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78、孫悟空の報告⑦幼少時代の沙胡蝶について

「赤ん坊の頃は手が掛かったそうですが幼児に成長し、優しい心根の素直な子どもに育った沙胡蝶は、他の兄弟達なら嫌がって逃げ出すような多岐に渡る勉強も王族としての礼儀作法も、進んでよく学んでいたそうです。王の子だからと偉ぶることもなく、わからないことがあると教師に頭を垂れて真摯に教えを請う、理想の生徒だったと聞いています。誰に対しても穏やかで親しみを持って挨拶し、好奇心旺盛で女官のする仕事も手伝いたがったそうです」


 孫悟空は、海の魔女の言葉を皆に伝える。


 沙胡蝶は魔力も無いし、他の兄弟達のような鱗も尾のある人魚の姿も持っていない、水の中で息が出来るだけの、ほぼ人間の子どもだった。海の魔女は沙胡蝶に、沙胡蝶は大きくなったら離宮を出て、一人で生きていかねばならないと事あるごとに言い含めていた。何故なら海の魔女は沙胡蝶が大きくなったら、沙胡蝶の母親の願い通りに、陸の世界へ沙胡蝶を帰すつもりだったので、沙胡蝶にさえ本当の事を言わないまま、そのための生活力を身につけさせようと考えていたからだ。


 沙胡蝶は白蘭とミス・オクトの計画を聞かされてはいなかった。けれど聡い子どもだった沙胡蝶自身も、幼いながらに自分の現状を客観的に見て考えていたので、ミス・オクトの言う通りだと結論づけていたので、足のある者達の保護に感謝しつつ、何でも勉強して何でも出来る大人を目指して頑張ることにしたのだ。


 すると、どうだろう。海の魔女に頼まれて、一緒に沙胡蝶を育てる足のある者達は、沙胡蝶の成長が嬉しくて自慢したくてたまらなくなってしまった。そして沙胡蝶と最低限の関わりしか許されていない尾のある女官達も、努力家で穏やかな沙胡蝶を慕うようになり、沙胡蝶の成長が誇らしくて自慢したくてたまらなくなってきた。沙胡蝶に学問を教える教師達も、他の兄弟姉妹とは違い、努力家で素直に勉学に取り組み、教えれば教えた以上にどんどんと聡明になり、それでも謙虚に貪欲に自分達、教師達に敬意を持って教えを請う王の子を自慢したくてたまらなくなってしまった。


 さらには、国の執政の色々の取り決めをしたいのに後宮に入り浸りの海の王のせいで、国の運営に支障をきたして疲弊気味の大臣達は、帰り道にフラリと入った後宮の離宮の庭で体育の授業を受けていた沙胡蝶とバッタリ出会い、その時に沙胡蝶に優しい労りの言葉をかけてもらって、つい愚痴を聞いてもらっていたら、いつのまにか幼い沙胡蝶との会話によって、頭を悩ます問題への的確な解決策を導き出されていたことに気づいた彼らは、同じように職場で悩んでいた自分の部下達に優れた沙胡蝶のことを話したくてたまらなくなってしまった。。


 最低限に絞られた()()の人数の者達の皆が皆、自然と沙胡蝶を関わるようになって、慕うようになると、そこから竜宮の外の海の国の民達にまで沙胡蝶の噂が伝わっていった。沙胡蝶自身が後宮の離宮から出られないと言っても、他の者達は自由に出入りが出来る。海の国でも人の口に戸は立てられない。人の悪口は噂が広まるのは早いというが、沙胡蝶の良い噂は、悪政に疲弊していた民達の心を癒やす効果があったせいで、あっという間に広まってしまった。


 そして海の王とその妻子達だけが知らない事実があった。それは、大昔はともかく今では海の国では、足のある者を嫌う風潮など竜宮の中だけの事で、民達の間ではそのような風潮は無くなっている事と、長年、民を顧みず、自分の事しか考えていない海の王とその子ども達は、とっくの昔に海の国の民達に見切りをつけられていたことだった。


 確かに海の国の者達にとって、早く泳げることは何よりの魅力ではあったが、自分達の楽しみしか考えず、国のことを何もしない王族達よりも、例え泳ぎが遅くても、周りの者を優しく思う心で、その知性を使い、確実に周りの者を助ける沙胡蝶の方が良いと民達が思うのは当然の流れだったのだ。


「10にも届かない海の王の幼い末子だった沙胡蝶は、民を思いやる暖かい心があり、民達の為に躊躇いもなく、己の聡明さを存分に使い、民をより良い方向に導く資質を持った子どもだと民に知られてしまったんです。それは、まさに海の国の民が渇望していた理想の次代の竜王の姿、そのものだった。だから民達は一度も姿を見たことのないというのに、沙胡蝶に希望を見出してしまったのです。そしてそれから海の国民総出で、海の王を騙す作戦が始まったのです」


この本文にはあえて入れていませんが、大臣達が悩んでいた問題とは、先の北海竜王の時代から取っていた膨大な量の資料の統計をまとめたものから、80%の正確率で嵐がいつ来るか予測出来るのに、陸の生き物がそれを知らないために、嵐で船が壊れ、海の国に瓦礫や死体が落ちてくる被害を防げないので、困っているというものでした。沙胡蝶は海亀族の友人の河童を通して、陸の航海で利益を得る人間に交渉を持ちかけ、海の国の天気予報を商売にするという策をもちかけるように、大臣達に話をしています。陸の人間に人魚が攫われている過去から難色を示した彼らに、こちらも陸の生き物を沢山攫った過去があるのだから、お互いさまだと語り、商売という形で対等に話し合えれば、結果的に陸も海も被害を免れるのだと諭す沙胡蝶の言葉通りに動いた結果、その後の被害は激減し、少しづつですが両者のわだかまりが和らぎつつある、という内容の裏設定を設けていました。

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