集合 組織名
「質問はそんなとこか?」
「・・・俺ですら驚いていて、何を聞いて良いのか分からない。
みんな何を聞いて良いか困るのだろう。」
ナードが首を振りながら言う。
「・・・それもそうか。
俺も使徒になる前の。 ああ、神様の寝床になった俺みたいな奴をな、便宜上 『使徒』 と呼んでいるんだけど。
俺は 『神の寝床』になる前の記憶が無いんだ。
記憶が無い話、聞いているよな? 色々思い出してはきてるんだけど、まだ完全じゃない。
だから、どう説明していいのか、俺にも微妙なところなんだよな。
だけど、神に聞けた話によると、昔から神様が復活するまでの寝床になっていた奴はいたらしいんだ、今の俺みたいな奴。
予想になるんだけど、多分 世に広く知れ割った大成した奴の何割かは使徒だったんじゃないかと睨んでいる。そうだったらいいな・・・くらいだけどさ。
氷の神は初めて眠りに就くと言っていた。
だがいるんじゃ無いか?俺みたいになんらかの属性に特化していた奴 !?」
そう言うと皆一様に黙り込んで考え込み始めた。
そしてゆっくりといくつかの名前が挙がる。
誰かが一度意見を言うと、その後は早かった。思うがままに(こっちの)歴史上の偉人の名前が挙がる。
ほとんど知らなかったが、気になった名前はあった。
砂漠の民を纏め、国を興した炎の王。
光魔法を使いこなした 初代勇者。
ドラゴンの背にのったという伝説のある風魔法の達人。
史上最強の弓使いとも謳われた風の弓使い。
魔王と名乗った魔物の王を単身乗り込んで倒した炎を操る武人。
そして今在る光の神を祀る神殿を建設した光の賢者。
結構多い。だが大別して
「多いな。だがやっぱり光・風・炎・あと今の例にはあんまり出なかったけど闇もいそうだ。」
「闇・・・? 何故だ? 何か知ってるのか?」
「詳しくは知らん。けど今の例えにも魔王が出てきたし。俺が聞いたおとぎ話はそれっぽいのが一杯あったぞ? あっち側で信仰されていれば多分いるんだろうと思う。」
この世界のおとぎ話や伝承はおれよりもこいつらの方が詳しい。
心当たりが有るようで、闇の神関連と思われそうな話もいくつか挙がった。
こうゆう議論は好きなようで皆色々言い出して、収集はつかなくなった。
気になるところではあるが時間が余り無い。このあとまだ午後の講習もある。
仕方無く手を叩いて収める。
「落ち着け。この話はそろそろ一旦締めよう、いずれまた機会を作る。
出来ればその辺は詳しく調べたい。
どこでどんな奴の中にいたか、それが分かれば居場所・・・
が難しくても手がかりは掴める。
落ち着いたら纏めたいからその時は宜しく頼むよ。」
「了解した。
なるべく調べておこう。」
ナードがいつものように言い、他の者もそれに続く。
それを見ながら続ける。
「まぁ・・・その分だけど、期待していいぜ。
俺もそいつらに負けないくらい大成するつもりだ。今日この場で俺を選んだお前らに、後悔させない。
今聞いた伝承の話は殆ど部下の話もちゃんと出てくるんだろ?」
「詳しい本でも見れば載ってるかも・・・」
「砂漠の炎王の13騎士なら有名、かな?」
「風の弓神には、刀狩りをしていた悪い僧兵上がりの部下がいたはず。」
等々、多少の部下の話も残っていた。
どこかで聞いたことある話も混じっていた。
似たような話はどこにでもあるのかもしれない。
「なるほどな、ま、お前らもそう残るように頑張れよな?」
と嫌らしく笑って言うと、半分くらいはすぐ理解出来たようでやる気に満ちあふれた顔になった。
察しの良い奴らには期待出来そうだ。
色々頼みたいから、その分頑張って欲しい。」
「とまぁ色々言ってきたけど、もう一つ大事な話がある。
たしかユリウスとか含めた『俺たちと魔力の訓練をすると魔力が増える。』そんな噂があっただろ?」
「えっ、ええ、でも噂ですよね? 本当にそんなことあるのでしょうか?」
目が合った女が言う。
男とばっか話してても、アレですしね。
居場所が無いと思われても困る。多少は話を振らないと。
なるべく居合わせた全員に。
「起きる。これはもう断言出来る話だ。
正確には俺たち、では無く 〝 俺の中にいる氷の神 〟 だ。
ユリウスたちは知らずに俺と訓練を繰り返してしまい、気づけばあいつらの魔力が増えちまった。
迂闊だったと反省してるよ。 あの時は全然、そんなこと考えもしなかったからなぁ・・・・
それを意識してからは、何人かに絞って試した。
あくまでも今の所、な、 ゆっくりだが魔力が増える奴が現れた。」
「おぉ~」と声が上がった。
「も、もしかして俺たちもやってもらえるんでしょうか!?」
そう言って1人の男が興奮して前に進み出てきた。俺との距離が近くなる。
「落ち着け」
それを見たナードと、ノッヒ、ユーロフが俺の前に立って押さえた。
そして元にいた位置に男を戻す。
別に命令したわけじゃないかが自発的に考えてやっているのだろう、よい傾向だ。
別に前に出るくらいは問題ないけどな。
せっかくなのでそいつの肩を叩きながら続けた。
「最後まで聞こうぜ。
今、目の前にいるこの3人には既に試したんだ。」
初期メンバーだ。自然と俺の扱いも変わる。
任務終了後から試し始めていた。
「ナードとノッヒは少し魔力が増えている。 だがユーロフはまだ結果が出ていない。」
クィレアとジスナにも昨日から始めた。チカチーノは防衛任務の時から練習はしている。
「俺たちがだした結論から言うと、魔力感知のスキルが要る。多分、だけどな。
俺と魔力を探る訓練をしても、『氷の神の魔力』 を、俺の中から探れないと効果が無いんだ。
言ってる意味、分かるか?」
というと皆が一斉に黙り込んだ。
此処にいる面子、今日から集まった面子の中に「魔力感知」のスキル持ちがいない事はナードが確認している。
「理解したか?
結論から言うと、魔力を増やす手伝いはするよ。 だが先にスキルだ。スキルが要る。
『魔力感知』のスキルを得た者から手伝うことにする。
勿論こっそりな。人前ではやらねぇぞ。」
人前で魔法の訓練を手伝うのは恋人枠限定だ。恋人枠のことは知られても問題にならない。
むしろ俺の女だ手を出すな、的な警告の意味をこれから含ませていく予定だ。
だが、そう伝えると一部の者は明らかにがっくりと肩を落としていた。
諦めが早いのぅ・・・
残念だけど、0から急に10にする方法は無い。
まず自力で0を1に持ってきてもらう必要がある。
それからならチートで手助けしてやれる。
ナードは最初から魔法が使え、ノッヒは使えないが比較的魔力が高いほうだった。
対しユーロフは魔力も低めで、魔法も使えなかった。
この推察を確定させるために、今3人は定期的に集まってユーロフのスキル取得の手伝いをしてくれている。
魔力を感知できるようになってから再度俺の魔力を感じて、魔力が増えたならこの説はそこで確定となる。
ほぼほど、そうだろうと確信はしているが、まだ色々疑っているとことは残る状態だ。
ちゃんと確定すればこの集団の大きな武器になる。
なるべく手段は、明確に手順化しておいたほうが良い。
闇雲に試す数が増えれば、俺の時間もそれなりに取られてしまう。
ちなみにチカチーノは魔力がさっぱり増えないのに対して、ジスナの魔力は少し増えた。
クィレアはまだ目に見えるほどは変わっていない。
チカチーノは魔力が全く探れないのに対し、魔法を使える2人はおそらくスキルを所持している。
そして昨晩の夜に呼び出したジスナの方は、裸にひん向いて直接肌を触れあわせてから、魔力を探らせた。
クィレアは昼間だったので、手を触れて探らせただけだ。
それでこの結果の違いが出た。
ただ、これはさすがに伝える気はない。 例えナードにも言うつもりはない。
どんなに望まれても男にそれを行う気が無いからだ。絶対に御免でござる。
女相手にしかする気が無いので、我が家の秘中の秘、と言うことにしておこうと思う。
「そんな悲観した顔するなよ、手伝わないとは言っていないだろ?
どっちにしろ、全員の相手をしてたら時間が無くなる。それくらいは我慢しろよ。」
「うぅ・・・まぁそうなんですけど・・・」
女の顔は曇っている。
そう言われても悔しい者は悔しい、それは分かる。
女相手なら、お楽しみしてもいいんだけどね。そればっかりもちょっとなぁ。
誰でも彼でも相手して、その話が広まるのも面倒ごとの予感しか、しない。
「勿論スキルを得る手伝いもする。これも出来ればどうしたら取りやすくなるか知りたい。
ちょっと色々試して見ようぜ? 皆でやれば数がこなせる。
まず何個か、『魔力感知』のスキルを取れるであろう方法の、意見を挙げよう。
それをスキルを持っていない奴が手分けして試す。
スキルを得たと思ったら報告しろ。
そのやり方を別の奴も試してみる。
俺1人じゃ検証しようが無かったからな。時間は掛かるがスキルを取りやすい方法は絞れる。
ああ、当然だが〝俺と練習すると魔力が増える〟 ことと これからやっていく 〝『魔力感知』のスキルの取得方法〟 は、ここにいる人間だけの秘密、な? 口外厳禁だ。」
皆頷いたので、取得方法の選択に移る。
ここからはナードとジスナに押しつけ、おっと違う、任せた。
裏の裏チームはこの2人に任せる予定だ。ナードは全体、ジスナには女側を中心に。
上手く纏めて欲しい。
最も今日からの奴らの中に1人でもスキル持ちがいれば、この場で皆の前で試しても良かった。
それでこの剣は確定出来たし、モチベーションもかなり上がっただろう。
上手くいってはいるが、やはり完全では無い。
集まった連中も、今日からの連中は成績の序列で100番以降が殆どだ。
上手く行ってるときこそ、気を引き締めなければならない。
組織としてはじっくりやっていくしか無い。人は急に育たない。
それは仕方が無いのだ。
種を蒔かねば芽は出ない。
芽が出なければ花も育たない。
花が咲かない木に、実はつかないのだ。
そうやって昼休みの時間は流れていき、残り少なくなっていった。
おっと、大事な事を言い忘れていた。ちゃんと伝えておかねばならぬ事がある。
「そうそう、組織の名前な。
裏町の方は 「三ツ目」 と名乗らせる。
色々あるだろうが、これは金の都合な。 文句は聞かん。
本当は揃いの服でも着せたいところなんだが、何分今は金が無い。
しばらくは身体のどこかに目のマークでも書かせて、他と区別しようと思っている。
何より俺が見分けがつかないのが困る。どいつを殴ればいいのかさっぱりだ。
身体のどっかに目のマークをつけてる奴とは揉めるなよ?
金が出来たらこの件はもうちょっと考える。
で、こっち。裏の裏チームな。
こっちは少し弄って 「サードアイズ」 を略して 『 サッズ 』 と名乗る。
だが、名乗る必要もないし、名乗るな。 暗号だと思え。
此処にいる奴らの間でな、暗号として使え。
『サッズの件で』 とか 『サッズの要件』 とかそんな感じだ。
ここにいる奴だけがわかればいい。」
独断と偏見で決めた名前だが特に文句は出なかった。
まぁこの中で俺に文句を言える奴なんているはずがないのだが、名前が決まってそれなりに満足そうだから良いだろう。
何の集まりだかよくわからないよりも、名前があった方がやる気が出る、それは確かだ。
仲間意識が芽生えて、団結力が生まれる期待をしてもいいだろう。
これは前に見た夢の中で、夢の中の俺が率いていた組織の名前をもらった。
今思い出しても厨二くさい格好をしていて、身もだえするほど恥ずかしいのだが、あの夢にはハーフドワーフの兄弟が出ていた。
おそらく俺の中にいる〝氷の神〟が見せた夢だろう。
きっとなにか意味があるのだと思う。
最も無くても構わない。名前なんて考えるのも面倒だ。
意見を聞いてたら決まらないしな。
何より金が掛からないのが素晴らしい。
全体的に盛り上がっているので、今日のこの集まりはとりあえずは成功だろう。
「んじゃー最後に今後の流れについて説明するぞ。これで今日は解散だ。
とは言ってもこの今後ってのは講習の中の話だ。
2つ ・・・・・ 派閥を潰す。
講習が終わる前にな。
これが最初の仕事な。」
俺の言葉にその場が静まった。そして顔つきが変わる。
派閥に入る。
当然、他の派閥と揉めることになる。
何より俺はそういう男だ。
他人と揉めて、揉めて揉めて今の俺が在る。
覚悟はしていたのだろう、恐れた顔をしている奴はいなかった。
真剣な顔になり、俺の言葉の続きを待っている。
先ほどまでの緩んだ空気は消え、緊張感のある空気に変わった。
良い傾向だ。
講習の終わりは近い。
ミッドナイトも気になりますが、講習終わらせるほうを優先で。
終わりも近い(キリッ) とか書いてますけど、終わると自信持って言えなかったり・・・
前回の イゾウの真・勇者の条件 と過去の偉人は思いついたら加筆します。
後で流用しようとか小賢しいこと考えているので全く別物になっていたら
今日読んでくれた人にはごめんなさいm(_ _)m