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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
4章 裏町を掌握せよ!
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オークの残党を討伐せよ 9



「マジかよ・・・・・・ 氷が・・・・・・道を封鎖してやがる・・・・・・」


講習生にとってオーク討伐任務二日目に当たるこの日の朝。

元イゾウ派閥で幹部の役に就いていたヘンリーという名の男は目の前を塞いでいる氷の塊を見て、思わず呟いた。

昨日、自分が少し前まで所属していた組織の縄張りがある、この道の先の地区で大騒ぎがあったと報告があり、確認の為に忍び込もうとし、する前に頓挫した。


「リーダー、他の道を見てきた奴の報告だとどこも同じような惨状らしい。

触った奴も凍っちまうらしい。近づかない方がいい。」


「おっ、おぉ。そっ、そうなのか・・・・・・参ったな。

はー・・・・・・まさかもう戻ってくるとは。」


ヘンリーはイゾウに吸収される以前から連れている部下に注意を促され慌てて少し下がった。

興味本位でうっかり触りそうになっていたから。

その氷を誰がを思いつけば、信じられず手が伸びかけていた。


圧倒的質量の氷の壁。 自分が立つ道の先を完全に塞ぐほどの。

その存在感に息を飲む。


「・・・・・・やっぱりイゾウの旦那ですかね?」


「他にいないだろう。旦那、いや元ボスは氷の神の使いだって言ってたしな。

別に疑うつもりは無かったが、ここまで出来るとは・・・・・・思いもしなかったな。

見誤ったか。」


「失敗しましたね。こっちの組織の奴を引き抜いて、イゾウの旦那が戻る前にはあっちに戻るつもりだったってーのに。

ザーノアに意見するには数が必要だからってわざわざ裏切った振りをして潜入して集めに来たのに。

勧誘も上手くいきやせんし、旦那は戻ってきちゃうし。見て下さいよ、氷の中。」


部下が氷の中を指で指し示すが、ヘンリーは顔を背けた。

先ほどから敢えて視界に入れないように努めていた。

その理由はただ一つ、氷の中には有ってはならないモノが存在しているからだ。


「言うな。見ないようにしている。」


「いや、現実を直視しましょうよ。アレ、あのおばばのところの奴らですぜ。」


「分かってる、だから言うなっての。

もしかしたらアレは俺たちにまっている運命かもしれないから、俺は絶対に見たくない。」


「旦那の性格考えりゃ、そうなりそうですね・・・・・・どうします?逃げますか?」


目の前にある氷は、ただ道を塞いでいるのでは無い。中には見たことのある顔が存在している。

ヘンリーにとっても憎たらしかったおばばと呼ばれていた老婆が連れていた有象無象。

そいつらが数人、連なって並び氷の中にいるのである。それも全員が傷だらけだ。

見てすぐ分かる程度には重傷で、なのにそれが凍りついている。

凍りつく寸前に余程怖い物でも見たのだろう。その表情は一様に恐怖で固まったままだった。


そしてその怖い()に、ヘンリーとその仲間達は心当たりがあった。

彼らの顔にも同じように恐怖が浮かぶのは、有る意味当然のことだった。


彼らは本気で抜けたのでは無い。あくまでもザーノアの方針を否定するための行動だった。

イゾウが戻ってくるまでに自分に賛同する人数を増やし、意見を通す。

その為に一度離れることを選んだ。

知人が所属している、縄張りを攻めてきた派閥、それを選び移籍している。

たとえ一時裏切ったと思われても、イゾウがいない間を選んでに攻めてくるくらいには、イゾウに関心のある所でならば勧誘できる芽があると思ったからだ。


だがその勧誘自体は上手く行っていない。


こんなことが出来る存在に強い心当たりのあるヘンリーとその仲間達は、その惨状と自分たちの現状を見て血の気が引いた。

至極正確に犯人の姿形が思い浮かぶからである。


氷の中を見て、ざまーみろとは思えなかった。

次は自分たちがそうなるのだろうと、簡単に想像がつく。

その考えに行き当たり、口数はどんどんと少なくなっていった。







「ヘンリーか?」


どんどん暗くなっていく彼らの思考を他所に、氷の壁の向こうから声が掛かった。

その声にヘンリーたちは聞き覚えがあった。

青く透き通った氷の壁の向こうに、厚い氷越しに人影が見えた。

その影には尻尾があり、頭には犬耳がある。

その姿を確認し、一瞬身構えるも、掛けられた声に敵意は感じ無かった。

自分たちの思考を他所にその声は明るい。


「構えるなって。喧嘩するつもりも無いし、この氷には絶対触るなよ。取り込まれるぞ。」


「ベス・・・・くん!?なんでここに?」


声を掛けてきたのはベス。犬獣人のリーダー的存在だった男だ。

実は前日にイゾウより制裁を受けているのだが、ヘンリーがその事を気がつかないくらいその姿は元気そのもの。表面に傷など全く残っておらず、生き生きとしていた。


「何でも糞も、縄張りに続く道だから見張りがいるのは当然だろ?

ってのは建前でお前に伝言を預かってきた。旦那からだ。」


道を塞ぐ氷をよじ登って超えてきたベスが氷の上から滑り降りてくる。

触るなと言った当人が触れている。

だが彼が凍る気配は無い。それどころか冷たさも感じているように見えなかった。


「イゾウの旦那・・・・・・やっぱり帰ってきてたのか。」


「あぁ。で、塞いだ道をそのうち見に来るだろうからって1人ずつお前を知ってる顔が配置されてるよ、俺の所にきてくれて良かった。伝言だ。

『そっちにはしばらく攻め込まないから、もうしばらくは潜ってろ。結果を出すまで戻ってくるな。』だそうだ。」


「『戻ってくるな』か・・・・・・。やぱり物凄く怒ってたかい?

次は俺たちが氷漬けになるのかな_?

なぁベスくん、勝手な頼みだとは思うけど、やるんなら俺だけで堪忍して欲しいんだ、他の連中のことは見逃してくれるように旦那に頼んでくれないかな?」


ヘンリーが覚悟を決め、泣きそうになるのを堪えながらベスに声を掛けると、ベスは軽く笑いながら答えた。その顔には悪意が全く浮かんでいない。

むしろヘンリーの言葉を聞いて面白そうに答えている。

ベスにもヘンリーが何を考えているのかが想像出来たのだろう。


「なんか勘違いしてないか?

旦那は別に怒ってないぜ?」


「えっ!? どうゆうこと?」


「確かに帰ってきたイゾウの旦那は怒ったけど、相手は主に俺とザーノアに、だったからな。

あんなババアと手を組んでんじゃねーよってさ、俺たちがぶん殴られたよ。

もーボッコボッコにされたわー。容赦なし。

ま、色々あってなんとか許してもらえたんだけどさ。


で、おまえらのことはそのうち戻ってくるだろうから放っておけってさ。

本気で抜けたんじゃ無くて、多分人数を集めに行ったんだろって。

こっち側を封鎖して反対に侵攻するからって、わざわざここにコレ作ったんだよ。

お前がそっちの組織の奴を説得するのに旦那の怖さが分かる物が有った方がいいってさ。」


「まっ、マジかぁ・・・・・・旦那、分かってくれてたんだ・・・・・・」


「お!? なんだ本当にそうだったのか?」


「当たり前だよ。前にあんだけボロクソにやられたのに今さら逆らおうなんて思うわけないじゃん。」


「そうなんだ。流石は旦那、と言いたいところだけどさ。まー悪く取るなよな?

多分旦那にとっちゃ、どっちでも良いんだと思うぜ。

もし違ってたらどうなるか、想像出来るだろ?」


「あぁ・・・・・・やっぱり次に凍らされるの俺たちだった?」


「はははっ、それだけで済めば良いけどな。

そこで凍ってる連中、旦那が戻ってくるついでに潰した、戻ってくる道の途中の組織の連中がまじってるんだけどさ。」


「うん・・・・・・」


「凍らされたのは一部のみなんだ。

で、他の奴らがどうなったのか聞きたい?」


ニヤリとベスの口元が嫌らしく釣り上がってヘンリーに問いかける。

その顔を見ては悪い予感しかしない。


「ごめん、聞きたくない。言わなくていい。」


ヘンリーは反射的に首を左右に振って拒む。

だがベスは笑いながらヘンリーの肩を抱いて言葉を続ける。

最初からヘンリーの返事など聞くつもりは無いのだろう。

むしろ話したくて仕方が無い。そうヘンリーの部下達には見えた。


「【 羊小屋 (シェプコット)】へ向かう途中に縄張りがある組織に突っ込まされたよ。

片っ端から問答無用でさ。戦闘員も、非戦闘員もじじいもババアも、男も女も。

子供は流石に突っ込ませなかったけど、荷物運んだりさせてさ。

一言でも逆らったら、顔を十字に切られて、挙げ句氷の壁の材料だよ。

黙って攻め込めば、そいつは見逃してやるって言ってさ。


昨日、一日で 【 羊小屋 (シェプコット)】まで縄張りが広がった・・・・・・・

旦那、帰ってきたその日に、だぜ?ありえないよな?」


「俺言わないでって言ったよね?

なんだよそれ・・・・・・滅茶苦茶だ。」


ベスは柴犬の血が濃い獣人だ。その特徴を強く象徴している犬耳が誇らしげにピンと立っている。

そして尻尾が左右に大きく振れている。

犬獣人の中でもベスは機嫌が特徴に現れやすい。

対しヘンリ-たちは、この世の終わりを見たような顔になる。

それを見てベスの尻尾はさらに振れた。


「初めて来た時も俺たち犬人自由連合(ドッグフリー)も同じ目に合ったからな。今思うとまだマシだった。 ザーノアたちの組織嗾けられて・・・・・何だこの悪魔! と思ったもんだ。


今回は他に講習生連れてきててさ、そいつらも旦那の部下なんだって。人手があるから前回と同じ事してもやることの規模が遥かにデッカくてさ。その分容赦も無かったよ。

本当、あの人おっかないわ。いやー、絶対逆らわない方がいいと思うよ、うん。」


そう言ってニカっと笑うベス。

その顔を見てヘンリーは少し苛だった。

制裁を受けたことを知らないヘンリーに取ってはベスは変わらずイゾウの部下だ。

そのベスから伝言を受けたとは言え、ヘンリーが組織を抜けてしまっていることには変わらない。

そして、イゾウに配下を嗾けられた恐怖は、ベスよりもヘンリーの方がよく分かっているのだ。

前回最後に吸収された者たちこそ彼ら、ヘンリーが率いていた派閥だ。

ザーノアたちハーフドワーフ兄弟の派閥だけで無く、ベスたちの犬人自由連合(ドッグフリー)、さらにはディアスたちもそれに参加していた。

その時にはイゾウは最前線でノリノリで大暴れしていたのだ。


言われなくてもとっくに逆らうつもりなど無くしている。それでもどうにかしたい気持ちが残っていたために裏切るような形の行動を取ってしまったのだ。

ザーノアだけで無く、一緒におばばに媚びていたベスにも思うところがあった。

だが、今の状況でベスに文句を言うわけにもいかない。

それが自分で分かっているためにヘンリーは内心にドス黒いものを感じていた。


そんなことを気づきもせず、ベスは上機嫌で話を続ける。



「まーだから、『縄張りが広がった分、手が要るから数を揃えて戻ってこい』って意味だと思うぜ。

今俺が話したこと、周りによーく教えてやった方がいい。

今またあちこちの組織吸収し始めたから早めに戻ってこないと、立場がどうなるかわからないから、なるべく急いだ方がいい。

特に今、超不機嫌だし。」


「なんで? 縄張りが広がったんでしょ? なのに機嫌悪くなったの?何で?」


「【 羊小屋 (シェプコット)】までは一気だったよ。

先に無理矢理従えた奴を攻め込ませて、攻め込んだ先の奴らを治しては、またさらに攻め込ませる。

旦那の得意のやり方だ。

それを繰り返して本当にあっという間だったんだ。怪我した奴は旦那が片っ端から治してさ。

怪我しても何度でも戦わせるし、

今日は治さないって言ってた重傷で寝込んでた奴らも全部治しちゃってさ。

その上で逆らう奴はみんな氷漬けにしまくってるのに、魔力全然切れないんだよイゾウの旦那。


俺たちやられたし、自分もやらされたからよく分かるんだけど、あれ怖ええんだよな。

『怪我した、痛ぇもう動けねぇ、でもコレで少し休める!』と思ったら旦那が近づいてきてさ。

一言だけ・・・・・・『行け』ってさ、それだけ言われるんだ。

その顔が普通に笑って言うから、超怖ええんだよ。

頭から水をぶっかけられて・・・・・・


『立たなきゃ殺される!』

って思って必死で立つんだけどそんときにはもう怪我が治っててさ。


『治ってる!』と思って振り向いたら旦那は次の奴に近づいていって・・・・・・

あん時心の底から『あぁ、敵を全部倒さないと、本気で死ぬまで戦わされるんだ!』って思ったモン。


今回はそれだけじゃなくてよ。

逆らおうもんなら見せしめに、進むのに邪魔な横道を塞ぐ材料にされるんだ。

元から配下だった俺たちだって旦那のその姿には恐怖しか感じなかったんだもん、敵だった奴らはもうご愁傷さまだよな!

そんなの見せられたらもうただひたすら、 羊小屋 (シェプコット)目指して真っ直ぐ進め!!!って雰囲気にしかなんなくてさ。


とりあえず逆らわなきゃ怪我しても治してはくれる。

でも逆らった氷漬け。


どんどん攻める数が増えて進んで行って。

俺たちも留守番以外は着いてったんだけど、恐怖が広がっていくのすげー伝わってきたもん。

恐怖が勢いを加速させて・・・・・後ろが怖ええから、ただ目の前の奴に何も考えず突っ込んで行くんだ。」


ベスも思い出したのか、真剣な顔になっている。

耳はひくひく動き、眉間に皺が寄り、イゾウの話になるときは尻尾が止まり、猫のように逆立っていた。


「あはっ・・・・・・・は、ははっ、マジかよ。」


真剣な顔で話すベスの言葉にヘンリーは言葉がでない。

ベスとの付き合いは短いが、こんな時に嘘を言うような男では無いくらいはヘンリーは知っている。

なにより、旦那と呼ばれる男がそれを実行する男だからこそ、ヘンリーは従う事を選んだ。

外に出ている状況が、彼の心を酷く焦らせた。

だがベスの話はまだ続く。


「攻め込めば隙を突いて逆に攻めこもうとする馬鹿な奴らもいたんだけどさ、通った後は横道が全部旦那の氷魔法で塞がれてる。だから横から攻め込てくることは出来なくてさ。

横道が塞がれてるから当然、来れるのは正面か後ろだけになるわけじゃん?

前はどんどん数が増えてってさ、それを見れば当然、敵は数が少ない後ろに廻ってくる訳よ?


一番後ろはイゾウの旦那で。

旦那に追いつかれた奴は・・・・・・・まぁ聞くな。

当然旦那を目指して襲ってくるんだけどさ。


そこを旦那はあの吹雪を起こす魔法で軽く一蹴よ。

比較的後ろの方に位置してた奴らはそれを見てすげービビってさ、前の奴を追い越してどんどん前に進んでいく訳。想像着くだろ?

サボってたら殺されるとか思ったんじゃねーかな~。前へ前へ加速していく。


で、イゾウの旦那は後ろから攻めてきた奴らにも言う訳よ。

『お前らの縄張りもこの魔法で荒らされたくなかったら 羊小屋 (シェプコット)まで道を作るのを手伝え、手伝ったらその後は解放してやる』って。」


「・・・・・・」


ヘンリはーもう言葉もでない。

対しベスはどんどん饒舌になっていった。自分の事のように親分であるイゾウの武勇伝を語る。

その顔はとても楽しそうだ。誰かに話したくて仕方が無かったのだろう。

こんな話、自分の縄張りの外にいる人間にしか話せない。

なにしろ中の人間は殆どが当事者なのだ。



「【 羊小屋 (シェプコット)】までの5組織。横から攻めてきた3組織。

最後に【 羊小屋 (シェプコット)】の周囲にあった7組織。

どうなったか、知りたい?」


「聞きたくないけど・・・・・・どうせ言うんだろ?」


「まぁこれは知らない方がいいかもな。

まぁそんな訳でマジで早く説得した方がいい。」


「アレ?言わないの?で、結局なんで不機嫌なのさ?」


「あー。【 羊小屋 (シェプコット)】の中のオークは旦那が連れて来た講習生が全部殺したんだ。

崩れたところも旦那が氷を作って塞いでくれてさ。

そっちも大変そうだったんだぜ?

イゾウの旦那、わざと少し怪我させたオークをさ、連れてきた講習生と戦わせるんだよ。

少しずつ怪我を軽くして行って、何度も何度も。

講習生の子ら、特に女の子が泣いて頼んでも絶対止めさせなくてさ。死にたくなければ戦えって。

それはまぁ講習生の子らの話だから良いんだけど。

俺らも途中で追い出されたから全部見てたわけじゃないし。


不機嫌なのはチロの馬鹿がさ、旦那の氷魔法で鍵を作れば入口を開けられるんじゃ無いかって提案しやがってよ。

それを聞いたときは俺らも名案だって思ってさ。

もうなんかそんときには開いた気になって、みんな大喜びしたよ。

これで安全に寝れる場所が手に入るって。旦那に着いてきて良かったって。」


「おぉ。それは凄いな、流石・・・・・・イゾウの旦那だね。」


ヘンリーも【 羊小屋 (シェプコット)】の話は知っている。

この辺りで持ち主がおらぬ、頑丈な建物などはそうは無い。

ソコの鍵を解錠出来るとなれば、羨ましい話だ。安全な寝床。

裏町の人間が最も欲っしているものがそれだろう。


「提案したチロはもうどや顔でさ。あの顔はムカついたけどな。

だけどそう上手く行かなかくてよ。

壁とかでっかい物なら一瞬なんだけどさ。どうも旦那は氷で鍵を作るような細かい魔法操作は苦手みたいでさ。

この壁だって最初はちょっと時間掛かってたけど【 羊小屋 (シェプコット)】に着く頃には一瞬で作れるようになってたし。

けど、鍵みたいな細かいのは苦労するみたいでさ。

やってるうちにどんどん不機嫌になっててさ。

旦那が苦労して鍵を作ってくれたは良いけど、今度はその作った鍵が、刺して廻した瞬間にポッキリ折れちゃってよ。あんときの空気は参ったよ。誰も何も言えなかった。

講習生の子達がいなかったらどうなってたか。俺たちだけじゃ絶対宥められなかったぜ?」


「・・・・・講習生の中に旦那を宥められる人がいるんだ?」


「うん、ユリウスくんって仮面の子がいて友人だから、一緒にいないときでも丁重に扱えって言われてる。あとまぁ講習生の子らも普通に旦那のこと呼び捨てだし、普通に話してるよ。

だからそれは良かったんだけど。


そのあと何故か、すんげー複雑そうな顔で改めて鍵を作ってくれてさ。

今度は土魔法らしいんだけど、そっちは上手く行ったんだよ。割と簡単そうに。

何個か予備の鍵まで複製して作ってくれたし。おかげで今はあっちに拠点を移す計画になってる。


でもその後はもう俺ら近寄れないくらい不機嫌でさ。」


「は、はは・・・・・・土魔法も使えるんだ・・・・・」


「なんか土の精霊魔法らしい。ちょっと違うんだって。

俺たちには見えないけど、旦那には精霊が見えて条件付きでその精霊の力を借りれるらしい。

でもあんまりやりたくないんだってさ。

仮面の講習生の子、ユリウス君がずっと宥めてたよ。あの子いなかったら普通に暴れだしてたんじゃ無いかな。八つ当たりで!

ちなみにその子はイゾウの旦那より強いんだって。他にも似たようなのがゴロゴロ在籍してるってさ。

今回の講習生半端無いらしいよ?」


「は、はは。うん、うん。 ベスくん。

ヘンリー以下5名こちらで必ず結果を出して見せますって、イゾウの旦那に伝えて欲しい。

離れても俺たちの忠誠は旦那の元にある、と。」


もう何も言えなくなったヘンリーはイゾウへの伝言をベスに頼む。

此処にはいない主に向かって平服の姿勢を取るが、それはまるでベスに頭を下げているようだった。

その姿を見てベスは胸と耳を張って言う。


「おう!任せろ、ちゃんと伝えるぜ。

あとちなみにこの氷の壁、作るときに旦那の前にいて、その時に指定した人間以外が触ると巻き込んで凍らせるらしいからお前達は絶対に触らないように、な。

邪魔になりそうな奴を上手く騙して嵌めちまえって言われてる。

だからくれぐれも()()()()()よ?」


「うん、ありがとうベスくん。

結果を出して必ず戻るよ。」


「そーしてくれ。」と言ってベスは器用に氷の壁を登って戻って行く。

ヘンリーはそれを見ながら「獣人は寒さに強そうでいいな。」と思う。

同じ事をすれば、獣人では無いヘンリーにはかなり堪える冷たさだろう。

氷の中に巻き込まれなていくても、近くにいるだけで充分冷気を感じる。




氷の壁のその向こうで起きた出来事を手土産話に、ヘンリーはこの後イゾウ派閥への鞍替えの勧誘にさらに力を入れる事になる。


明日も投稿出来たらいいなと思ってはいます。

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