に最も近いんだけどな。」
という半ば呆れたようなお褒めの言葉を教官長から頂いた。
〝槍龍波〟の使用は禁止と言われてしまったので、〝魔剣グラム〟を用いたのだが、片手剣盾持ちのエクルンド教官とはバトルスタイルが上手く噛み合ったと思う。
「実戦のつもりで本気でやれ」と言われ救護員まで用意され、場を整えられたならばやらざるをえない。
俺も女の尻を追っかけていただけでは無いところを見せなければならぬ。
これでもオークグラジエーターと戦って以来、格上との戦闘は色々模索してきている。
ほんとだよ?
ちゃんと色々考えてるんだ。
ちなみに〝槍龍波〟はやり方によっては結界を簡単に消せるらしい。
とても良い情報を聞いたので心のメモ帳に最重要項目としてチャックしておいた。
模索してきたことを試す良い機会だと思う。
何しろ練習相手がいないので仲間相手には試せなかった、うっかり殺しちゃったら洒落にならない。
その点教官相手ならば遠慮は要らん。
間違い無くオークの上位種より強いし、万が一間違っても救護院から人が来てる。
使うのは〝氷の矢〟〝氷の盾〟〝氷の壁〟の3種類だ。
先日、大魔道のお二人と会ったときに、水を作ってもらっておいたので、それを浮かせ、魔法の起点に用いた。
攻撃は大剣両手持ち + 氷魔法 (主に氷の矢)
防御は 水魔法 + 氷魔法 (氷の盾 と 氷の壁)
というスタイルだ。
「初手は譲ろう」
そう言ってくれたのでありがたく〝氷の矢〟を展開した。
結論から言えばまだまだだ。
結局氷の矢も防御に廻して何とか粘れた。
だが手応えは確かにあった。
氷魔法は俺の最大にの武器になる。取得に容易く多彩な所が強みになる。
距離を取っての氷の壁は 近距離戦士への良い嫌がらせるになると確信した。
エクルンド教官には切り裂かれたが、いずれ成長すればもっと堅い壁が作れるだろう。
俺が相手よりも早く動ける限り、自分の前に出せる氷の壁は接近戦を好む相手を完封できる可能性が有る。
水魔法もそうだ。
今後魔法力を磨き抜いて、粘度のある水や酸に変化させられれば、直接攻撃系全般への強力な武器になるだろう。
ただの水でも、人間も口と鼻を水で塞いでしまえば必ず死ぬのだ。
最終的にはそれでも、剣術の腕の差で敗れたが、それも仕方が無い。
剣を持ってまだ大した期間が経ってない。
俺は何と末恐ろしい男なのだと、内心で自画自賛しまくった所だ。
持ち運びは不便だがやはり魔力の込められた水は常に側に置いておくべきだろう。
空気中に0から水を発生させるよりも、ソコに存在する水を扱う方が手早い。
これは水の〝神の寝床〟でない以上難しい。
常人よりは遙かに早いのだが、一長一短でも無いが得手不得手の中にもさらに長短がある。
そして全員の試験が終わると、講習の修了が告げられた。
翌日の夕方までに出て行けという、なんとも容赦の無い言葉と扱い。
教官たちはこうして最後の確認をしつつ、今後どんどん送り出していくらしい。
「それが冒険者だ。猶予をやるだけ優しいと思え」
との事。任務によっては打ち切りからの、即 放逐なんて事もあるらしい。
それに比べて俺たちは、翌日の昼に正式な冒険者証をもらえ、それから夕方までは猶予があるから恵まれているそうだ。
ちょっと違う黃もするが文句を言っても仕方が無い。
それからは講習を一切受けることは許されず、慌ただしく準備に走ていた。
俺とノリック以外は。
俺は隣のギルドハウスに入るので特にすることは無い。明日からそっちに移ると連絡を入れるだけだ。
手続きは融通を利かせてくれてもう済んでいる。
そして大魔道のお二人もとっくに住んでいる。会いに来た翌日には移り住んで怪しげな実験と研究を繰り返しているらしい。
管理人さんが自由に動けるようで、主契約者である俺に毎日報告に来てくれるというなんともいえない生活を送っていた。
俺に、では無く大魔道二人に融通を利かせたようなものだ。
当然それに不満を持つ者のヘイトは契約者である俺へと向かうというスンポーである。
そこに付いては考えても仕方が無い、諦める。
俺は関係ある人間に別れの挨拶を済ませ、一緒に住む者には先に行って待ってると伝えた。
最後の夜は講習を終える6人でしみじみ飲んだ。
ライアスは第1勇者であるアーネストさんのパーティに入る事が決まっている。
講習生 から 勇者のパーティは有る意味勝ち組コースである。
普通はまずそんなことは有りえないらしく、既に噂になっていると聞いている。
講習中に話題になったはずの俺の存在をかき消すほどのビッグニュースだとかで、是非話題をかっさらって欲しいと願っている。
その勇者のパーティだが 第2の勇者であるピーターさんは顔は出したが、講習生を本気で引き入れるつもりはなかったようであまり熱心でもなく、最終的に誰も引き入れる事はなかった。
熱心だったのが 第3勇者のローインさんだ。ほぼパーティが崩壊してるために熱心に誘っていた。
特にここにいる6人をだ。
全部断られてたけど。
俺は勇者パーティにはライアスしか紹介していない。
どこも癖がありそうなので、派閥の人間を廻すつもりは無かった。
本人の希望で無ければライアスも紹介したくなかったのが本音だ。
ローインさんには気の毒だが、しばらく耐える時期だろう。
ガレフとシグベルはしばらくウロウロするらしい。
再講習組の飲兵衛チームとガレフは任務をこなしながら酒代を稼ぎ、消えた仲間の行方を追うのだそうだ。彼はその為に冒険者になったのだから、自然な流れだろう。
傭兵だと拘束期間が長く人捜しに向かないらしい。特に日銭を稼ぐには向いてないのだとか。
その辺は傭兵経験が無いので分からないのだが、そうゆうものなのだとか。
シグベルも勇者を目指す男だが、下積みは嫌らしい。
ただライアスのやることに反発したように見えなくもないのだが、ライアスが決める前にエータを引き取ってくれている。講習前の付き合いで色々あったが、自分とは違う属性魔法が欲しいだろうシグベルと、前衛が居れば生きるだろう魔法特化予定のエータは良い組み合わせだと思う。
他にも何人かの講習生に声を掛けていた。同期でパーティを組むのだそうだ・
今後入れ替わりもあるだろうが、しばらくはこの街を拠点に任務を受け、腕を磨く事になる。
ユリウスは元兵士組を含む講習生とパーティを組むことが決まっている。
俺の所と同じく10人パーティだ。
もうチームと言ってもいい。
子爵の娘のコネをフルに生かし、最大速度で冒険者ランクを上げるのだと、あの女が宣言していた。
確かに結果としてはそれが1番早く確実だろう。
案としては悪くなく、あの女を少し見直した。
これは〝ギルドハウス〟に放り込まれた俺が出来ない事なので、是非頑張ってもらいたい。
何しろランクを上げると自動的に追い出されてしまうのだ。悲しいなぁ(棒読み
放り込もうとした女子4人のうち、2人は放り返されてしまった。
それでも2人は残ったから、何とかなるだろう。
俺の息が掛かっている幽木女と、服を剥ぎ取ってオークと戦わせた3人のうち1人がユリウスのパーティには正式に加入は認められなかった。元兵士の奴らの強硬な反対にあった。
残念だが、俺の息が掛かってるからこれは仕方無い。
そうゆう意味ではこの2人は目が覚めているとあっちが宣言しているようなものだ。まだ洗脳が残ってる感じの2人だけ受け入れられた。
元兵士が5人でその2人、さらにユリウスで8人。
元兵士が目をつけてた奴が2人参加するようだが、誰だかは把握していない。そのうち会うだろう。
流石にそこまでは俺も聞かせてもらえていないし、興味も無い。
少し講習の修了は遅れるがビアンカたちもパーティを組むそうだ。
全員女子のレディースチームだ。
ビアンカには提携を持ちかけたのだが、バッサリ拒否された。
最近どうも敵対心が剥き出しになり、少し話にくい。
心当たりは無いのだが、オーク掃討任務以来関係は宜しく無い。
メアリーとは裏でコッソリ連絡を取ってるから問題は無い。が、少し寂しい。
メアリーも魔力が増え、魔法も覚えつつあるので無理しなければ大丈夫だろう。
何かあればサポートはするつもりだ。
特に講習後旅立つ、なんて奴はいないので、今後もちょこちょこ顔を合わせるだろう。
ビアンカの所は〝ギルドハウス〟も誘ったのだが、その話を聞くのも嫌だと即答で断られた。
街の宿よりは安全だし、課題任務も一緒にやればたいした問題にならない無いと思ってる。
5こも10こも同じだ。たいした違いは無い。
むしろ課題は5こづつしか増えないのだから、複数パーティで積極的に協力していくべきだと思っている。
なのでしばらくして色よい返事をもらえなければシグベルたちにも話を通すつもりだ。
ユリウスには既に断られた。パーティのコンセプトが真逆だから仕方が無い。
ダメ元だったし。ランク上がるまででもと思っただけだ、扱いやすいし。
ノリックは俺と〝ギルドハウス〟に入る。
俺たちの次に講習を終えるとしたら ギュソンとアニベルの神殿兄妹であろう。
上手く行けばクィレアとセレナ辺りも期待出来る。
先に行って下準備だ。
部屋割りを工夫し、男性エリアと女性エリア、そして共通エリアを決めた。
女性エリアに入らないように厳しく2人には言いつけてある。
俺? 俺は部屋の主の許可を得た場合だけそこに行ってもいいという特例だよ?
許可しないって言われてるけどさ。
我が儘だが仕方有るまい。そうでもしなければ欲求不満で死んでしまう。
タダでさえ面倒事を抱え込んでるんだ、目を瞑って欲しい。
ちなみに最低限の家具は備え付けなので、着の身着のまま行くだけでいい。
生活するだけならば、だが。
大魔道の様に研究用の部屋にするならそれは自分で用意する必要がある。
大人だしそれ位の金は持っているだろう。
俺にも1セット買ってくれとおねだりはしておいた。
実は少し期待してる。
俺は俺で研究したいし、出来るようになりたいと思っている。
最後の夜は互いに夢を語り大いに飲んだ。
そして改めて協力を誓い合った。
代わりに裏町に作った氷の壁の魔法の種明かしを迫られたが。
大したネタでも無いので教えておいた。
俺たちはいつか、力を合わせて大きな事を成し遂げる。
今日明日で講習は一度〆ます。
長いことご愛読ありがとうございました。
まだまだ続きます。
講習に戻ることもあるので、ご理解の程宜しくお願いしますm(_ _)m