56、沙胡蝶、水簾洞の回想③
この回では、孫悟空が裸を見せつける描写がありますが、あくまで、彼の善意と好意による、変化の魔法の勉強のためですので、ご了承下さい。
桃をペロリと平らげた孫悟空は沙胡蝶に、自分の頭に乗せた真珠を外してくれと言った。
「ほら、早く外してくれ。この頭じゃ、ただのつるっぱげ猿にしかなんないからな。これじゃ鶴なんだか猿なんだかよくわからなくなるから、早くこれを外してくれ!……え?鶴がわからない?……くっ、この男女がお互い裸という非日常的な緊急事態が、起きている場の緊張感を緩和しようとした俺の渾身のボケが大滑りしてしまったぜ。……え?俺に助けられて、この上なく安心してリラックスしているから緊張していない……だって?……安心してくれているのは信頼されていることだから、嬉しいことなんだけど、何だか複雑な気分がするのは何でなんだろうか?ま、とにかく未婚の娘が他人の前で裸になって危機感が無いのは、この先の旅でも危険しかないな。後できちんと教えてやるから、とりあえず、これを外して早く被ってくれ!……え?鶴が何なのか気になるから先に教えて欲しいって?そんなのは、いつでも俺がお前に鶴を見せてやるから、これを早く外し……っ!?いや、もうお前は動くな!そこにいろ!俺が頭を近づけるから動くな!ってか、何で歩くのが、そんなに下手なんだ?え?海の中と違って陸で元の姿になるのは今が初めてで、お胸とお尻が急に重くなってバランスがとれないって?確かにその胸と尻じゃなぁ……。と、とりあえず今すぐに。そこの落ちた布を拾って、さっきみたいに体に巻き付けてくれ!頼む!至急!!切実に!!!……うわっ!」
巻いている布が落ちた沙胡蝶の姿を見て、慌てる孫悟空の巻いている布も、ハラリと落ちる。それを見た沙胡蝶は自分とおそろいの裸ん坊だと思い、……あれ?でも、なんかおそろいの裸ん坊のはずなのに、自分とは違う形をしていることを不思議に思い、しげしげと自分と孫悟空の裸を見比べた。
「私のお胸は膨らんでいるけど悟空さんのお胸は平らなんですね。それに足の間には、私は何も無いけど悟空さんは……」
「うわっ!沙胡蝶!?そんなの観察してないで、早く外して被ってくれ!」
沙胡蝶は体の形の違いについて孫悟空に尋ねてみたかったけど、何だか慌てふためいている様子だったので、布を巻きつけることを忘れて、そのまま急いで孫悟空の目の前に近づいた。
「うっ!素っ裸で近づいてくるな!とりあえず早く被ってくれっ!」
沙胡蝶は孫悟空の頭に手を伸ばし、真珠の被り物を外す。ああ、この滑らかな手触り、やはり最高の手触りだなと沙胡蝶は思いながら自分の頭に乗せた。
沙胡蝶の頭に乗せられた真珠はミス・オクトの魔法の力を発揮させ、女性体だった沙胡蝶を12才くらいの人間の男の子の姿に变化させていく。变化が始まり、ホッと安堵した様子の孫悟空だったが、男の子に变化したはずの沙胡蝶の下半身を見て、眉間に皺が入った。
「えっ!?何もない?……嘘だろ?顔も声も完璧に男の子に変わっているし、体も足の間以外は、骨格が男の子の体つきなのに何故、そこだけが?……あっ、そうか!」
何かを納得して一人頷く孫悟空は、沙胡蝶に頭を下げて、真珠を孫悟空に見せるようにと指示した。そして孫悟空がいいと合図するまでは目をつぶるようにと言う。どうしてなのかと尋ねると、沙胡蝶は成人前の女の子だからと返事が返ってきたので、沙胡蝶は大人しく目をつぶることにした。
目をつぶったのを確認したのか、直ぐに孫悟空の声が聞こえてきた。
「やい、沙胡蝶の頭の真珠!……お前、男の象徴を沙胡蝶の体につけてないってどういうことだよ!!これじゃあ、変化の魔法だと直ぐにばれるぞ!……なんで真珠が灰色になっていくんだ!?え?もしかして、それって動揺してるのか?もしかして知らなかったのか?やっぱり海の国の男は大が魚関係の化生だからか?竜王達だって本性の竜の姿は蛇と変わらないからか?……あのな、海の者である魔女は知らなかったのかもしれないけれどな。陸に生きる人間の男の男性器は、体内に内蔵されていないんだよ!体の外側に突出していて、熱から子種を守っているんだ。だから今のままの沙胡蝶の姿だと作り物だとすぐに見破られてしまって守れないぞ!……仕方ない。俺は他人に裸を見せつけて喜ぶ趣味はないが……沙胡蝶のためだ!感謝しろよ!72もの仙術が使える天才の俺が、お前に人間の男の体の成長と体の変化の100年分を短縮して見せてやる!これを覚えて、沙胡蝶を守る変化の魔法の参考にしろ!おいおい、なんで真珠が沼色になってるんだよ!?そんなに初めて見る男性器官がショックかよ!あのな、種族の差や大小などの違いは若干あるだろうけど男特有の器官は大概こんな形状だぞ!陸の生き物に、沙胡蝶は海の化生だと気づかせたくなかったんだろう?自分の魅力に全く気づいていない沙胡蝶を陸の者から守ってやりたいんだろう?なら、このまま人間の男の姿を取るしかないだろう?あ、ちなみに男の繁殖衝動によって、男性器は形を変えるってことは知ってるか?発情した物は、こんな形状に変化するから、こういう形に変化した物を持つ男には沙胡蝶を近寄らせたら絶対だめだぞ!……って、おい!俺は違うからな!おい、沙胡蝶を連れて逃げるな!」
沙胡蝶は何故か体が後ろに引っ張られていくような感覚を味わいながら、目をつぶったままでいた。目を開けて見てみたいけど我慢。まだ悟空さんはいいとは言っていないもの……と思いつつも、さっき孫悟空の足の間にあったものが人間の男の人の特有のものなのだと知り、一つ賢くなれたなと思いながら、あることに気がついた。
孫悟空の足の間にあったものが人間の男特有のものだというのなら、自分の胸は人間の女特有のものなのかもしれない……と。海の国の女性達の胸は一般的に……先祖が魚だからか……ツルリと平らであることが多く、それが美しいと捉えられていた。しかし成長期を迎え、16才となった沙胡蝶の胸は、その美しさが欠片もない、大きな胸だったから、自分は美しくないのだと密かに気落ちしていたのだが、沙胡蝶の膨らみのある胸が人間の女の人特有のものならば仕方がないと納得できた。
胸と同様に尻にも同じような劣等感を抱いていた沙胡蝶だったが、自分の体が陸の人間だった母親と同じだったのなら、悩む必要はなかったのだ。沙胡蝶はミス・オクトにも言えなくて、ずっと不安だった長年の悩みが
解消されてホッと安心していたので、孫悟空の話も上の空で聞いていたし、その話を聞いた真珠が、新たに自分の体に変化の術を掛け直したことにも気が付かなかった。
「……と、まぁ、こんな感じで人間の男の体は、一生を終えるんだ。姿を変える魔法の参考になっただろ?……って、おい!沙胡蝶の体が縮んでるぞ!?これじゃあ、どう見ても4、5才くらいにしか見えないじゃないか!……え?確かに足の間にすっげー小さな男性器が作られてるけど。……見るなって?見なきゃ、変化の魔法が上手くいってるかわからないだろうが!……てか、これが海の魔女の魔力で自我が芽生えたお前の許容範囲なのか!?……初めて見るもので怖いけど、この大きさなら怖くないって?ああ、確かに今まで知らなかったものを常時身につける不安や元の姿を知ってるだけに、それをつけることに違和感や抵抗あるのはわかるけど……。俺だって、本当はそんなものつけなくても俺が四六時中守ってやれたらって思うけどさ。俺、お師匠さんの供だし……。それにもうお前が沙胡蝶のことを、周りに男だと意識付けしてしまったものな。ああ、そうだ!それ、沙胡蝶も見るんだよな!風呂入るときだって洗うのに触るだろうし、洗い方も教えようか?え、何か怖い見た目だから触らせたくないって?怖い……って、男なら誰だって持っているものだぞ!誰だって初めて見るモノは怖いに決まってるけど、ちゃんと洗わないと沙胡蝶が病気になるぞ!え?俺も女体が怖いかって?そうだな、こんな近距離で女体を見たのは初めてだけど、俺は沙胡蝶の体は綺麗だって思ったよ。怖かったのは酒精を洗い落とす時に、あんまりにも肌がきめ細かかったし、体が華奢だったから傷つけないように、丁寧に手洗いしたときかな……って、何言わせるんだよ!?そんなことより!おい、真珠!!お前は、こんなに幼い姿の沙胡蝶に一人旅させる気なのか?」
※海の国の女性の人魚達(住民達)は卵生のため、母乳をやる必要がないので胸はありますが、大きくはありません。
それと、沙胡蝶の下半身の変化については、雄の魚や蛇の姿を思い浮かべても、雄の象徴は、普段、体内に収納されていて露出していなかったように思われますので、ミス・オクトは人間の男を知らないので、海の国の男と同じように、下半身を何も無い状態にしてしまったか、それとも海の王を一途に思い続けていたので、本当に男性の下半身を見たことがなかったかのどちらかだと思われます。
本文中に男性器の見た目を何だか怖いと真珠が戸惑っていますが、あくまでそれは今まで見たことがないものに対する真珠の第一印象を語っているだけですので、その姿形が怖いわけではありません。女性器も男性器も神聖で、とても大切な体の器官の一部です。この後、口頭で悟空が沙胡蝶に男性の体の洗い方も教えてくれたはずです。
今回ものすごく孫悟空が体を張ってくれました。




