体重計の無い世界で
朝走り、飯を食べる。ある意味喰わされる。
皿が空くと無理やり目の前の皿に入れられてしまう。
仕方無く食べる。
するとまたよそわれる。まるでわんこそばだ。
ただし終わりを示す蓋は無い。
それでも4回お代わりすれば終わるからまだマシか。
俺だけが4回のお代わりという理不尽さがなければもっと・・・・・
量を食べる食事にもだんだん慣れてきた。
この世界には体重計が無いので気にしないで生きるわ。
多少の増加は気にしないことにした。
鏡は欲しいけど。
見た目が大きく崩れるのは嫌だ。
ナルシストが入っているのは自覚している。
思春期なんてそんなもんだろ?
とりあえず体重計は要らない、作ろうとも思わない。
そして仕事が始まる
午前中頑張って働く。食べた分は動かなければ。
昼になると昼飯も喰わされる。
朝と変わらずたくさん食べる。食べさせられる。
二日目以降は食後に極道コンビによる鬼鬼訓練が加わった。
腹が苦しいなんてお構いなしだ。
俺に拒否権は無い。
たしか自主性が大事とかなんとか言ってたけどね。
勇気をだして聞いたら「知らぬ」と瞬殺された。
食後の今、腹を殴られたらリバースする。
してしまう。
できてしまうのだ。
それはもう盛大にゲロゲロだ。
だが昼には直接コンタクト系の訓練はなかった。
教官の顔にでも盛大にリバってやれば手を抜いてくれるかと考えていたが甘かった。
してたらしてたで死ぬ寸前ギリギリまでやるような訓練が追加されていただろう。危なかった。
昼の訓練は準備運動に素振りをして、型の練習をいくつか繰り返させられた。
これは回数が決められておらず、極道コンビが満足する動きが出来るまで繰り返さなければならない。
槍と剣、両方を。
訓練自体は問題ない。
型は大事だ。1人でもできる訓練だが、間違っていないか確認してもらえるのは有り難い。
間違った動きを覚える前に修正してもらえる。
ここで極道コンビが競い出すと、途端に面倒くさくなる。
「ふむ、コゾウは槍が向いているようだな」とか
「いや、初めてすぐこれだけの動きが出来るのは剣に向いているからだ」とか
言い合いを始めないで欲しい。
するなら俺のいないところでにしてくれ。
気になって大体その直後に、動きが変になって盛大にお叱りを受ける。
別にどっちかしかやっちゃいけない何かのゲームみたいな制限が無いのなら両方覚えておいて損は無いと思っている。
だからどっちもちゃんと学ぶつもりはあるのだ。
独特の緊張感の中で訓練を終えると、夕方までまた仕事をする。
皆がシャワーを浴びている間に槍か剣どちらかを真剣での試し切りを練習する。
試し切りするものは極道コンビが用意してくれる。
木剣や木槍をいくら使えても実戦では意味が無い、とか言われて。
刃の立て方とか、突き刺し入れ方とかを仕込まれる訳だ。
人や魔物を刺した場合は中で捻れとか言われてもね。
異世界超怖い。
普通に人とも戦う前提なんですか?
ハイハイ返事をしているだけなのだが、こうゆう戦いのコツみたいな訓練は実は嫌いじゃないが。
だから真剣にやっているし、身にはついていっていると思う。
格闘技と違い知らないことも多いので斬新だ。好奇心強し。
物覚えが良いと極道コンビもご機嫌になる。
お陰で次々に新しい事を色々言われるのでメモ紙が欲しくなった。
極道コンビに聞いたところ紙はすごく高いらしい。
もし紙を作れたら金になるかも?
残念ながら作れるほどの知識はないが。
木を使うのは分かる。だがそれくらいだな。
和紙とかなら鋤くんだと思った。
紙に対する知識なんてそんなもんだ。
うろ覚えで作れるとは思えないから、保留で。
その後、極道コンビとシャワーを浴びる。
教官が許可を出せばある程度自由に使えるらしい。
だが「ついでに儂らも浴びるか」、と言い出すのが俺にはよくわからない感覚だ。
家に帰って1人で浴びろよおっさん。
言えないんだけどさ。
だから大人しく一緒に浴びる。
こちらもだんだん慣れてきたのかそこまで気にはならなくなってしまったが。
何故俺は異世界でおっさんとシャワーを浴びているのだろうか?
肉体的接触はないし、そっちのケも無いようなので安心はしているけど。
ガハハ髭なんて妻帯者で子持ちらしいし。
お父さんは家に帰って子供を洗ってやれっての。コミュニケーションは大事だぞ。
そして夕飯を食べる。
夕飯後の訓練が日課になったので夕飯は軽くで許されている。
それでもおかわりは2回はさせられるけど。
これは他の男の講習生と同じ量だ。
俺がどんだけ無茶をさせられているかがよく分かる。
訓練 ~ からの ~ 飲みがお約束になったために、夕飯にはそこまで詰め込まれない。
なので夕飯後は一休みして訓練所に向かう。
極道コンビが待ち構えており、訓練に励む。
最近はなぜか他の教官も参加してくれている。
別に彼らが教官同士で訓練をするわけでは無い。
俺1人の相手として来ているのだ。
特に一緒に仕事をしている若い教官が毎度参加してはボコってくれる。
それ以外にも常に数人の教官が参加し、暇つぶしに俺という玩具を弄くっている。
そしてたっぷり痛めつけられた後におごりで毎日違う店に連れて行ってくれるのだ。
俺はそこで死ぬほど食わされ、飲んでは、死んだように眠りに部屋に帰る。
それだけなら平和だったがそんなに甘くは無かった。
店に移動する前に、必ず俺は治療院に運びこまれていた。
どうも訓練の〆は俺の気絶、という流れに定まっているようで、後半に差し掛かってくると教官たちが競って俺を仕留めにかかるのだ。
おかげで防御だけは物凄く上達しているらしい。
必死だからな。
この必死さが生き残る技術を向上させる、と良いのだが・・・・・・
準備期間中はそんな充実した毎日を送っていた。
いつも一緒に仕事をする村人A太とはぼちぼち喋るようになった。
お互い仕事にも慣れてきたので互いにフォローしながら働いている。
彼は教官に「おまえも訓練に参加してもいいんだぞ?」 と、聞かれていたが首をぶんぶん横に振って拒否していた。
それを見てすこし教官はお冠だったが・・・
そこまで強制してやるつもりは無いようだ。
俺も別に誘いもしない。
人にはやる気になるタイミングとかあるし。
ただし冒険者になってから仕事を始めてから急に、訓練をしたくなっても難しいだろうな、とは思っている。
仕事をしていると学び直す時間が取れない、なんて社会人になるとみんな経験する道だ。