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62、玄奘は忠告し、悟空は皆にドン引きされる

「悟空や」

「ヒィ!な、何ですか、お師匠さん?そんなに怖い顔をして……」

「お師匠さまぁ、気持ち分かりますけど、抑えて下さい~!!怖いッスよぉ~!」

「ま、魔王様……じゃなかった三蔵様!落ち着いてくだされ!」


 3人の供の怯える顔を見て、いつになく緊張している自分に玄奘は気がついた。周りを見渡せば、五宝貝の青年達まで怯えた顔をしている。玄奘は、これではいけない!と思い、緊張から強張った自身の顔を緩めようと務めた。玄樹は、この若さで供を持つ身となったことに戸惑うものの、自分は彼らに師として、教え導く立場にあることは重々承知している。


 例え自分の弟子となった者達が皆、人外の化生と呼ばれる妖怪達だろうが、その化生達が皆、前世で天界人だったり、自分よりも数百年も年上の仙術の天才だろうと、彼らに今、言って聞かせられるのは自分だけなのだということも玄奘は理解しているつもりだ。だから玄奘は勇気を奮い立たせて、孫悟空に話しかける。


「沙胡蝶さんのお話をあなたたちも聞いていたのでしょう?……悟空、瓢箪の試練を沙胡蝶さんを抱えて成し遂げたこと、よくやりましたね。沙胡蝶さんもあなたに助けられたことをとても感謝しています。海の国であなたが調べたことの報告は後で聞きますが、これだけはあなたの師として、私はあなたに言っておかなければならないことがあります」

「……な、何を言っておかなければならないのですか?お師匠さん?」


 孫悟空に問われた玄奘は、顔を赤らめながら言った。


「……わ、私は恋愛事には詳しくはありませんが、これからは理解するように努めます。異性同士だろうと同性同士だろうと、異種族同士だろうと、当人同士が真摯に愛し合っているのであればいいとも思っています。ですが沙胡蝶さんは心は16才でも、今の体は4才くらいの男の子です!なので……その、今後あなたが、もし体の関係を持ちたいのだとしても、彼が大人の体になるまで待つべきだと思うのですが……」


 玄奘がそう言い終わらない内に、ドンガラガットドッシャァャャャャャァン!!!!と、その場にいた者達は派手な音を立てて、盛大にズッコケた。言い終わってから恥ずかしそうに目をそらす玄奘に、化生達は目が点になった。孫悟空が無言でいることに気がついた玄奘は、さらに赤くなりながらも、しどろもどろに言った。


「だから……。その、さ、沙胡蝶さんの唇が……少し腫れているのですよ!プックリと膨れていて前に見たときよりも血色が良く……。ああなったのは、あなたが口吸いをしすぎたからでしょう?……皆まで言わずともわかっていますよ。大体、口吸いで酒精を取り除くなんてことが出来るわけがないのですから、きっとあなたと沙胡蝶さんは、この短い間に何らかのことで相思相愛となって思いを交わし、それを私達に知られるのが恥ずかしくて、酒精を取り除くためだったと口裏を合わせているんですよね?それはいいのですが、あの唇は何だか生々しいというよりも、痛々しくて可哀想で見ていられません。相思相愛でも、あなたは大人なのだし、何百才も年上なのだから、理性ある大人として行動しなくては……ハッ!?もしかしてあなたの片恋なのですか?劣情に囚われて止められないから酒精を取り除くと嘘を言って、沙胡蝶さんに口吸いしたとかではないですよね?真実を言って下さい、悟空!言えないなら、私が今から”禁錮の経”を唱え……!」

「わー!唱えないで下さい!ってか、何誤解してるんですかー!」


 玄奘の勘違いに、真っ赤になって否定している悟空を除き、みな緊張が解けた表情になった。


「なんだ~、お師匠様ぁ、大丈夫ぅですよぉ!悟空の兄貴もぉ、あの子もぉ、二人とも()()ともまだ未通ですよぉ!」

「そうですよ、三蔵様!人が酒で酔うのと、化生が酒精にとらわれるのでは対処の仕方も違うのです!拙者は酒はザルなので大丈夫ですが、沙胡蝶殿は未成年で体も小さい半化生ですから、酒精を口吸いで吸い出した方が後々体が辛くないのですよ!……あっ!八戒の兄者の酒精も、そうやって拙者が口吸いすればよかったんだ!うっかりしておりました。すみません、八戒の兄者。次回からは拙者も口吸いで……」

「止めてー!悟浄ー!永遠に遠慮させて下さいぃ~!」

「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですぞ!拙者達は兄弟弟子同士、謂わば家族のようなモノなのに遠慮は不要ですぞ、八戒の兄者!それにしても悟空の兄者。沙胡蝶殿の唇が少々腫れているのは確かですぞ!加減が出来なかったのですか?」

「そうだよ!僕らのかわいいさっちゃんになんてことを!」


 皆の非難するような眼差しに、悟空は反論した。


「何を!俺だって口吸いなんて初めてだったんだから仕方ないだろう!沙胡蝶の胃液や腸液や髄液も臓器も吸い出さなかったんだから、褒められてもいいくらいだぞ!」

「ご、悟空。ち……腸液って」

「髄液って兄貴、冗談でしょ?・……えっ?冗談じゃないって?」

「……ぞ、臓器って。それって、さっちゃんは一歩間違えてたら死んでいたってことだよね?」

「沙胡蝶殿、不憫すぎる!」


 男達は孫悟空による死の接吻の説明に、潮が引くように引くこととなってしまった。そこへ鉄扇公主の悲鳴が響き渡った。


「キャ〜!あなた、さっちゃんに何するの!?」


 男達が孫悟空の死の接吻の話に意識が持って行かれた隙をつき、牛魔王が肩に沙胡蝶を担ぎ、猛烈な早さで走り去って言ってしまった。

またまた沙胡蝶、連れ去られてしまいました。


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