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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
3章  土台作り
123/196

始まりの日 4

説明回

しばし続きまする。会話メインです。


ユリウスが戻り、周囲の視線も自然と集まってくる。

面倒くせえな、とは思いつつも話をしなければいけないことは理解している。

だが面倒だ。

それでも惚れた女や狙った女がいるこの空間で放り出して知らん顔は出来ない。

せいぜい格好つけてやろう、と考えながら芝居がかった感じを出して話を始める。


「んじゃーまぁ聞いてくれ。

この講習が始まってから裏で何が起きていたか、を。

気づいてた奴、気づかなかった奴、どっちもいると思うが、起きた大半の事はそこの5人が仕組んでたことだ。

と、いきなり言っても信じられないだろうけどな。」


講習に参加する全147名をむりやり食堂に軟禁しているようなものだ。

なるべく全員に関わっているような雰囲気を持ちだして話し始める。

俺たちにも、そして元兵士組にも与しない奴らは不満そうな顔を浮かべていたが、逃げることも出来ずに大人しく聞いている。

とりあえず反応がなくても聞いてくれてればいいさ。



「信じられないのも無理ないと思うが、イゾウがさっき撃った『槍龍波』はそれを確認する意味があった。突然のことで驚いたと思うけど、理解して欲しい。」


そんなことを考えている俺の斜め後ろから、ノリックが前に出て俺の言葉を奪って言う。

あれあれ、交代した覚えはないぞ? ここで格好良く話を纏めて評価、最上げからの、フラグビンビンに持っていくつもりなんですけど?

特にセレナとビアンカ、あとメアリーの前で格好つけたい。


「木の食器、では普通出来ないんじゃがな・・・槍の使い手としては最高峰と言って良い技じゃ。

それを防ぐ魔法障壁を張る。それも事前に、そんな存在は限られるという事を知っておいて欲しい。

つまりこやつらは素性を隠してはおった。

イゾウはそれを暴くためにやった、そうじゃろ?。」


なんかガレフも語り出したので、俺は少し下がる。

後ろで腕を組んだまま大物感をだしてふんぞり返ってみる。

まぁ手を出した本人がぺらぺら喋るのも微妙なので、ここはお任せしよう。

一応頷いてはおいた。


ちなみに素性を隠すことが悪いわけではない。

問題なのはそこでは無いのだ。


「ごめんなユリウス。

調べてきたのはイゾウだけど、僕たちはそこの5人から随分前にもう聞かされてたんだ。

一応その時はもっと断片的になんだけど・・・」


「けっ、あれは嘘を吹き込まれてた、っつーんだよ。」


「まぁそうじゃがな。すまんのユリウス。わしらがイゾウの(がわ)にいるのもそこの奴らに色々吹き込まれていたことが大きい。」


「どうゆう事?」


「うむ、つまりな。儂、ノリック、シグベル、そしてイゾウはな、そこの5人に個別に呼び出された事があってな。その時におぬしの事情を聞かされておるのじゃよ。

勇者を目指している理由も、家の事情も、全てじゃ。

その上でそやつらは、わしらにな、おぬしの()()()()()()()言われていたんじゃ。

わしらがおぬしとのパーティに良い顔をしなかったのは、それが大きい。」


「な・・・・ゾルダードさん、それは・・・」


「・・・・・」


ゾルダードは答えない。他の4人も下を向いたまま俯いていてその顔を伺うことが出来ない。

だがよく見れば、床に小さな水滴を垂らしている者もいる。

今更泣くくらいなら、やらなければいいのに。立場を考えると難しいだろうけど。


「何でそんなことを言ったか分かるかい?

僕らが反発する事を見越して。違うな、僕らが反発するような言い方をワザとしていたんだと思う。」


「けっ、ちなみにそいつらのうち数人は貴族が混じっていることもそんときに聞いた。

まさか全員が貴族の血筋で、血統魔法なんてもん隠し持ってるとは・・・そんときは思いもしなかったけどな。

イゾウが調べてこなかったら、言われたことそのまま信じてたかも知れねぇ。」


「それだけなら儂らと交渉したにすぎんがな。

そやつらが狡いのは、他の者には別の言い方で唆してたことだ。」


「・・・・・他の者?」


「ああ、儂らにはユリウス、おぬしの部下になるように声を掛けておきながら、同時に他の講習生にはな、おぬしのパーティメンバーとして斡旋してやる、と言っておった。

これもイゾウが言われた奴から聞き出しているから間違い無いぞい。

儂らと同じように、イゾウの側に知った顔が多数ついているから分かるじゃろう。

今じゃイゾウの部下みたいになった奴もいるが・・・置いておこう。

あと・・・・聞きだし方はあまり褒められたやり方じゃないから、触れてやらんことじゃな。

まぁ・・・イゾウじゃしな・・・」


「イゾウ、意味が分からないよ。

どうゆうことだか、もう少し・・・かみ砕いて欲しい。」


俺が何が悪いんだよ、とか思っていたら、矛先が綺麗にこっちに向いた。

やめろよ、こっち見んな。



「俺に振るなよ、ガレフたちに聞け。

・・・つーか察しろよ。なんでガレフたちがまどろっこしい言い方をしてるのか。」


ぶった切った俺にユリウスの強い視線が突き刺さる。

その視線が面倒だと感じていたら、もう一方別の熱い視線が注がれていたことに気づいた。

ビアンカだ。

目が合ったので、腕を組んだまま手を振っておくと、口の動きだけで「馬鹿」と返された。

この馬鹿は、好きだよ馬鹿。 ではなく、真面目にやれ、馬鹿。の馬鹿だろう。

思い通りにいかず、正直もう投げ出したいのだが、それは許してもらえないらしい。

ではちゃんとやろう。面倒だから、こそ、ちゃんとやろう。

でないといつまでたっても終わらない。



「分かった。ハッキリ言ってやる。

そこの5人はお前を勇者にするために送り込まれたどっかの貴族家の者だ。

全員が血統魔法を使える血筋にあるらしい。

お前と合流してこの街に冒険者になりに来たのは偶然じゃない。最初から仕組まれていた話、ってわけだ。」


「そんな・・・・嘘、でしょう・・」


ユリウスがゾルダードたち元兵士に問いかけるが、彼は何も答えない。

だって事実だもん。ユリウスにのみ内緒の話だ。


「とは言っても本人達が望んでそんな任務についたわけじゃねぇ。

だから色々内心不満があったんだろうな。

そんな薄暗い感情は、そのやり方に顕著に表れた。

お前を高みに押し上げる、という選択肢では無く、周囲の足を引っ張る方向に動いていた。


で、最初に目についたのが俺だ。

講習を受ける前に検査を受けただろう? あれでお前を上回る成績を出しちまったからな。目障りだったんだろうな。」


「そ、そんなことで・・・」


「お前にとってはそんなこと。だけどそいつらにとっては違う、大問題なのさ。

だってそうだろう、親、もっと言えば家を通して与えられた任務だ。

お前が勇者にならなければ、なれなければ、


責められるのは誰だ?


そいつらだけで済むと思うか? 家ごと責任を取らされるんじゃないか?

貴族の話は詳しくは無いから断言は出来ないが、かなり問題になるんじゃないか?」


「・・・・・」


「さて、先にここで『血統魔法』に触れておくぞ。

俺が調べてもらったところ、5人のうち3人の能力までは調べられた。

一般的にはともかく、貴族の間ではそれなりに有名な血筋らしい。

1つがさっき見た、〝 魔法障壁の血統魔法 〟 血統魔法の中では割とポピュラーだが、人気のある魔法らしい。障壁に家紋が浮かび上がるのが特徴だそうだ。

いくつかのパターンの障壁魔法があるらしい。

使い勝手はかなり良い魔法だろう、そりゃー勇者を目指すんだそれくらいは組み込まれるよ、大した魔法だ、俺も覚えたい。


次は 〝 高度な治癒の血統魔法 〟だ。これもよく聞くタイプだ。

だがその有能さは言わなくても分かるだろ?

なんでも血統魔法の中でもかなり希少だそうだ。

そういや俺が殴りつけた事が有ったが、直ぐに治療されていた。

おそらくそれなりに頻繁に使っていたんじゃないか?血統魔法だと、理解出来ない形でだろうけど。

その時に魔法障壁が張ってなかったのが、気になっててな。

多分制限があるんだと見てる。

それも聞き出したかったんだけど・・・・保留中だな。


もう1つは置いておくが、所謂 『デバフ』って奴だな。」


「デバブ!?

イゾウ分かるように言ってくれ。」


勿体ぶる俺にユリウスが食いつく。

やだよー、焦らしちゃうもんね。


「くくくっ、まぁ置いとけよ、ちゃんと話すさ。

3つは確定、残りは2つ。 ちょっと想像してみよう。

防御、回復、そして阻害。単純にバランスで考えたら攻撃系の能力が無いな。

仮にこれに 〝 攻撃系の能力の血統魔法 〟 が入るとして、

そうなるともう一つは 『バフ』 だろうな。むしろ先の奴よりもこっちが有用かもしれない。

強化魔法(バフ)』、簡単にいうと、対象の能力を少し底上げする魔法だ。

でないとお前を勇者にするサポートには向かないから、これ系の能力は必須とも言える。

むしろ俺ならこっちを2つ組み込むかもな。」


「・・・イゾウ、君は一体何を言っているんだ?」


前世の用語を盛り込んだ説明にユリウスは首を傾げている。

聞いている大半の者は理解が追いついていないようだ。

身内にはもっとわかりやすく噛み砕いて説明したが、今はそんな気分じゃない。

サクサク進めよう。


「ん~、嫌がらせ・・・かな?

隠している能力を衆目に晒すことで、足を引っ張っている。違う、引っ張り返している。

散々嫌がらせされたんだ。

それくらいは許されると思うけど?」


「僕には、何を言ってるのか理解が出来ない。」


「くくくっ、じゃー説明に戻ろうか。

三つ目の血統魔法だ。みっつめな。

『デバフ』 バフの反対の意味を持って デバフと言っている。

つまりは 『阻害魔法』だ。対象に不都合を与える魔法。

『 バフ 』 は、強化。 『 デバフ 』 は弱体。この場合 不都合とか不利益だな。

血統魔法の場合はそれの強力版という事だろう。


この講習の裏で暗躍していた正体が、ソレだよ。

俺たちは〝洗脳されている〟と表現してたけど」


「そんな・・・魔法で!? そんなことを!?

・・・いや、でも・・・

とは言っても・・・」


ユリウスは混乱している。それもまた1つのデバフの効果。

理解出来なくてもサクサク進めるよー、ちゃんとついてきてね。


「詳細はこれから聞き出すつもりだったんだけどな、勿論力尽くで。

その為の協力者だ、半分くらいは被害者の集いだけど。

おそらくは『洗脳』なんてものじゃ無く、思考を『暴走』させる系統の能力だと俺は考えている。

聞くに、闇魔法とかに 『凶暴化』とか『誘惑』、『幻惑』とかの効果の魔法があるんだろ?」


「・・・・聞いたことはあるよ。」


「 『凶暴化(バーサク)』 の一種じゃねーかと俺は睨んでいるが。


ここでガレフが言ったパーティメンバーの枠の斡旋 って所に話が戻る。

声を掛けられた奴らには、お前と元兵士組(そいつら)が組むのは確定だと言っていたらしい。


だがもう1人か2人ならパーティに入れられると。

自分たちがユリウスを説得してやると言ってな、そこに入りたいと()()()()()らを煽ったようだ。


その『血統魔法』を使って刺激してな。

当然普段からお前上げ、俺を下げを吹聴して廻る努力も怠らなかった。

不思議なことに『王都の元兵士だった人が悪く言ってるから、多分そうなんだろう』と思えたらしい。

そう思うように講習生を誘導していった。

特に田舎から出てきて、何も知らない、分かってないような奴を優先して、な。


分かるか?人のいないところで陰口を叩いている、んだ。それだけなら良くある話。

違うのはそこで 魔法を掛けて廻っていることだ。当然掛ける許可なんて取る訳が無い。



するとあら不思議、俺やライアスなんかにもビビらない恋の暴走凶徒が出来上がる。

身の程知らずな馬鹿な兵隊だ。お前の為といえば何でもする、お前しか眼に入らない、理不尽や不利益すら気にしない、思考停止した・・・・そこの5人に都合の良い奴らが、な。


ちなみに恋の暴走凶徒って言ったのは、女の方が強く掛かっているから、だな。」


「心当たり、有るんじゃ無いかな?」


俺の言葉が終わるのを待って、ノリックがユリウスに問いかける。

その言葉にユリウスが押し黙った。

考えているようだ。


心当たりなんて有って当然。ありまくりだろうな。

ユリウスは色男だ。俺が見てもそう思う、かなりのイケメンだ。


だが、だからといって無条件で女がファンクラブまで作るようになるなんて普通ならば有りえない。

男よりも女の方が、現実を見る生き物だ。

無理に高値の花を追い続けるような生き方をしない。例外の一部を除いて。

特にこの初心者講習を受けるような奴は、結婚相手を探しに来るような側面もあるらしい。

親や家に捨てられた者同士が、寄り添い合って生きていくために。

ならばどこかで妥協して適当なところに落ち着くのが普通だ。

全員ではなくても、途中で脱落する奴が必ず現れる。


なのに今回、俺の妨害が入る以外の理由で、脱落する女はいなかった。


誰かが裏で煽っていたのは間違い無いだろう。


知っているか?アイドルやなんだのファンクラブって、運営しているのはアイドル本人じゃないんだぜ?関わってはいるだろうけど。



「心当たりは他の奴らもあるんじゃねーか?


この中にそこの5人と話したこと無い奴、そんな奴の方が少ないだろう?

呼び出されたり、そうでなくても話しかけられたことのある奴だっているだろう。


俺やガレフたちが個別に呼び出されたのも怪しいな。

当然そこで俺たちも魔法を掛けてたんじゃないかという疑問が浮かぶ。


そいつらいつも5人で固まって行動していたしな。


聞けば、俺が解いた奴も人のいないところによく呼び出されて話していたらしい。

こいつらは5人で来て、1人がいつも代表して話す。

その間にこっそり掛けるわけだ。

この場合他の3人はただの壁だ。 囲んでな、外と中、両方の目を塞ぐ意味がある。

あっ、解く方法は秘密だぜ?そこまで無料で提供してやるつもりは無い。

とまぁこんな感じなんだが


くくくっ、わかるかユリウス、今回その手法を意趣返しで使ってやったんだよ。

人にやることはあっても、自分がやられるとは思ってもいないようだったからな。


そんな訳でどいつがその『血統魔法』の使い手だかも分かっていないんだ。

話をしてたのは殆どゾルダードだと聞いている。

となるとその他の4人の誰か、が隠れてその魔法を掛けているわけだ。

それを聞き出す必要が有るのは理解出来るよな?

誰かが邪魔しなければ、今頃目星くらいはついたろうに。」


誰が使い手かは絶対に特定する必要があった。

今後、そいつの言動に注意すれば同じ事をやられる可能性が一気に下げられる。


だが実は半分嘘だったりする。俺の中で消去法で目星はついている。

俺の時に同席した女は2人。多分そのどちらかであろう。

それ以外にも5人揃っていないパターンが何度かあったのは、解いた奴らから聞いて確認している。

人数の増減はあったが、必ず参加しているのがこの2人だ。

つまりどちらかが、犯人だ。実行犯という意味で、だが。






「さてここで問題です。

そんな便利な魔法だからな、当然使いどころは()()だけじゃ無いんだ。


最初に言ったよな、そいつらは人を陥れる方向に動いている、と。主に俺を。

不思議だったんだよ、俺より成績の悪い、どう見ても弱い奴らが、俺を落ちこぼれ扱いするの。

朝のマラソン、教官長との訓練、講習の進捗具合、どれを取っても侮られるとは思えなかった。

くくくっ 『血統魔法』っていうピースを当てはめてみればすぐ解ける。


さてさてさて、誰かを陥れたい場合。

相手が講習生だったなら。

誰を〝洗脳〟するのが最も効果的でしょーか?」






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