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異世界(この世)は戦場、金と暴力が俺の実弾(武器)  作者: 木虎海人
3章  土台作り
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技を覚えたことと、実戦で使える事はまた別の話。



「と、まぁそんなことが有ったんだ。」


ユリウスが言い、盃を煽り、勢いよくおいた。

彼にしては今日はペースが速い。

手酌で次の酒を注いでいる。その様はあまり絵にならない。



いつもと変わらぬ、訓練の後

ユリウス、シグベル、ノリックたちに、ドワーフのガレフとライアスを加えた面子は自主訓練を教官たちと行い、そのまま教官に連れられ飲みに来ていた。


今の話題は珍しく参加していないイゾウの事だ。

彼は今日は訓練にも参加させてもらえていない。


「『槍龍波』か・・・

傭兵の経験のある儂でも使ってる者はあまり見たことないの。それでも全くという程では無いが、おぬしらの歳ではまずいないだろうな」


ドワーフのガレフが言う。手には中樽をそのまま持ち、豪快に飲んでいる。

長命種であるドワーフである彼は、ドワーフの中ではまだ若い。

だがこの中に入れば年長者になる。

これまで傭兵として活動していた経験があって、この中ではレベルも高い。


「ふーん、それでユリウスは今日は荒れてるのか・・・」


「ああ、ユリウスは結局 『槍龍波』は出来なかったらしい。」


シグベルが小声でノリックに呟き、ノリックも小声で返す。

天才イケメンの少し荒んだ姿に、少しだけ引いている。こんなユリウスは見たことがない。


「なんかオークの上位種と戦ってすげー成長したよな、イゾウ(アイツ)。」


「シグベルも魔法を覚えたじゃないか。 イゾウも魔法を覚えて伸びた。

武術があんまり伸びていない僕には羨ましいよ。」


「ま、それもイゾウに土魔法に向いてるんじゃないかってアドバイス受けたからだけどな。

なんかなんとなく分かるようになったって言ってたけど、そんなんわかるのかね。」


「イゾウは精霊視のスキル持ちだから、ソレも関係してるんだろうな。」


先日、イゾウにシグベルは土魔法の適性が有ると思うと話を振られている。


イゾウが懲罰房から出た後、魔法講習を棄権した。 

その結果、武術の講習時間が増えたことを聞いた彼らは同じ事をしようと考えたのだが、イゾウに一旦ストップをかけられた。

そこで言われたのがシグベルの土魔法の適性だ。

試しに土魔法も使えるノリックとガレフが、一度、棄権を延期し魔法の講習の時間を使ってシグベルに教えたところ、すぐ覚えられた。

さらにライアスにも多分、火、そして土にも少し適性が有るとイゾウが言ったために、ライアスも渋々そこに参加している。

仲が悪いライアスとシグベルが揃っているために、年長のガレフが間に挟まれいつも頭を抱えていた。

だが、ライアスにも土魔法の適性は確かに有り、土魔法に手応えを感じていた。

これによって、彼らの魔法講習の棄権は延期されている。


「まぁ本当に見えてるんだろうよ、俺の仲間の適性も教えてくれって頼んだら絶対に嫌だって言われたからな。

分からない、じゃなくてはっきり嫌だって言われたわ。

俺とは友達だけど、俺の仲間はどうでもいいってよ。ま、イゾウらしいけどよ。」


他の奴だったらぶん殴ってでも聞き出すのに、とライアスが続ける。


「はっ、イゾウを殴ろうとしたらその前に俺がてめえをぶっ飛ばしてやるわっ」


「あん!? 出来るものならやってみろこのウド野郎。イゾウ相手にんなことぁしねぇって言ってるだろうが!!言葉も理解出来ないのかこのぼけが」


それを聞いたシグベルが鼻で笑うようにバカにした答えをかえし、それを聞いたライアスが激昂する。


「やめんか、馬鹿たれどもがっ! 酒は楽しく飲まぬか!!」

「はぁ~もう、イゾウがいれば上手く分断出来るのに」

「全くじゃ! ほらほら座らんかぁ、ったくっ、ユリウスッ、お前もいい加減シャキッとせんか!」


立ち上がって相手に近づこうとする2人の間にガレフが割って入って引き剥がす。

ノリックはそれを見ながらため息をついた。

今日のユリウスは我関せずで手酌で酒を煽っている。まるで現実から逃げているようだ。


いつもならば酒の席では、この2人の間に必ずイゾウがいる。

ユリウスも普段通りの流れならば、イゾウに促されてその横にいる事が多い。

自然と犬猿の仲の2人を引き離すように位置取っている。


イゾウがいないだけで2人の距離が近くなり、今日はずっと喧嘩が絶えなかった。


「ちっ、で、そのイゾウは何で今日はいねーんだよ?」


不機嫌そうに椅子に戻ったライアスがノリックに問う。


「ああ、話を聞いた教官長とガハハ髭(サイモン)教官に連れていかれたってさ。

聞いた感じだと大剣とかの奥義のスキルも覚えないと解放されないんじゃないかな・・・

イゾウが使ってる大剣って教官長にもらったんだろ?」


「そういやそう言ってたな。魔剣グラムだっけか・・・」


装備の無いイゾウに教官長が授けた魔剣は、ここにいる面子に最近、珍しがられ玩具にされた事がある。

わいわい皆で試したが、重くなるだけの魔剣を結局誰も扱えなかった。

実際のところイゾウも魔力を注いだ状態では正しく扱えていない。

上位種と戦ったときも殆ど魔力は込めずに振り回して戦ったと聞いている。


その魔剣を使って、『槍龍波』 と同等のスキルが発動するまで、おそらくイゾウは帰って来れないだろう。 最悪なことにイゾウには3人の師匠がいる。下手したら夜を徹して行われるかも知れない。


師匠三人に厳しく扱かれているイゾウ、それを彼らは想像する。


「マジかよ・・・」

「うへぇ、強くなりたくても限度があるわ」

「素質があるってのも考えものじゃな、酒も飲めぬのか。」


この後、しばらく飲みは続くが、何度目かのシグベルとライアスの喧嘩に、同席していた教官が怒り出すまでであった。

いつもより早く解散するのも早かった。







       ☆★ ☆★





「ふむ、まぁ良いだろう。」


「・・・・・はい、ご指導ありがとうございました。」


教官長が満足そうに言う。その言葉でイゾウは長い特別訓練から解放された。

時間は深夜0時に近い、夕食後から今まで、休憩もなく、奥義を覚える訓練は続けられていた。


その場には師匠が3人揃っている。

師匠間での抜け駆けを許さないためであった。

本来の予定では、今回の講習中、イゾウは基本を徹底させ、初級 → 中級 程度の武術を修めさせる予定だった。

だがイゾウが先走り、上級の先にあるスキルを覚えてしまった。

この『槍龍波』は槍術の中にあるスキルだが、槍術自体とは紐付けられてはいない。

『槍龍波』が使える才能があったとしても、槍術のレベルが低ければ槍術が強いとはいえないのだ。

つまり 『槍龍波』 が撃てる  =  槍術が強い   という事にはならない。

それでも勿論、それに憧れる者は至極多い。


師匠達の見解として、まずはゾウには自力をつけたかった。

そう考え実戦を繰り返す方向で組手を続けてきている。


だが覚えてしまったとなれば話は変わる。


話を聞いた教官長とガハハ髭教官が収まらず、イゾウを拉致してしまった。

やることは1つである。


これにはさすがに堪えたらしく、体力のあるイゾウにも疲れが見える。


「それで・・・イゾウは槍をメイン武器にするつもりなのか?」


言外に「自分の渡した魔剣はどうするのだ?」という意味を含めて教官長はイゾウに問う。


「いえ、今まで通りメインは決めません、そこに有る武器()を生かして戦っていけるようになりたいと思ってます。

ただ当面は斧槍、ハルバードを購入して、状況に応じて使い分けようかと考えています。


講習を終えたら、一緒にやると約束した面子を考えると武器はリーチがあるほうがいいと思うので。

敵の数を調整するような役割になると思いますし。」



メインの武器をなにかと決めるよりも、現場の状況で変えるほうが好みだ。

愛剣、愛刀、愛槍、言い様は様々だが、お気に入りの武器ならばともかく、道具に関しては適材適所が正しい。

例え 〝サジタリアス〟 と名付けた 〝聖剣〟 ですら、場所によっては他の武器のほうが便利な場面もあるとイゾウは考えている。

真なる意味で万能道具(ツール)などこの世には無い。前世にもなかった、今世にも無いだろう。

あるのは突き詰めた器用貧乏だ。


道具の器用貧乏はそこで終わる。

だが人間の器用貧乏は話が変わる。1つを突き詰めた者よりも多数を求めた者が勝つ場合もあるだろう。

それで良いとイゾウは考えている。

時と場合を考えれば良い話だ。


勿論イゾウの心の中に色々な武器を集めたいコレクター願望があることも否定しない。

物集めが好きなオタク気質は、生まれ変わっても変わってはいない。


「ガハハハハハ、それでハルバードか、まぁイゾウには向いている。

だが、剣も持ち歩きはするのだろう?」


「勿論街中では剣を常に佩刀しますし、剣術の練習も続けます。

当面は集団戦を基準に考えるだけです。」


街中で裸の刃物を持ち歩く事は御法度だ。

当然その場合長物は、一時封印するべきだろう。

緊急時に備え、腰に佩刀程度の備えは欲しい。


そしてこの集団戦もイゾウにとっては二通りの意味があり、師匠達もそれは理解出来た。


「ガハハ、裏町のボスか・・・まぁお前らしいといえばらしいのだが、な。」


「うむ、一度どんな連中か見ておきたいところだ。」


「望めば勇者になる後ろ盾も得られるだろうに、儂にはイゾウが理解出来ぬが、な。」


ここを出た後の裏町での活動については、〝氷の神〟の話をしたときに一緒に話している。

渋々だが了解は得ているが、冒険者、教官、そして勇者として活動してきた師匠達にはイゾウの考えは理解されにくい。


「すいません、でも、いずれ人手が要るので、この動きは必要なのですよ。

こう言っては何ですが、勇者になるために動く俺に寄ってくる奴らよりも、何も持ってない俺と一緒に頑張ってくれる奴、汗を流してくれる奴、そんな奴らと仕事がしたいです。

いずれ自分の商会でも作りたいので、そこで働いてくれる奴を今から育てたいんです。」


ギルドのサブマスたちにはある程度の事は了承している。彼女たちはこの話には協力的だ。

勿論互いに裏があるからだ、イゾウにもサブマス側にも裏があり、利がある。


イゾウの大まかな目標は裏町を締めて、そこにいる人間を働かせることだ。

仕事を斡旋し、その上前を刎ねる。 イゾウは何もしなくてもそれだけで収入を得られる。

それを使い組織を運営する算段でいる。


ギルドはその仕事を斡旋する。

それだけで充分な旨味があるが、自分たちの都合の良い仕事に人を回せるのだ。


裏町の事はある程度、容認している、つまりイゾウが何をしても、多少の事は見て見ぬ振りをしてくれることになっている。

裏町の治外法権は問題になっていた。

猛毒を持って毒を制する。


ギルドはその選択をした。


話の早さに訝しんだイゾウだが、代わりに裏町の手下、その一部の罪を消してくれるように取りはからってくれる事を約束をとりつけた。

この辺りはさすが貴族の関係者にしか出来ない事だ。

さすがに全員は無理だという返答だったが、数人でも解放されれば損は無いとイゾウは考えている。

お尋ね者のままではお使いすら頼めないのだ。


サブマスたちとイゾウの間にはそれなりの利益があり、手を組むことに意味がある。


だが、師匠たちとの間にはない。それをイゾウは懸念していた。

裏町を締めるので今後も鍛えて下さい、とは口に出せない。

悪い事を()()()仲間なんです、と紹介するわけにはいかないのだ。


折を見て話すつもりではいるが、今は様子を見ている。


なので途中の説明は省き、最終的に商会を興した場合に働いてもらう予定だと説明している。

これだけなら嘘では無い。

途中の肝心な事の説明を、イゾウはちょっとだけ、うっかり忘れちゃっただけだ。

反対されるのは目に見えている。

特に教官長は、わりと本気で勇者にしたがっている、とイゾウは他2人の師匠から聞いていた。


あまり刺激しないようにしたいと考えて行動していた。


「ふむ、ギルドのほうでも裏町の連中のことは問題になっている。

儂個人としては、多少は構わない、厳しく躾けてやれ。」


「ガハハハ、 舐められるなよ。

何かあれば言って来い。力になるぞ。」


極道コンビのほうは、ヤクザ思考がどこか共通して残っていそうな返答だった、いずれ話しても良さそうだ。



「そういえば、残党狩りの話はまだ決まりませんか?」


何気なく聞いたつもりのイゾウだったが、師匠達の眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。


「イゾウ何故、それを知っている?」


失言だったか、と考えどう誤魔化すか考えた。

だがそこは素直に伝える事にする。


「すいません、俺がそれ、ジンロさんと話した事だったので・・・」


「ジンロと・・・? 懲罰房の時か。ふむ・・・」


「ガハハハ、奴は元気にしてたか? 講習終わらないと一緒に酒も飲めないからな。

まぁそれにしても抜け目の無い奴だな。 その裏町の奴らと連絡取るためにか?」


ジンロとはサブマスのボディガード 兼 文官 の男だ。

極道コンビとは旧知の仲でもある。


「まぁ否定はしないですけど、元々はジンロさんが困ってて、あれ、違うか、どうだったかな・・・」


確か、お前に何が出来る?と協力関係を問われたときに、裏町に紛れ込んだオークの残党なら、配下に入れた奴らを使って探せる、と答えた話だ。

場所さえ教えれば冒険者を派遣できる、と喜ばれたアイデアだったが、面倒だからそのまま俺が狩って来ますよ、とイゾウは答えた。 


二度手間だ、 経験値を稼ぐ良い機会だ。

イゾウにとって、わざわざ知らぬ冒険者にくれてやる理由もない。

ギルドにとっても講習生を使えば安く上げられる案件だ


双方にメリットがあり、イゾウは配下に連絡する良い機会を得る。


そこを軸にイゾウがジンロに売り込んだ話だ。



「なるほど、それでか・・・」


教官長が睨む。


「えっと、何がですか?」


「本店の方からな、イゾウに〝聖剣〟を持たせて、数人講習生を付けて行かせたらどうか?と言って来てな。

さすがに講習生単独は問題だと突っぱねたところだ。

そんな馬鹿な話があるか、と憤っていたところだったんだが、まさかお前自身が絡んでいたとはな、まったく。」


「あー・・・・そんな捻りも無い感じで話が来てたのか、なんかすいません。」


さすがに〝聖剣〟を持っていくつもりはイゾウには無い。

散々ごねた聖剣だったが、今は手元にも無いのだ。


「班長を勤めた12人の中から数人を選び、行かせようと話していたところだ。

とはいえ班長を任せたからと言って、いきなり裏町に放り込むわけにはいかん者もいるのだ。

ギルド側(こちら)で指名して、行ってもらうことになるだろう。

お前は当然入れるから安心しろ。

決まったら知らせる。それまで他の講習生には話すなよ?」


「了解しました。」



そしてイゾウは考える。

とりあえず一度外には出られそうだ、と。



( 算段を付けておかないとな。


最悪、抜け出して奴らの所に顔を出す、算段を。

班長やってもいいから、班員をこっちで決められると楽なんだが。)






そうしてイゾウにとって長い、動きずくめの1日が終わる。

だが眠りにつけるのはもう少しだけ先の事になる。


そして朝は変わらず起こされるのだった。

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