根回し 彼女2
「じゃー可愛い服を買ってもらえるように講習を頑張ろうー」
マナが声を上げ、3人のテンションが上がる。
俺好みの服装と言っただけで可愛いかどうかは別の話だ。
そんな俺の思惑を無視して3人で洋服の流行なんかで盛り上がり始めた。
冒険者になるような生活をしていても女は女だ。
好きな服を買えるくらいには稼いでやりたい。
「盛り上がっているところ悪いけど聞いてくれ、お金の話な。
当面は武器防具を優先するぞ、そこは悪く思わないでくれな。」
金の使い道はまず装備だ。RPGの常識だよね。
まずは強い武器を持ってレベル上げからだろう。
その意味でも3人が短剣なんかをメイン武器にしてくれる事はお財布にも優しい。
使い回しが出来る。
クィレアは魔法メインだからもっと後回しでもいい。最後尾周回遅れで構わない。
チカは弓だが、それはギルドの物を融通してもらうつもりだ。
これには少し考えがある。
なのでまずはマナに汎用に1本、ないし2本あれば良いだろう。
「俺は師匠から大剣をもらってるからそれはこのまま使える。
でもデカすぎて街中では微妙だから佩刀用に片手剣は1本欲しい。
狩りでは誰かがそれも使って構わない。
でも優先して槍が要るんだ。」
「槍? どうしてですか?」
チカに不思議がられた。彼女の中ではオークグラジエーターとやり合っていた大剣使いのイメージが強いのかもしれない。あれはあり合わせの武器を使ってただけだ。
「忘れた? 『槍龍波』っていう槍のスキルを覚えたからだよ。
あれを使えば遠近どちらも苦にならない。」
「・・・他の武器でも使えるように練習してるんでしょ?」
ストーカー、ではなくクィレアが言う。
お前は人の行動を気にしすぎだ。把握していたいという気持ちは嬉しいけどね。
師匠にそれを個別に扱かれたのは、一応秘密なのだ。
結構知ってる奴が多いけど。
「片手剣と大剣のスキルも覚えたよ。」
なるべく何でも無かったかのように言う。
実際は何度か諦めかけた。師匠という名のヤクザが投げ出すことを許してくれなかっただけだ。
「アナタって本当、とんでもないわよね・・・」
「うん、さすがマナのイゾウ、だね。」
「あははっ、もう何がなんだかボクには・・・」
1人思考をぶん投げた子がいるね。ちゃんと聞いていなさい。
これからまだ話はある。
「でも教官長にもらった大剣だと上手く発動、出来ないんだよ。
微妙な性能だけど一応魔剣だからなのか、あの魔剣が特殊だからなのかが分からない。
他の魔剣は持ってないし、さすがに師匠も魔剣は貸してくれなかったからな。
ちなみに練習用の刃引きの大剣だと、スキルの威力に耐えられなくてか、壊れちまった。
片手剣の方もね。
だから実戦で使うとなるともう少し練習が必要だ。時間が掛かると理解しておいて欲しい。
耐えられる武器を買うのも手だけど、大剣2本はちょっとな~、必要ないだろ・・・
それなら槍。出来れば斧として使えるハルバードを揃えたい。
スキルに関しては今後試して見ないと分からない事が多いんだけど、スキルとしては発動したから合格。
でも使うなら武器を選べ、と師匠に言われている。出来たけど、未熟、って認識でいい。
今のところ武器を壊さず、ちゃんと制御出来ているのは『槍龍波』のスキルだけだね。
つまり消去法で当面は槍がメイン、大剣を状況で使い分けって事になるかな。」
「にへへへ、イゾウにもイゾウなりの悩みがあるんだね・・・」
マナが少し嬉しそうにそう言った。
マナは俺とは逆にどれも不得手でメイン武器を決められなかった。
彼女から見れば贅沢な悩みだ。だが悩みがあることには変わらない。
そしてなんだかんだ、成長すればしただけ悩むことになるだろう。
俺の場合は俺の中にいる『氷の神』の能力が高すぎるのだ。
『槍龍波』に魔力を篭めている。勿論他のスキルにも。
それが顕著に出る上位のスキルでは、ナマクラな武器では耐えられないのだと予想している。
また一つ、探す物が増えてしまった。
「ま、最悪は武器なんぞ無くても氷魔法で戦えるんだけどな。」
俺の場合はコレに尽きる。
距離があれば、開幕『氷の矢』のスキルだ。放つと同時に走って行ってぬっころす。
近くにいたら 即斬 だ。 悪でも正義でもどっちでもいい。
武器がなければ殴ればいい。手が届かなければ蹴ればいい。
ご飯が無ければお菓子を食べる精神だ。
最悪噛みついてでも戦ってみせる。
そのうち氷魔法で剣を作れるくらい、魔法の腕も磨いてやるさ。
諸々の確認が終わると次はクィレアが口を開く。
何故だろう、嫌な予感しかしない。
「ねぇイゾウそれはいいんだけれど、聞いておきたい事が有るわ!」
「ん!?」
「ビアンカって子と、メアリーって子、魔力が急に増えてる気がするわ。
特に赤い髪の子、ビアンカさんの方。」
ほら見ろ、まったく面倒臭いことを・・・
「あぁその2人もきっとそう・・・だよ。イゾウとはずっと仲良しだもんね。
今からそう思ってたほうが良いと、マナは思うよ?」
「ふーん、そう。仲、良いんだ?」
マナが軽めに言い、クィレアは何か含みのある言い方をする。
奴らは普通に友人だ。クィレアとは別の意味で面倒くさいからな。
任務後にも会って話してはいる。巻き込むつもりが無いので根回しするような話をしていないだけ。
関係が薄い連中にどんな目で見られているのかを、ついでに探っている。
感づかれていると色々支障が出る。邪魔はされたくない。
ちなみにあまり情報収集の成果は無い。それを理由に話ているだけだ。
その時、手を合わせて魔力感知の訓練をしているだけ。
彼女たちにも改めてデータ取りだと伝え、それについては了承してもらってもいる。
メアリーはこちらの3人よりも先に試し始めていた。
その分試行回数が少しだけ多い。
訓練に付き合う人数が増えたので、1日につき1人1回の訓練を限度にしている。
先に始めていた分だけアドバンテージが大きい。
時間では短いのだが回数が多い分、成果も見えてきている。
ビアンカは時間も回数も少ない。全体で最も少ない。
なぜなら時々口論になって、口げんかして終わる日があるからだ。
喧嘩して仲直りするたびに、心が近づいていく。
なんてことは無い、現状維持の繰り返しだ。
だが魔力感知を試した者の中では1番魔力が多く、扱いも上手い。
だからなのか、成果が大きい。
どちらも参考になる実験結果だった。
まだまだ検証段階だが、結局は個人差に行き着く。
同じ事をしても同じように伸びるわけでは無い。才能によるところも大きいのだろう。
現在、ビアンカが頭1つ抜けて伸びすぎている。
ただしこれは現在の話だ。講習が終わればビアンカたちとは距離が出来る。
毎日は出来なくなるだろう。その結果を合わせてもう一度考えることが出来る。
もしかしたら魔力で考えると、相性が1番良いのはビアンカなのかも知れない。
この訓練による魔力の増加は一方通行ではなく、相互に効果があるため、彼女を妻に迎えれば生涯(魔力を)高めあうことが出来るかもしれない。
だが残念ながらその分、彼女は攻略が難しい。
単独攻略をしない限り、現状ではイエスと言ってはくれないだろう。
今更ビアンカだけに絞るという選択肢は俺には無い。
同時攻略しようとすると、その分どんどん意固地になって、難易度が高くなっていくので、そこはもう時間をかけてやっていくしか無いだろう。
だからメアリーにも手を出していない。出さない。
おそらくメアリーに、先に手を出してしまうと、かなり拗れるのでは無いかと予想している。
手を出すときは同時に一気にだ。侵略すること火の如く、である。
そんなこと考えていると、少し不機嫌そうなクィレアと目が合った。
一夫多妻を容認しているとはいえ、それ以外の女には焼きもちやきでも有るんだよな。
そこは素直に可愛いところだと思う。
「今のところそこまで考えてないよ。」
「本当かしら? 別にそれを責めるつもりはないのよ?
ただそれならそうとちゃんと言って欲しいだけで・・・」
「分かってる。気持ちが無いと言ったら嘘になるが、今のところは情報収集の一環。
元々魔力感知に関しては、先に試してもらってたんだ。
それこそユリウスたちと試してて魔力が増え始めた頃からな。
噂になる前に当然自分で気づいてた。
絶対口外厳禁を条件に魔力感知の実験に付き合ってもらってたから、俺の都合で一方的に止めることは出来ない。」
しないとは思うが一方的に止めて、触れ回られるのは面倒で嫌だ。
所々嘘を混ぜてはいるが、概ね本当だ。
会えない話せない、になるのが最も嫌だ。そのくらいの我が儘は許して欲しい。
「魔力感知を経ての魔力の増加は、やり方を変えて何パターンか試すしか無い。
そこは見逃してくれ。あの2人とは何も無いよ。」
今は、な。
手で触れる感知しかあの2人にはしていない。
それなのに急激に伸びるビアンカがおかしいのだ。
下手すると、肌を触れる必要が全く無い可能性が出てきたので、実は結構困惑している。
なのでそこを詳しく説明するつもりも無い。あくまでもパターンを変えて試しているだけだ。
「ふーん、それなら良いけど。
ところでジスナとかパメラとかも魔力が増えているんだけどどうゆう事かしら?
他にも何人かいるんだけど?」
・・・・・・えーっと
「・・・・・・」
「黙るな!」
で、データを取るためにですね・・・・
えーっと、ごめんなさい。
3人の視線が痛い。
「もっ、勿論データを取るためだ。」
「本当かしら?」
「当然だ。潜入を拒んだ誰かさんと違ってな、あいつらにはそれなりの所に潜入してもらわないと行けない。魔力操作の訓練くらいしてやってもいいだろ?」
クィレアに関しては此処を責めるのが効く。
マナとチカの視線はまだ冷たい。だがそこはスルー。
「くっ、そっ、そうね、確かにそれくらいはそれくらいはしてあげた方がいいかもね。
あんまり弱小のパーティなんかに入っても意味がないわ。」
「そうゆうこと。さすがに全員には出来ないからな。
ある程度話の通る、口止めの出来る奴を優先してるだけだ。」
「ふーん、まぁジスナたちはアナタの言う事何でも聞くものね・・・不思議よね、何でかしら?」
不思議不思議。俺の怖い一面を見てるか見ていないかの違いだと思う。
言わないし、しないけれど。
「そうそう、お前も聞いてくれて構わないぞ?」
「絶対嫌よ。アナタ私が何でも聞くって言ったらどこかのパーティに放り込む気でしょう!」
「それだけお前の魔法を信頼してるんだよ。」
「絶対嫌! 言ったでしょ、死ぬまで付きまとってやるんだから、覚悟しておきなさい。
ってゆーかいい加減諦めなさいよ!潜入なんて私はしないわ!」
「ハイハイ、他所に潜り込ませるのはとっくに諦めてるよ。でなけりゃ人前でベタベタくっつかせない。」
最近は食事も一緒に取ることが多い。
講習でも一緒にいるし、言わなくても分かる奴には分かる。
そんな相手を他所のパーティなりクランなりに放り込んで、スパイになるとは思えない。
「それより決めておきたい事が有るんだけどいいか?」
「何よ!?」
「真面目な話な。」
「分かったわ。」
「ハイ」
「はーい。」
改めて改まる。
背筋を伸ばしてしっかり向き直った。
ここからが本題だ。
「最終的な着地点を決めておきたい。」
「・・・それって例の件の?」
マナが不安そうに聞いてきた。
心配するなという気持ちを込めて強く頷く。
「それならアナタに任せるって言ったじゃない。」
不安そうなマナを庇うように前に出てクィレアが言う。
「やり方は任せてもらうけどな。
最終的な着地点だけは話合っておきたい。
お前俺に一生ついてくるって言ってもさ、どこかと揉める度に皆殺しにしたら、ついてくるのも難しいだろ?」
「・・・疑うのかしら?」
「違う、そうじゃない。どんな結末を望んでいるのかを聞いておきたい。
オークやゴブリン相手じゃないからな。殺すと言って即殺すわけにはいかない。」
「まぁそうよね・・・」
「ですね・・・」
「うん・・・」
「揉める、それは決定だ。
だけど流れで俺が勝手に妥協して見損なわれるのも嫌だ。」
特にマナ。今回の件は特に彼女の被害が大きかった。
どの程度の所でなら納得してくれるのか、聞いておく必要がある。
「別に今回の事に限らないんだけどな。
俺は誰かと敵対したならば、怒った顔した仮面を被って戦う。殺す、声高々とそう宣言してな。
今までも怒った姿は殆ど演技だよ、信じられないかも知れないどさ。」
実行しなければ言葉はただの脅しに過ぎない。
殴りつけられながら殺すと言われれば、大半の人間は恐怖する。
恐怖して、引く事を願って言っているだけだ。
「俺は奴らが嫌いで、多分どうしても許せない。
けどな、別に殺したいだけなら講習が終ってからの方が確実なんだよ。
だから今回はケジメをつける、という方向で動きたい。
妥協できるところを教えてくれ。」
特に怖い目に合わされたマナに向かって問うた。
そのあとはなるべく時間を掛けてゆっくり彼女たちと向き合って話した。
喧嘩の後始末なんて考えたこともないだろう。
聞かれても答えようが無い。
それでも聞いておかなければならないので、丁寧に答えを尋ねた。
その過程でマナは勿論、クィレアもチカも泣いてしまった。
俺がオークグラジエーターと向き合っているとき、マナは攫われ、チカとクィレアは大勢に囲まれた。
その時の怖さを思い出したのだ。
辛いことを思い出させてしまったが、その涙を見て俺の中でさらに覚悟が決まる。
改めて絶対に許さないと誓った。
「・・・・じゃ、そんな感じでやるけど、後は流れだな。
俺がどんな行動をしようが絶対に止めに入るなよ? そんな動きをしたら、確実にそこにつけ込んでくる。気をつけてくれ。」
3人が頷くのを確認する。
俺が仕掛けたときに、先ず相手がするのは応戦では無く、間に人を挟むことが予想される。
適当なことを吹き込んで矛先を変えて痴話喧嘩をさせるのだ。奴らにはそれが出来る。
相手が真っ先に利用しようとすると思われるのが、この3人だ。
いざ喧嘩をしようとするときに痴話喧嘩なんてしている場合では無い。
ここは念入りに釘を刺しておく必要があった。
「今のとこ予定の30%くらいかな。
50%超えたらいつ動くか分からないから、覚悟は決めておいてくれ。」
彼女を戦わせるつもりは無いが。
その為にわざわざ時間をかけて裏で根回ししている。
次はナードたちが囲まれていたときに傍観したいたシグベルたちだ。
次も傍観していてくれるとは限らない。
ちゃんと傍観しているように根回しする必要がある。