27、孫悟空を守る者
前回に引き続きです。孫悟空目線で続きます。
孫悟空は予想外の出来事に対応が遅れてしまった。自分の頭に被せられた真珠を外そうとするが外れない。目の前に満足げな表情で沈んでいく沙胡蝶が見える。わけがわからなかった。自分を助けようとする者がいるなんて……。
仙岩が産んだ仙石卵から生まれた岩猿の化生だった孫悟空を猿の王様と畏れ敬った故郷の猿達。72もの仙術を使いこなす仙術の天才と称える師弟達。天界をも震撼させた暴れ猿と俺を崇める妖怪達。
過去に孫悟空の事を猿族の誉、仙界の誉、妖怪の誉と言った者達の顔が走馬燈のように孫悟空の脳裏を駆け足で通り過ぎたが、誰も孫悟空が困った時に手を差し伸べて助けようとした奴はいなかった。こんなことは初めてだと孫悟空は信じられない気持ちで沙胡蝶を見る。
四海竜王達には陸の悪魔と恐れられる孫悟空の膝で眠った沙胡蝶。孫悟空の身を案じ、自ら危険に飛び込んだ沙胡蝶は、孫悟空を心配し、自ら空気を分けてくれた。陸に生まれた孫悟空を守るために、自分を守るための真珠を躊躇いなく外し、孫悟空に与えた。自分を守ろうとする者に初めて出会った孫悟空の胸の中に、不思議な感動が広がる。
なんて子だろうか!沈みゆく沙胡蝶の柔らかな体を後ろから抱きかかえた孫悟空は、水面に浮き出て声の限りに叫ぶ。
「おい!俺はいいから沙胡蝶は出してやれ!」
孫悟空の声が瓢箪内に響きわたる。が、外には届いていないようだ。外はどうしているのだろうか?きっと慌てているに違いない。あいつらは沙胡蝶のことを三蔵法師だと勘違いをしていたようだ。きっと大急ぎで助けようとするだろう。
瓢箪内は酒精がかなり強めの酒で満ちていた。しかもどうやら長時間浸かったままだと中の物が溶けてしまう仕様にしているようだ。悪趣味な爺様だ!と孫悟空は呻きたくなった。ふと見下ろした沙胡蝶の着せられている着物ドレスがポロポロと崩れていくのを見て、孫悟空は焦った。そこへ頭上に遠くから小さな光が差し込んできた。
「さっちゃん!三蔵様!三蔵法師様!!お願い!お返事をして!」
「三蔵法師ー!さっちゃーん?おい、なんで中から出てこないんだ?」
「三蔵法師!!さっちゃん!もしかしてさっちゃんは三蔵様じゃなかったの?何でもいいから早く返事して!でないと、さっちゃんが溶けてお酒になっちゃうよ!」
3人が代わる代わる必死に呼びかけているが沙胡蝶は三蔵法師ではないし、そもそも気も失っているから返事も出来ない。でも瓢箪の蓋が開いているのなら声は届くはずだと、孫悟空は声を上げた。
「おーい!こいつは気を失っているんだ!俺の名前を呼んでくれー!!こいつを抱えて出るからよー!」
孫悟空は自分の合図で名前を呼ぶように指示をする。直ぐに了承の返事が返ってきた。助ける目処がつき、少し安堵した孫悟空は沙胡蝶を落とさないようにするためにと、しっかりと沙胡蝶の後ろから手を回し胸元に腕を伸ばし、違和感に気がついた。
「ん?沙胡蝶は胸に何か入れているのか?これは……桃?」
蟠桃園の桃のような大きさの何かが孫悟空の左手の中にある。
「何だ、これ?」
孫悟空は不思議に思って、沙胡蝶の胸元を見た。
「うわぁ!?」
……どうりで柔らかい体な訳だ!沙胡蝶の胸元を見た瞬間、孫悟空は直様、筋斗雲を呼び寄せるタイミングを計ることに決めた。
何故なら沙胡蝶の着物ドレスは、……もちろん孫悟空の服もだが見事に溶けてなくなっていて、裸の孫悟空の腕に抱えられた沙胡蝶は、とんでもなく美しい裸体の少女の姿であったからだ。




