7、沙胡蝶、今後を考える
目の前が真っ暗になりながらも沙胡蝶は考える。
4人がここからは天界に行けないと教えてくれた。父である海の国の王は沙胡蝶に言伝という形で命令したものの、天界への行き方も行くための費用も装備も供も、何もかもを用立ててはくれなかった。沙胡蝶がここまでこれたのは、ひとえにみんなのおかげだ。
海の魔女が海の国の者だとわからないように、外見を変える魔法を施した真珠を頭に被せてくれた。烏賊族が沈没船から人間の服を探してくれて、海の国から出る乗り物のクラーケンを貸してくれた。海月族の長老は唯一の天界への手掛かりになるだろう情報をくれた。
海の上では冒険家の皆が人間の生活を送るためのやり方のイロハを教えてくれて、旅装束と鞄と路銀までくれた。港では沙胡蝶を身投げと勘違いした男性がご飯を奢ってくれて、流砂河への道を教えてくれた。
他にも農道を行く牛車に乗せてくれた人や乗合馬車の乗り方を教えてくれた人。宿に泊まるほどのお金なんて持っていなかったから旅費を稼ぐための食堂を紹介してくれた人や、軒先を借りようとしたら馬小屋や屋根裏部屋を貸してくれた人……等々、沙胡蝶を助けてくれたのは、本当に色んな種族の人達だった。
こんなにも色んな人達の善意と親切を受けて沙胡蝶は、やっとここにたどり着いたのに天界に行けないなんてと気持ちが落ち込んだが、いつまでも落ち込んでいても仕方がない。それなら今後はどうしたらいいのだろうか?と沙胡蝶は必死に頭を巡らせる。
沙胡蝶はすっかり冷め切った朝餉を急いで平らげてしまうと、4人に自分の決意を話した。
「皆さん、教えてくれてありがとうございました!ここから天界に行けないのなら、今度はその天竺まで行ってみることにします。朝ご飯のお片付けと火の始末を終えたら流砂河に入って、水の中から天竺目指します!」
水の中なら海藻や貝や小魚を食べればいいから食費はいらないし、海底で眠るのに宿代やベット代もいらない。おまけに一応海の国の民である沙胡蝶は、人間よりかは泳ぎは速いはずだ。天竺がどこにあるかわからないけれど、誰か知っている人を探せばいい!と、沙胡蝶は明るく自分の計画を4人に語る。
「なんて楽天的で前向きな考えをする子でしょう!」
「切り替えが早いねぇ〜。そして諦めるという気持ちはサラサラないんだねぇ〜」
「確かに水中を行くほうが野盗や人攫いに遭わないですむかもしれないな!」
「感心してないで、沙胡蝶殿を止めてくだされ!このままでは沙胡蝶殿が天帝の怒りを買って、どんな目に合わされるかわかりませんぞ!」
4人がコソコソと話しをしているのに気が付かない沙胡蝶は食器を片付けようと立ち上がった。と、同時にどこかから女性の声が聞こえてきた。
「見~つけた!」
どこから声がするのかわからず、沙胡蝶も4人も、声の主を探すためにキョロキョロと辺りを見舞わすが見つけられなかった。暫くしてまた声が響く。
「沢山の妖怪に守られてるって噂通りなのね。やっぱりあなたが三蔵法師なのね!これで私は不老不死になれるわ!」
三蔵法師とは誰のことだろう?と沙胡蝶が思う間もなく、沙胡蝶の意識は途絶える。誰かに強制的に意識が落とされたようだ。次に目が覚めた時、沙胡蝶は両手を後ろ手に拘束された状態で広い洞窟内にいた。




