始まりの日 9
「・・・言ってる意味が分からないですよ。
ユリウスを勇者にするのが目的のはずでは?」
「それはそちらの者達が受けている任務ですわね。
わたくしは受けていませんわ。」
じゃーなんで講習受けてんだよ。
「ではなんで一緒に行動を・・・って隠れ蓑にしてからか・・・
その場合、ユリウスのサポートからは抜けるって事ですか?」
「そうなりますわね。
一緒にいる意味もあまりありませんし。」
「ん!? 回復魔法の血統魔法使いがいるってのは合っていた。
それは何故に!?」
「ああ、元々参加予定だった子の名前と戸籍を借りたからですわ。」
「言ってる意味が分からない。
それだとユリウスのサポートに回復魔法の使い手がいなくなる。
回復魔法は外せないだろう?」
俺だって何をさしおいても回復手段を得る予定だった。
棚ぼたでゲットしたけどな。
「その子も別の名前で次回の冒険者講習を受けに来るので問題無いですね。」
「なんだそりゃ・・・なんでもありかよ。」
「旦那さまもその恩恵にあずかれますわよ?
期待していただけると嬉しいですわ。」
なんとか準男爵ってのはこいつん家の言う事を聞く貴族ってことか。
〝特化した治癒の血統魔法〟の家の中でも上下がある。そんな感じか。
「・・・頭が痛くなってきた。が、出来ればその辺の話を詳しく聞きたい。」
「あら・・・良いお返事を聞いていませんのにお答えすることは出来ませんわ。
さぁ素直になって、旦那さま。素敵な愛の言葉で囁いてくださいな!
満足したら、教えて差し上げますわ!」
「おまえ・・・ほんと苛つくな
丁寧に話すのは難しいな、お言葉通り好きに喋らせてもらおうか!
こんなぐちゃぐちゃな関係になったけどな、それでも俺はユリウスと友人でいたいと思ってる。
心配して何が悪い。
言わないなら話は終わりだ。勝手にやらせてもらう、まぁ元々敵同士だけどな!」
「あら・・・対価のお話は?」
「知るか、手帳にでも書いとけ!どうしても欲しけりゃ取り立てに来い!
家でも親でも家族でも!使えるものを何でも使えばいいだろうが!
受けてたってやるよ・・・・
全部まとめて踏み倒してやる、てめえんとこの枝んとこにもよく言っとけ!
頭のおかしいのが壊しに廻って来るぞってな。せいぜいしっかり防備を固めるように言っとけ!」
「あらあらどうしましょう。旦那さまを怒らせてしまったかしら。
くすくすっ、仕方無いわね。ではこうしましょう旦那さま。
年下の旦那の我が儘として聞いて差し上げますわ。
どうです? わたくし良い妻になると思いますよ?」
殴りたい。マジで殴りたい。くそっ
あー、こいつマジで苦手だ。
殴りたいのを押さえてその先の話を促す。
「旦那さまがそちらの心配をする必要はありませんわ。元々2体制での援護になっているのです。
最初に、年上の血統魔法を使えるこの者達が地盤を固めに一緒に出発し
後から、特に若い戦闘に特化している者たちが合流する、という手筈ですの。
旦那さまがおっしゃったように、こちらの者たちは強さ、という意味ではそれほどの者ではありませんので。
代わりに一応特化した能力を持っている、そのことはもうご存じでしょう?
最初はあまり抜きん出て強くない者が周囲にいた方が、ユリウスが目立ちやすい。
そういう事ですわ。
問題はこのままいくと地盤を固めるのが難しいというところでしょうか。」
何か特化した能力を持つ引き立て役か・・・
「なるほどそりゃー俺が・・・・・・・邪魔なわけだな、納得した。
だが、ユリウスのパーティに斡旋するってのも真っ赤な嘘だった訳か・・・
馬鹿にしてやがる・・・・」
「旦那さまが邪魔だったのはその通りでしょう。旦那さまだけではありませんが、有望株と呼ばれる者たちと仮に組まれた場合、計画ごと頓挫しかねません。
ですからゾルダードは酷く焦って動いていたのですわ。
ですが斡旋は嘘ではありませんわ。後発組が次の講習を終えるまでに三か月は空いてしまいますから。
準備と合流する手筈などを考えると、最終的には半年くらいは期間がかかるでしょう。
その間の戦力を欲していたのも確かですので。
ご存じの通り、都合の良い戦力、が必要だったのです。」
「勝手な話だな・・・・
だが、それだけユリウスを本気で勇者にしたいってわけか・・・
思いつきだと聞いてた割には力が入っている。」
そこに少し安堵する。
「いえ、完全に思いつきでしょうね。
今回の件、下級の貴族の中からしか選ばれていませんし、そこまで能力の高い血統魔法の使い手も選ばれていませんわ。正直、わたくしから見れば、不要の人材を使い潰す為の計画にしか思えません。
旦那さまは〝洗脳〟もしくは〝凶暴化〟の一種と先ほど言いましたけれど、単に未熟で思い通りの効果がでず、正しく効いていなかったからそう見えただけですわ。
未熟な・・・・そうですね、仮に〝支配の血統魔法〟だと思って頂ければいいでしょう。
それを掛けられたために、全体的に暴走してしまったのですわ。
特に魔法課の老教官が酷かったわ。
あの方、旦那さまを弟子にしたいという願望が凄く強かったみたいで、変に暴走してしまっていて。
何度も何度も掛け直しているですよ、勿論コッソリとですが。
おかげでどんどん壊れてしまって・・・」
「・・・・・・」
〝支配の血統魔法〟 そこまであからさまだとは思ってもいなかった。
現実は想像よりも残酷だった。なんだそりゃ・・・
うっかりあのじじい、首になった講師達に襲わせちまった。
元講師達の弱みとして握ってるから問題無いけどさ。
あのじじいも被害者だと思うと少しいたたまれない。
「旦那さまの推測も良い所まで来ていたのですけどね。
さすがはわたくしが見込んだだけの事は有りますわ、本当に、楽しませて頂いて。
わたくし、笑いを堪えるのにもう・・・必死で必死で・・・・」
口元を押さえて顔を背けられた。
その姿に心底イラッとくる。
「てめぇ・・・・」
1人震えて下向いている奴がいたと思ったら、泣いてたんじゃ無くて笑ってたのかよ。
マジで性格が悪い。
「そんな笑える男を旦那にしても仕方無いだろう。」
「とんでもない、わたくしがついて支えてあげなければ、と
惚れ直してしまいましたわ。」
「意味が分からん。あんた何がしたいんだ?
今のどこに惚れる要素がある!?」
「あら!?お気に召しませんでしたか?
年下なんて少しだらしないくらいが可愛いと、よく聞かされてたからか、とても愛おしく思えましたのよ?」
「ふっ、ふふふふふふ。
馬鹿にされてるようにしか聞こえないが?
まぁいい、何がしたいのか、そこの話をしろよ。知らずにイエスと答えると思ってるのか?」
「あぁそういうことですの?
そうですね、子供は何人作りましょうか? わたくしとしては最初は男の子は外せない所なんですが、女の子も欲しいと思いませんか?後継者候補として考えるならば男子のほうが有利です。兄も姉もお子はいますが、わたくしたちの子ならばそれを上回る才能を持って生まれてくれることは間違い有りません。ただまずは家の許可を取らねばなりませんし、まずは婚約からですね。なので旦那様にはまず目立った大きな戦果が欲しいところですわね。これに関してはお任せするので早々にお願いしますわ。ここからそう遠くない平原の奥の岩場にアースドラゴンがいるというお話はご存じかしら?わたくしとしてはそれがお薦めですわ、旦那さまならと期待しております。他に妻を娶るのは構いませんが、わたくしの後にしてください。序列は大事ですから。子供の教育はこちらでしますのでご安心下さい。必要でしたらな」「待て待て待て待て!!違う、そっちの話じゃない。つーか、マジなのかよ。」
「どうかなさいまして?」
こいつマジ怖いんだけど。
「本気で求愛されていると思ってなかったんだよ!おかしいだろ!」
「まぁ酷い、女心を弄ぶなんて・・・」
ヨヨヨと泣き真似のような仕草をする。
そんな様子が一層俺を腹立たせる。
俺がいつ弄んだ。そんな冗談は弄ばせてから言え。
「うるさい、おかしいだろ!
ユリウスの話はどうすんだよ!」
「やめますわ。元々わたくしはユリウスには興味がありませんでしたので。」
「はぁ?本気かよ!?」
「わたくしはわたくしの勇者様を探していると、申し上げたとおりですわ。
その言葉に嘘偽りはございません。
そしてわたくしはユリウスでは無く、旦那さま、あなたが勇者に成るべきだと考えています。」
「無茶苦茶だな。子爵の娘だからってその上の貴族に逆らえるのか?
上がユリウスを勇者にするって決めたんだろう?」
「そうですわね、多少は揉めるでしょうが、旦那様が勇者に成ってしまえば些細な問題ですわ。
問題なのはその時に、わたくしが横にいるかどうか、ですもの。」
「俺は勇者に成るつもりなんてねーよ!」
「そこは愛する妻のお願いですから」
「人の話を聞け!」
「聞いてますわよ?」
「受け入れろって事だよ!」
「必要ありませんわ。」
もーやだーこいつ。
「何でだよ、ユリウスでいいじゃねーか。」
「旦那さま、ユリウスには重大な欠点があるのです。
勇者に成るための最大の欠点が。」
「ねーよ。
あったとしても正義馬鹿とか、融通が利かないとかそんなんだろ?
大した問題じゃねーよ。間違い無く現時点ではユリウスのが強い。講習生内でも最強だろうな。
『槍龍波』が使えるだけじゃ、数年はこの差は埋まらねぇ。
その間に結果をだせばいくらでも、先んじられるだろ。
その先んじる手段を考えるのがお前らの任務だろうが!」
「あら・・・」
女はそう言って少し驚いた顔をした。こいつが驚くのは今日、話を始めてから初めてかもしれない。
足下でも「えっ」という声が聞こえ、視線を移せばばゾルダードたちも同じ顔をしている。
「あんだよ?」
「いや・・・意外と素直に認めるのだな、と。」
ゾルダードが答える。いいのかよモブ兵士が口を開いて。
俺は別にいいけど。
正直こっちの女は苦手だ。
「あくまでも現時点だし、負けを認めるわけでも、絶対に負けるわけでも無い。
やるんなら今日お前らにやったみたいに、俺が必ず勝つ場を仕立てるだけだ。
そして、将来的にはちゃんと追い越すつもりもある。
だがそれ以上に個人の強さはそこまで追いかけていない。
必要なら、ユリウスを殺せる誰かに任せるだけだ。
単純に戦闘力で劣っても、俺がユリウスに劣るわけじゃねぇよ。」
必要ならな。そんな事が必要な時が来ないだけだ。
ユリウスとなら話し合えるだろう。
正直丸め込む自信もある。
故に俺から見たアイツの欠点は正義馬鹿と融通が利かないになる。
だが短所は長所と紙一重だろう。別に悪くは無い。
「まぁ素敵、わたくし惚れ直しましたわ。」
「今日何度目だそれ!
さすがに慣れた、もう信じられない。」
「まぁ酷い。」
「それももういい!
悪い事は言わないから、勇者が必要ならユリウスに任せろよ。
ユリウスが俺の知る限り、見る限り、1番可能性が高い。
とくに俺は、性格的に勇者に向いていない。それも致命的にな、絶対無理だ。」
俺がそう言うと、足下の4人はどこか安心したような顔をした。
別にお前らを安心させるために言ってるわけじゃないけどな。
俺が勇者に成ったらなったで、目につく全てのそこその女が妊娠するだけだ。
そんな不幸を振りまく勇者にしかなれないだろう。
「旦那さまが全体を見ようとされているのはよく分かりました。
そんなあなただからわたくしは夫に迎えたいと考えたのかもしれませんね。」
なんだよしれませんて、絶対こいつ本気じゃねーよ。
「ですが、それでは不完全です。旦那さまには仕方無いことなのですが、大事な話が抜けていますわ。大事なポイントを押さえておりません。
不正解と言わざるをえません。
ただこれは平民であった身では仕方無い事なのでこれからしっかり学んでいけば身につきますわ。
妻としてわたくしが支えるのでご安心下さい。」
「いやそんな、理由も言わずお前は駄目だみたいなこと丁寧に言われてもなぁ・・・
負け惜しみに、違うな、論点を変えられているようにしか聞こえない。
欠点があるなら先にそれを言えよ、それを俺が欠点だと思わなきゃ意味がないだろう?」
「そこですわ。旦那さまが欠点だと思っても意味がありませんの。」
「何で?」
「勇者を決めるのは旦那さまでは無いのですから。」
ぐはっ!なるほど・・・
それはそうかも知れない。論破されちゃった。反論できない。
「ふむ・・・参考までにその欠点を教えてくれ。
俺は奴に勇者になって欲しい。可能なら強制してやりたい。」
別に代わりに勇者に成ってくれるならユリウスでなくても構わないが。
ユリウスが1番可能性が高い。伸ばしておくのも悪くない。
「旦那さま、それはユリウスを勇者にする任務を受けている者達にとって、死刑宣告に等しいものですわ。知りたいのなら教える事は構いませんが、もう少し雰囲気を作って、甘い言葉を囁いて尋ねて欲しいものです。例えば、寝室などで。」
「それは無理だな。夫婦の寝室でユリウスの話何て聞きたくねーし、萎えるわ。
何よりベッドの上じゃ口を開く間も与えない。
俺はキス魔なんでね、寝室でお喋りをしたいなら他の男を当たってくれ。」
「あら素敵・・・
お父様、すぐ孫の顔を見せてさしあげることができそうですわ。」
「・・・・他の男を当たれって言ったんですけど・・・」
「子孫繁栄こそ、家の繁栄でしょう。子爵の家に生まれた者の定めとして、わたくしそこは譲れませんの。」
「コトの前に父親の名前出されたら勃つモノも勃たたなくなるけどな・・・」
「よく分かりませんが、心に留めておきますわ。」
「・・・もうその話はいいや、それより欠点教えてくれよ、欠点。
大した問題じゃ無さそうだし。」
「そうですわね、多分旦那さまには大した話だと思いますわよ?」
「俺!? ピンポイントで!?」
「そうですね、旦那さまには特に。
不能・・・と聞いております。わたくしには意味が分からないのですが、男性にとってはとても重大な問題だとか。」
ブクマ、ポイント、そして何よりも読んで下さってありがとうございます。
もし良ければ、この近辺に表示されているであろう、なろう勝手にランキングにご協力もらえるとありがたいです。
当方の仕事なのですが年末、ないし繁忙期になっていくと、自分の都合では仕事が廻らなくなり、その場合投稿がまた空いてしまうかもしれません。
例年、年が明けて少しすれば落ち着くので宜しくお願いします。
間が空きましたら、「はっはーあいつ仕事に嵌まってやがるぜ。」とでも思って笑ってやって下さい(T-T)
しばらくは大丈夫です、一応で。