根回し 武器
冒険者ギルド第3地区支部、武器倉庫
そこで教官たちに念入りに手入れをされ、綺麗に並べられた槍をユリウスと眺めている。
とても気まずい。
ユリウスが習得を目指していたスキル 『槍龍波』を俺が先に習得してから二人きりになるのは初めてだ。
彼の仲間である元兵士の連中を敵視していることもあって、どうにも話が続かなくて困る。
救いなのは見る槍の形状が違うことだろう。
ユリウスはあまりゴテゴテしない直槍を好み、それを置かれたエリアから動かない。
俺は一般的にハルバードと呼ばれる斧と一体化した槍を見ている。
ここに置いてある数としては俺の希望の物の数が圧倒的に少ない。
先に見終わり軽く振らせてもらっているのに対し、ユリウスは念入りに1本ずつ手にとって観察するように眺めている。その顔は真剣そのものだが、口元が少し笑んでいるのが分かる。
こうゆう顔をしている人間に無闇に干渉しないほうがいいだろう。
聞いてもいない、槍の話を延々聞かされそうだ。
正直怖い。
1人でくれば良いところを、何故ユリウスと一緒に来たかと言えば、全て槍の指導員教官である、師匠の傷顔の教官のせいだ。
どこかの悪い氷魔法使いが空気を読まないせいで煮詰まってしまい、自身を激しく追い込んでいるユリウスに、息抜きさせたいと声をかけてしまった。
元々は俺がハルバードが欲しいと師匠に相談していた事が発端だ。
「倉庫にも何本か置いてあるから見てから考えてみたらどうだ?」と言われ、向かっていた途中の出来事だった。
止める暇も無かった。
この冒険者ギルド支部で、倉庫に保存されている武器防具を融通してもらう為には、買い手側に一定の条件が定められている。
この支部での受けた任務の数だとか、ギルド規定のランクだとか細かく定められているのだが、その一つに初心者講習で〝認可〟を受けた数という規定もある。
全ての〝認可〟を受けているユリウスと、魔法以外は全て取得済みの俺。
特に問題があろう筈が無く、ギルド側としても放出したい旨があるため、是非見てこいと送り出された。
俺たち以外にも数人条件を満たしている者もいるが、大抵は自前の武器を用意している。
ユリウスもそうなのだが、渋るユリウスを師匠が強引に連れ出した。
今は槍を見ていることで、雰囲気が少し和らいだので、連れてきたことは正解だろう。
後は俺たちの気まずさだけが問題だ。
嬉しそうに槍を眺めているのでとりあえず放置で良いだろう。
俺は俺で真剣に槍を選ぼう。
ハルバードタイプの槍はあまり多く置いていない。
重量の事もあり、冒険者の中では人気が無く、あまり使い手は多く無いらしい。
講習生の中で1番人気のポジションは斥候職らしい。
俺の廻りにはあまりいないのだが、講習を経て自分が戦闘向きではないと考えた者たちはこぞって斥候職を選ぶのだそうだ。
必然的に斥候は重量の有る武器を選ばない。
置いてある武器の大半は短剣短刀 から 片手のショートソードにかけてのものが圧倒的に多い。
斥候職が人気なのでは無く、なりたがる者が多いという話である。
置いてある数が多いということは、つまりはそういう話に行き着く。
これもまた必然だが、斥候職を選んだ者はあぶれる数も当然多い。
1つのパーティに何人も必要なポジションでも無いからだ。
当然のことだが、戦闘能力が高い、戦闘にも有能な斥候が重宝される。
もしくは腕の有る、斥候としての技術の高い斥候が選ばれる。
あぶれた者が、生活のために単身で無茶をする確率も高くなり、死ぬ確率も高くなる。
中には技術の低い斥候を使い捨てるパーティもいるそうだ。
冷たい考え方だが、この倉庫には片手剣より小型の武器で溢れている。
資格があるのなら、その武器を融通してもらうのが経済的だと俺は考える。
だから自派閥の人間には、とにかく〝認可〟を取らせているのだ。
数が多いと言う事は、それだけ交渉する余地があるという事になる。
ギルド側も放出したいのが本音だと、本部のジンロさんが言っていた。
死んだ人間の武器を使いたがらない奴が多いため、どんどん倉庫に眠る数が増えているとぼやいていた。
アホな話だ。
人間はみんな、いつか死ぬ。
持ち主が死なない武器など存在せず、もし有ったならば、その武器の存在の方がオカルトだろう。
呪いの武器など存在しない。
その武器を使いこなせなかった、使い手が未熟なのだ。
全員に新品の武器など行き渡らせることは出来ない。
殴ってでも説得するつもりだ。嫌なら派閥から出て行ってもらうしかないだろう。
実際にここで斧槍を融通してもらうのならば、おまけに短剣あたりをつけてもらえるように交渉するつもりでいる。
交渉するだけなら無料で、成功すればその分は儲かる。
同じ意味で斧槍も交渉が効くと見ている。
使い手が少ないらしいので、抱き合わせで押すつもりだ。
その為にも、まず斧槍をどれにするか考えなければならない。
置かれている中には斧がメインで、槍がおまけについているような武器もある。
現在模索している戦闘スタイルとしては、『槍龍波』は外せない。
従って槍である事が第1条件だ。
斧がメインのタイプの形は全て除外する。
すると選択肢はさらに少なくなる。
片鎌の槍や、十字槍、トライデントのように三つ叉の槍もあるが、それだと斧の部分が使えない。
チカ、クィレア、マナの3人の彼女は弓、短剣、魔法を主軸に添えた。
修道闘士 であるギュソンさんは拳が主体。ナックルのような武器を所持していた。
聖職者 のアベニルさんは光魔法使いで、メイスを持っていた。
そして大魔道を目指しているノリック、彼も大型の武器は使わないだろう。
講習終了後、一緒に行動する約束をしている面々を考えると、一撃の重い武器が欲しい。
だが、槍は外せない。
全てを揃える金は無い。
斧も槍も兼ねるハルバードが欲しい。
ハルバードの数は4本。
1つ目は灰色の斧槍。斧の部分が4本の中では1番小さい。槍を主軸にした形をしている。
悪くは無いが、斧が小さいのは好ましくない。毛むくじゃらの大型獣なんかは斧で叩き込んで屈服させたい願望がある、故に却下だ。
2つ目は形状と細工に拘った逸品。槍にも斧にも細かい細工が施され、金が掛かっていることが窺える。
転売目的なら有りだ。だが形状に首を捻ってしまう。
斧の下刃の部分が長く伸び、槍の軸に絡むような形をしている。
この部分で叩き込んだら壊す自信がある。修理する金は無い。
扱いに困りそうなのでこれも無しだ。
武器は頑丈な物が欲しい。
残る2つは似た形状をしている。如何にもな大きな斧がついている槍だ。
コレコレ、どうせ振り回すなら斧の部分にもインパクトが欲しい。
多分1本目が普通のハルバード。
こちらの2本は重量型だ。
これぞファンタジーの武器、そう言った装いで槍と斧が自己主張している。
細かい部分に違いは有るが似たような形はしていて甲乙つけがたい。
故にこの2本を試しに振らせてもらっている。
大型の武器は振ると、空気を切り裂く音が気持ちいい。
2本の違いは細かい部分よりも、その重量にあった。
先に振った槍、これを A とすると、 次に振った B の槍よりも軽い。
といっても、普通の武器よりは遥かに重いのだが、転生して強化された俺の筋力でならどちらも問題無く扱える。
Aの槍は、薄く緑の掛かった灰色を基調にした作りで色合いは綺麗だ。だが細かい細工は地味。
穂先は銀、槍全体から魔力的ななにかを感じる。
Bの槍は、黒を基調とした拵えだ。所々に元は白であっただっただろう汚れた灰色の細工がほどこされているが、掠れて無骨な感じに見える。こちらは穂先まで真っ黒だ。取り立てて何も感じない。
斧槍は、先端に重心が来る。先へ行くほど重くなる。どちらも練習用の槍よりも振るだけで手応えがある。
これを生かしたスキルを放てるようにしたい。
「その2本に絞ったか?」
槍を変えながら突いていたら、師匠の傷顔の教官が声をかけてきたので頷いて返す。
「違いは分かるか?」
「重さ・・・・ですか?」
「それでは不正解だな、何故重さが違うのか?という意味で儂は問うている。」
「材質、だとは思いますが、違う理由までは分かりません。」
「今はまだいいが、今後は材質についても学んでいったほうがいい。
使われている材質によって、武器の性質も変わってくる。
灰色の槍は魔物の核が混じっている。強度はあまり変わらないが、その分少し軽く感じる効果があるようだな。
黒い槍は変わった物は使われていないが、丈夫な良い槍だ。
どちらもまだ造り手としては若いように見える、荒さがあるが、打った者の気持ちがこもった良い武器だ。」
魔物の核は、魔物を解体するとたまに出てくるレアアイテムだ。
弱い魔物には無いらしく、講習で解体した魔物からは出たことが無い。
教官に見本で見せてもらった物以外では、まだお目に掛かったことが無い品物だ。
強い魔物、その中の一部が体内に持っていることがあるという強い魔石で、武器を製造するときに混ぜると何らかの効果が付与くらしい。
そのおかげで高値で取引されていると聞いた。
冒険者が狙っているお宝のひとつだ。
魔物の核、その中のさらに一部が魔剣の材料にもなるらしい。
「なるほど、違いはそれですか・・・
魔剣、この場合は魔槍ですか、それとは違うんですか?」
「そうだな、魔剣は魔力を注ぐと、何らかの効果を発揮するものを指す。
この槍の場合は、魔物の核を混ぜ込んで金属の性質を変化させている。
この場合は魔槍とはいわぬな。」
似たような物ではあるらしい。
武器の世界もまた奥が深い。
俺が持っている魔剣、『グラム』と名付けたあの剣は金属のみで作られている。
だが魔剣に分類される。
そうゆう不思議金属が他にもあり、当然それも希少ならば高値で売れるのだ。
「仮にどちらも同じ値段でお前に売ってやると言う話になったとしよう。
おまえならどちらを選ぶ?」
「黒い方ですね。」
「ほぅ・・・効果が付いていると聞けば大半の者が、そちらを選ぶのだがな。その方が得だと。
理由を聞こうか。」
「良い槍だとは思うんですけどね。同じ条件ならば、俺は何も付いていない武器の方が好きです。」
前世で色々なゲームをした、武器の強化方法は様々だった。
だが大半のゲームは一度何かつけると、再試行は不可なゲームが多かった。
故に投げ売りされる武器、倉庫の肥やしになる武器が一杯有った。
選択肢が無ければ別だが、自分で選べるのならば中途半端に強化されている武器を買うより、手つかずの武器が良い。
製造過程で混ぜ込んであって、少し軽く感じる程度なら欲を出すほどの物でも無い。
str+2 とか str+3 とかそんなものだろう。
その効果を馬鹿にするつもりは無い。塵も積もればマウンテンだ。
だが俺の手元には、重くなるだけという半端な魔剣がある。
半端な武器で揃えるよりは、普通の武器が欲しい。
魔物の核で効果をつける事なんて、そのうち自力で手に入れてから考えればいい。
他の槍を元に戻し、しばらくこの黒拵えの斧槍を振らせてもらった。
練習用のシンプルなやりと違い、斧がつくと扱いが難しくしばらく苦戦していたが、師匠は特に何もいわず、斧槍を振る俺を静かに見ていた。
しばらくしてユリウスが槍を見終わり、近づいてくる。
その手には何も持っていない。
「どうした?気に入った槍は無かったか?」
「いえ、そんなことはありません。貴重な体験をさせてもらいました。」
師匠の言葉に例を言うユリウス。
後学のために見ていただけで、勝つつもりは無いのだろう。
金が無いのは俺と同じ。
違うのは俺には我を通す欲があり、ユリウスは清貧を心がけている事。
育った環境の影響と、ありあまる才能が有ったユリウスは有る物でなんとかしてきた。
だから欲しいと思っても、欲しいと言わないでいられる。
それを知っているだろう師匠は、少し強引にユリウスに槍を試させる。
強く言われ、やっとユリウスは槍を1本選んだ。
ユリウスが選んだのは白で拵えられた、銀の穂先が輝く槍だ。
彼は大概白の物を選ぶ。
短い付き合いだがそれは知っていた。
「なぁユリウス、お前さ・・・
それ自分の意志で選んだのか?」
ユリウスは何かを選ぶときに、大概白い物を選ぶ。
純白
汚れなき白の勇者
それがおそらくユリウスに与えられた任務なのだろう。
お前は白、だが俺はあえて黒を選ぶ。
知っているか?ユリウス
血の色は赤だ。だが乾くと黒く見える。
俺は汚れを隠すために黒を選ぶ。
「ああ、勿論だよイゾウ。この槍は・・・・」
裏に意味を込めた俺の意図に気づくこと無く槍について熱く語り始めたユリウスを、目を細くしながら眺めながら
お前はその白さが汚れないような道を選んで欲しい
と心から思う。
残念ながら敵対する未来は確定だ。
お前が金魚鉢の中で、上から落ちてくる任務にあがらえ無い以上は、もう仕方が無い。
ユリウスの槍マニア振りに辟易としながらも、いつの間にか普通に話せることを嬉しく思う自分がいた。
もしかしてこうやって話せるのはこれが最後かもしれない。
その刹那の時間を噛み締めながら、無理矢理笑う。
何故か、少し涙が滲んだ。
なんかまだ地味にこの三連休もブクマもポイントもPVも増えてる-。
感想ありがとうございます。謎が1つ解けました。
脊髄反射して余計なこと書きそうなので返信は控えていますが、感想は全て見て嬉ションを垂れ流しております。
なんか熱くなって先の予定を書いてしまい、面倒になってダイジェストで締めそうな自分が怖いのです、ご容赦下さい。
つか、見たけどあれ三月の時点で書いてくれたのか、嬉し恥ずかしですね。
あの頃はストックがマジで100話くらい有ったんですよ、懐かしい。
講習が終わった後の話なんですけどね。今は電子の藻屑に消えました。
勢いってコワイデス。もう既に話が変わってるという・・・
いつも読んで頂いてありがとうございます。
これにてダラダラ書いてました根回し編はお終いです。
キリの良いところまで書けたら投稿しますので宜しくお願いします。
多分揉め事編よりも後始末編が長くなる予感。
なおこの後書き欄は手直しが入るときに自動的に消滅しますので宜しくお願いします。
誤字脱字報告も多謝です。
そのまま適用させたら面白い事になってましたがw
学習したので次から気をつけますねm(_ _)m
再び台風が接近しております。
進行ルート上の方はくれぐれもお気をつけ下さい。
風災はもう洒落にならないレベルまで来ています。
明日は我が身ですよ。私は真剣に車と家と風災特約を考え始めました。