始まりの日 10
「不能・・・不能ね。
どんな効果のスキルかな?」
「いえ、スキルなどではありません。また何らかの能力でもないと聞いています。
詳しくは存じませんが、何でも男性にとって、他言も出来ないような致命的な問題だとか・・・・・・」
「ふむ・・・」
スキルとか特殊な能力では無く、問題と来たか。
となると思い当たるのは1つしか無い。
・・・・・・確かに男としちゃ大問題だな。
もし生まれ変わったいま、それを抱えていたら発狂して死ねる自信がある。
元気で良かった。健康が一番だ。
だが、
「一時的なものならそんなに心配いらないんじゃないか?」
「旦那さまはご存じなのですね?
ですがかなり深刻な問題だと聞いておりますので、おそらくそんなに楽観できる話ではないかと」
まぁ存じていますね。
前世では40歳、ちらほらそんな話題も出てきていた。
風俗通いが趣味だったおっちゃんの先輩が、駄目になってこの世の終わりみたいに悲観していた。
泡姫が恋人だと公言し、独身を貫いていたその人は、独身ボロアパートで冷たくなっていたと仕事を辞めた後に人づてに聞いた。駄目になった後、酒に溺れて身体を壊したらしい。
熟年離婚した先輩は、若い女ならイケるが、奥さんでは無理になったと人前で公言していた。
若い嫁をもらうと意気揚々と離婚したが、若い女には煙たがられて相手にされていなかった。
見た目は若く見えてイケメン風な雰囲気を持っていたが、奥さんを酷い捨て方したせいで、女性には警戒されていたらしい。親戚にお見合いを頼んでも誰も引き受けてくれないと愚痴っていた。
奥さんにしたことが、噂として社内に広まると同類と思われたくないからか、上司からも冷遇されていった。
なのに本人はその事に気づく事なく、結局逆ギレして辞めていった。
若い女がいいと言い続け、結局結婚出来ないまま、もう駄目になったと嘆いていたおっちゃんもいた。
若い嫁をもらえるなんて、実際は滅多に無い話だ。
だからこそ話題になるのに、自分にも出来ると思い込んで人生を無駄にする男は多い。
40、50、果ては60になっても20代以外女じゃないと言う奴もいた。そして最後は結局金か、と言い出す。気づくのが遅すぎる。世の中は金だ。
不摂生が祟ると駄目になるとも聞く。
糖尿病になるともう完全無敵に、使用不可になると聞いている。
男の人生には障害が多い。
若くて駄目な話を聞いたことはあまり無いが、若い時ほどそんな話は人にしにくいから有る意味仕方無い。恥を忍んで打ち明けるほど、親しい関係の奴がいなかったのかもしれないな。
若い時に良く聞いたのは、早いだの、遅いだの、緩いだのそんな下世話な話が多かった。
あとはなかなかさせてくれないとか、浮気されたとかだな。
そこを超えないとカップルは続かない。
話が逸れた。問題は不能だ。
なるほど、確かに男としては致命的かも知れない。だが、
「歳を取れば皆がかかる病のようなものだと聞いている。
確か若いうちは精神的なものが大半の原因だと聞いてるし、まだ俺もユリウスは18歳、焦るような時間じゃ無い。」
落ち着いてまず1本だ。
緊張して勃たないなんて珍しい話じゃないし、興奮剤でも用意して飲ませれば意外とイケるんじゃないかと思う。ユリウスなら魔物用の強い奴を、うっかり飲ませても大丈夫な気がする。
魔物用バイアグラとか探してくればいい。
また1つ探し物が増えた。増えてしまった。
自分用にも確保しておこう。
暴走したらしたで、喜んで相手にしてくれる奴がいるだろう。
そう考えると幸せな奴だ。イケメンは死ねば良い。絶滅しろ。
「それがわたくし、その精神的なものに心当たりがありますの。
おそらくそう簡単に払拭できるものではありませんわ。」
「・・・・・聞こうか?」
「そうですね。1つは幼少期のトラウマ・・・・・・という類いのモノなのでわたくしの口からは言えませんわ。興味がお有りでしたらご自分で尋ねられた方が良いでしょう。
もう1つ、最近出来ただろう、原因もありました。
これは言ってしまえば、旦那さまが原因ですわ。」
「旦那さまねぇ・・・・・・この場合のソレは俺を指している、ってことでいいんだよな?」
尋ねると女はコクリと頷いた。
俺のせい? と、言われてもユリウスが不能になるような心当たりはない。
奴の前で、プレイに及んだこともないし、インポになるようなエグい話をした覚えも無い。
「心当たり、無いんだけど?」
「ですか・・・・・・ならばお気づきになられていないのですわ。
ユリウスは旦那さまに恋愛感情を抱いている、ということです。
ユリウスが旦那さまに向けている感情は友情ではありません。愛情、ですわ!」
ビシッと人差し指をさして言われた。
そんなポーズを取って言われてもねぇ。
こいつも腐れ系女子か・・・・・・
「はぁ・・・はいはい、真面目な話だと思って聞いてたんだけどな。
はいはい、面白い面白い。面白い冗談だけど、残念だ。」
「冗談ではありません。わたくしは旦那さまをお慕いしています。
だからこそ気づいたです。ユリウスが旦那さまに向けている視線はわたくしが旦那さまに向けている視線と似ている、と!」
「ふっ、つまんねぇ冗談、そろそろやめてくれよ。」
それが事実だとしたら、似ているって事は結局微妙に違うんじゃん。
こいつのは恋、じゃなく、計算だと言ってるようなものだ。
「旦那さまにそちらの気持ちが無いのは解っています。
ですがユリウスの旦那さまを見る目はそうなのですよ。これは女だから分かること。
まだそこまで強い思いではないでしょうが、だんだんと時間をかけて
・・・・・・おっと、お嫌ならやめますが。
問題なのは、女性では無く男性を、という風に考えて頂ければ良いかと。
同性愛者の勇者。あまり世間的には受け入れられ難い存在ではないでしょうか?」
なんか熱く語り出したので冷たい視線を向けると、一応やめてはくれた。
そっちの話題に付き合いたくないから、どこか他所で同好の士と語り合って欲しい。
やはりこいつと話すと疲れる。
「・・・・・・まぁそうかも知れないが」
「勇者に娘を、という話はそんなに珍しくありません。
そうゆう意味ではユリウスは特に難しいのですよ。普段から女性に関心を示しませんし。
その点旦那さまならば心配要らないでしょう?」
「いや・・・俺も押しつけられた女とか要らないけど。」
「そうですね、さすがに何でも受け入れてもらわれても困りますので、こちらで厳選させてもらいますが」
「なんでアンタが厳選するんだよ、するんなら自分でするわ!!
じゃなくてな、俺は欲しいものは自分で取る主義なんだよ。押しつけられた女も、あんたもいらん
勇者も旦那も他をあたれよ、なる気はない。」
「あらあらそんな冷たいことおっしゃらないでくださいな、旦那さま。
わたくし悲しくて、泣いてしまいそうです。
それに今回の始末は、どうなさるおつもりですか?
わたくしなら、一言言えばそれで片付きますわ、旦那さまが面倒なことをする必要がありませんわ。」
「いや、それこそ駄目だろう。
あんたが何か言って終わらせたら、それこそ遺恨が残る。」
でなければわざわざ腕を吹っ飛ばした意味が無い。
こっちにヘイトを集めることと、奴らの気持ちを折るためにやった。
揉めてれば俺はこれくらい平気でやるぞ、という事を脳みその端から端まで叩き込むために、だ。
なのにこの女の家の力で話を終わらせたならば、話を終わらせる意味が無くなってしまう。
人は自分で考えることで、本当の意味で妥協が出来る。
人に止めさせられても、心のどこかにしこりが残るのだ。
残ったそのしこりが、人を歪ませてしまう。
「ではどうするつもりだったのか、お聞きしたいのですが?」
「・・・・・・抜けるんならアンタには関係無いだろう?
直接被害も受けてないし。笑って見てたくらいなら別にいいだろ?」
「今はわたくしがこのチームのリーダーになっておりますので。
とは言っても、たしかに抜ける身ですのでこれ以上の深入りは宜しくありません。
ですが折角なのでわたくしが代表してお聞きします。続きをどうぞ。」
「どうぞって言われてもな。
ふぅ・・・確認したいんだけど、アンタが抜けてもそっちの連中がユリウスを勇者にするのは変わらないんだよな?」
「変わりませんわ。派閥の長、一番上の貴族、この場合わたくしたちの家を含む派閥のトップは伯爵家の当主になります。
その方が中止の命令を出さない限り、任務は続いていますわ。」
「なるほど・・・
ちなみに今回の件で、ユリウスが絶対にパーティを組まないって言い出したらどうする?」
「・・・・・・そうですね、色々指示があるでしょうが、最終的には上からの指示がユリウスにも直接伝えられるでしょう。
考えられるのはユリウスの実家に、心配だからなどという理由をつけさせて同じ元兵士の者と組むように命令させる。
そんなところでしょうか。」
「なるほど・・・家に言われたら逆らえないだろうな、ユリウスは。」
それが弱さだと俺に見えるのは、育ってきた環境が違うから、だろうな。
お互いにそれを笑い飛ばせれば楽だけど、軽々にそれは口に出せない話題だ。
「さすがにそれは最終手段でしょうけどね。
出来ればユリウスに自分の意志で組んで欲しいというのが、そこの者たちの偽らぬ気持ちでしょう。
でなければ、自分たちの評価が大きく下がるのですから。」
なるほど、他の奴を選ぶ = こいつらじゃ駄目だ、と上には伝わるのか。
交渉のポイントとしてはここ以外に無さそうだ。
「じゃーこうしよう。ユリウスがおまえらと組みたくなるように説得してやる。」
「なんだと!!」
これに反応したのはゾルダード先輩だった。
血が足りていないのに一気に立ち上がった。
だがすぐにふらついて、ヨロヨロと座り込んだ。
貧血時にあまり興奮するのは良く無い。
「旦那さま、それは流石に難しいのではないでしょうか?」
「何で?」
「旦那さまが全て話してしまわれたから、です。
さすがにこの後で何を言っても聞かないだろうとわたくしでも思いますもの。」
「それは子爵の娘のアンタが言っても駄目なのか?」
「・・・・・そう、ですわね。確かにそれなら・・・・
わかりましたわ、わたくしが旦那さまのために話して参ります。ですので旦那さ」
「あー待った、待った。
誤解させて済まないが、確認しただけだ。
つまりアンタが話せば折れる。その程度の意地なんだろう?
じゃー問題無いよ、俺が話しても折れるさ、へし折ってやる。
つーか、意地になるのは加害者側のあんたらと話すときだけだ。
被害者のこっちにまで意地張る必要無いと思うけど?」
「つまり旦那さまが説得すると?
何の為にでしょう?」
「別に・・・単なる落としどころとして話しているに過ぎないよ。
俺は勇者に成る気はないし、むしろユリウスが勇者に成ってくれるなら大歓迎だ。
二人目以降は難しいんだろ?だったら早いとこ一人目を決めて欲しい。
俺としちゃ余計なことされなければ、あんたらがどうだろうと構わない。」
流石に難しいのに、同期で二人目の勇者を目指せとか言って来ないはず。
この女もそうだが、師匠の教官長、そしてギルドのサブマスあたりはまだ諦めていないように感じる。
だったら一人目がさっさと決まるのが好ましい。
「本気で言っているのか?」
信じられないような、何より馬鹿を見るような目で俺を見て声を上げたのはゾルダードだ。
馬鹿を見るような目がとてもむかつく。
だが、勇者という利権として考えれば分からなくもない。
自分で利権を手放す奴が居れば、俺も同じ目を向けるだろう。
特に俺は〝聖剣〟の事が有る。こいつらが俺を敵視していたのは有る意味正しい見方だ。
俺からしたら勇者なんて目指して小競り合いをしている奴らの方が馬鹿なのだが。
何しろ利権に例えたが、正確には利権ではない。こんなの単なる責務だ。
「ああ」
真面目な顔で答える。
ゾルダードは少し考えた後に、
「頼めるなら頼みたい。我々に出来る事ならする」
と答えた。その答えが聞きたかった。
頼む態度じゃねーけどな。
「うん、その答えが聞きたかった。いいだろう、引き受けよう。
だが無条件でお前らの為に働くつもりは無い。
説得料で100万z 払え。
100万zで今回の事、水に流してやる。」
俺のその声に真っ先に反応したのは子爵の娘だ。
眼を細め、再び愉快な者を見る目でこちらを見て、薄く微笑んでいる。
どうやら愉悦の道具として合格らしい。
不愉快だ。特にあの目。
俺もよくあんな顔を作って他人に向けている。
自分に向くと本当に不愉快だな。今後も続けよう。
だが、女は特に口を挟んでくる気は無いようで、そこには安心した。
対し、ゾルダードは再度顔を赤く染めて震えていた。
「ばっ、馬鹿を言うな!!!
そんな大金払えるわけないだろうが!!!」
100万z、確かに大金だろうけど、一応貴族だろうに、けちけちすんない。
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