ギルドハウス 3
「それじゃー見に行きましょうか。」
というサブマスターの一声で現物を見に行くことになった。
基本関係者以外立ち入り禁止なのだが、そこは冒険者ギルドナンバー2、顔パスである。
この〝ギルドハウス〟 呼称の通りで、ギルド所有の施設である。
第3地区の、現在講習を受けているエリアに隣接しており、無駄に広いギルド所有の領域の中にある。
当然のことながら過去に起きた紛争の時に手に入れた土地だそうだ。
ちゃっかりした組織だとつくづく思うが、そうゆう組織こそ強い。
何よりの特徴は第2地区と第3地区を分ける防壁の側にあること。
道を挟んで反対側には防壁があり、ハウスを囲む塀の向こうでは常に兵士が巡回している。
平時であれば、安全な住処だと言える。
前回の任務を受けてなければ手放しで喜べた。
もしここで防衛展開されたら真っ先に逃げる必要があるのだが・・・・・
そんな場所にサブマスターことお嬢が強権を発動して立てた20のギルドハウスが建つ。
遠目で眺めるだけでも、見るからに立派な建物で、冒険者が住むような家には見えない。
それぞれ6人~10人用の建物に別れており、パーティの規模で自由に申請できる。
申請した人間しか出入りが出来ないので友人知人を呼ぶことも出来ないがそこは仕方が無いだろう。
でなければそのまま居座る人間が現れて、それもまた問題になりそうだ。
各ハウスに執事、とまではいかないが、色々な手伝いも出来るという管理人が1人
家事を行うハウスキーパー、女中のような存在が2~3人 在籍している。
他にも〝ギルドハウス〟内のエリアを管理する警備員や植木職人まで存在するらしい。
それを冒険者ギルドの経費で賄っているというのだから、ケチがついて当然だろう。
間違い無く俺がギルドの職員なら無駄金だと糾弾する。
サブマスターの後ろを歩き、揺れる尻を視界に収めつつ、周囲もしっかり観察する。
浮かんできた感想がそれだ。
尻はいい。素晴らしい形をしている。
だがやってることはまるで駄目だ。
正直協力したくない。無駄に広い土地があるとはいえ、こんな事に使ってはいけないと思う。
アパートでも建ててて、格安の宿屋にでもしたほうがよっぽど有意義だと思う。
だが、権力者のアホな発想の尻ぬぐいをするのが下っ端の役目である。
協力関係を約束したのだから仕方有るまい。
となると前向きに考える必要がある。
このギルドハウスで働く人間の雇用を生み出している。それがサブマスの言い分だ。
本人にとっては戦争被害者の救済の策なのだろうが、俺から見れば自分シンパの者への利益供与でしかない。
前向きに考えるつもりが、悪いところしか目に付かなくて困る。
何しろそうやって職をもらった存在が働くべき職場が、13戸も空いているというのだ、空いた口が塞がらない。
まず全部埋めるのは必須。
そして定期的に入れ替え、かつ申し込みが増えるようにしなければならぬ。
頭痛が痛い。
そうこう考えてると尻が止まる。違った、サブマスの足が一軒の邸宅の前で止まった。
「ここが10人パーティ用のギルドハウスよ。」
胸を張ってそう言うが、正直その様が馬鹿に見える。完全に資産の無駄使いだ。
駆け出し冒険者が住むような家ではない。想像以上の豪邸だ。
10人パーティの冒険者が住む家は、ギルドハウスの中でも最大。
よくもまぁ駆け出し冒険者にここに住めと言えたものである。
お嬢様として生活していた女に庶民の暮らしを理解しろと言う方が難しいのかもしれない。
家を見てよく分かった。
こりゃ残ってる7パーティは間違い無くここでの暮らしを維持するために、新規で入った者たちを追い出していると確信する。
こんな所に住んでしまえば感覚が狂ってしまうだろう。
身の丈の生活とても大事。甘味はやはり人を狂わせるのだ。
サブマスの到着と同時に執事っぽい爺さんと、メイド服を着た女性が3人外に出て来て挨拶をしてきた。
あれが管理人とハウスキーパーか。
10人用ハウスだからキーパーが3人いるらしい。サッカーなら反則だな。
案内されて中に入る、言葉にならないくらい凄かった。
まず10人全員の部屋が各一部屋あるという。
さすがに部屋の作りはそこまで変わらないらしいが、それでも個人の部屋で10室。
中には広いリビングがあり、食堂までもがあった。
何故に?
ゴメン、本当に意味が分からない。
低ランク冒険者なんか相部屋で充分、二段ベットにでも押し込んどけばいんだよ。
実際初心者講習じゃそうしてたじゃねーか。
作るならアパートで良かったんだ。相部屋で二段ベッドで、風呂トイレ共同くらいから始めりゃ良いんだよ。
特に馬鹿だと思ったのがリーダールームだ。20戸のギルドハウス全てにあるらしい。
「作戦室とか資料室としても使えるのよ。必要でしょ」
という有り難いお言葉を頂いたが、絶対に必要な時は来ない。来るとしたら無理に使うときだけだ。
低ランク冒険者なんて安酒場で飲みながら打ちあわせれば良いんだ。
これだから世間離れした女は困る。何故に誰も止めなかったのだ。無駄の極みである。
つまりここに入居すると俺は自室とリーダールームと2部屋使えるらしい、要らね。
ここは倉庫だな。と思ったのだが、倉庫も当然のように別にあった。ホワーイ何故に?
そして大魔道が目当ての研究室。
実際は研究室では無いようだが多目的の為の広めの部屋が10人用のギルドハウスにのみ2室付いているらしい。
課題任務を手伝う気は無いのに、当然のようにその2部屋を各々の研究室にするつもりでいる大魔道。
色付きの大魔道も、当然のように感覚が浮き世離れしているようだ。
サブマスターとは違うベクトルで色々頭がおかしい事が分かる。
だからこそ街を焼いたり借金したりするんだろうけどさ。
部屋割りも既に決まっているようだ。喧嘩すること無く上手に割り振れるのだから仲が良いことで。
俺の許可はどうした?
正直、部屋割りで揉めて喧嘩になってご破算にでもなれば良いと思ってたのだが?
間取りが同じだから当然と言えば当然か。
2人の大魔道は上機嫌で部屋のレイアウトを考えている。
今さら反対は難しそうだ。
「ちなみに10人集まらなくてもここ借りれるんですか?」
「何言ってるの、駄目に決まってるのよ。アナタと大魔道のお二人で3人だから、あと7人しっかり集めるのよ?」
低ランク冒険者に不釣り合いな建物を作るくせに、融通は全く利かないらしい。
チカチーノ、クィレアに聞いてみるとして、マナとセレナはどうだろうか。
それでも4人だ、他に3人必要。
そろそろ講習後の事を考え始めている時期だけに、当たるとなると少し遅いな。
派閥の人間も所属先が決まりつつある。
今さらこっち手伝え、というのもバツが悪い話だ。
頭の中で算段を組み立てていると、管理人のジジイと、女中の三人から丁寧な挨拶を受けた。
どうにも空き家の管理だけでは働いた気がしないらしく、入ってくれるならとても嬉しいとのご挨拶だ。
そりゃーそれで給料もらってれば気まずいだろうな。そのくらいの良心はあるようだ。
是非に。と強い視線で頼まれたが、もうその時点でこの〝ギルドハウス〟という制度は機能不全なんだよな~
ハウスキーパーは三人とも30代前半~後半。
未亡人が多いと聞いているが、想像よりも若かった。
俺の感覚では若いが、こっちの世界では結構なおばさん扱いになる。
再婚も難しい年頃だ。
医療が発達していなければ高齢出産も厳しいだろう。
どっかのご隠居の後妻とかにでも押し込めば、とも考えたがそもそもの話でご隠居が稀だ。
高齢になり引退したあとの、穏やかな老後。
そんな生活が出来る者は一握りの成功者だけだ。
そう考えると、お嬢のこの政策は愚策だが、まるっきり駄目でも無い。
やり方は賛同できないが、未亡人が売られる前に助けている、とも言えなくはない。
本当は金がある奴が、売られる社会をどうにかするべきなんだけどね。
問題は20戸のギルドハウス分の人数しか救済出来ないことだが、そっちは裏町で何とかしよう。
同時進行はキツいけど、流れさえ作ればなんとかなると思える。
課題任務 そして 先輩冒険者の先住民
極論で言えば、先輩を〆れば終わる。 簡単だ。
最も最後の手段ではあるが。
何とかする、ではなくて立て直すを優先する必要がある。
〆るのは確定だけど。
10人の枠があるのに、2枠は労働力にならない事も確定。
だが指導はしてくれるらしいので、そこの分を差し引いてどう取るか。
残る8枠で、課題任務分をこなす労働力を確保。
追加の講習も受けたいから、他にも任務は受けてその費用も稼ぐ必要がある。
週に一度の課題と言うことは、そこに時間を割けば自分の事に使える時間はどんどん減る。
何よりも入居の前に10人揃えなきゃいけない。
裏町の件も動いているのに、ここでまた面倒な仕事が増えるとは。
ちょっと急いで動きすぎたかもしれない。
週末にかけて投稿する予定です。