表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
序章 この世は戦場、小金持ちは悪人の鴨と葱
13/196

出来る男の夜の過ごし方



「暇だ!」


 つい声に出た。

誰もいないし、つまらない。


 1日働いて確かに疲れたが朝まで寝るほどでは無い。

前世では日中働くのが当たり前だった。 仕事後に趣味で身体を鍛えていたくらいだ。

まだ余裕がある。


 泊まり込みで集中して叩き込んで学ぶこういった生活は、過ごしているうちに自然と身体が慣れてくるハズだ。

行う側もある程度それを折り込んでいると思う。

慣れさせる為にも、寝て過ごすのは少し勿体ない。

 講習が始まれば参加人数は一気に増える。

そいつらより先に慣れていた方が有利だろう。

ロケットスタートだ、フロントランナーだ。


 どうせ朝には教官が起こしにくる。

消灯時間で寝れば充分眠れるだろう。起こされるまでグッスリ寝てやる。

 消灯の前に鐘が鳴るので、それで部屋に戻れば多少動き廻っても良いという許可はもらってる。

ただ行動可能範囲はかなり限られているけど。

それは仕方が無い。


 許可されている範囲は、

寝泊まりするこの建物。

訓練所を2ヵ所。


この3ヶ所のみだ。


 この施設内においての訓練所は校庭のような外タイプと建物の中にある室内タイプの2種類がある。

朝走るのは校庭型。ただっ広い土の運動場だ。

特に設備も無く、ならしただけ、走り回る分には申し分ない。

サッカーと野球くらいなら同時に出来そうだ。

多分双方の部員同士で喧嘩になると思うけど。


 それとは別にいくつかの建物が訓練所として使われていて、用途に別れて使う武道場みたいな扱いになっている。

 柔道とか剣道とかの道場があるところや、器具の少ないスポーツクラブが敷地内のあちこちに有る感じ。


 その中で建物型の1番広い訓練所を空いた時間には自由に使って良いことになっている。

この訓練所は半地下で、2階が無く天井が高い仕様になっている。

多分雨の日はここを走らされるのだろう。

運動場に対する体育館みたいな感じで、広めの武道場といった建物だ。

ただし、石造りでゴツい。

そして比較的新しい。

 あちらこちらの小建物を吸収して、纏めて潰し建てたのだろう。

追い出された者の怨嗟で呪われそうだ。


 霊感無いから気にしないけど。

異世界だし、霊やアンデットに対処する方法なんて恐らく幾らでもあるはずだ。

そこに期待。


 しかし娯楽の無い世界はつまらない。許される遊びが訓練することしか無いのだから。

前世の日本は凄く恵まれてたのだと改めて思う。

スマホが恋しい。ポチポチしてればいくらでも時間潰せるのに。


 ちなみに許可されている訓練施設の最後のもう一つは校庭型の訓練所。

多分自主的に走れって事なんだと思う。


 走ってる奴は誰もいないけど。

広い校庭が寂しい物だ。

 多分こうゆうところのやるやらないで教官の覚えが変わるのだろう、努力って実は人に魅せる物でもあるんだよな。

 人に見せてはいけないのは技術的な努力。

肉体的な鍛錬の場合は、秘伝の技法以外ガンガンやってます、努力してます的にアピールしてみせるべきだと思う。

そうすりゃ教官たちも「あいつ頑張ってるな!」とか思ってくれるだろうに。


 わざわざ教えてやったりもしないけど。

特に話す奴もいないし。


 そんなわけで俺が行けるところは地下の訓練所しかない。

あそこにいけば初心者用ではあるが武器防具という男心を厨二(熱く)する物が置いてある。

素振りするくらいなら怒られないだろう。









 訓練所までの道のりは誰にも会わなかった。

少し寂しい。

気を取り直して訓練所に入るとそこには先客がいた。


「ふむ、来たか」

「ガハハハハハ、思ったより遅かったな」


 極道コンビの2人だ。

俺の顔を見るなり近寄り声を掛けてくる。


「え? 遅かったですか? あれ?別にお約束はしてませんよね?」


「ガハハハハハ、他のへたれどもはどうせ部屋から動けんのだろう?

お前は暇して鍛え(ここ)に来ると思ってな、こうして待っていたのだ」


「うむうむ、ちゃんと来たな、貴様は見所がありそうだ」


「えーと、先読みして行動するのはやめてもらえませんかね?言ってもらえればちゃんと来ますから」


「ガハハハハハ、こーゆーことはな、自分から、努力する、そーゆう姿勢が大事だ」


「そういうことだな。

確認するぞ、貴様はここに、自分の意思で鍛えに来た。

そうだな?」


「・・・・・・はい。素振りでもしようかと」


「素振りか、そうゆう1人で出来る訓練は1人の時にやるといい。

後で素振りや型の動きは教えてやる。暇を見つけたらやっておけ」


「あー、ハイ。

ありがとうございます。でも後で、なんですか?別に今からでも」

「相手がいるときは相手のいる訓練をしろ。

組手をやるぞ。この装備を使え。

相手をしてやるから好きに打ち込んでくるがいい」


 そう言って傷顔の教官は俺に向かって木刀、というか木で出来た剣、木剣と、木の盾。そして木の槍を投げ渡してきた。


「・・・・・・は?」


 え?マジで?いきなり組手?

普通形からはいるよね?

俺、剣も槍も使ったこと無いんだけど?


 そう思うが2人は聞くつもりが全くないようだ。

各々既に武器を用意している。

傷顔の教官が木の槍を持ち、ガハハ髭教官が木の盾と剣を持っている。

2人で違う武器かよ・・・・・・


「ガハハハ、ちゃんと聞いておけ。

儂は剣術の教官、傷顔の教官(あっち)は槍の教官。

講習が始まればそれを専門に教える。

お前は一足先に儂らの教えを受けられるって訳だ、幸せだな!」

 

言い切りやがった。

どこがだよ、と言いたいところだがもうこの流れから抜けるのは無理だろう。

せめて、せめてあがこうじゃ無いか、みよ俺の生き方。


「えーっと防具とかは?・・・・・」


あえて幸せには触れないこの勇気。



「いらんいらん。ちゃんと手加減はしてやる。貴様は思いっきり打ち込んでくるがいい。

もし倒れても回復魔法を掛けてやるから安心しろ」


「おお、回復魔法!すげえ!

使えるのですか?」


 マジかよ、こんなヤクザみたいなゴツいおっさんたちが回復魔法を使えるのか。

となると俺にもいつか使えるかもしれないな。

こんなに早く見れるとは思わなかったな。

自分の身体で試せるんだ、逃すのは悪手だ。

やる気をだして2人に向き合う。


「ま、初級だけどな。安心しろ、治せないくらいのダメージを与えたら治療院に運んでやる」


 あ、やっぱり駄目な奴だった。


 だが今更引き返せない。

せっかくだ、前世で殺された恨みを同じ顔の貴様らに返してやる。

そう考え、覚悟を決めて2人に向き合う。


「ガハハハハ、やる気出てきたじゃねーか、いいぞいいぞ。

先に説明しておく。

一応儂らはなんでも武器は使えるが得手不得手が当然ある。

だが剣と槍に関してはちょっとしたもんだ。だからそれに絞ってやるぞ。


あんま一度に色々やるのはどうかと思うが、どっちも講習で習う。

無駄にはなるまい」


「儂が槍を教えると言ったのに、おぬしが譲らないからでは無いか・・・」


「ガハハハハハ、そこは言いっこ無しだぜ兄弟、儂もお前も共に目をつけた。

だからどっちもやらせる。それでいいじゃねーか、ガッハッハハハハハハ」


 え?そこに俺の意思は確認しないんでしょうか?

言えないけどね。しないのですね。

どっちも教えるつもりでいて、どっちも譲らないから両方やらせるって、鬼か貴様ら。

 見た目通り考え方も極道(ヤクザ)だったか。

思考回路はどっちの世界も同じっぽいな。

しかも脳筋系、駄目な奴じゃねーか。


「でだ、コゾウ。貴様は儂が相手の時は槍で、ガハハ髭(あっち)のときは剣と盾だ。

順番に相手になるからどっちもやれ。

何、儂らが身体に教え込むから問題無い。

貴様は根性を見せればいい、では始める」


 傷顔の教官のその声で訓練が始まる。

まさかいきなり組手から始まる異世界転生(戦闘訓練)とは想像もしていなかった。

やっぱり異世界は甘くない。

 2人は自分たちでちょっとしたものと言うだけ有って凄く強いようで、こちらの振り回すだけの攻撃など当た(カス)りもしなかった。


 攻撃も上手く致命傷にならない程度にうまく調整してくれていた。基本的には武器を弾き、その後でどこの動きが悪いかなどを説明してくれる。

 そして油断するとそこにちょっとだけ痛い攻撃をいれる、という塩梅だ。

加減も上手い。教え慣れている。

それは有り難い。


 だが傍から見たら、ヤクザが俺を苛めているようにしか見えないだろうな。

加減した攻撃は嬲り殺しだ。

 言葉での指導は恫喝脅し威圧。

強い打撃は指導と言う名の暴力だ。


 目撃者がいたら通報する、絶対。誰かして、お願い。

あいにくとこの訓練所には誰も来なかったが。


 おかげで結構な長い時間を訓練し(イジメ)てもらえた。

実際やられてみてよくわかる。

これ本当に嬲り殺しだ。


 倒れたいのに倒れられない。

痛くて苦しい、なのになんとか耐えられる。だから訓練は止まられない。


 必死で身体を動かして反応する俺を見て、教官2人はその凶悪な顔を歪めて笑っていた。


 熱が入りすぎたようで、最後に俺が治療院送りになってやって終わった。

それでやっとこの生き地獄から抜け出せる。


 気絶したのは生まれて初めてかもしれない。

前世じゃそこまでして鍛えなかったしなー。



 治療院はギルド支部の本館の中に併設されていた。

基本的にはお金をだして、回復魔法をかけて治療してもらう場所らしい。

俺は講習生予定、そして相手が教官ということで無料で治療してもらえた。


 しかも相手は念願の美人聖職者、しかも巨乳のほんわか系美人。

憧れのエロプリーストが此処にいた。

シスター服が、そしてそれを持ち上げる胸元が超えろかった。

 おかげで魔法の発動の瞬間を見逃してしまった。

失敗した。

性欲に抗えないこの身が憎い。


 多分だが、全盛期の肉体で復活したせいで性欲も(リピドー)全盛期なんだろう。

昔持ってた熱さというか、歳を取っていつの間にか消えた性欲が完全に復活している。

おかげで時々思考が暴走し、今回は視線が動かなかった。


 全盛期の肉体という神の言葉を俺は、40歳の俺に全盛期の肉体が与えられた、と考えていた。

だがそうでは無いかもしれない。

もしかすると全盛期の歳の肉体に若返って、それを強化されて作られたものなのかもしれない。

それどころか積み重ねた筋トレの成果を若いときの姿に反映してる可能性もある。

それは同じようで微妙に違う。


 恐るべきは人を作り直す神の力。

どれだったっとしてもデタラメだ。

自分で見直す首から下の身体のラインは死んだときの、死ぬまで筋トレを続けていたときのラインと変わっていない。体つきは筋トレをしないと変わらない。

 つまりそこそこの筋肉のついたゴツい身体だ。

俺は若いときは細かった。

それがコンプレックスで筋トレを始めたようなもんだ。

だからこの身体は若いときのものとは違う。

なのに肌つやは若いときに戻っている。


 増えた黒子や染み、皺も無い。

有り難いが、それだけに理解が難しい。

なんとなくで受け入れられたらどんなに幸せか。

時に俺は杉下右京張りに細かい所が気になるんですよ。

主に自分の都合でだけど。


特に自分の身体だ。

筋トレしだすと鏡に映る自分を見るようになる。

そうなるともっともっとと、求め、止まらなくなる。


 この疑問は、鏡をみれば1発なんだけど。

鏡は今のところどこにも置いていなかった。



「もう!講習生の子に酷いことしちゃ駄目ですよ~、気をつけてください~」


 間延びした声で美人聖職者さんが教官に怒る。

良いぞもっとやれ!

だが迫力がまるで無い。

無理そうだな・・・・・・


「すまんすまん、思ったよりも覚えが良くてな。つい力が入った」


 傷顔の教官が謝罪する。が、それって俺に謝るところじゃね?


「ガハハハ分かる、分かるぞ兄弟。

ちゃんと儂らがやったことを見ていて、同じ事を真似して使ってくる。

こいつは思ったよりも見込みがありそうだ」


「そうなんですか?凄いですね~、でもちゃんと手加減してあげてくださいね」


 ガハハ髭が笑い、美人聖職者がたしなめる。

やんわりと。

もう少し強くたしなめてくれても良いと思うんだが。


 しかし思ったより高評価だ。

言葉で教えてくれる気は無いのかと思って、やられた()を意識してやり返していただけなんだけどね。

ちゃんと身体で覚えていますよというアピールだ。

だからそろそろ終わりにしませんか、というアピールでもある。


 そんなことをやってたら、いつの間にか口での指導も怖かった。違う、加わった、んだけど。

最初は無言で武器を払われて終わりだったんだぜ?

超怖いだろ?


「ふむ、まぁキリがいいからこれで今日は終わろう。明日も朝から仕事だ、身体を休めておけ」


「ガハハハハハ、朝は起こしに行くからな。安心してしっかり寝とけ」


 ほらやっぱり来るんじゃん。だと思った。

しかしこれで終わり?

まだ教わってない事があるんだけど?


「えーと・・・・・・」


「どうかしたか?」


「いや素振りとか型とかも教えてくれるのでは?」


「・・・・・お前元気だな? やれるのか?」


「聞いておかないと、1人のとき困るな~と」


「・・・では訓練所にもどるか。そうかそうか」


 今日1番怖い顔で背中をバンバン叩かれた。

マジ痛い、マジ怖い


 その後訓練所に戻り、剣と槍の1人での鍛錬方法をいくつか教わった。

 そして木剣と木盾、そして木槍の一揃えを自分用に借してくれた。

きっと自分の部屋でも練習しておけという事だろう。

有り難く借り受けた。


 そしてそれを部屋に置くと、「極道コンビに飲みに行くぞ」と言われた。


「え?良いんですか?」


「構わん」


「たしか外に出ては駄目なのでは?」


「ガハハハ、1人では駄目なだけだな。儂らといれば脱走扱いにならん。

ならんし逃がさぬ。貴様は絶対にな」

「ふっ、まさか酒は飲めぬのか?」


「いや、飲めるとは思いますけど講習中ですし」


 運動後に酒はあまりよくない。気にはしないけど

前世でも飲んでいたし、飲めなくはないだろう。

ただガハハ髭の言葉が気になるんですけど?


「ならば少し付き合え、消灯には戻る。食堂のメニューはあまり代わり映えしないぞ?

つまらんだろう? 少し外の飯も食わせてやろう」


 奢りか! ならば断る理由もない。

確かに同じような飯が続くと飽きるし。

ご褒美だと思えばやる気も出る。


「喜んで」





 連れて行かれたのは屋台のおでん屋みたいなところだ。

最近見なくなったな、こうゆう店。

新橋とかにはまだあるらしいけど、生憎と前世では縁が無かったから行った事がない。

少し嬉しかったりもする。


 焼き鳥もどきと煮込みをつまみに、軽く飲んだ。

おでん屋っぽいのにおでんはなかった、不思議。

俺の主観だけど。


 異世界の酒は少し酸味が効いていて飲みにくかったが、しっかり酔えた。

酒も焼き鳥もどきも味が薄くいまいちだったが、煮込みはしっかり煮込んであるようで味が染みていて結構イケた。

原材料が分かればもっと良かったが、贅沢は言えない。

考えないようにして飲み込んだ。


 こうして俺は2人と少し距離を縮める機会を得た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ