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82、東海竜王の裁定

 東海竜王は自分の甥である海の王について考えていた。


 甥は海の王に即位する前から色恋沙汰でのトラブルを起こしていて、その尻拭いをいつも東海竜王がしてきた。甥が天界の巫女に対する悪質なストーカー行為をしたときは、孫悟空が天界で暴れまわったことで有耶無耶となったが、甥が海の王となった即位後の王としての職務怠慢や職場放棄、無断欠勤に加え、国庫の私的流用や自身の後宮の予算の無駄遣い……等々についても東海竜王は叔父としての情があったからこそ、出来るだけ甥を庇ってきた。


 しかし……今回の沙胡蝶への窃盗の濡れ衣と真珠の強奪未遂と誘拐監禁未遂については、どうやっても庇うことが出来なかった。ここには太上老君の差し向けた神使がいるし、東海竜王の恐れる陸の悪魔である孫悟空もいるのだ。下手な温情は、自身の身を滅ぼすことを意味している。甥が正式な誓いを立てた以上、東海竜王は正しい裁定を下さねばならなかった。心を決めた東海竜王は裁定を口にした。


「まず、海の王が今回の正式な誓いを破った罰を言い渡す。『五臓六腑を抜き取って、深海にて300年間の壺漬けの刑に処す!』……これは正式な誓いを破った罰と、過去の恋愛沙汰のトラブルと天女へのストーカー行為等々の処罰も兼ねた上の沙汰である。深海の底で己の犯した罪を悔いて詫びろ。お前に、もうこれ以上の罪を重ねさせないし、お前の王としての不誠実さは、三海竜王達の間でもたびたび問題視されていた。今回の民達の暴動の責任はお前にある。よって『王位剥奪。貴族位もお前にはやらない。お前の次の王は三海竜王達の選定会議で決定する』……と言うわけで、お前を人魚に戻すことは出来ないが、叔父と甥の縁は今回の不祥事により切らせてもらう!」

 {な!?そんな!ひどいよ、叔父さん!何だよ……何だよ!お前等が嫌がる私を無理矢理、竜にしたんだろうが!お前らが無理矢理、王にしたんじゃないか!ちょっと女遊びが過ぎたくらいで!ちょっと仕事をさぼったぐらいで!今更、王を辞めろって言うのか!}

「確かにあの時、私達はお前を無理矢理に竜族にした。海の国の存亡に関わってくるような緊急事態でなければ、お前のような愚かな人魚を、高貴な竜族に迎えたりはしなかっただろうに、だ!お前は王の仕事をしたくないと逃げたが、竜族になった後のお前は、海の王になることで享受する利益は拒まなかったよな。それどころか、むしろ強引に奪い取っていった。どんな職種だろうと仕事に対しての報酬があるのは当たり前。報酬を受けるということは、仕事をすると了承したことになる。最初は嫌がっていたとしても利益を先に受け取ったお前は、自ら王になると了承したことになる。……それなのにお前は、500年も仕事をしなかったんだ。そういうのを給与泥棒と人間は言うらしい。……ああっ、でも一つだけは仕事をしたか。だって次の竜王となる候補の子どもを101人作ってくれたのだからな。これで、お前の次の王の候補に事欠かないですむ」

 {なっ!?私の次の王だって?そんなものを認めるか!私こそが王だぞ!}


 わめき立てる甥を無視し、東海竜王は、その場にいる者達に深く謝罪の礼をとって、甥だった竜人の無礼を詫びた。海の国まで幽体が逃げ出さないようにするために、神使に幌金縄を、このまま貸してもらえないかと頼んできた。檜と楡は、諾と答えた。東海竜王は、孫悟空に言った。


「沙胡蝶にも、此度のことを詫びたいのだが会えるだろうか?」


 孫悟空は、チラリと林の中の真珠貝に目をやった。


「会うか、聞いてきますよ。沙胡蝶はね、そこの馬鹿な竜が憑依した馬鹿牛によって攫われた時に、乱暴に走られたせいで乗り物酔いを起こし、気分が悪くなってしまったようで、ミス・オクトの真珠が、真珠貝に変化(へんげ)して沙胡蝶を介抱しているのです。体調が大丈夫なら、あそこから出してもらえるでしょう」


 少しここで待っていて下さいよ、と言って孫悟空は林の中に入っていった。


※永遠に近い寿命を持つと言われている竜族は、自身が病に冒されて病死するか、心臓を抜き取られるか、

首をはねられない限り、死ぬことはありませんが、痛みは感じます。東海竜王の残酷な(猟奇的)な沙汰は、その痛みこそが、その痛みによる苦しさこそが、海の王が苦しめた沢山の者達の痛みだと彼に思い知ってもらうために下したものでした。

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