表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
3章  土台作り
112/196

根回し  ライアス




ギルド併設の酒場。

講習生が単独で行動が許されるギリギリの範囲にそこは有る。

所持金に余裕のある講習生が利用することの多い場所だ。


その酒場の向こうにはギルド支店が有り、講習が終わらなければ行くことは許されていない。



その酒場に珍しく俺はそこにいる。

正面にはライアス。彼と連れだって此処に来て、酒を頼んだ。


2つの派閥を潰す。

ただ囲んで殴るだけなら簡単だ。だがそれだけで潰せない集まりがいる。

元兵士組。

奴らにはそのうち2人は貴族の出身であると()()()()()()いる。

後始末までキッチリと手順を組まねばならないだろう。



それを行動に移す前に筋を通さねばならない奴らもいる。

特に講習生内最大派閥を率いるライアスだ。


彼には2つ用事があった。

時間を作ってくれと頼むと、「たまには2人で飲もうじゃねーか!」と指定されたのがここだ。

金は無いのに困った話だが、声を掛けた俺が支払えないでは格好がつかないだろう。


仕方無く、あちこちから借りた。

金はあまり借りたくなかったんだが、こればっかりは仕方が無い。

声を掛けた俺が全額払うのが仁義だ。




「まずは礼を言わせてくれ。

俺がいない間、ナードたちの味方をしてくれたって聞いている、すまない、ありがとう。」


乾杯し、すぐに頭を下げた。


「あー? ああ、あん時か。

気にすんなよ。別にお前に礼を言われる話じゃねぇ。

俺が気に入らなかったから参加しよ(混じろ)うとしただけだ。」


「そうか・・・

それでもな、お前がそう思ってくれたからナードたちは無事だったと聞いている。

俺は班長であいつらは班員、俺に責任がある。ありがとう、感謝している。」


俺の知るライアスという男はそんな男気溢れる奴ではない。

手下が多く、いつも苛ついていて、誰かしらに当たっているそんな男だ。

だから始めて話したときのそのギャップに驚いた。


俺には普通だが、それ以外にはいつも小馬鹿にしたような話し方をする。

有り体にいえば人を見下している。

それはナードたちにも変わらない。


そしてそんなライアスは俺によく似ている。

俺も腹の中じゃどこか他人を見下している。

転生して強くなって、そう考えている自分に気づいている。

前世で年を食っていた分、我慢している時間が少しだけ俺の方が長いだけだ。



「気にすんな。ほら、飲もうぜ。」


そう言ってライアスは手をひらひらとさせ、逆の手で酒を勧めてくる。

礼を言われるのが苦手なのかもしれない。

注がれた酒を煽り、俺もまたライアスに酒を注ぐ。


「んで、まさかそれを言いたかっただけじゃねぇよな?」


「いや、これがメインだ。ちゃんと礼は言っておきたかった。

他の用事もあるけどな。」


勿論本題は根回しだ。

近いうちに仕掛ける。その時こいつが不確定要素になるのは避けたい。


「そうか・・・俺もイゾウに聞いておきたいことがある。

お前が答えるなら、俺もお前の話を聞くぜ?」


「別に隠し事はないつもりだけど、言いにくい事もある。

答えられる範囲でいいか?」


「ああ・・・・

派閥のことだ。 解散したって聞いて驚いた。

うちの奴らの中には良い機会だからイゾウを囲んで潰しちまおうと言って来た奴もいる。」


「誰だか、想像がつくな。」


おそらく現ライアス派閥のナンバー2のカスだろう。

ビアンカ狙いで俺と被るため、その思考は至極真っ当だ。

俺もライアス派閥が解散したなら同じ事を考えるし、確実に実行する。



「んなことは俺がさせねぇけどな。


ところが今度はナードたちとだ。イゾウ、お前あいつらと何かしてるんだろ?

聞かせろよ? 面白そうな話なら手を貸さないでもねぇぞ?


先に言っておくがよ、お前と、一緒に組んだ任務の時の3人はそれなりに認めてるんだぜ?

一応戦える奴らだったしな。戦力として数えられる奴らだ。口先だけのカスじゃねーことを知っている。


お前、知ってるか?

俺のとこの奴ら、大半はオークどころかゴブリンも殺したことねぇ。

情けねぇ、いざって言うときにブルブル震えているだけのカスどもだった。」


ライアスは面白く無いことを思い出したかのように、その身に怒りを露わにして言った。


「まぁ大半はそんなもんだろうな、実戦経験なんて無いのが普通だ。」


「そうでもねぇよ、俺が住んでた所は頻繁に魔物に襲われた。

近くで人が住めるところはみんな同じだ。だから大きくなってくればみんな戦いにでるんだよ。


だがその中でハッキリ差がつくんだぜ。

戦える奴と戦えない奴だ。

口先の奴らでもな、喧嘩くらいなら出来るんだ、人間同士なら、な。

だが、威張ってた奴が魔物相手だと途端に何も出来なくなる。怯えて、震えてな。

はっ、そんな情けねぇ奴も世の中にはいるんだよ。」


ライアスは吐き捨てるように言う。


「・・・・なるほど。知り合いに?」


「あぁ俺の直ぐ近くにいるぞ。俺より年上でな、上の代のまとめ役みたいな奴だった。

それが魔物の前に立ったら、足を震わせて何も出来なくなりやがって。

挙げ句の果てにはその事に腹を立てた()()()殴られてもやり返せもしない、木偶(デク)に成り下がった。

自慢の彼女はそいつに取られて。

・・・なのにへらへらして過ごしてやがる。まるで牙を抜かれたワンコみたいだろ!?」


随分具体的だな。ライアス派閥の誰かかもしれない。とは言ってもあまり良く知らない。

深く聞くべきか、聞かないべきか。


「だがお前は違うだろ、イゾウ。

魔物にも人間にも、戦うことに躊躇が(まよわ)ねぇ。」


それは有る意味当然だ、俺は迷って死んでしまう。それが何より怖い。

一度死んだ、二度死にたくない。

自分が死ぬくらいなら、他の奴に死んでもらいたい。

それどころか、どこかゲーム感覚が残っている部分があることも否定できない。

レベルシステムが目に見える事が特に悪い。それが敵を数字を稼ぐ対象にしか見えなくする。


「必要なら自分より強い奴にも立ち向かう。

教官長、オークの上位種。普通なら戦う前に心が折れるもんだ。」


そんなことは無い。

身の程知らずな奴は喜んで立ち向かうだろう。

俺は逃げられないから仕方無く、だ。

当然自分の行動が正しいと信じているが。


「正直よぉ、あの時ナードがお前を庇わなければ俺は無視しただろうな。

アイツがお前の邪魔をするなって、あいつらに言ったときは羨ましかったぜ。お前が勝つって確信してるって感じでな。

ユリウスら(お前達)に、その邪魔はさせねぇって啖呵切ってよ。

もし上位種と戦ってたのが俺だったら、うちの奴らは同じ事してくれるか、考えさせられた。

だからあの時ナード(あいつ)についたんだ。あれは俺の意志だ。だから前が気にする事じゃねぇよ。」


ほうナードがそんなことを。

その話は知らない。恥ずかしいが嬉しいといえば嬉しい。

だが俺としては盲目的に信じられるのはちょっと困る。

強い奴と戦っているときは手を貸して欲しい。

最低限の安全を確保した上でだが。


そして、それでもライアスに感謝はするのだ。

あの時ライアスが味方をしてくれたおかげでナードたちに手出しはされなかった。

数が同じくらいになり、その人数で睨み合っていたから教官が割って入り、喧嘩にならなかったと聞いている。


多分ライアスが静観していたならば、ナードたちはやられていた可能性が高い。

教官が止めに入るのは手を出してから、になっただろう。


もし()()をオークグラジエーターと戦った後に俺が見ていたらどうなっていただろうか。


マナとセレナがいないことにすぐ気づけただろうか?

やられた仲間を見て冷静に動けただろうか?

今有る現実と違う現実(せかい)の中で俺は過ごしていたはずだ。


あの時の俺の手には〝聖剣〟があった。

誰を敵と見たか。

手を出した奴を許せたか?

ただ、近くでそれを眺めていただけの奴を許せたか。

止めなかった教官を許しただろうか。


その時その場になってみないとどんな行動をしていたかは分からない。

だが間違い無く今よりも、悪い方へと突き進んでいただろう。

そこへ至らなかったのはライアスのおかげだ。


「そうか・・・でもまぁ感謝はしてる。

俺が勝手に感謝する分にはいいだろう?」


「ふんっ。いいってのに、止めろよ、こそばゆくなる。」


「そうゆうな、これでも色々考えてる。

あーでもそうか、そういうことか。」


「あんだよ!?」


1つ不思議に思っていた事がある。


「いや・・・何つーかな、何でシグベルと仲悪いのに囲まないのか不思議で仕方無かったんだ。

子分が信じられない・・・というと失礼か!?でも、当てに出来ない、とかか?」


「はっ、白々しいぞイゾウ。もしそれを俺がやったらお前絶対参戦するよな?」


「まーな、サシでやれって言って参戦する(混じる)だろうな。」


ライアスと揉めるのは良い気分では無いが、ライアスの子分は別だ。

特にナンバー2のカスは俺が確実に仕留めてやりたい。

ビアンカに俺のいないところでちょっかい出せぬように、喜んで参戦すると思う。


「お前だけじゃねーだろ。ユリウスと、ガレフ、ノリックあたりはお前と一緒に参戦する。

そこまで参加すりゃおまけが一杯ついてくるだろ。」


なるほど、そこまではコイツも読めているのか。

間違い無く現状だと付録が一杯ついてくる。

そのせいで数の利は失いかねない。


「だからだ。 はっあんな奴そのうちサシでしっかりカタをつけてやるわ。

ま、それで最初の話に戻るぞ、派閥解体したんじゃねーのか?」


真面目な顔でライアスに問われた。

サシでやる分には止めないよ。多分な。


「ん~どう言えばいいのか・・・・解散は、した。したんだ、が。

解散というか、講習後は面倒見れないから各々やりたいことをやれって話をしただけなんだよ。

あいつらの中には俺が勇者に成りたいと思ってると勘違いしてるような奴が結構いたからな。

勇者について行きたいって奴が、俺の側にいても仕方無いだろ?」


「ああ、そういやイゾウは勇者に成りたくねぇんだったな。

まぁ確かに・・・全員の面倒は見れねぇけどよ。

俺らが考えることか?  あいつらはあいつらで、勝手にやればいいんじゃねーか?」


ライアスとは事前任務の時にその話はしている。

ライアスもまた勇者を視野に入れている。

ただそれは、そこに重きおいてはおらず、成れるならなってもいい程度だと俺は聞いている。


「 先のこと考えるとな・・・・ 派閥だなんだ責任取れない事をやってるのもな。

早めに解放して自分の進路を進んで欲しかったんだ。

俺は固定パーティを組むつもりも無いから、数人選んで面倒見ることも出来ない。

つまり誰も選ばないからな、報われないだろ?」


「ふーん、お前も真面目だな。ついてこれない奴は所詮そこまでじゃねーか?」


派閥の中からパーティメンバーを選ぶことは間違いなく無い。

そこは彼女枠で限界だ。それでも、


「それなりに付き合いがあったからな。出来れば普通に生活して、落ち着いたら酒でも飲んで、な。

今何してるとか、どんな仕事してるとか、そんな馬鹿話が出来る程度の生活をしていて欲しいと思っている。


だからナードなんかとやってるのはその一環だ。」


「その一環?」


「ああ、なんていうか横の繋がりだ。

講習終わってからもまた集まろう、的な、な。何人かは解散したことに不満タラタラだ。

そんな奴らは必要無い。 自力でやっていける奴だけでいい。

そいつら集めて後々、情報交換できる程度の繋がりは残したいんだ。」


「へー、そりゃーまぁご苦労なことだ。」


「俺らはまだ若造で、この先の人生のがずっと長い。

困難も問題も山積みだ。いずれ必ず壁にぶちあたる。

そんな時にそれを相談できる程度の横の繋がりがあった方が良い。」


「どうにもなんねぇ問題か。俺やお前にそんなのあるか?」


自信家だなコイツ。間違い無くあるよ。

少なくとも俺にはある。


「有るさ・・・きっと。

巨大なドラゴンに襲われたり、空を覆い尽くすほどの悪魔の群れに襲われたりな。

オークが爆発的に増えて大群がこの街に迫り来たり、天変地異で食うものすら無くなったり色々有るだろうさ。

そんな時1人より考える頭があったほうがいい。


くくくっ、これからぶっ殺す予定の奴らもな。個人じゃ限度がある。

貴族の子弟だからな、頭数が俺には必要なのさ。」


「おっ、なんだ揉め事か? 

手ぇ貸してやろうか!?」


「聞いてたか?面倒な相手だぞ?」


「関係ねぇよ、聞かせろよ。」


「話すのは良いけどよ。

手は無理に貸さなくていい。だけど向こうにだけはつかないで欲しいんだわ。」


「はっ、んなもん当たり前だろ。

言っとくけどな、俺がこの講習の中で唯一認めてるのはお前だけだ。

どんなに強かろうとよ、良い子ちゃんにも真面目くんにも俺は魅力を感じねぇ。

俺が認めるのは、俺と同じ。

拳で人を跪かせる事に躊躇しねぇお前だけだ。


どんだけ行ったって最後には強さになる。

お前だって分かってるだろ?   俺たちは似てんだよ。」


講習中、喧嘩や揉め事は多かったが、暴力を武器に身を立てたのは俺とライアスだけだ。

他にいた奴らは殆どライアスに淘汰された。

正しいとは思っていないが、仕方が無いと思っている。

そこを割り切れる辺りが俺も大概なのだが。


そして俺たちに共通するのは正義の味方でも無ければ、何のカリスマ性も無い事だ。

ライアスは力でねじ伏せ、俺はそこにさらに利益を見せて人を集めている。

何もしなくても人が集まってくる奴らとは違う。

一度負ければ一気に人は引くであろう。


「まぁな。俺もお前を認めてるよ、ライアス。

んじゃ、場所を変えよう。間違っても人に聞かれたくねぇ。」


「そうだな、ったくよ、おまえどっかと揉めるならちゃんと俺に声を掛けろよ。」


「そうだな、じゃー次に上位種とやるときは手を貸してくれよ。」


「いいねぇ、そういうの。なんだ予定でもあるのか?」


「予定は無いな。でも間違い無く来る。

俺が散々痛めつけた上位種を、勇者は逃がしちまったんだってよ。

数人殺されたって。


分かるだろ?間違い無く恨まれてるから、絶対に俺のとこ来るよ、上位種。」


俺がそう伝えるとライアスは口元を少しほころばせた。

どんだけ戦闘好きなのだコイツは。

残念だけどシグベルなんかも巻き込む予定だ。

もしオークグラジエーターなんかの狙いが俺ならば、次で確実に仕留めたいと考えている。

その時もまた念入りに準備をするつもりだ。

喧嘩しないように頑張って欲しい。


「でもまぁ・・・」


「ん、なんだよ?」


「あぁ・・こうゆうのも悪くねぇなって思ってな。

俺の敵をお前が敵視してくれるなら、お前の敵も俺の敵だ。


まぁシグベルの味方でもあるし、お前の子分は気に入らねぇけど。」


「はっ、言ってろ。」


そう話ながら移動し、場所を変え、今後の事を話した。

ライアスと俺、個人的な協力関係は取り付ける事に成功した。





間が空いてすいませぬ。

そしてまた少し空いたりします。

天候不順とか色々で、仕事とプライベートの予定が大きく狂い、その対応に追われてました。

キリの良いところまで書けたら纏めて投稿する方向で書いて、

時間が取れたときに見直して投稿します。

とか言いつつ、今週頑張って対応したので来週は平常運転 + ちょっと無理でいけそうなんですが。

自分以外の要素がガンガン足を引っ張ってくれるので、念のため m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ