オークの残党を討伐せよ 7
改めてスキル欄を右目で覗き込むが、特に見える項目は増えていなかった。
魔法に関しては試して見るしかないが、コレはコレで使いどころが難しい魔法だ。
だが、有り難い魔法でもある。
とにかく試してみるに限る。
となればさっさとオークに向かいたい。
ここでごちゃごちゃやっていても仕方有るまい。
青い顔でこちらを伺う住人に声を掛けた。
「集まってるからちょうどいい。
今日俺が来たのはギルドから依頼で、裏町にいるオークを狩れって言われている。
誰か居場所を知らないか? 知ってたら教えろ。」
俺の言葉に、ざわめいた。だがハッキリとした返事は返ってこない。
ガヤガヤと騒いでいるが明確な返事は聞こえてこない。
どうやらまだ教育的指導が足りないようだ。
「何だよ、何か問題でもあるのか?」
まだ殴られたいのかお前らは、と伝わるような雰囲気を出して問いかけると、口を開いたのはハーフドワーフの兄ザーノアだった。
結局のところ、こいつがまとめ役なのは変わらないようだ。
有り体に言えば胆力だ。
ビビって動けなくなる奴と、ビビっても反応する者の違い。
幹部扱いにした者は後者で、それ以外は前者になる。
その中でもハーフドワーフの2人がふてぶてしい。
そこがむかつきもするし、憎めなくもある。
散々殴ったのに、もう普通の顔して接しようとするのだ。
最低限そのくらいの腹の据わった奴で無いと、裏町など任せられない。
考え方に違いはあるが、そこは教えていくしかないだろう。
「いや、そーゆう訳じゃないんだが・・・・・」
「じゃー何だよ、ハッキリ言えよ。」
「居場所が分かるオークはいるんだが他所の縄張りなんだ。
先日の残党、比較的に新しいオークは各勢力が優先して狙うだろうから、残っているのはそれ以前にいるオークってことになる。
多分だが結構な数の人間を食っている。つまりそのなんだ・・・・・・」
ビンゴ。予想通り裏町にいるのは〝中級種〟以上だろう。
「つまり俺たちじゃ殺せないと?」
「違う違う。旦那が強いのは知ってるし、先日の防衛戦でも見てるから疑っていないんだが・・・・・・
この辺りには今居ないんだ。
いるのは他の縄張りにで、旦那がそれを狩りに行くって事は当然そことも喧嘩になるわけだ。
実際冒険者が裏町にいるオークを狩ろうって話は、実は珍しくは無いんだが、そこいらを根城にしてる奴らにしちゃー面白く無い話でもあって、絶対に妨害してくると思うぜ?」
「ふむ、ソコがよく分からんな。オークなんて居たって邪魔なだけだろう?
誰かが狩ってくれた方が有り難いんじゃねーのか?」
「その辺は微妙な所だ。苦労して閉じ込めたモンを横取りされたら面白く無いって気持ち、旦那も分かるだろ?
オークを閉じ込めるのは裏町に住んでるもんにとっちゃ命がけなんだ。
それをやったために仲間がに何人も死ぬ。なのに顔も知らない冒険者が来て、閉じ込めたオークを殺して持って行っちまうのは許せねぇ、ってなるんだよ。
想像してみてくれよ。旦那がいない間に俺たちに手が終えないようなオークが侵入してくるとする。
手が終えなくてもオークは馬鹿だから、行き止まりに誘導して閉じ込める、なんて手なら取れるんだよ。
この辺りに限らず裏町は袋小路になってるようなところが多いから。」
確かに裏町には袋小路が多い。
と言うのもそう想定された道の作り、なのでは無くあちらこちらで壁が崩壊していて、そのまま放置されている。もしくはゴミにしか見えない荷物が積まれて進めなくなっていたりしている。
建物が半壊しているなんて裏町じゃ当たり前だ。
壁があって屋根がある。
それが当然では無い。
人の手が入らなくなければ、どんどん朽ちていく。
朽ちたところに行政の手はさらに入らなくなる。
塞がれている代わりに、穴が空いて思ってもいないところに道が出来ていたりもする。
だから住人以外は裏町を把握できていない。入っては迷い、奪われて、殺される。
かといって住人なら完璧に把握できているかといえばそうでもない。
今日も壁が壊れ道を塞ぎ、違うどこかでは穴が開いて道が出来る。
悪循環の成れの果てがこの裏町だ。
「オークは馬鹿だが、弱くない。こっちも向こうも命がけだ。
そうやって必死に閉じ込めたオークを旦那以外の冒険者ギルドの講習生が来て、
『そのオークを殺してやる。』と言ってきたとする。
それを聞いて俺たちが素直に嬉しいと思うと、旦那は思うかい?」
「なるほど、俺が他所の縄張りに行って同じ事をすれば不満も出るか。」
「あぁ間違い無く邪魔される。それどころか喧嘩になるだろうな。
それは旦那が喧嘩を売ったようなもんだ。相手だって必死で反抗するだろう。」
「なるほど。よく分かった。
結局いつも通りって事だな。じゃー問題ない。
で、お前らはどこにいるのか大体目星は付いてるのか?」
「えっ!? だ、旦那俺の話、聞いてたかい?」
腕を組んで頷いて返す俺に、ハーフドワーフ兄は驚いた顔を浮かべた。
その話を聞いて「仕方無い、諦めよう」となると思う方が俺には不思議だ。
「他所の縄張りにオークがいるのは確かなんだろ?
となれば、そこに行ってオークを殺す。これは確定だ。
あとは途中の選択肢の問題。
裏町は俺が仕切る。これも確定。
ならば何を遠慮することがある? 進行ルートにいる奴は全部なぎ倒せばいい。
これは俺がやる。
氷の神の信仰者を集める必要が有るからな。氷魔法を派手にぶっ飛ばしたい。
今回殺すオークがもし〝中級種〟以上に進化していた場合、お前らには横流しが出来ない。
死体が必要になるからな。ギルドに収める必要がある。
これを殺すのはそこの9人。
・・・・・・のうち8人がやる。これも確定。邪魔するなら誰でも殺す。
お前らでもだ、これは絶対だ。」
「・・・・あぁ、いや、マジかよ旦那・・・・・・
そりゃ邪魔なんてしないけどさ。結構あっちこっちに散らばってるぜ?」
「その場所を手っ取り早く知りたくてここに来た。お前らのせいで無駄な時間を使ったからな。
分かる奴に案内させろ。」
「そりゃー旦那がそう言うなら案内するよ。
ただ待ってくれ。聞いて欲しい。
本当にあっちこっちに散らばってて、正確な位置までは知らないんだ。結局は他所の縄張りだからな。
旦那が探せって言うなら調べてくるが、正確に調べるなら少し時間が欲しい。
それとその・・・・・・」
「なんだよ、ハッキリ言えっての。」
「もし旦那がオークを全部殺しに行ったらかなり広い範囲が旦那の縄張りって事になるんだろうけど・・・・・・
正直それを纏められる気がしない。」
「なるほどねぇ。広い範囲は纏められないか。
そうだろうな、俺もそれは自信がないし、お前らに出来るとも思わない。
幌蹴れば広いほど、治めるには人数もいる。だからあっちこっちに喧嘩売るなって話か?」
「いや・・・・・・
旦那の決めたことに従う。だが旦那が本気で裏町を支配するつもりなら近場から確実に纏めていくべきだと思う。
逆らう気は無いんだが、出来ないことは無理だ。
多分ちょっと離れた所に縄張りが出来る事になるし、食料なんかも足りなくなると思う。」
「飛び地になると縄張りは困難って事だな?」
「あぁ大手なんかで人数居るところだとなんとでも出来るだろうが、俺たちはまだ色々足りてない。
今も情けない話だが、旦那が縄張りにしたところも半分にしちまった。
本気で拡張するんなら旦那が戻ってきてからでないと厳しい。」
「なるほどな。話は分かった。
縄張りに関しては気にしなくて良い。今有る縄張りを現状維持してろ。
進行方向は薙ぎ払って進む。これは勝手にやるからお前らはほっとけ。
俺たちは任務で来てる。手ぶらで帰る気は無い。
とりあえず一番近いところに潜んでいるオークを教えろ。」
「だが旦那。折角旦那が縄張りにしたところ、横から取られちまうぜ?」
「そんなもん戻っってから取り返せばいいじゃねーか。
大した労力じゃねぇ、二度でも三度でも刃向かう覚悟があるなら上等だろう。
その次が無くなるだけだ。
もうグダグダ言うのは止めろ。一番近いところのオークを狩る。
一番近いところはどこだ?」
「分かった。旦那説明する。で、案内する。
先にそっちの連中の事をどうするか決めてくれ、俺らはどうしたらいい?
あんたのいう通り俺らは所詮小悪党だ。
情けねぇ話だが、指示をもらわなきゃどうしていいかわかんねぇんだ。」
ハーフドワーフ兄はおばばと呼んだババアと共にいた住人を見ながら言う。
【氷魔法 : 吹雪】で吹き飛ばした連中は横たわりながらもこちらの様子をうかがっている。
俺の言葉次第では命が無い状況だ。
気が気では無いのだろう。
だが残念な事にもう興味が無い。
彼らが生きることも死ぬことにも興味が無いのだ。
路傍の石と変わらない。興味が無いとはそういう事である。
「知らん、放っておけよ。どうでもいい。
そんなことよりオークだ。オークが先だ。」
「分かった。オークの場所には心当たりがある。んだが・・・・・
なんというかその・・・・・・本当に好きにさせて良いのか?
俺としちゃ手伝わせたいんだ。
人手は足りていないんだ、今度はちゃんと言う事を聞かせるから・・・・・・」
「ザーノア、お前が自分の食い扶持からそいつらに分けるなら好きにしろ。
全体の食料からそいつらが食う分を捻出しようってんならお前がまず死ね。
面倒を見るって言うのはそう言うことだ。
どうしてもやりたいなら止めないが、それで怒りを買ってもそいつらはお前を助けてはくれないと思うぞ?それでもやりたいなら好きにしろ。
ディアス。その場合は次はお前が仕切れ。犬獣人たちはそれを補佐してやれ。」
「はっ、了解しました。」
「「「了解です」」 わん。」
ディアスが答え、犬獣人もそれに続く。
淀みなく返事が返ってきた。有る意味潔い、
「兄貴」
ハーフドワーフの弟、ノリアが兄であるザーノアの肩に手を掛けて、声を掛ける。
ザーノアはおばばと呼んだババアが引き連れていた集団を一瞥し、ため息を吐いた。
「・・・・・ふぅー、旦那すまなかった。
大丈夫だ。ちゃんとやる。オークのいる場所についてまず説明させてくれ。」
そう言って俺に向き直り頭を下げた。
ご無沙汰しています。また間が開いてしまいました。申し訳ありません。
理由は二つ。
PCが調子が悪い。書いてるとたまーにフリーズしまして、消えてると苛々して駄目になります。
そろそろ買い換えですね。
仕事が変わらず忙しい、と言うよりは面倒なので落ち着いたらPCについては調べます。
買い換えはそれからですね、目処がつくまでは壊れませんように、と祈りつつ。
もう一つの理由は確定申告ですね。
本業は順調なのですが、情けないことに収入は頭打ちなのです。もうあまり期待していません。
なので他に収入源が2つありまして、毎年この時期は四苦八苦するわけですが、今年は一年間趣味に費やしてたもので、全く手つかずでした。
歳明けて部屋中ひっくり返して必要書類集めてました。
これからそれを纏めたり仕分けたりを空いてる時間にすることになるので、ぼちぼち更新、ということで宜しくお願いしますm(_ _)m