脅迫者
「イゾウ・・・・・・僕の事は放っておいて欲しい。」
『隠密』のスキルを使い、姿を消して静かにり近づいていた所、こちらを見ること無くユリウスが突然呟いた。視線も姿勢も変わっていない、前を向いたままだ。
前を向いたまま、ただ声だけで近づく事を制止されてしまった。
「ちっ、バレたか。」
「少し考えたい事があるんだ。悪いが、誰とも話したくない。
・・・・・・・1人にして欲しい。」
「却下、俺はお前と話がある。大事な話だ、今を逃すと拙い。
考え事は後にしてくれよ。」
「・・・・・・ふっー、言っても聞かなそうだね。
だが僕はイゾウ、君を見損なった。 だから今、特に君とは話したくないんだ。
・・・・・・正直君がこんなやり方をするなんて、考えもしなかった。何よりそれがショックだ。
いつも正面から戦う、そして跳ね返してみせる。
褒められることばかりではないが、そんな背中に憧れに近い物を感じていた。
いや・・・過大な評価をしていたのだろうな。
まさか全部知っていて・・・あんなことになってるとは」
「まさかマジで思いもしていなかったのか?」
もう少し聡いかと思っていた。俺も過大評価が過ぎるのか。
「・・・」
「思ってたより甘いんだな。お前ならもっと、人の嫉妬ややっかみに晒されて生きてきたと思ってた。
もう少し感づいて、その上で話してくれるかも、なんて期待を抱いていたんだが。
上手く行かないものだ。
で、どうしても話したくない、か?」
「頭の中がぐちゃぐちゃだよ。
イゾウだけじゃ無い、シグベルたちもみんな知ってたんだな、僕が貴族の命でここに来たことを。
それだけじゃない、ゾルダードさんたちがあんな風に動いているなんて、思いもしなかった。
まるで・・・・・気づかなかったんだ・・・・・・」
「全部・・・とは言わないが、大半は俺の推測だけどな。」
ユリウスの横顔を見ながら言う。
イケメンの苦悩している顔は見ているだけで幸せになれるから不思議だ。
友達だとは思っているのに、本当不思議。
愉快痛快、プリンスだい。
「そうだね。
でも多分・・・当たっているんだよな。僕も話を聞いてそう思ってしまったんだ。
それでも、僕は、この件、先に、教えて欲しかった。
マナさんの事も、セレナさんの事も、他の子達の事も、イゾウが何かする前に、僕が出来ることをしたかった。やりたかった。助けたかったんだ!」
「・・・・・」
「何か言ってくれよ、イゾウ。」
言葉がない。返す言葉が無いわけじゃない。
ただ少し男2人、並んで立って語るこのシチュエーションに少し酔っている、だけだ。
ちょっとこの感じ格好いい。
あとは、言うわけ無いだろと、という突っ込みを噛み殺しているだけだ。
ただユリウスの株だけ一方的に上がるような真似、するわけが無いじゃないか。
「・・・・そうだな。話したくないんじゃ無かったか?
くくくっ、その割によく喋るんだな。」
「意地悪、だな・・・・知っていたが、やはりそうゆう対応をされるそう、痛感するよ。」
横目でユリウスを見ながら、口角を上げて言うと、少しムッとした顔で返された。
どっかの子爵の娘とかに見られると、「ほらやっぱり」とか突っ込まれそうな雰囲気だ。
だが、続ける。少し雰囲気に酔ってるくらいが話しやすい。
「くくくっ、性格が悪いのが自慢なんでな。
じゃきついこと、言わせてもらうか。
甘ったれるなよ。人に聞かされなきゃ気づかない、その時点で今回の件はお前にはどうにもならない。
確かにお前が行動していれば、俺より綺麗に収められたかも知れない。
でも勘違いすんな。
世の中、綺麗な収まり方を望む奴ばかりじゃ無い。
俺は綺麗に収めるつもりなんて微塵もなかった。
自分の彼女に危害を加えた奴が、ごめんなさいって謝ったからって、許せるものじゃねぇよ。
駄目だと言われてもな、やり返さなければ気が済まない事もある。そうだろ!?
だから最初からお前の出番は無かったんだよ。」
「・・・・」
俺の言葉にユリウスは押し黙った。
その顔はやはり苦渋にまみれている。
自分で調べなければ欲しい情報なんて集まらない。
知りたいことが、いつも都合良く誰かに教えてもらえるなんて事は有りえないのだよ。
きっと渋くなった表情の下、腹の中で色々葛藤していることだろう。
「お前も黙るんじゃん。
チカチーノのことしか言って無かったけどさ、・・・・・・・マナとクィレアも彼女になったよ。
別に内緒にしてたワケじゃ無い、気づいていたとは思うけど・・・
今まで聞かれなかったから、敢えて言わなかった。その訳くらいは分かるだろ?」
「・・・何となくは察せる。」
「多分それで正解だよ。はっきり言うぞ!?
それも含めて先に全部言ってたら、お前はそれでも止めた、だろ?
それは俺にだけ、いや俺たちにだけ、我慢を強いることになるんだ。
それは、絶対に受け入れられない選択肢だ。
たとえ誰に見損われてもな、やらなければならないことがある。
それだけ。
だから言わなかった。
ただそこは1つ疑問が浮かぶな?悪い事なんて今まで散々やってきただろう?
それでもお前は俺を見損なうことはなかった。
だが今回は見損なったって・・・
相手が知り合いだからか? それともついにお前の許容範囲を超えちまったか?
教えてくれよ、答え次第では・・・・俺もお前を身損なえる、かもしれない。」
「・・・・・・いつも君は、何かをするときは必ず、自分でやっていたはずだ。
僕にとって君は、そういう男だった。そうだろう?」
「・・・・まぁそうかもな。」
「君は言った、やられたから、やり返す、のだと。あれは・・・・・・
あの時君はいなかった、だから、ゾルダードさんたちを・・・・
手を出すとしたなら、君じゃ無い。
あの時僕に言っていた言葉は・・・・・・僕以外にも向いていた、僕以外にも聞かせていた。
そうだろ?」
「そうだな、概ね正解だ。お前に話しながら周りを煽った。
俺自身は勿論、他の奴らにも軽々に手を出せるつもりは無かった。だから合図を出さない限り手を出さないことを条件に組み込んだ。
当然、ガレフにもシグベルにも、ノリックにも手を出させるつもりはなかった。
特に奴らは前回参加していないからな。本来は参加する資格すら無い。
ついでにいうとあいつらは〝洗脳〟もされてはいなかった、と思う。
だから奴らには参戦する理由が無い、今後もな。そこは安心してくれ。」
「それ、本気だろう。君は良く、嘘を吐く。
君はそれをブラフ、と言う言い方をしていた。 それをよく使うから、何時ものそのやり方かと最初は少し思った。でも違う、今回は本気だった・・・・・・・違うかい?」
「違わない、先にやられた。
だから俺は、やられたことを、やり返そうとしただけだ。」
「それは半分くらいだろ?
・・・・自分と、近しい人間には積極的に手を出させず・・・
あまり親しくない人間に、寄って集って囲んで殴らせて、最悪の場合・・・
僕たちの上にいる貴族の目を、そっちに向けようとしていたんじゃないのか?」
「そうだね、正解だよ。」
「ふっ、全く・・・・・悪びれもしないんだね・・・・」
「そうゆう悪さは気に入らないか?
責任は取るつもりだ。けどな、さすがに全部守りきる自信は無い。 特に実行犯は裁かれやすいからな。
じゃーそこは有象無象でいいじゃねーか。
元々今日やる。という予定じゃ無かったんだ。
本来はお前のいないところで、もう少し話を纏めてから追い込むつもりだった。
それでも形にはなってたからいつでも動けるようには手は回してたんだけど。
どうしても殴りたい、許せないって思った奴らが出てくれば、その意志に任せるつもりだったんだ。
生憎ギリギリで踏みとどまって、誰も手を出してくれなかったけどな。
自分の意志で殴った、蹴った、手を出した。
それで貴族の怒りを買ったなら、それはしょうがないだろ?
今日急にゾルダードの野郎が来たもんだから全部狂っちまった。もう少し時間を掛けて準備が出来ればお前も、他の奴らもあんまり巻き込まないで済んだのにな。
くっくっくっ、上手く行かないもんだ。」
俺の本音にユリウスが首を振った。
その目にはうっすら光るものが見えたようなきがする。
「 何故、こんなやり方をするのか、僕には理解が出来ない。
マナさんの事、調べてたんだね。それはいい、理解出来る。
だが、それなら・・・・・
それを掲げて、君が先頭に立って戦えば良かったじゃないか。
皆、君の言葉に共感し、立ち上がり、共に戦っただろう。僕だってそれを聞けば、間違い無くゾルダードさんたちを、許せなかった。
そう、許さなかった・・・」
ユリウスの言葉は後半になるほど震えていった。
俯いた顔は悔しさに涙するように見える。
だが俺には、その悔しがるユリウスが分からない。
「やめろよ、そうゆうの、言わなくても分かるだろ?」
正義を掲げれば、周囲が勝手に着いてくると思うのは間違いだ。
世の中の大半は、自分に被害が出るまで何もしない傍観者だ。
「君の言葉が聞きたい。」
「そんなのは馬鹿のやることだ。拳を振り上げたら、下ろす必要がある。
俺が先頭に立ったら、拳を収める先は、めり込ませたい相手の顔の上しかねぇ。
それじゃ何も収まらないだろうが!
ハァ・・・・・・これで満足か?」
ユリウスは無言で首を振った。
「ちっ・・・正直に言えば俺はどっちでも良かったんだ。自分でやろうと、誰かにやらせようと。
ただこの問題は人任せに出来かった。
それをするとナードたち、俺についてくるって言った奴らが矢面に立つことになる。
俺はそれは絶対に避けたかった。
自分の仲間を危険に晒す指揮官がどこにいる?
敵に最初にぶつけるのは、敵の駒だろ? 寝返らせたな。
わざわざ、洗脳するような真似してくれたから、余計にな。 」
「イゾウ、その・・・血統魔法なんだけど、あくまで噂の範疇で」
「いや、あるよ。洗脳ではないかも知れないけど、人に影響を与える魔法は有る。存在する。
思い返してみろよ、講習中に、らしくないこと、お前も俺もしてるだろ?
多少、影響は受けているんだ。」
そう言うとユリウスは考え込んでしまった。
これのネタは割れている。だが俺がユリウスに言う必要は無い。
ユリウスの方が俺よりも、立ち位置的に調べやすい。
教えてくれるなら聞くが、情報収集しない奴に積極的に話す必要はない。
「なぁユリウス、見損なうのは構わない。
だが、俺と縁を切るのはやめてくれ。
俺はお前に、まだやってもらわなければならないことがある。」
「そうか・・・君は、僕も使おうと、するんだね・・・
君にとって、僕も駒扱いなのか・・・」
ユリウスは今日一番辛そうな表情を浮かべた。
目を強く閉じて、今にも泣き出しそうに見える。
「いいや、俺は友人を駒扱いするつもりはない。
残念ながらこれは脅迫だ。だが、友人としての譲れない頼みでもある。
頼む、という形を取った脅迫だ。相反するが仕方無い。
俺は得意なんだ、脅し。
知っているよな?」
「あぁ、よく・・・・・・知っているよ。
僕らには、しない。 さっきまではそう思っていた。
もう、違うんだね。」
再起動したユリウスは強い視線を向けてくる。
俺もそれに負けないくらい目力を篭めて返す。
至近距離で見つめ合う姿は一部の女子が喜びそうだ。だが、目を反らすつもりは無い。
相手の目を見て、はっきりと要望を語る。
「悪いな、お前にだけだ。」
「そう・・・」
唇を噛み締めるユリウス。
「聞けよ、でないと本当にお前の元同僚の家、その配下の商家、その家族から友人まで、全部殺しにいかなきゃ行けなくなる。」
「それは流石に、見逃せない。」
そう言ってユリウスはさらに強く視線をぶつけてきた。
先ほどとは少し違う、闘志の篭もった視線だ。
やろうとすればこの男は確実に立ちふさがるだろう。そして身を挺して邪魔するのだ。
それくらいは理解している。
「だろうな、だからこそ聞けよ。」
そう言って視線を外し、地面に腰掛ける。
そしてすぐ隣を手で叩いた。 横に座れ、というジェスチャーだ。
少し戸惑いつつも、ユリウスは並んで地面に腰掛ける。
渋々横に腰掛けたユリウスに、俺は皮の袋を1つ手渡した。
「これは?」
「金貨袋、だと思ってくれ。本物は手に入らなくてな。
仮に持ってきた。手付けだと思ってくれ。」
「金貨・・・袋!?」
「ああ、金貨が百枚きっちり入るという不思議な袋だ。
一枚10,000z だよな? 金貨。
だからそれで100万zだ。」
「ぶっ、イゾウ、100万zって」
「おっ、やっと普通に話せるようになったな。
何時も通りだ、それでいい。それで、話そうぜ。
友達だろ?」
「友達・・・」
「ああ、お前がどんなに見損なおうと俺はお前を友達だと思う。
お前がそう接してくれるなら、これは脅しでは無く、提案になる。」
「ふー、イゾウの言う事は僕の理解を超える。 分かった、聞くよ。
聞くからちゃんと、聞かせてくれよ。」
隣に腰掛けて見つめ合うのは気後れする。
なので正面、なるべく遠くを見ながら語りかける。
表情は変えない。なるべく淡々と語る。
「あぁ・・・・・・さっきここに来る前、ゾルダードたちと話をつけてきた。」
「えっ・・・」
「まぁ聞けよ。話はつけてきたんだ。
だがな、このままだと水面下で戦争するしか無いんだ。
わかるだろ? それじゃ上辺だけだ。 俺は奴らを許して無いし、奴らも俺を許さないだろう。」
「・・・・そうかもしれないが・・・」
「それは拙い。それくらい俺も分かってるよ。
俺はマナの事も、ナードやクィレアを囲んだことも、白と黒の大魔道を軽く見たことも許せない。
だから提案してきた。」
「提案!?」
「ああ、見逃してやる、代わりに100万z払え。
でなければ、お前らの実家、その配下の商家を襲う、ってな。
家長は勿論、妻も、子供がいれば子供も、祖父祖母がいるならじじばばも、雇われてる奴もみんな殺して廻ると伝えた。
なーに俺には『槍龍波』がある。『氷魔法』がある。
警戒は無意味だ。
壁をぶち抜いて撃ち殺せるし、水はどこの家にも絶対ある。
気づいたときにはもう遅い。水が凍って飛んでくる。」
「それは・・・」
「それが嫌なら100万z払えと伝えてきた。
手を出す前の今なら、それで収められると。
払うなら許せないことも飲み込もう、ってな。」
「・・・・そうか、それは提案、なのか?」
「脅しでもある、けれど提案でもあるよ。
お前はどっちだと思う?」
「脅しだ。例え払ったとしても遺恨が残るぞ。」
「くっくっく、まぁ・・・・・・脅しだよな、分かってる。
だからお前に提案するよ、ユリウス。
奴らから奪ったら、100万z、お前にやるよ。
お前はそれで槍を買え。今より上の装備を整えろ。」
「どうゆう意味だ!?」
「座れって。
こないだ一緒に見たろ、ギルドの倉庫。あの中に、お前が気に入った槍があっただろ?白い奴。
あれを買っちまえ。
俺はもう、あの時の黒い斧槍を買った。有るとき払いで交渉してきた。」
「ばっ、なっ何を言ってるんだ一体、僕がそんな話に乗ると思っているのか!」
前を見ているために、表情は窺えない。
だがきっと理解出来ず、焦った顔をしているだろう。
横を向けないのが残念だ。だが、テンポを変えず淡々と続ける。
「乗るさ、これは脅しだって言ったはず。
知ってるだろ? 得意なんだ。
槍よりも、剣よりも、魔法よりも、脅迫がな。 まっ、最後まで聞けって。
なぁユリウス、どっちにしろ命令が来るんだろ?あいつらと組まない、そんな選択肢、選べない、そうなんだろ?」
「ぐっ・・どうして、それを・・・」
「俺だけじゃねぇよ、あいつらだってそんなこと分かってる。
最後には命令で、ってな。だが向こうにもお前にもそれは拙いんだ。
だからそこに意味をやる。」
「意味・・・」
ユリウスへと向き直る。そして頭を下げながら言う。
「ユリウス、頼む。アイツらを見張ってくれ。
二度と同じ事が起きないように。
それが出来るのはお前だけだ。
今回は金で折れる。だが今回だけだ。
次は無い。 いくら金貨を詰まれようと、3度目は無ぇ。
話もない。その時その場、その瞬間から殺し合いだ。
例えお前と、お前の上、その全てを敵に廻してもな、戦うしか・・・無いんだ。
たとえ何人死のうとな、自分がそれで、死んだとしてもだ。」
「イゾウ・・・・」
「頼むよ、ユリウス。
脅しだけど、脅しじゃ無い。俺には他に選択肢が無い。
お前に金を渡すことじゃないぞ?
金はもらう。その上で水面下で争うしか無いんだ。
そしていつか表面に出る。」
勿論これも嘘だ。
諦める、妥協する、という選択肢がある。
あるが、それを選ぶかと言われたら、答えはNOだ。
絶対に選ばない。
死にたくは無い。だが、踏みにじられて黙っていられるほど若くもないようだ。
転生したせいだろうか。
「イゾウ・・・・」
「お前が今の槍に思い入れが有るのも知っている。苦労して、兵士の給料から親の治療費を捻出して。
そこから残った分を貯めて買ったんだろ?」
「うん、20万zと少し。そこまで良い品質ではない。素材も有り触れた物だ。
だが頑張って手に入れた自慢の槍だ。」
「それを手放せ、って話じゃー無いんだ。
金で強くなれるのなら、手に入れられるときに強くなっておくべきだと俺は思う。
奴らから奪う金、お前にも使えば文句も言えない。
お前のためだけじゃない。これは俺のためでもある。
でなければ恨みがどこに向くか分からない。
その恨み、お前が調整して欲しい。」
「・・・・・・・・」
「頼む。他に妥協点が見つからなかった。
もう少し、回る頭があれば良かったんだけどな。俺はここらが限界だ。」
俯き、首を振って答える。俺も苦労してるんだぜ?
ユリウスは悩んでいるのか、視線を外して周囲を見ている。
そして少し沈黙に支配された。
「・・・・・イゾウ、聞いておきたいことがある。」
「ああ。」
「槍の名前はどうする?」
「・・・・・・ん? ああ! そうだな、形状も、色合いも、用途も全然違うが。
だが折角だ、揃いの名前でもつけるか? 今日の話を忘れないように。」
「うん、それがいい。その槍に誓うよ、同じ事を繰り返させない、と。」
「ふっ、なら俺もその槍に誓うぜ、お前がその約束を守る限り手を出さない、出させない。」
「 ああ! 約束だ!」
そう言ったユリウスへと右手を差し出す。
久しぶりに堅く握手を交わした。
うん、大丈夫、こいつは男色家などでは無いだろう。
ちょっと性格が暑苦しいだけだ。それに合わせて動けばいい。
それくらいなら問題無い。
済ませておくことがある。
「ユリウス、ありがとう。さっきも言ったが本来は、もう少し着地点が違ってたんだ。
あそこで向こうから仕掛けてこなければお前を巻き込まなかったし、そうすればガレフたちも参加せずに済んだ
正直、関わらないで済む人間も、もっと少なく済んだ。
人を使った事、と
そいつらを使って囲ませた事。
その事には謝らない。
だが事を大きくしてしまった事は謝るよ、色々すまなかった。
俺の頭じゃもう、ここに持ってくるまでで、精一杯だった。」
「イゾウ・・・」
形式的にとは言え、謝罪は必要だろう。
頭も下げられないお馬鹿とは違う。
何より巻き込んだことは心底申し訳ないと思っている。
もう少し冷静に動けたらいいんだけどね。
俺の謝罪を聞いて、破顔したユリウスの笑顔が心に痛い。
こうゆう時に素直に受け取ってくれると、色々心に刺さって気恥ずかしくなった。
ので、話題を変えよう。
「ああ・・・すまんあともう一つ。謝っておくことがある。
間違い無く、巻き込む事になるからな。
聞いて無いか? 俺が戦ったオークの上位種、オークグラジエーター。
勇者の連中、逃がしちまったらしい。
間違い無く、来る、俺の所へ、な。絶対だ。これは予感じゃない、確信してる。」
「ふ」
「ん!?」
「ふふふふふふ。」
俺の言葉を聞いたユリウスが突然吹き出した。
イケメンがそうゆう事しちゃうのはイケないと思います。
おかしくなったか?
「ど、どうした?」
「いや、少し、その、嬉しくなった。
つまりイゾウはその槍を持って、一緒に戦って欲しいって事、なんだろう?」
少し顔を赤くしてユリウスが言う。
照れるなよ。格好いいこと言ってるんだから。
こっちまで恥ずかしくなるだろ!
「あっ、ああ。そうなんだけど、それだと半分正解かな。
ユリウス、俺は将来的にダンジョンに行こうと考えているんだ。
ダンジョンを攻略したい。金も稼げるらしいし、チカの呪いが解けるアイテムが手に入る可能性もあるらしいし。」
「ダンジョン・・・・・・、なるほど、そうか・・・・・・」
「そうすると俺はこの街から離れることになる。
なるべく自分で始末をつけられるようにしたいんだけどな、いないときは
お前に・・・頼んでいいか?」
「ふっ、ふふふふふふ、やっぱりイゾウは面白いなぁ。
さっきまで本当に色々、考えてたんだ。冒険者を辞めること、勇者のこと、本当に、色々。
ぐるぐる、頭の中で悩んでたのが馬鹿みたいな気分だ。
そうか・・・
そうか・・・・・」
その後しばらく色々な話をした。
関係あることは勿論、他愛の無い話まで随分話こんだ。
最後にユリウスはかしこまって、俺の頼みに改めてイエスと答えてくれて、再度堅く握手をして今日は別れた。
その握った手の感触がしばらく手に残り、
最後の最後、本当に最悪の手段としてたユリウスを殺すという選択肢が自分にあったことを申し訳なく思った。
そしてそれが消えたことを心から安堵した。
「あーっ、そういや光属性に適性が有るって話をし忘れたな。
まぁ焦らなくてもいいか、そのうちで。」
ユリウスが殻を破って大きく成長するのは、もう少し先の話になる。
次回は週末の予定です。
とか書いておきながら11月中に片付けなければならない用件が2つ入ってしまいました。
とりあえずそれのメドがつくまで、もしくは11月中、の更新は難しそうなので、少々お休み致します。
いつもありがとうございます。
申し訳ありませんが、宜しくお願いしますm(_ _)m