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40、玄奘と五宝貝①

 歓楽街まで後半里ほど、この道を行けばたどり着くと説明中に、突然猪八戒がひっくり返った。


「こ、これは!天界の幻の銘酒《春香(しゅんこう)天女の舞》の香りが何故!?」


 それだけ言うと八戒は酩酊状態となって、突然寝入ってしまった。玄奘にも沙悟浄にも八戒が倒れた酒の匂いは感じられなかった。だが八戒が寝入ってしまったので玄奘を担ぐことは不可能となったから代わりに玄奘が八戒を担ぐことにした。引き続き、玄奘は沙悟浄と走り出した。


 歓楽街に近づくと、爽やかな花や果物のような甘い匂いのする霧雨が少しだけ降ってきた。どうやら、この甘い匂いを猪八戒の鼻は、あの距離で感知していたらしい。玄奘も沙悟浄も思わず足を止めて、深く空気を吸い込んだ。


「玄奘様、確かに天界からの甘露のようです」


 とても爽やかな甘さを舌に感じる。濡れることにも構わず、走っていたから雨が口に入ったらしい。不思議なことに口に含んだ途端、体中の疲れが一気に吹き飛んだかのようになり、体中に元気が満ちていく。変化が起きたのは玄奘だけではなかった。


 雨で鼻が濡れた玉面公主が、突然クッキリと眉間に皺が寄り始め、身じろぎが激しくなった。沙悟浄が猿轡を外したところ、叫ぶように言った。


「何だか私がすごく臭い!なんなの、これ!?」


 叫んだ後にずっとわめき続けたので、再び沙悟浄は口を塞ぐことにした。どうやら玉面公主は、今の今まで鼻がつまっていたらしい。雨に濡れて、それが()()()()()ようで自分の悪臭にようやく気づいて暴れ出したようだった。


「臭いのは元からだ。今は沙胡蝶殿の危機故、何とも出来ん」


 沙悟浄は玉面公主と牛魔王を担ぎ直し、再び走り出した。歓楽街に足を入れた一行は、外にいる街の人々の姿に驚いたのだった。

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