始まりの日 11
「100万zだ、今ならそれで忘れてやる。」
そう言った俺の言葉に
「馬鹿を言うな、そんな大金持っている訳ないだろうっ!!」
と罵声で返された。だが知った事では無い。
手落ちとは対価があって初めて成立する。
泣いてもらうと決めて来た以上、こちらが折れるつもりは、ない。
「知るかっ、実家にでも用立ててもらえ。
出来ないなら順番に襲っていくだけだ。
イプスター、サザラテラ、アルスロー、ブレナーク、ミンスター、サザランド、
サザラテラって家は年老いた夫婦でやってるんだってな。
知ってるよ、流石に心が痛む。細々と何年もやってきたのに、最後は巻き添えとは運が無い。
アルスロー商会には、やっと跡取りが産まれたそうじゃないか、実にめでたい。
ちゃんと祝いの品を送ったんだろうな? 世話になる前に迷惑をかけるんだ、節目節目の礼儀は大切だぞ。
他の家の事も全部、余すこと無く把握している。一度聞いたら忘れない、便利な脳みそでな。」
「貴様・・・どうやって・・・」
「おまえらと違って何代も掛けてこの街に溶け込んで生活しているんだろ?
もう随分馴染んでいる店もあると聞く、金が入ったら一度食べに行きたい店もあったぞ?
色々と・・・・・・これから細々と協力してもらう予定なんじゃないか?
迷惑掛けちまっていいのか?
どこの家もちゃんと護衛を雇って自衛させているんだろうな?王都と違って辺境都市は危ないぞ?
まぁどんな強い奴がいても関係無いけどな。 『槍龍波』を家だの店だの会社だのにぶち込めばそれでジ・エンドだ。
どこからがいい?リクエストがあれば聞いてやる。」
「ふふふふ、ふ、ふざけるな!
そんなことをしてみろ!うちの実家はもちろん、その上も黙っていない。
いくら貴様が強くても、何人従えようとも、貴族が本腰を入れて殺しに来ればひとたまりもない!
分かっているんだろうな!?確実に殺されるんだぞ!!」
「安い脅しだな、覚悟を決めた人間にそんな話が通用すると思ってるのか?
殺す、と言われたなら、自分が死ぬまでに何人殺せるかを数えるのが俺の思考だ。
王都からここに貴族直轄の兵隊が来るまでに被害が広がるのを、指を咥えて見ているのか?
関係者を皆殺しにし終わるのと、兵隊が着くのどっちが早い?
なんの為にこの槍を買って持ってきたと思っている。
この槍1本あれば壁は無意味。
俺を殺すのに数が必要なお前らと・・・どっちが小回りが利くか試して見るか?」
「そっ、そそそそそそっそっ、そんなことはさせん!」
「どうやって?おまえらの中で単体の戦闘力で俺に互するのはユリウスくらい
それはさっきから散々話してきたな? お前らは戦闘向きじゃない、そうじゃないか。
特殊能力の〝血統魔法〟でどうにか出来るのか?
なにより頼みのユリウスが抜け殻じゃねーか。」
「き、貴様がっ、余計なことをっ、吹き込んだからだろうがっ!!!」
「くくくっ、本来ユリウスは別の場所で話を通す予定だったんだがな。
それをお前らが、俺に公開説教なんてしようと近づいてきたのが悪い。
わざわざ人の居る食堂で話し合いに来たとか、魂胆が丸見えなんだよ。
分かってるんだよ、食堂で集まった皆の前で俺に意見するところを見せて、自分たちの株を上げるつもりだったんだろう?食堂でなら暴れないとでも思ったか?
やれば当然俺の株がさがるからな、分かってて素直にお前の話なんぞ聞くと思ってたのか?」
「貴様の事を高く評価しすぎていただけだ!
もう少し話しの出来る人間だと、会話の出来る存在だと見誤っていた。
こんな真似をしやがって・・・
こんな・・・ こんな・・・ くそっなんて報告すればいいんだ・・・」
「止めとけ止めとけ、お前らがどんな報告をしようが最後に俺は〝聖剣〟を持ち出すだろう。
呼んだ相手にどんな能力があろうとも、それでも〝聖剣〟を使えば俺は負けないだろう。」
「くっ、確かに聖剣は凄い。だがそんなこと、やってみなければ分かるものか!!」
そうは言いつつもゾルダードの顔は晴れない。
100%勝てるとは俺も思わんよ。
「分かるさ。少なくとも無制限で、使い放題、そんな能力じゃ無さそうだ。
それに〝聖剣〟使いと揉めるとマズいんじゃ無いか?
ユリウスが仮に俺の代わりになれるならともかく、俺を殺したら教官長に次ぐ〝聖剣〟の使い手がいなくなる事になる。
事情を知らない他の貴族は、何て言うだろうな?
くくくっ、ユリウスが〝聖剣〟に認められなかったから、使えた俺を排除した。
なーんて噂話が流れたら取り返しがつかなくなるぜ!?」
「きっ、貴様っ!!」
俺の言葉にゾルダードくんが酷く焦る。そこまで考えてはいなかったらしい。
俺がロックを掛けてしまった。使徒と暫定持ち主の教官長以外使えないようにする設定を。
なので聖剣サジタリアスと名付けたあの〝聖剣〟が俺と師匠以外に発動することは当面無い。
この事を知らなくても、〝聖剣〟が使い手を選ぶ事は有名だ。
そんな分の悪い掛けに人生をかけるほど間抜けでも無いようだ。
葛藤している様が笑える。
「はっはっは、全部台無しだな。」
「貴様が言うな!!! くそぅ・・・貴様ぁ・・・
おのれ・・・ちくしょうがぁ・・・」
「だから言ってるだろ、100万zだ。
100万z払えば、無かったことにしてやるって。
無かったことにして、そのまま都合良く報告すればいい。
金を使って俺と協力して地盤を固めた、とでもな。
上が納得するかは、お前らの使う言葉次第だ。俺は知らん。
金を払え、それでカタをつけろ。代わりに俺の作った互助会に入れてやる。
その金で運営する予定だからな。名目上、幹部として扱ってやるよ。」
「そんな話になんの意味がある!!!!」
「くくくっ、当然ユリウスの方も何とかしてやるよ。ユリウスの手と顔、それと名前があれば互助会も別の使い方が出来る。お前らにも互助会に入る意味も、利用価値も作れるさ。
都合の良い戦力も見繕ってやってもいい、 悪い話じゃ無いはずだ。
ただし、お前らが金を払うのなら、だけどな。 当然先払いだぜ?
最悪、ユリウスだけ誑し込んでも俺は構わないんだ。
ユリウスには講習始まってからずっと楔を打ち込んである。
前にも言ったよな?時間を掛けてゆっくりと、だが確実に影響は与えている。
その楔は・・・・・・この世で唯一、俺だけが抜けるだろう。
ついでだこれもだな、聞いてたろ?何しろユリウスは俺に惚れているらしい。
つまり俺の影響力はお前らより確実にデカい。」
「なっ・・・」
「そっちが条件を飲むのならばこれで手打ちでいい。忘れてやる。
他の誰にも手をださせない、勿論ライアスやガレフたちにもな。
正直に言えば俺はお前らを殺したいくらい憎い。
ユリウスの名を上げるためだけに俺を〝落ちこぼれ〟扱いさせる手回しをし、
俺を苦しめるためだけに、マナを攫わせて、ナードたちをボコろうとしたお前らを許せない。
セレナは死ぬ寸前だった。俺で無ければ助けられなかっただろう。
ただでは殺さない。敵対するのならば、有りとあらゆる手段を用いて、苦しめてから殺す。
お前らの関係者を皆殺しにしたうえで、お前らをじっくり痛めつけて殺す。どいつが考えたとか、誰が首謀者だとか、関係無い、お前らを、殺す。」
「くっ・・・・だが!!」
「だがやれば俺も犯罪者。追われる身になる事だろう。
やるのは簡単だ。
別に・・・やるだけならいつでも出来る。
なら、今、この1回だけ忘れてやってもいい。」
「一度だけだ。この一度だけ折れてやる。
俺の仲間に手を出さないこと、くだらない策略に巻き込まないこと
互助会に、ユリウスごと参加して周りと協力関係を築け。
それを誓って、金を払え、それで手を打ってやる。
その金を使って互助会を使える組織にする。俺にも、お前らにも。
揉めに揉めたてめーらを幹部にするなんて、金でもばらまかなきゃ不可能だ。
誰も納得しない。入れても誰もお前らと互助しようがねぇ。
だが理由と功労があれば話は違う。」
「・・・・ふーっ。くそぅ、なんでこんな目に私が・・・
話は分かった。イゾウだがきさ、お前は勘違いしている。」
俺の話を聞き終えてゾルダードは大きく息を吐いた。
そして少し落ち着いたように話し始めた。
「・・・・何を?」
「ユリウスの仲間に選ばれた。そう言えば聞こえは良いだろうな。
だがお前も知っての通りだ、実際は違う。
大した役目のもらえない貧乏貴族。我々はその跡継ぎにもなれない要らない扱いの子供だった。
特に任される役目もなく、なんとなしに兵士として放り出された者だ。
それでも家から絶縁されたわけではないからな、まだマシな扱いだったんだ。
成人して家から切り離された子供なんて珍しくない。
そしてたまたま・・・・兵士の中からユリウスという芽が出た。
だから、たまたま同じ兵士の我々がその役目を任された、それだけなのだ。
確かに家独自の固有能力も持っている。が、本家のそれとは比べものにならない粗末な能力だ。
お前は大した能力だと言ったがな、実際は上の貴族、本流の家の者には全く通用しない程度の力だ・・・
なにしろこの任務を受けるまで、我々はそんな能力があることすら知らされていなかったんだ!
だからそんな我々が要請しても・・・・・・・
おそらく応じてはもらえまい。」
「・・・・・・
ユリウスもそこまで期待されてるわけじゃ無いからか?」
「ああ、その通りだ。上手く行けば儲けもの、その程度の扱いだろう。
それどころかお前の指摘したとおり、貴族家ではない家から出た勇者の候補ということで、疎まれている可能性が高い。特に下流の貴族からな。任務に就いている我々も同じだろう。
我々が・・・・・・・
功を焦ったのもそのせいでもあるんだ。この講習が最初の関門だ。
まずここで、トップの成績でも取らなければ、今後の援助も見込めないのだ。」
そう言って4人が顔を落とした。影になって見えないが歯を噛み締めて悔しがっているようにも見える。
対して1人の女だけが愉快そうに笑みを浮かべている。
まさに我関せず。
俺もこいつには関わらないようにしよう。
「そうか・・・残念、見込み違いだった。」
「今になって考えれば、随分焦っていた。
特にイゾウ、我々は最もお前を危険視していた。
故に随分手を回していた。まさかその全てを見抜かれるなんて・・・考えもしなかった。
すまない、金は用立てることは出来ない。
だからこそ頼む、ユリウスを説得して欲しい。
こんな真似は二度としないと誓う。頼む。
組む事ができなければ、任務そのものが破綻してしまう。
出来れば報告を上げたくない。
仮に報告をして、上からパーティを強制したならば、我々は首を切られ、他の者が送り込まれてくる可能性もあるんだ!
今更兵士にも戻れない、4人で冒険者としてやっていくしか無いだろう。
頼む・・・・・この通りだ。」
そう言ってゾルダードは膝をつき、頭を地に伏せる。
土下座の姿勢だ。
それを見て後ろの3人の元女兵士も、続いて同じ姿勢を取った。
相変わらず安い頭だ。
見て、つい鼻で嗤えてしまう。
「残念、お前らの頭には価値が無い。
下げても無駄、それじゃ和解は無理だな。
講習が終わり次第、俺は動こう。とはいえ無抵抗な女子供老人を殺す事には抵抗がある。
せめて先に連絡を入れておけ。頭のおかしい奴が狙ってるぞ、ってな。
運が良ければ生き残れる。」
「なっ、頼む、イゾウ。許してくれ、この通りだ。
我々の気持ちも考えてくれ!そんな連絡入れられるわけがない!
自分たちが原因で、〝聖剣〟を扱える者が、末端とは言え派閥の家を狙えば!!
親が、親が責任を取らされる!!
実家にそこまでの力は無いんだ! 簡単に取りつぶされる!
頼む、お願いだ・・・」
そう懇願するゾルダード。そして3人の女達も泣いて懇願した。
だが取り合うつもりは無い。
この世は戦場、信じられるのは金だけだ。
目に見えるモノなく和解は出来ない。
無言で踵を返し、「もう話すことは無い」と背中で伝えるように無言で立ち去ろうと歩き出した。
だがそうは行かなかった。
「お待ち下さいな、旦那さま」
ちっ、こいつがいた。いやがった。
黙って見てるから、我関せずで通すのかと思ってたが、甘かったか。
「なんですかね?」
とても嫌そうな声が出た。
無表情とはまだほど遠いな。
「えぇそのお金、わたくしが立て替えてお支払い致しますわ。
わたくしも参加していたことですし、責任も多少有るでしょうし。
それでも宜しいでしょうか?」
「ふーん、知らん顔で自分には関係無いとでも言うのかと思った。
なんで急に首を突っ込む気になった?」
「いえ、旦那さまの作る互助会、とやらに興味が沸いたのですよ。
ひいてはそれはわたくしのモノと言えるでしょう。
投資しておくのも悪くはないかと思いまして。」
「アンタが上の人らに話を通してくれる、と。」
「必要ありませんわ。わたくし個人のお財布から用立てられますもの。」
「そりゃ凄い。だが他の奴の分はどうする?」
「他の奴・・・ですか?あら?
どうゆう意味でしょう、わたくしがお支払いすれば良いのでは?」
「5人分?」
「えっ!? 5人・・・ぶ、ん? ですか?どうゆうことでしょう?」
女の顔が強張る。
言われている意味が分からないようだ。
いつから勘違いをしていた?俺は最初からそのつもりだぜ。
「1人100万に決まっているだろう。アンタの分が払えるのは分かった。素直に払ってくれるのもな。
だが他の連中の分は? それもアンタが全額、代わりにまとめて払ってくれるのか?
つーかアンタ、自分を本気で関係無いと思ってたのか?
俺は最初からアンタの家も全部ぶっ壊しに行くつもりだった。
名前を騙ってるから、調べるのに時間が要る、だから少し後回しにする。それだけだぜ?」
「まぁ・・・・旦那さま・・・
本気・・・ですのね?」
そう言うと女はじっと見つめてきた。
何度目だ。
だがこいつの視線は何故か苦手だ。
〝鑑定眼〟でみられたときほどでは無いが、嫌な感じがする。
値踏みされているというか、〝鑑定眼〟ではないが、鑑定されている感じだ。
値踏みされている、そんな感じだろうか。
それでもケダモノの世界は目を背けたほうが負けだ。
強く見つめ返す。否、睨み付ける。
「ふぅ、困りましたわ。
さすがにそこまで持ち合わせはありませんわ。」
「決裂か。
月の無い夜には気をつけろ。お嫁に行けないようにしてやるよ。
旦那なんてふざけた呼び名で二度と呼びたくなくなるような、な。」
せめてやれれたのと同じように、薄く笑みを浮かべてなるべく冷たく言い放つ。
お話の時間は終わりだ。これからは脅迫へと移行する。
周囲で当然、何かが壊れていくという恐怖を味合わせてやろう。
「お待ちになって。
伽ならばわたくしも望むところですが、それは結婚してからに致しましょう。
話合う時間を頂きたい、の・・・ですが?」
「話合いねぇ・・・」
「そんなに時間は取りませんわ。」
「・・・・・・ふーん、良いだろう。
1時間ほどしたら出直してくる。」
話合う時間、そして冷静になる時間を与えずに決めさせる、それがベストだった。
だがそれはもう無理だろう。
一度仕切り直す。俺もこの女の事を少し考えたい。
マジで襲って既成事実を作ってやろうかと思わなくもない、ので一旦距離を置きたい。
「そのときは出来ればお一人でお願いしますわ。
わたくし怖くて怖くて」
「ふっ、よく言うな、どの口が言うんだか。」
近くにガレフ、シグベル、ノリックが隠れて待っている事を感づいてやがった、食えない女だ。
少し距離を置いてもらっていたのだが、何かのスキルだろうか?
少なくとも俺の〝感知〟スキルでは届かないところにいる。
確認するために、女の視線を感じながら〝隠密〟のスキルを発動し、闇に溶けるようにゆっくりその場を去った。
勘だが、あの女、俺の居場所を捉えている気がする。
魔道具か
能力か
そして次に顔を出すと、元兵士組は支払いを飲む、と伝えてきた。
これには俺も驚いた。
あえてガレフ、シグベル、ノリックを引き連れて行ったのだが、これもまた悪手だった。
失敗したかもしれぬ。
奴らは一人を除いて物凄い苦渋の表情を浮かべていたが、渋々同意した。
おそらく子爵の娘が口を利いて、強硬に納得させたのだろう。
本当に納得していたのかは疑問だ。
だが言質は取った。
俺の予定は大幅に狂い、大金を得ることになった。
代わりに妥協し、こちらも最大限譲歩をしたという形を取ることは出来なくなった。
が、払うというなら有り難く頂こう。
コレによって各々の心にしこりが残ったまま先に進むことになる。
だがそれはもうしょうが無い。
頑張ったが俺にはここいらが限界だ。
金が入った。
代わりに恨みを買っただろう。
これでとりあえず良しとして、やるしか無い。
俺はイゾウ。
後にこの日の失敗を生涯悔やむことになる、多妻持ちで、愛妻家の、チート転生者だ。
ふぅ、長くなりましたが一段落・・・
すいません、してないです、もう少し?続きます。後始末編へと入ります。
土日は朝から用事が詰まってるので、帰って見直す時間があれば投稿します。
余裕が無ければ一日か、二日空くか、体力が戻ったら投稿するになるか、で m(_ _)m
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