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66、八戒と魔眼に狂う敵

※八戒の前世の話の中に彼が体だけが大人の体となった少年期に、魔眼の力により、狂ったモノ達に襲われ掛けた過去の描写があります。未遂ですが、この描写に不快を感じる方はご注意下さい。前回に続き、戦闘場面があるため、暴力表現もあります。

 八戒は自分の兄弟子である孫悟空が牛魔王に連れ攫われた沙胡蝶を助けるために即座に動いたのに、必死についていった。悟空の兄貴はホントに疾風のごとき早足だ!兄貴に任せれば十中八九、大丈夫だと言いたいところだけど、あの凶運続きの沙胡蝶のことだから、まだ何かあるんじゃないかと八戒は少し心配しながら後を追いかけていた。


 孫悟空にやや遅れて、林に着いた八戒は、みるみる体が大きくなっていく牛魔王の姿を見、そして頭に響くような声を放つ牛魔王に何かを言わせる隙を与えずに、連続攻撃を仕掛け続ける孫悟空の姿を見つけた。二人の傍に沙胡蝶の姿がない。牛魔王がどこかに隠したか、孫悟空が奪い返して、安全な場に隠しているかのどちらかだろう。


 ふと、八戒は、自分と沙胡蝶のどちらがより不幸だろうかと考えてしまい、このような場で、そんなことを考えた自分を嫌悪した。八戒は沙胡蝶に会うまでは、自分ほどの凶運を持つ者はいないだろうと思って生きてきた。


 ()()()()()()のみ限定に効力を発する魅了の魔眼の持ち主だったことが、八戒の不幸の始まりであった。前世でも今世でも、はっきり言って、これは呪い以外の何物でも無かった。だって、そうだろう?想像して考えてみてほしい。男女を問わずいきなり自分の知らない者達が、一斉に言い寄ってくる恐怖を。八戒は当時を思い出すと未だに体の震えが止まらなくなる。何のことかわからずに襲われかける恐怖を八戒は数え切れないほどに体験したのだ。しかもそれも襲ってくる奴は、恋愛関係の噂がひどい者ばかりだったのだ。


 不幸中の幸い、といっていいのかはわからないけど、それが始まったのは、八戒は子どもから大人の体になった後だったので、八戒が不埒な者達に立ち向かう体力がある程度はついていたから、毎回死に物狂いで逃げることが出来、全て事なきを得ていたが、どうして何度もこんな辛い目に合うのか、暫くはわからなかった。しかし、襲われていたところをたまたま天界に用が合った釈迦如来に救われて窮地を脱することが出来た際に、釈迦如来によって、八戒の目のことを指摘されて、襲われる原因がやっとわかったのだ。


 天界や仙界の医者にもかかったが、病気でも呪いの類でもないと言われ、普通の目にする方法がないと、皆に匙を投げられてしまった八戒は、釈迦如来に何とかならないかと頼んでみたが、こんな能力のある者に出会ったことがなくて、どうすればいいのか神様仏様でもわからないと釈迦如来にまで言われてしまい、打ちのめされてしまった。


 八戒は絶望し、もう、こんな目なんかいらない!と自ら目をえぐり出そうとしたところ、釈迦如来に仕える観音菩薩に腕を掴まれた。生けとし生ける者全ての生まれ持った能力には全て意味があるのだから、その目を持って生まれたという、その意味を考えるべきだと観音菩薩は八戒を諭した。


 こんな邪眼に意味なんてあるのだろうか?自身を苦しませるためだけにあるようなものなのに?八戒は、いくら考えても意味を見出すことが出来なかった。天界でこんな目の力を持つ者は誰一人としていなかった。初めは親身に心配をしてくれた家族達も、やがて八戒の魔眼を気味悪く思ったようで、しばらくして絶縁された。八戒は、幼少時に重い病に掛かった八戒を、普通なら手に入らないような妙薬を借金までして手に入れて治してくれた愛情深かった家族まで失ってしまった。


 一人となった八戒は前世で散々嫌な思いをしながら、それでも頑張って苦労して天界で天帝に仕える役人になった。真面目な職場にいれば、邪な恋愛観を持つ者に襲われないと安心していた。実際、八戒は真面目な仕事ぶりを評価され、天帝に”九本歯の馬鍬(まくわ)”という武器を直に授かっていた。……でも、幸せは長く続かなかった。何と、寄りにも寄って天帝の寵妃が、あろうことか八戒の魔眼に反応を示してしまったのだ!八戒は天帝の寵妃を誑かしたという罪で天界から落とされて、豚の化生となった。


 豚の腹から生まれた八戒には前世の記憶があった。だから八戒は、もしかしたら前世の呪いまで……また魔眼を持って生まれてきてしまったかもと心配し、前髪を伸ばし始めた。そして恐れていた、八戒の体が大人になった日。八戒は鏡に映る自分の魔眼に絶望した。


 何故、転生してまで魔眼の呪いは八戒にまとわりつくのだろうか?どうして八戒にこだわるのだろうか?絶望に屈しそうになった八戒だったが、幸いにも八戒には前世の記憶があった。魔眼は直に見られなければ効果を発揮しない。だからこそ八戒の伸ばした前髪で目は隠れて、今度の生では襲われることはなかった。それに豚の化生だったことで嗅覚が視覚並みなのも功を奏した。八戒は今生では穏やかな日常を手に入れられるだろうと思ったが、そう上手くはいかなかった。何故なら八戒は、周囲の者と深い付き合いが出来なくなってしまったからだ。


 自分の素顔を隠す者に、誰が友人になってくれるだろうか?恋人になってくれるだろうか?それに八戒が誰かに心を許したときに裏切られたらと思ったら怖くて、八戒は誰とも一定の距離を置いて付き合うしか無かった。前世でも今世でも、嫌な思いしかしなかった八戒は、すっかり捻くれてしまった。だから忌々しい魔眼を使って詐欺まがいのことをして、金を荒稼ぎした。やがて八戒は金に執着する豚の妖怪として、人々に恐れられるようになった。


 そこへ釈迦如来の使いとして、いつぞやの観音菩薩が八戒の元にやってきた。前世で恩があった八戒は、例え妖怪に身を落とそうが、礼は尽くさねばと話を聞くことにした。話は、こんな内容だった。


『お前は今は妖怪に身を落としているが心まで堕ちてはいない。どうだろうか?人間の三蔵法師の供をして天竺まで行って帰ってくる旅をしないか?成功すれば、爛れた者など誰もいない釈迦如来の世界で住まわせてやろう。お前の目を見ても、心揺らぐ者など一人もいない世界だ』


 それは願ってもないことだった。八戒は了承して永い時間待って、最後の三蔵法師の2番弟子の身分を得た。一番弟子は、あの斉天大聖孫悟空だと言うから大いに驚いた。八戒の前世よりも大昔に、天界で暴れまわった猿の大妖怪の話は天界に住む者なら誰もが知っている話だった。その猿が本当に生きて実在していたとは!と八戒は伝説級の歴史上の人物に大興奮していると、当人である孫悟空はこともなげに八戒の前髪をペロンとかきあげて、まじまじと八戒の目を見て、こう言った。


「お前、朝餉は粥派?蒸しパン派?」

「え、朝餉!?……粥かな」

「そっかー、粥かよ-。俺は手づかみで食べる物が好きなんだけど2対1じゃ、しょうがないから、これからは朝餉は粥だなー。お前新入りなんだから、お前が作れよ!」


 ニッカリ笑う孫悟空は今でもあのままで、この時から八戒は自分の兄弟子が、孫悟空でホントに良かったと心から思ってる。だから自分の兄貴が聞く必要がないと判断したのなら八戒だって聞かないのだ!誰が敵だろうと、ぶっ飛ばすのみ。そう考えた八戒は孫悟空達が戦っている後ろに回り込み、九本歯の馬鍬で思いっきり無防備な牛魔王の尻を殴りつけた。


 {ヒ!後ろにもいたか!!……ホントにどいつもこいつも……、ん?()()()()!!お前は沙胡蝶か!?}


 牛魔王だった()()は後ろを振り向き、八戒を見て()()()だと言った。


「え?俺が沙胡蝶だって?」


 わけのわからない事を言われて戸惑った八戒は、前髪で目を隠すのを忘れていたことに気づいた時は遅かった。八戒は牛魔王の巨大化した手で体を捕まれてしまった。


 {沙胡蝶、やっと()()()()を発するようになったか!海に帰って早速この父と(ちぎ)ろうぞ!}


「え?沙胡蝶の父親!?でも言っている内容が最低最悪だぞ!これはどういうことだ、悟空の兄貴!?」


 身動ぎしながら八戒が孫悟空を見ると、孫悟空は心底軽蔑したような嫌悪感を隠すこともなく、牛魔王を全力で敵認定した目で見ていた。牛魔王は惚ける表情で涎だらだら流しながら八戒を見ている。それにしても妙だと八戒は考える。確か流沙河でも牛魔王は八戒の魔眼にやられたが、八戒にここまで発情はしなかった。それに、どういうわけか八戒を沙胡蝶と思い込んでいる牛魔王は、先程とは違う妖気をまとっている。フンフンと鼻を鳴らして臭ってみれば、どことなく磯臭い匂いが牛魔王から臭ってくるのに気づいた八戒は、あることに気がついて、顔を青くさせた。


 まさか牛魔王の体を乗っ取っているのは、沙胡蝶の実の父親か!?八戒は信じられない思いで孫悟空に目をやれば、孫悟空は八戒に無言で頷いてきたので、八戒は自分の推測が当たっていることに愕然とした。何ということだろうか?まさか実の父親に邪恋を抱かれていたなんて!?沙胡蝶の貞操はまだ守られているが、きっと前世今世合わせた自分の人生以上に、沙胡蝶は辛い人生を送ってきたのではないだろうかと八戒は思うと、居ても立っても居られなくなった。


 八戒は沙胡蝶の頭に乗せられていたへしゃげた真珠を思い出す。あの魔力過多な真珠が沙胡蝶の凶運の原因かと八戒は思っていたが、それを訂正することにした。沙胡蝶の真珠は、こんなにも辛いことから沙胡蝶を守っていたのだ。何とも言えない感情が渦巻く中、八戒は巨大化した牛魔王の手の中から見下ろした風景に、()()を見つけ、自分の兄弟子である孫悟空が、そこに奴の視線がいかないように戦っているのに気がついた。


 どうしてあんなに大きな物が牛魔王に気づかれていないのかが不思議だったが、人が5、6人位は余裕で入りそうな大きさの貝が林の中にあった。多分、あそこに沙胡蝶がいる。八戒はそこに視線がいかないように目を反らせた。

八戒の心は、まだ癒やされていませんが、自分の兄貴分の孫悟空との出会いで、少しづつ快方に向かっています。孫悟空に、面倒見のいい永遠のガキ大将というイメージを八戒は持っています。


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