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93、師の欲する所を熟知している一番弟子

「沙胡蝶の本当の()と匂いは天女そっくりなのです。そして……これは酒精で溺れた沙胡蝶に口吸いしてわかったことなのですが、沙胡蝶の体液は竜王の血を引く人魚と同じで、地上の生き物に対する薬になる成分で構成されているのです。人魚と同じ不老不死とまではいかないものの、沙胡蝶の体液を定期的にとれば、死ぬまで無病息災でいられるでしょう。このことが地上の者達にバレたら沙胡蝶は、今の三蔵法師の噂で集まるような、邪悪で邪な心を持つ化生だけではなく、そうではない大勢の人間達からも命を狙われるでしょう」


 実際、不老不死の噂を聞きつけ三蔵法師を狙った化生達が現れて、此度の騒動が起きたのだ。無言になった玄奘に、さらに畳み込むように孫悟空は言葉を重ねていく。


「先ほどはお師匠さんに幽体の竜と()()とも一戦交えてもらいたかったのですが、あいつが正式な誓いをしたものだから出来ませんでしたよね。でも幽体の竜よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()、魔力もない、ほぼ人間である、小さくなった沙胡蝶にこれからも襲いかかるでしょうね。沙胡蝶一人でどう立ち向かっていけばいいんでしょうか?実はね、筋斗雲で戻ってくるときに、沙胡蝶に天界へのおつかいへ行かなくてもよくなったのなら、遠い東にあるという島国の母親の故郷に行こうと思うと打ち明けられたんですよ。あの体になった沙胡蝶を一人で乗せる船なんてありませんから大きくならないと無理だと教えたら、どうせ一人っきりの身軽な身になったのだし、何も焦ってはいないから、気長に大きくなるだろう()()()()を、どこかで待つというんですよ。……そう言えば俺達の旅も行って戻ってくるのに、大体()()()()くらいかかりますよね。こんな偶然ってあるんですね。体は幼くても沙胡蝶は16才の竜王の血を引く子ですからね。自分のことは充分自分で出来る子どもです。俺達の旅に連れて行くぐらいは、暴れ牛にロデオしない限りは鱗3枚分くらい余裕でしょうね。あんなに次々と色んなやっかいごとに遭遇する沙胡蝶を一人っきりでどこかにいさせて、いつまでも真珠一つでかばいきれるか心配ですよね。真珠がかばいきれなくて、あの子が死んでしまったら、この大陸が海の魔女の呪いで沈んでしまうんですから、沙胡蝶を守ることは、天竺に経をもらいに行く旅と()()()()()()()ですよね?まぁ、あの子を守りながら旅なんか続けたら、今までみたいに戦いたいお師匠様を()()()()()()()()()()、俺と八戒だけが戦うなんて悠長なことは出来ないでしょうね。俺と八戒と悟浄だけでは飽き足りず、()()()()()()()引っ張り出して戦わなきゃいけない事になり……」

「悟空や」


 それまで黙っていた玄奘は、一番弟子に声を掛けた。


「はい、何ですか、お師匠さん?」

「私は決めました。この旅に沙胡蝶さんも連れていきます」

「お師匠様ぁ!?」

「三蔵様!」


 玄奘の言葉に、ニヒャとにやけた笑みを作った孫悟空だった。

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