根回し 彼女
師匠の仮眠室がある建物のリビング。
そこで彼女3人とお茶を飲んでいる。
俺1人で片方のソファーに腰掛け、対面に3人が座る。
少し寂しい。
だが平等を謳われそんな席次になってしまった。手が寂しい。
彼女が3人。
当初は場を作る事すら四苦八苦した。
だが当の女性側が一夫多妻を当然だと思っているので、今はそこまで苦労はしていない。彼女たちの育った環境に感謝だ。
最初から順位、順番はつけないと宣言しておいた事も大きいだろう。
今のところ3人の仲は割といい、俺とも特に問題は起きていない。
武術講習で共に苦労しているからだろう。
今日はその講習の状況の確認だ。
終盤、そして今後を見据えて何度も話合っている。
ダラダラと講習を受けていても身にならない。
付き合いは今後も続けるのだから、それを見越した学び方を選ぶべきだ。
まずはクィレアから。
「予定通り火魔法、風魔法を磨いて、あとは武術の認可を1つでも多く取るわ。
正直武術の講習は期待しないでちょうだい・・・魔法使いとして、頑張るわ。」
こいつは相変わらずポンコツで、恋人になったと同時に氷魔法を教えてくれと言ってきたお馬鹿だ。
『精霊眼(劣化)』で見る限り氷魔法の才能は皆無だ。魔法の才能は有る、だが馬鹿だから無い。
コイツの才能は火と風属性に向いている。
2属性持ちは凄い才能だ。講習生を見回してもあまり多くいない。
水や氷には向いていないだけで魔法の才能は有るのだ。なのにそれとは違う方向に進みたがる。
やりたいことやりたいという気持ちは分からなくも無い。
だが俺がそれに付き合うのは御免だ。長所をこそ伸ばして欲しい。
最も氷の属性持ちは自分以外にまだお目に掛かったことは無い。水はたまにいる。
できればその辺も声をかけたいとは思う。
クィレアはそんな凄い才能が有るのに、俺の下位互換を目指すと言うお馬鹿だ。
下位互換になるのなら、要らない。 どこか他所のパーティに放り込みたいのが本音だ。
これを説得するのに苦労した。どうしても同じ魔法が使いたいと食い下がられた。
なのでやっぱり馬鹿だ。
胸が無かったらとっくに切り捨てていただろう。
「うん、強い魔法は外に出てからでいい、まずは土台作りな。
何度も言っているが、俺は氷魔法に特化してるせいで他の属性の魔法は精霊を介さないと使えないらしい。その精霊もそんな簡単には見つからない。
俺に足りないところ、特に火と風属性の魔法にはお前に期待しているからな、頼むぞ。」
結局のところ、男も女も定期的に機嫌を取らないと働かない。
言い回しを変えて、この台詞をもう何度言ったか分からない。
持ち上げると機嫌が良くなって色々捗るから良いけどさ。
「じゃ次はボク、弓を変えてから弓術は順調で、もうすぐ〝認可〟を取れそうです。
その後は言われているとおり武術の講習に専念します。」
チカチーノには俺と同じく魔法講習を棄権させた。
講習時間中、呪い持ちで魔力量が多くない彼女は隅っこでいつも1人だった。
魔法が発動するまで延々と意味の無い練習をさせられている。特に得るものは無いだろう。
さらに何故か魔法課は講師の数が減ってしまったので、彼女に魔法を教えてくれる存在は皆無だと言っていい。
そんな講習を受けても何も身にならないと判断した。
代わりに弓術講習を2回受けて、重点的に学んでもらっている。
〝認可〟が取れ次第、武術にシフトしていく予定だ。
彼女は呪いのせいで長所が無い。分かりにくい。
が、努力すれば技術はちゃんと身につく。
本人のやりたいことが見つかるまでは、目的を与えて励んでもらうことにした。
「うん、頑張ってるな。
魔力もゆっくりだけどちゃんと増えているよ。」
「そ、そうですか!
じ、自分ではあんまり自覚が無いんですけど・・・」
問題は最近また敬語に戻ってしまったことだろう。
彼女を増やしたから距離が出来てしまった、という訳では無く、聖剣を振り回してオークグラジエーターと戦っていた俺が怖かったらしい。
避けられているわけでも無く、別れ話が出ているわけでは無いので、とりあえずはそのまま様子を見ている。俺を前にすると敬語になってしまう、、問題はそこだけだ。
チカの魔力は確実に増えているが、地肌での接触を恥ずかしがるために、他の2人よりも遅れている。
俺が嫌だとかでは無く、全身に走る呪いの紋様を見られることに抵抗があるらしい。
ここはじっくりやるしかない。トラウマは簡単に消えないだろう。
手を繋ぐ方法で地道に練習を繰り返している。
それでもちゃんと魔力は増えてはいるから、データ取りと割り切り、今はそこまで焦ずじっくりやっている。
ここを出て、一つ屋根の下で過ごせばいくらでも機会はあるだろう。
がっついて嫌われるのも問題だ。
「大丈夫、ちゃんと増えているよ。
でも焦ることはない、まずは魔力の操作、魔力の感知な。魔力が増えても扱えないと意味が無い。
講習が始まったときの俺みたいになるからね。」
「はい、頑張ります!」
講習後は、弓師の方向で一緒に行動してもらう事で話をつけてある。
弱弓だが、3人の中では1番筋が良い。
役割としては弓はチカに任せることにしている。
後々は魔法も組み込む予定だが、最低限の身を守る手段だけは覚えておいて欲しい。
他の2人もそうだが武術の講習もしっかり受けてもらう。
ただし体格には恵まれておらず、さらに呪いの影響で筋力が落ちているので、そこまでは無理をさせるつもりは無い。
昼にしっかり講習を受けて学び、夜は魔力を自主トレで鍛え、後はなるべく休む方向だ。
呪いは確実に彼女を確実に蝕んでいる。常人よりも体力が無いのは確かだ。
押さえるべき所を押さえる訓練の仕方を徹底するべきだと思う。
詰め込むのは一緒にいれば、あとでも出来る。
「最後はマナだねー。 マナも魔法講習を棄権したよ。魔力が増えてきているのに勿体ないって言われたけどちゃんと手続きして来た。」
マナは肉体的接触を拒まない。これは嬉しい誤算だった。
その成果は顕著に表れ、3人の中ではマナの魔力が1番伸びている。
クィレアも拒まないのだが、肌を直接合わせる所に行くまでに毎度時間が掛かる。面倒くさい女だ。
素直で積極的なマナの伸びが良い。
魔力に関しては、直接、そしてなるべく長い時間肌を合わせる必要があると判断出来る要素だ。
これは有益な情報だが、やはり男には絶対知られたくない情報だ。
そんな魔力の増えたマナだが、分かる奴にはやっぱり分かるらしい。
魔法課の教官や講師が、声を掛けてくるようになったと言う。
普通に振る舞って過ごしてはいるが任務の事が有り、やはりマナの中では魔法課に対し内心では思うところがあるらしく、そう言ってきてくれた。ちゃんと話してくれた事が素直に嬉しい。
2人で話して、思い切って棄権することにした。
俺の精霊眼(劣化)に見えるマナの得意属性は闇属性。
小悪魔マナちゃんだ。
希少では無い、この才能持ちは実は多い。
だが使い手はかなり少ない魔法だ。
教官にも講師にも、使えると明言している使い手はいない。
光魔法全盛のこの環境では、使いずらく、覚えさせにくい魔法だ。
なので無理に魔法講習を受ける必要も無い。
俺も参加していない事もあって、マナは棄権を決めた。
チカと同じくマナも体格には恵まれていない。
最低でも短剣と弓を扱えるところまで講習はいければいい。
「ごめんねイゾウ、マナがもっと強くなれれば・・・」
「ボクも足を引っ張ってばかかりですいません・・・」
「私だって武術講習は苦手で迷惑をかけて・・・」
「ん、どうした?講習上手く行ってないのか?」
報告が終わると揃ってネガティブモードに入った。
聞くところによると、どうやら武術講習は芳しく無いようだ。
全員、武術は不得手だ、仕方無いといえば仕方無い。
「このままだと冒険者になってから、イゾウに迷惑かけちゃうなって・・・」
マナが申し訳なさそうに言う。気にしなくていいのに。
「俺は別に恋人に戦闘力を求めないから大丈夫だよ。
それに俺も別に強くなろうとは思ってるけど、世界1強い男とかを目指している訳ではないよ?」
「「「えっ!!!」」」
3人共に驚かれた。
こいつら一体俺をどんな目で見てるのだ。
「いやいやいやいやいやいやいいや、ないよ?
そりゃー強いに越したことは無い、だから強くなる努力はする。けどな、戦闘なんて、それしか出来ない奴にやらせとけばいいんだよ。
俺は戦うだけしかとりえの無い男にはなりたくない。
ちゃんと嫁をしっかり養えるように頭も使う。
だから3人は俺の補佐を頼むよ。最悪戦闘は当面俺任せでも構わない。
まず稼ぐ。次いで人を使う、戦闘なんざそれしか出来ない奴隷なり部下がやればいい。
心も体も疲弊するからな、そんな俺を支えてくれよ。
これは彼女、ひいては嫁にしか頼めない仕事だ。」
「にへへへへ。嫁!?」
「うん、話したとおり 裏町に『三ツ目』 ナードたちに『サッズ』 2つ組織を作っている。
俺はこの先『三ツ目』の裏ボスのイゾウさんだ、それを上手くサポートして欲しい。
クィレアはとにかく魔法な。さっきも言ったけど火魔法風魔法、必要な場面が必ず来る。
だから、その時に備えて腕を磨いてくれ。」
「ええ、任せてちょうだい。」
クィレアはそう言って人よりも遥かにデカい胸を張った。
お前だけ支える要素無いんだけどな。気づいていないからいいだろう。
「マナは商家の出だし、そっちでも力を貸して欲しい。俺も知らないことは多い。
あとは金の管理n。銭金に関しては信用出来る奴にしか任せられない。
数が増えれば、動く金の量も増えるから、そこはみんなも協力してくれ。」
「うん、マナ頑張るね。後はセレナちゃんも早く連れてこないと、だね。」
セレナも商家の娘だ。いれば確かに助かる。
「チカは全体のフォロー、な。
特に俺は人前では怖いボスを演じる事になる。いつも怒りの仮面を被って過ごすようなものだ。
部下に対して怒り出したら、宥めてスカして甘えて妥協させてくれ。
クィレアとマナでもいいけど、役割的に2人も怒る側にもなるから、上手く振り分けてやってくれ。
縁の下の役割だから、特に苦労かけると思うけど、宜しく頼むね。」
「アハハ、ボクに出来るかなぁ」
チカは自信なさげに言う。
苦手でもやってもらわないと困る。彼女、特に呪い娘を大事にしていると配下には知らしめる必要があるのだ。
数が増えれば舐めた態度を取る奴も出てくるだろうからな。
「当然戦力は多いほうがいい。だから講習は頑張ってやろう。
でも別に俺と並んで戦うことを想定しなくていいよ。
魔力もちゃんと育ってる、すぐに魔法での対応も考えることになる。
他人より強くなる事も大事だけど、まずは自分の身をしっかり守る方向で頑張ろう。」
「自分で自分を守るの?イゾウは守ってくれないの?」
「俺がいるときは絶対守る。でも近くにいないときは、ね。俺が駆けつけるまで耐えて欲しい。
無理に1人で戦わなくていい。3人で戦える方法を模索するのも有りだな。
理想としては短剣、ナイフの講習までは〝認可〟を取って欲しいな。
それで何時もどこかに忍ばせていて欲しい。」
「・・・・なんで?」
「勿論戦闘用だけど、俺は基本、槍とか大剣とかデカい武器をこれ見よがしに振り回して印象つけるから、3人にはナイフとかの目立たない武器をいつも隠し持っていて欲しい。
緊急時にはコッソリそれを渡して欲しいんだ。相手に見えないようにね。」
例えばロングスカートをはいて、太ももにナイフを忍ばせておいてもらう。
俺は股の間に潜り込んで、そのナイフを投擲して相手を仕留めるのだ。
最も股の間に入る必要は皆無だけどな。
太ももをなで回す好色な男だと思わせておいて、いつの間にかナイフを手にしていれば、それで充分不意を突ける。
クィレアの巨乳なら谷間にも隠せそうだ。
「可能なら将来的にはいかにも冒険者っていう厳つい格好よりも、ヒラヒラしたドレスのような服を着込んでいて欲しいな。
その方が身体に武器を隠していても気づきにくい。
何よりも彼女には可愛い格好をしていて欲しい。」
これが本心だ。
上手い事その後も機嫌を取り、服装に関しては俺の好みをなるべく着てくれるという言質を取った。
クィレアには思いっきり胸元が開いた服を着てもらおう。
女の魅力は魔力だ。エロ可愛い格好をして欲しい。
さすがに街の外では無理だけどな。
街中では着飾れる程度には頑張ろうと思う。
長くなったので前後編
明日も更新します。
ドラクエウォーク始めました。
最近夏の疲れか、身体が重くダルかったので良い刺激になってます。
今週は色々忙しかったので、ぼちぼち宜しくお願いします。
三連休?何それ、美味しいの?