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81、真珠を欲した海の王

 孫悟空を睨みつける海の王の脳裏に、自分に詰め寄ってきた民達の姿が浮かび上がる。民達は、孫悟空に鱗を剥ぎ取られてボロボロになった海の王の姿を見て、怒りを含んだ表情のまま、彼を嘲笑った。大臣達が笑いながら言った言葉が蘇ってくる。


『ハハハ!!ざまぁみろ!斉天大聖様が、俺達の無念を晴らしてくれたぞ!』


 兵士達が怒鳴る。


『鱗を逆鱗以外剥ぎ取られた今の醜い体では、海の国一番の泳ぎとやらも出来ないだろうな。こうなったお前は、本当にお前は何の魅力もなくなった屑だな!』


 下女と下男達が蔑んだ目で言う。


『お前こそが出来損ないだったんだ、愚かな王よ!』


 一頻り笑った後、民達は悲壮な顔つきで口々に叫んだ。


『お願いだから、もう退位してくれよ、海の王!お願いだから沙胡蝶様を連れ戻してきておくれよ!お前よりも何倍も賢くて優しい、俺達が待ち望んだ素晴らしい王様になるはずだった沙胡蝶様を俺達に返してくれよ!』

『お前は元々王になんてなりたくなかったんだろう!昔は竜族は4人しかいなかったが、今はお前の子どもが101人もいるではないか!沙胡蝶様がいるじゃないか!なら、もうお前なんていらないんだ!』

『お前が竜体に変化すること無く人魚のままだったなら、とっくにお前は犯罪者として監獄行きだっただろうに!俺達は、お前の悪行をけして忘れていないんだぞ!この外道な王め!何人の海の民が泣いたと思っているんだ!』

『早く泳げるからってなんだ!美しい鱗を持っているからってなんだ!この無能の役立たずが!沙胡蝶様以外のお前達は無能の集まりだ!』

『お前なんかいらないんだ!沙胡蝶様こそが魅力溢れる素晴らしい方なのに!お前のせいで沙胡蝶様を失った!お前の叔父のつまらないクレームのせいで!』


 民達の激しい怒りの声にたじろぎつつ、王に対して、その言いぐさは何だ!?と海の王は怒りが沸き、名付けの呪に自分の魔力を乗せようとして……海の王は愕然となった。海の王は孫悟空に寄って、竜王の力の源の鱗がすべて剥がれているのだ。今の海の王には、民達をどうすることも出来なかった。竜の鱗は280年サイクルで新陳代謝が行われる。逆鱗以外の鱗は、大体280年周期で生え替わるので、無理矢理に生やすには大量の魔力の補助が必要になる。


 大量の魔力が必要だと思い知った海の王は、ミス・オクトの真珠を思い出した。あの真珠が、白蘭に譲られたのは鮫の側近に聞かされていたから、持っているのは沙胡蝶で間違いないはずだと海の王は考えた。沙胡蝶の事はすっかり忘れていたが、思い出したのだから沙胡蝶を連れ戻し、どんな姿に成長したか、見てやろうと海の王は、ほくそ笑んだ。


 自分の食指が動くほど成長していたのなら成人前だろうが構うものか。この腹立つ感情のままに、あいつを(なぶ)って襲ってやろう。海の王は自分が力を使えないのを隠して、民達の言葉に理解を示した(てい)を装って、沙胡蝶を今、連れ戻すと宣言した。


 竜宮の広場に集まった民達の前で、体がボロボロで自ら泳いでいけないことを悟らせないために、海の王は自分の竜眼を一つ、自身でえぐり取って、その力を使い、幽体となって、皆にその姿を見せた。真珠さえ手に入れば、竜眼だって簡単に復元できる。


 {私は、今から沙胡蝶を連れ戻してくる。それまで私の体をけして動かすな。私が戻れなくなる故にな}


 そう言って、カッコつけた海の王だったが、自分の竜眼の力を使って幽体になったものの、海の王は沙胡蝶の姿をまともに見たことがなかったので、どう探そうかと内心焦っていた。どうしたものかと思って悩んでいたら、海の王が未だに思い続ける、あの人の匂いが微かに香るのに驚いた。


 もしかしたら沙胡蝶がついに、あの芳香を放っているのか!?しかもお(あつらえ)え向きなことに、自分と似た魂をもつ化生もその傍にいる!……真珠もあの匂いも自分のモノだ!海の王は、そう思いながら牛魔王に憑依したのだ。

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